第九話 戦いの行方
自分の弱さを知ったシンはただ強くなろうと努力していた。旅で各地を回り知識をつけ今度こそ大切なものを守れるようにと。
今、目の前にあの騎士がいる。もう過去のようにはさせない。
「さて、頑張って私を倒してください。でないとあの時の二の舞になりますよ。」
その時にはもう駆けだしていた。鋭い前足から放った斬撃はその剣で受け止められるが、込めてあった風の刃が騎士の鎧に当たる。
「おや、魔法を使えるようになったんですね。」
騎士はいったん距離をとると放つのは7つの斬撃。だが全て風で作った壁に阻まれ霧散してしまう。
そこから始まった遠距離戦はすさまじいものだった。シンさんが作った魔法が騎士へ向かうと騎士が大剣で叩き落とし、騎士の斬撃をシンさんが魔法で相殺する。一つ一つの技が普通では到達できない高みにあり、そこに支援などできる余地がなかった。
「グハッ」
ついにシンの魔法が騎士へ当たる。
「まさかここまで強くなってるとは。」
何か感心したそぶりを見せた騎士はシンさんへ向かって距離を詰めだした。シンさんは近づかれないように魔法で弾幕を張るが騎士は物ともせずに突っ込んでくる。シンさんの間近まで近づいた騎士は剣を振り上げ切りつける。それを風でそらしたシンさんは振り上げのせいで無防備になっている脇に魔法を放つ。空中で体をひねらした騎士は魔法を避けると回転を加え剣で追撃してくる。
一進一退の攻防はシンさんが若干有利に進んでいた。だが、騎士も負けておらず実力はほとんど拮抗していた。そんな戦いを見ながら僕らには何ができるのかを必死に考えていた。
しばらく続いた攻防もシンさんの一撃が決まり騎士が傷を押さえて下がる。
「これ以上はこちらがやられそうですね。少々もったいないですがこの一撃で終わらさせてもらいます。」
騎士の剣に魔力が纏っていく。その色はどろどろとした黒で、見るものを不快にさせた。。
「深淵よ。我が願いに答え、その片鱗をここに表せ。その色は闇。何人たりとも止められぬ、纏わりつ闇.....」
騎士の詠唱と共に魔力がより濃くなってくる。それを見たシンさんも負けじと魔力を練っていく。
『聖霊よ。わが願いに答え、その力を貸し与えよ。風は万象を操り、思いを運ぶ。妨げられぬ絶風の刃......」
両者ともに十分に魔術が完成すると騎士が飛び掛かり、
「闇に溺れろよ【混沌暗泥】」
『全てを散らせ【森羅万象】』
二つの極限まで練られた魔力が衝突し合う。騎士の闇を纏った剣が少しずつシンさんの風の刃を押し返しつつある。
まずい、このままでは押し切られる。
そう思った僕は必死に知者の石から使える知識を探し出す。
「これだ...。」
そう言ったときにはもう手が動いていた。体中からありったけの魔力を動かし、純粋な風の魔力に練り上げる。何の力もない風の魔力の球をシンさんの方へ向かって飛ばすと。
「シンさん。使ってください!」
そう叫んだ。シンさんは一回こっちを見て驚いた顔をすると、すぐに笑い。
『助かる』
そういって球の魔力を吸収し、シンさんの纏う風がより強くなっていき剣を押し変えていく。これにはさすがの騎士も驚いたようで、憎たらしそうにこっちを見てくる。シンさんの風が騎士の剣を押し切り、そのまま騎士を切り刻んでいく。吹き飛んだ騎士は地面に落ち
「魔王様、お先に逝きます。」
そうつぶやいて動かなくなった。
その様子を見てた敵の騎士は戦意を喪失し、地面に崩れ落ちていた。一緒に戦ってくれた魔物のみんなが安心した表情を浮かべている。
ゆっくりと視線を向けると嬉しそうな表情のカレンとやり遂げ、微笑みを浮かべているシンさんの顔が目に入った。
そんな中僕の体はふらつき倒れてしまった。
「ああ、これは」
シンさんへ魔力を送った事で自分の分が足りなくなってしまったようだ。慌てて駆け寄ってくる仲間をみて大丈夫そうだと思ったら、そのまま眠りについた。この確かな、「幸せ」を噛みしめながら。
ふぅ、ギリギリ間に合ったぁ。