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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第8章 海皇のダンジョン

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第9話 広まっていく噂

 首尾よくお宝を手に入れさせることに成功したので、さっそくチイト君にミスリル鎧を装着させてビーチにある海の家へ向かう。現地ではチイト君の正体を明かさないまま目撃情報だけを作っておいて、ナカサキアライに戻ってからスミエさんの瓦版をバラ撒く計画。この場にいたダンジョン探索者達は後になってそれが勇者様であったことを知ると同時に、真偽を確かめようとする人達に瓦版の内容が事実であることを証言してくれるだろう。チイト君は渋っていたものの、勇者様の実績を増やせるとヤマタナカ嬢は諸手を上げて賛成してくれた。


「ミスリルの装備を手に入れただってっ? どこでっ?」

「エリアDの試練の間ですよ」


 海の家に着いたところ、ちょうどアンズさんたちが捕まえてきたタコやエビを肴に一杯やっていた。おあつらえ向きに連隊の食糧調達をしていた探索者達も一緒。ミスリル装備のドロップがあったと耳にして、さっそく喰いついてくる。


「マジか……エリアDでミスリル装備なんて聞いたことねぇぞ……」

「今はボーナス期間中ですから、普段より好いものが手に入るのかもしれませんね。黄金で作られた装飾品とかもありましたよ」


 ホレホレと腕に着けている黄金製のブレスレッドを見せてあげる。エリアDでミスリルと黄金が手に入ったという噂はあっという間に広まって、海の家は集まってきた探索者でいっぱいになってしまった。中は狭くて店主さんにご迷惑がかかるため外にあるオープン席へ移動し、これは仕事だと自分に言い聞かせながら同じことを何べんも尋ねてくる探索者達に根気よく受け答えする。情報の拡散に失敗して夜皇ちゃんのプランを台無しにするわけにはいかない。


 連隊が引き揚げてきて同盟が通行料を巻き上げ始めた直後だけあって、ビーチで休養していた探索者には元連隊のメンバーが多かった。あちこちで数人が頭を突き合わせて、もう一度ダンジョンに潜らないかという話で盛り上がっている。


「同盟の奴らはどうするんだ? 実力で排除すんのか?」

「あいつらなら撤退したって話だぞ。なんでも、他の探索者といがみ合っている最中に背後から魔物の奇襲を受けたらしい」

「後方警戒もしてないなんて、マジでバカだな……」


 探索者達の話によると、金髪オカッパお姉さん達は通行料の徴収を諦めたみたい。これで連隊がエリアD以降に踏み込むようになれば任務達成。夜皇ちゃんもニッコニコだろう。


 さんざんお宝を自慢して日が暮れてきたころ宿に戻れば、さっそくスミエさんとヤマタナカ嬢が瓦版の原稿作りに取りかかる。妙に気が合うみたいで、なにを話しているのかふたりして顔を見合わせニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。わたし達は今日も海鮮バーベキューで腹ごしらえ。キタカミジョウ蒼爵家に雇われているコックさんは魚やエビをそのまま焼いたような料理は作ってくれないそうで、もっと素材の味を大切にしろとチイト君が食通ぶったことをぬかす。


「小娘たちは~、明日からエリアCに行くけど~。ユウちゃんはどうするのかしら~?」

「わたしはスミエさんとナカサキアライに戻ります」


 同盟がいなくなったので、プリエルさんたちはエリアCでひと稼ぎすることにした模様。目を離すとヤマタナカ嬢がスミエさんを召し上げかねないし、瓦版の出来も確認しなければならないのでわたしはチイト君達に同行してひと足先に戻ることに決めた。






 翌日、ミスリル装備を見せびらかすため精霊獣は使わず船便でナカサキアライまで戻る。さっそく地元の瓦版屋さんに原稿を持ち込み200部ほど刷ってもらった。瓦版はすべてヤマタナカ嬢が買い上げて、号外としてタダで配布するそうな。探索者ギルドや船着き場など人目に付きそうな場所を選んで「ご自由にお取りください」と積み上げ、掲示板にも張り出しておく。


 キタカミジョウ蒼爵家の別荘に到着すれば、スミエさんはさっそく新たな連載小説「海底の勇者チイト」の執筆に取りかかった。インスピレーションが湧いてきたなどと、もうフィクションであることを隠そうともしない。ヤマタナカ嬢もノリノリでプロット作りに協力している。噂はあっという間に広まって、数日後には船着き場がダンジョン島に向かう探索者で溢れかえるようになった。


「その後、皇国との関係はどうなったんです?」

「もちろん険悪なままだ。南の国境から目を離せないせいで、他所へ遠征している余裕はなくなったな」


 計画が上手くいったところで、わたしはマッパどもの淹れてくれたお茶を優雅にいただきながら情報収集に努めておく。夜皇ちゃんに流してあげれば喜ぶだろう。諜報員1007は勤勉なのだ。マコト教官の話によれば、思惑どおり王国軍の目を南の国境へ釘付けにできたみたい。

  

「イェイスター連合王国でも動きがあったようだ。魔王討伐を主導して掃討作戦を強硬に推していたのが、これまた皇国との国境に近い都市の代表だったらしくてな。連合王国は魔王討伐の看板を下ろしたよ。そいつにすべての責任を押しつける形でね」


 連合王国は勇者ウラミが魔王を取り逃していたことを、自分たちも騙されていたんですと被害者面しながら認めたそうな。本当に皇国が裏で糸を引いていたかは精査中。イシカワシタの領主が調略にあっていたというヤマタナカ王国の発表を耳にして、先の見えない掃討作戦から手を引く口実にしただけという可能性も充分にあるという。


「たんぽぽ爵はヤマモトハシ領にいたのだろう。例の反乱勢力について何かつかんでないか?」


 いろいろ聞き出していたら、逆に尋ね返された。マコト教官は裸賊に興味がおありなご様子。二度も討伐に失敗したという話は王都まで伝わっているものの、本当に討伐するつもりがあったのかとヤマモトハシ辺境伯を疑う人もいるみたい。領軍の規模を急に大きくすると王国軍から目をつけられるので、反乱勢力のフリをさせているのではないかという疑惑がもちあがっているそうな。


「裸賊の首領は元王国軍の士官ですよ。はだか祭で会ってきました」

「おいっ、たんぽぽ爵を取り押さえろっ」


 訊かれたから答えてあげたところ、裸劇団のマッパどもが跳びかかってきてわたしを椅子に縛り付けた。キタカミジョウ蒼爵夫人とヤマタナカ嬢がまなじりを吊り上げて、ナナシーちゃんが首絞め紐をブラブラさせながら迫ってくる。


「あの~、どうしてわたしが縛られるんですか?」

「スズメの時もそうでしたが、どうしてあなたは肝心なことを報せてこないのです?」


 いつもいつも、こっちが八方手を尽くして探している情報をしれっとした顔で口にしやがってとこめかみに青筋を浮かべる蒼爵夫人。はだか祭とやらでいったい何を話したのか、一言一句漏らさず吐けとギロギロ睨みつけてきた。もちろん夜皇ちゃんやチチトレルさんのことは話せないので伏せたまま、ダメオさんの目的はソトホリノウチ領の奪還。王様がいつまで経っても兵を出さないため、自分で戦力を集めて魔王を討伐することにしたのだと教えてあげたところ、話を聞いた蒼爵夫人にマコト教官、そして隣で耳を傾けていた【矮躯】が顔色を青褪めさせた。


「小隊長が……そうか……」

「お知り合いでしたか?」

「私が最初に配属された部隊で小隊長を務めていた」


 王国軍の士官だったという話に嘘はなかったみたいで、自分に軍人としての心構えを叩き込んでくれた小隊長なのだとマコト教官がため息を漏らす。


「お父様に報復を願い出ていた少年に覚えがあります。あの時の彼でしたか……」


 蒼爵夫人もダメオさんを憶えていたみたい。ソトホリノウチ領からの避難民を受け入れた際、王様に直訴することを許したそうな。プロパガンダに利用したという一面があることは否定しないものの、前の王様がいずれ奪還しようと考えていたことは確かだった。ただ、その後ミモリ家の乱によって親友を失い、報復を果たないまま亡くなってしまったという。


「ま~た利用するだけ利用してポイ捨てですか。もう後始末は引き受けませんよ、わたし」

「たんぽぽ爵はもう少し言葉を選びなさい。またかと思う気持ちは私だって一緒なのですよ」


 今は雇われの身じゃないもんねと申し上げたところ、言われなくてもわかっているから口を慎めと蒼爵夫人は苦々し気な表情で重いため息を吐き出した。ミモリ紅爵もダメオさんも用意が整う前に堪えきれなくなっているだけ。最初から使い捨てにするつもりで利用しているわけではないのだと主張する。


「堪えているうちに、前の王様は亡くなっちゃったじゃないですか」

「生真面目な人だったからなぁ。自分が戦えるうちに決着をつけようと考えたのかも……」


 不死族にとっては10年後も100年後もたいした違いではないけれど、人の寿命には限りがある。いつまでも待ちますというわけにもいかないでしょうと告げれば、自分の手でケリをつけなければ気が済まないのではないかとマコト教官が後を引き取ってくれた。厳しくはあったものの部下を軽んじることはなく、責任感や使命感の強い尊敬できる上官であったそうな。

 わたしにはスズちゃんと同じ戦いたがりの脳筋というイメージしかないけど……


「とりあえず、裏で領主とつながっていることはないのですね?」

「討伐に派遣した軍の司令官を裸賊に討たれ、育成に時間のかかる衛生兵や工作兵を根こそぎ奪われてます。ヤラセの可能性は低いと思いますけど……」


 裸賊を隠れ蓑にして戦力増強を図っているわけではないのだなと念押ししてくる蒼爵夫人。実は裏で魔族とつながっていますとは言えないので、元士官なんて王国軍のスパイであってもおかしくない。そんな相手に反乱の片棒を担がせて、あまつさえ貴重な戦力を預けるほどヤマモトハシ辺境伯もマヌケではないだろうと適当にごまかしておく。


「それが判明しただけでもよしとしましょう……」


 知りたかった情報には知りたくなかったことばかり含まれていたと蒼爵夫人にヤマタナカ嬢が揃って肩を落とす。マコト教官が縄を解いてくれて、わたしは自由を取り戻した。


「その魔王って、勇者が倒したんじゃダメなのか?」

「王国軍を後詰に出せない状況なんですよ。首尾よく魔王を討伐できたとしても、領内に残っている魔物はどうするんです? 1匹残らずチイト君が片付けてくれるんですか?」


 話は終わったと肩の力を抜いたところで、どうして勇者にお鉢が回ってこないのだと空気の読めないチイト君に尋ねられる。それはもちろん、魔王を倒しただけでハッピーエンドとはいかないから。魔王を討ち取った後は領内に残る魔物を駆逐して安全を確保し、領民を移住させ荒れた土地を再開発してもらわなければならない。その土地から安定した収益を得られるようになって領の奪還はようやく成功と評される。魔王討伐なんて第1段階にすぎない。


「連合王国がそれで苦労してたろう。結局、魔物どもを追い払えなければ成果はないも同然なんだよ」


 最終目標はその土地を人が住めるようにすること。いくら魔王を倒したところで目標未達のままではただの浪費でしかないのだとマコト教官に諭されて、ようやくチイト君も事情が飲み込めたみたい。魔王が倒されたならおとなしく出ていけなどと自分勝手なことをほざいている。


「勇者様がミスリルの装備を手に入れたって話でしばらくは存在感を示せるでしょうから、チイト君にはその間にしっかり勉強させてください。学校も卒業してない勇者なんて恰好がつきません」


 軍を動員できない以上、チイト君ひとりにできることなんてたかが知れているから、「海底の勇者チイト」が話題になっている間に学院を卒業させてしまうようミドリさんに話しておく。勇者は人々の尊敬を集める憧れでなければならない。暴力だけが取り柄のゴリラと思われては困るのだ。

 自分が戦わなくても、ご立派な勇者様が魔王を倒してくださると誰もが期待するように……


「勇者に学歴って必要なの?」

「貴族はみぃんなメイモン学院の卒業生ですよ。ひとりだけ中退とか恥ずかしくないんですか?」


 勇者になっても学歴社会の呪縛から逃れられないのかと暗い表情を浮かべるチイト君。王都の社交界とは、すなわちメイモン学院の同窓会である。そんな中に放り込まれて話が合わず浮きまくってもいいのかと尋ねたところ、勇者様は顔をクシャクシャにして自分だけ逃げ出しやがった卑怯者とわたしを謗り始めた。


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