第五話 草原での出会い
僕が森に来てから半年以上がたった。こっちでの生活はかなり充実していて毎日が楽しかった。
午前中はシンさんに魔法について教えてもらい、午後はカレンと一緒に森の中で遊ぶ。そんな毎日だ。魔法は最初のころに比べるととても成長し、今では6個の魔力球を同時に操作できるようになった。5個目ができるようになった時、シンさんから体内の魔力の扱い方も習い始めた。こっちは流れている魔力の感覚があったおかげでそれほど苦労せずに学べている。
カレンも着々と実力を伸ばし、数匹の魔物と一緒に森の外へ狩りに出かけることが多くなった。本人曰く、何かと戦う時は情報共有の速さが可否に大きくかかわるらしく、そうやった方が修行になるらしい。僕もご飯のバリエーションが増えて嬉しかったりする。
たまに冒険者などが森にやってくるがシンさんが身ぐるみを剥いで追い返している。カレンのことを気にしているのか殺すことは無いようだ。それでも。一回だけ冒険者が僕とカレンを見つけたことがあった。そのときは僕たちが知らない外の話をいっぱい聞けたので楽しかった。シンさんが見つけると吠えて威嚇していたがカレンになだめられ、結局冒険者を背に乗せて送り届けていった。ただ、魔王が従わない者は人、魔物、問わず襲っているという情報を聞き、少し不安になってしまった。
今日の午後はカレンと一緒に草原で一緒に遊ぶ予定だ。どこも魔物がいて危険だがカレンと一緒だから大丈夫なのである。
「カレン、そろそろ出発しよう」
「わかった。ソフィを呼んでくるね。」
そう言って駆け出したカレンが戻ってくるのを待つ。ソフィは狼の魔物でシンさんより2周りぐらい小さい。それでも普通の狼と比べるとかなり大型だ。シンさんと違って人の言葉を喋ることはできないが、カレンは頭の中で会話(?)ができるらしい。
「おーい。連れてきたよー」
カレンが戻ってきた。ソフィの毛も真っ白で触り心地がいい。
「よし。じゃあ行こうか」
そう言って僕とカレンはソフィの背に乗る。ソフィや仲間の狼の魔物の走る速さは馬なんかよりずっと早い。そのままソフィの背で到着を待っていた。草原が見えてきたところであるものを見つける。馬車だ。近くに大きな街道はあるので、わざわざ危険が多い森側を通るものはいないはずだ。なぜかと思ってよく観察していると馬車の後ろから魔物が追っているのがみえた。追っているのはオークとゴブリンの混成集団である。両方ともカレンが対話できない数少ない種族の一つである。ゴブリンは人間の腰ぐらいまでしかない子供のような魔物で、オークは人より一回り大きい豚のような魔物だ。
「あそこに襲われている人たちがいるけど助ける?」
僕は前に乗っているカレンにそう聞いた。
「どこ? ああ、あそこね。よし、助けに行きましょう」
カレンはそういうとソフィに
「あっちの襲われている馬車のほうへ行ってくれる」
そう言った。ソフィはすぐ馬車の方へ向き風のように駆け出した。
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「クソっ、どうしてこんなことに」
そう叫んだのは屈強な戦士の男だった。周りには大量の魔物、最初よりは数が減っているがまだたくさん残っている。
「坊ちゃん、積み荷を捨てて逃げましょう」
そう言った男の先にいたのは馬車の御車台に座っている成人前の子供だった。
「何度言ったらわかる。この荷がなくなったら僕はもう終わりなんだ。護衛なんだから早く魔物を殲滅しろ」
そう言った子供に呆れているとゴブリンが一匹、横をすり抜け馬車の方へ向かっていった。
「マリナ、すまん一匹抜けられた」
言い終わらないうちに魔法が飛んできてそのゴブリンに突き刺さる。今はまだ何とか持ちこたえられているが崩れるのも時間の問題だった。
こいつが俺らの助言を無視してくれたおかけでこうなったんだから置いて行こうかとも考えた。だか護衛対象を置いて逃げるなんてことをしたらもう食っていけなくなる、どうしようかと考えていた矢先、新たな乱入者が現れた。
「リーン、森の賢狼だ。何とかできるか!?」
「無理に決まってるでしょう!」
悲鳴交じりに答える弓を持った女。そんな中、場違いな幼い声が響く。
「もう大丈夫ですよ」
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僕たちが馬車へ到着する。狼のソフィに乗ってるせいかおびえられてるが、倒れてる人はいないので大丈夫そうだろう。ゴブリンが12匹にオークが4匹か、とりあえずシンさんに教えてもらって同時に放てるようになった魔力弾を4つ作りオークを倒す。
「ソフィ、残りのゴブリンを頼める?」
カレンがそう聞くとソフィは首を縦にふり、作り出した風の刃でゴブリンをすべて倒してしまった。
「アオォォォン」
ソフィが勝鬨を上げている。その後、しばしの静寂を破って声を上げた戦士の男が言ったのは
「あんたたちは一体なんなんだ」
当事者を除いたこの場の総意だった。