第一話 少女との出会い
「あなたは誰?」
耳元で聞こえた声で起きる。目を開けるとそこに10歳ぐらいの少女がいた。とても整った顔立ちにスラっとした綺麗な見た目に反して服は獣の皮をそのまま使ったそうな安っぽいものだった。金色の髪に緋色の目を持っていてとても綺麗だった。
「僕...僕はレイ」
たどたどしく答えると目の前の少女は優しく微笑む。
「私はね、カレンっていうの。あなたはどこから来たの?」
カレンから聞かれたときに心の奥が痛んだ。優しかったはずの村のみんなにいきなり罵倒された時の記憶がよみがえってくる。あまりかかわることのなかった人が大半だが話しかけると気さくに返してくれる人達だった。
「どうしたの?思い出せないの?」
カレンにそう言われ、記憶がどんどん鮮明になってくる。楽しそうに笑いあった顔が醜く歪められ、自分に向けられている光景がはっきりと思い出せてしまった。涙がぽつり、ぽつり、と地面に落ちていく。
「何か悲しいことがあったの?大丈夫?」
カレンが肩をさすってくれている。さすってくれている手がとても心地よく、少しづつ落ち着きを取り戻していく。涙が止まり少したった。
「僕は村を...その...追い出されて、走っていたらここについたんだ。」
また泣きそうになったがこらえて最後まで言い切る。言い切ると同時に僕のお腹が盛大に鳴った。僕は顔が赤くなりうつむいてしまう。
「あはは、お腹がすいたのね。待ってて食べ物をとってくるから。」
そのままカレンは木々の間を走って行ってしまった。心が少し余裕を取り戻し始め、あたりをよく観察すると村の周りの森とは全然違うことが分かった。くすんだ色をしていた村の周りの花とはちがい、全体が一色で綺麗に染め上げられている花々、木と木の間隔はほとんどなく太陽の光はほとんどさして無く薄暗くて少し不気味な雰囲気を醸し出している。動物や魔物の足跡も見当たなくとても静かな場所だった。
そんなことを考えていると、森の中から足音が近づいてきた。
僕の前に姿を現したのは、馬の5倍はあるぐらいの巨大な狼だった。その毛は雪のように白く凛として輝く目は朱色に染まっていた。驚き逃げようにも腰が抜けて立てず、魔力を練ろうにも空腹で頭が回らなかった。どうしようかと考えていると、カレンがその背の毛から頭を出した。
「驚いた? 彼はシン。この辺りの群れの長なんだって。」
「襲ってこないの?」
「大丈夫だよ。むしろ私たちを守ってくれているんだよ」
いきなり現れた狼に驚きどうしようかと迷っていると、またお腹が鳴ってしまう。
「そうだった。お腹空いてるんだった。とりあえずご飯にしよう」
そういうと彼女はシンの背中から降り、バスケットから木の実などを並べ始めた。村で見たことある実もあったがほとんど知らないものだった。
「これ、私が好きなんだ。食べてみて」
そう言って差し出されたのは真っ赤な外見をしたみたことのない果実だった。一口食べてみると甘い果汁が口の中いっぱいに広がっていった。
「どう、すごく美味しいでしょう」
「うん、とっても。なんて名前なの?」
「リンゴって名前なんだって、シンが教えてくれたんだ」
もう一口食べる。さっきより甘い気がする。そこからは食べるのに夢中になりしばらく無言の時間が続いた。しばらくたった後、僕は気になっていたことを質問してみる。
「ねえ、カレン。狼のシン?君がずっとこっちを見てくるんだけどなんで?」
「さあ、それは私じゃなくて本人に直接聞いたらどう」
「直接聞きってどうやっ…」
そう聞き返した時狼が口を開いた。
『我に何か用があるのか、人間よ』
狼が喋った。そう、狼が人の言葉を喋ったのだ。
「えっ…喋った…人の言葉を?…狼が」
しばらく呆然としているとまた狼が喋り出した。
『何を驚いている。我がそんなこともできないと思っていたのか』
「シンが喋るのって別に普通でしょ」
カレンにもそう言われると少し落ち着いてくる。確かに見た目は巨大な狼そのものだがその目には知性を宿しているのが見て取れた。
「えーと、なんでシンさんはさっきから僕を見てるのでしょうか?」
『カレンから人が来たと聞いてな、どんなのが来たのかと興味を持って見に来たら面白いものが見れた』
「面白いもの? 僕が?」
『ああ、お前は自分の力に気付いてないのか?』
「力?なんのこと?全くわからないよ」
『お前はその垂れ流している魔力に自覚はないのか』
「魔力って魔法を使うときの力でしょ?それがどうかしたの?」
『お前は魔力の使い方を全く分かってない。今もどうせ固めて飛ばすぐらいしかできぬのだろう。我がお前を少し鍛えてやろう』
言い終わるとシンは森の奥へ歩き始めた。ついて行こうと僕も歩き始めたとき。
「ちょっと待ちなさい。私抜きで話を進めないでちゃんと説明してよ」
と、肩を掴まれてしまった。
「でも、僕もよくわからないんだよ」
そう反論しても聞いてくれそうにない。
「シンさんがもう見失っちゃいそうだから説明はついてからね」
そう必死になだめると、少し納得してくれたのかカレンは
「わかったわ。でも、ついたらちゃんと説明してもらうからね」
と言い、一緒に歩き始めた。