1話 どうやら死んでしまったようだ
俺は気が付くと辺り一面暗い中を漂っていた。
今まで体験したことがないような浮遊感。海の中を漂っているような感覚だ。
辺りには何も見えない。ここまで暗いと目を開けてないのではないかと疑いたくなる。
「夢でもこんな体験できるもんなんだな。」
そんなことを思っていた。
すると……。
『夢ではありません。あなたは残念ながら死んでしまったのです。』
突如、暗闇から女性の声が聞こえた。
辺りを見回すが女性の姿など無い。むしろこの暗闇には何一つ形あるものは見えない。
『驚くのも無理はありません。あなたが居るその場所は生と死の狭間のような場所にいるのですから。』
再度女性の声がした。
「では、俺は死んでしまったんですね。」
夢にしては意識がはっきりしているなぁとは思っていた。 でも、誰かに言われるまで夢でありたいと思っていたかった。
『はい。残念ですが。』
「そうですか……。死んだのはわかりました。 ですが、ここから俺はどこに行くのでしょうか?」
すると、間を開けずに女性の声が響く。
「貴方をこれから今いる世界とは別の世界へ転生していただきます。その前にこのスキル一覧から貴方の好きなスキルを1つ選んでください。」
その声と同時に暗闇から白の文字が次々浮かんできた。数はざっと数百はあるだろう。
その文字の中には【剣技】、【魔術】、【槍技】等技術的な名前の文字や、【勇者】、【魔王】、【剣聖】等どちらかといえばスキルというより役職ではないかと思われる文字もある。
「すみません、異世界に行くのはいいのですが、何故自分が転生することになったのでしょうか?」
ふと疑問に思ったことを言ってみた。
『今回あなたの死は我々から見ても予想外の出来事だったのです。』
「予想外とは?」
『本来生物というのは死を迎えると同じ世界で別の生物になるのです。』
その言葉を聞くと昔子供のころに聞いた輪廻転生という言葉を思い出した。
『そうです。 あなたが思っている通り地球の人類はそう呼んでいるそうですね。』
俺は口に出していないのに頭の中をのぞかれている不思議な気持ちになった。
『申し訳ございません。 我々は言葉以外の感情や思考も読めてしまうのです。』
少し申し訳なさそうにした女性の声へ
「いえ、特に変なことを思っているわけではないので大丈夫です。」
と言葉に出して返答をした。
『話がそれてしまいましたね。 今回、貴方の死はその輪廻転生の輪からはみ出てしまったのです。』
女性の声はさらに話を続けた。
『貴方は本来、次の日には何事もなく起き上がっていたはずなんです。』
「では、あれはただの風邪で間違いはなかったってことですか?」
『そうです。 ですが、何故か貴方は死んでしまった。 我々でも今回のような例はなかった為、急遽このような形を取らせていただき、別世界へと転生させるのです。』
俺は了承の意を込めて頷く。
『ですが、このままの状態で転生させても数年生きれれば良いほうだと我々は考え、この場所でスキルを1つ与えることにしました。』
女性のその言葉を聞き俺は再度文字を眺めた。 数百にもなるこの文字からどれを選べば良いか等、時間がいくらあっても足りない。
そう思いながらふとある文字に気が付く。
【融合】
「なぜ融合の文字だけ白色に少し金色の枠があるのでしょうか?」
その文字を指さして聞いてみる。
『金色の枠は私にはわかりませんが、このスキルは2つ以上の物を混ぜ合わせ新しい1つの物に変えることができるようです。』
女性の声を聞き、何故かこのスキルを取らないといけないような気がしてきた。
「俺は【融合】のスキルを選びます。」
『わかりました。では、あなたに【融合】のスキルを付与します。」
女性の声と同時に【融合】の文字と俺の体が光り始めた。
『では、これから貴方を異世界へと送ります。 記憶はそのままですが、転生ですので年齢だけは0歳からになります。』
俺は無言で頷く。
『貴方に幸運があらんことを______。』
そこで俺の記憶は途切れた。
こうして俺(藍沢 渡)の新しい人生が始まろうとしていた_____。
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