第十七話 忍び寄る魔の手
それから僕たちは学園生活を満喫していた。
計算や読み書きの授業では新しいことを知れる。
魔術の授業は今まで使えるだけだった魔法の仕組みを知れる。
友達もたくさんできて充実した日々を送っている。
戦いで使った自作魔法は高度な魔力操作ということになってる。
自作魔法よりは難易度が低いがそれでもすごいことには変わりなかったらしく、教えて欲しいと迫ってくる子が増えた。
そんな感じで昼休みにみんなで集まって勉強会をやったりしている。
そんなある日の出来事。
ドンッ! と、いつも通り勉強会をやっていたら扉がものすごい勢いで開けられた。
「ねぇ、みんな聞いてよ! 私ね、昨日アンデットがこの学園に入るのをみたんだよ」
入ってきたのはかなり慌てた様子のリン。お転婆で元気な子だ。
「はぁ、どうせこの学園の死霊使いが召喚したやつだろ。馬鹿馬鹿しい」
それに答えたのはケイ。冷静でリーダーシップのある僕の一番の学友だ。
「違うんだよ! 纏ってるオーラが段違いだったんだよ! 私が見た所あれはリッチクラスだね」
「そんな伝説上のアンデットがいるわけないだろ」
いきよい良く言い放ったリンの言葉はあたりを静まらせた。
最初は注目していたみんなもやれやれ、といった様子で各自の勉強へ戻って行った。
「ねぇ、レイ君なら信じてくれるよね」
相手にされなくなったリンは僕の方へ来るとそう言った。
すると横で一緒に勉強していたケイが、
「レイ、騙されるな。だいたいなんで学園内にいるんだよ。ここには珍しいものなんてないだろ」
「確かに見たんだよ〜。きっと何か用事があったんじゃない」
「はぁ、話にならん。レイお前からも言ってやれ」
「ケイの言う通りだよ。ここって警備の人もいるんだよ。バレずに入るのは無理なんじゃないかな」
リンは見るからに落ち込んで
「えぇ〜。確かに見たのにぃ」
「はいはい、時間が無駄だから勉強を始めよう」
そんなこんなでいつも通りに昼休みが終った。
そして、午後の野営の授業が終わった。みんなで帰ろうとした時に先生が声を上げる。
「おい、ちょっと待て! この後緊急の集会があるらしい。俺も内容までは知らないがとても重要なことらしい。15分後に大講堂だ! 絶対に遅れるなよ!」
特にすることもないのでカレンと共にそのまま大講堂へ向かう。生徒全員が入れるようになっている大講堂はとてもひろい。
僕がついた時にはまだ来ている生徒は少なかった。
適当な席に座ってみんなの到着をまつ。じきに生徒がどんどんやって来る。みんなの顔は何も聞いてないこの集会に不思議そうな顔をしていた。
「おーい、ケイ! こっちこっち」
入って来たケイに手を振ると笑顔で近づいて来て、
「レイ、隣の女は誰だ? お前、彼女いたのか?」
カレンに疑問の視線を向ける。
「ああ、ケイとは初めてだったけ? 一緒に入学したカレンだよ。従魔学似通ってる」
「あれか、お前がよく話している。」
そこでカレンが口を開く
「カレンです。よろしくお願いします。えと、そちらは?」
「魔法学でレイの親友をやっているケイだ。よろしく。呼び捨てで構わないぜ」
そこで俺に向き直り
「なぁ、レイ。この集会の内容が何かって知っているか?」
「全く知らないよ。午後の授業の最後にいきなり伝えられたんだよ」
「お前も一緒か。カレンさんは?」
「私も全く知りません。」
そんなことを話していると壇上に人が出て来る。髪は完全に白く染まっておりヒゲは整えられ、長く垂れている。絵本に出て来たサンタクロースのような感じの人だった。
「静粛に!」
魔法で拡声された声が講堂内に響く。威厳のあるローブをバサリと羽ばたかせ座っている生徒たちをみる。
するとすぐにざわつきは修まり、あたりは静寂に支配される。
「はじめにこの学園の総長をしている、ハン・エルドットだ」
「今回の緊急の集会について疑問に思っていることだろうが、まずは話を聞いてほしい
皆、驚かないでほしい。昨晩この学園に何者かが侵入した形跡があった。」
「侵入者の目的が何かわからない以上、今日、今から夜間の外出および同伴なしの外出を禁じる。」
「それに伴った予定の変更は追って通知を行う。」
「以上だ。」
その後は各先生から今後の活動や外出許可の取り方などの説明があった後解散となった。
「ねぇ、カイ。昼間リンが言っていたことどう思う?」
「ああ、あれだろ。アンデットがどうとか言うやつ」
「そう、学園に侵入したのはそれじゃない?」
「バカ言え。知能の低いアンデットがこの学園に侵入できるわけないだろ」
「でもリッチって伝説の存在なんでしょ。知能があるかもよ?」
「それなら考えるだけ無駄だろ。進化したゴブリンだーとかいいだしたらキリがない」
「確かに。まぁ教師陣がなんとかしてくれると思うしね」
「だな」
寮に着いた僕たちは別れの挨拶をすると各自の部屋へと向かっていった。
今日のことも特に思うこともなく着々と宿題をやっていく。終わった頃にはもう侵入者のことも頭になかった
だが、そんないつも通りの日常の終わりが近いなんてその時の僕には想像もつかなかった。




