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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第8章 海皇のダンジョン

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第7話 成長した勇者

 真昼間からミドリさんと乳繰り合っていたチイト君を部屋から引きずり出し精霊獣でダンジョン島へと向かう。ヤマタナカ嬢とナナシーちゃんに加えてマコト教官と【巨漢】までついてきた。最初にダンジョンへ潜った時も同行していたらしく、ダンジョンパスはもう準備できているそうな。


「アオキノシタの時と似た編成がいいですね。現地に高火力を売りにしている魔法使いがいますから加わってもらいましょう。フウリちゃんの武器を受け継いだ人です」

「すると、私はカナメの代理ってことになるのか……」

「魔剣ありますけど使います?」


 空をかっ飛んでいる間に試練の間へ挑むパーティの編成を確認しておく。一度に入れる人数は8人までという制限があるため、追加できるのはあとふたり。勇者様の活躍を記事にしてくれるフィクション作家のスミエさんは外せないので、最後のひとりにホムラさんをオススメする。フウリちゃんの代わりだと伝えたところ、自分はミモリ・カナメの代理かとマコト教官が顔をしかめていた。カナメ師匠の魔剣を使うか尋ねてみたものの、イラナイと断られてしまう。


「そういえば、チイト君の剣も魔剣でしたね。効果はなんですか?」

「…………発動させると元の状態に戻る」

「チイトは武器の手入れができない。だから、整備の必要がない魔剣を持たせた」


 ふと気になって尋ねたところ、チイト君はぶすっとふて腐れたような顔になった。刃こぼれしても修復されるし、汚れもきれいさっぱり落ちるお手入れ不要の魔剣なのだとナナシーちゃんが解説してくれる。


「すごく便利じゃないですか。カナメ師匠の使っていた魔剣と交換しませんか?」


 わたしが持っている魔剣は結構な威力のある衝撃波を放つのだけど、使った後は面倒なお手入れが欠かせない。戦闘中でも魔力を流すだけでピッカピカの新品になるステキ魔剣の方が絶対にいいと思う。交換しないかと話を持ちかけたところ、チイト君は訝し気な表情になって首を横に振った。


「ユウさんが欲しがるってことは、絶対になにか裏がある。きっと、こっちの方がいいんだ」

「ナナシーちゃん。チイト君が素直じゃなくなりましたよ」

「指南役による教育の成果。たんぽぽ爵は胸を張っていい」


 わたしが欲しがっているという理由で今の方がいいと魔剣を抱え込むチイト君。ひねくれ者になりやがったと苦情を申し立ててみたものの、お前の施した教育の賜だとナナシーちゃんは取り合ってくれない。


「まだ実感したことはないだろうが、その魔剣は数えきれないほどの予備を持っているのと同じなんだ。野戦やダンジョンのような場所ではカナメの魔剣よりよっぽど信頼できる」


 次に補給を受けられるまで、幾度敵と刃を交わすことになるのか予想がつかない。そんな苦境に陥った時こそ、その魔剣の真価が発揮されるのだとマコト教官が種明かしをしてしまう。やっぱりだまし取るつもりだったのかとジト目になるチイト君。価値を理解できない奴が悪いのだとわたしがふて腐れている間に精霊獣がダンジョン島に到着した。


「オーゥ、ミーがパーティーにジョインするですか?」

「アオキノシタでたんぽぽ爵を雇った時と同じだけ支払う」

「ドントウォーリー、トラスツミーッ!」


 わたし達が泊まっている温泉付き宿に勇者様ご一行をチェックインさせて、火力特化型魔法使いを仲間に引き込む。協力してくれるなら小金貨1枚、成功報酬は大金貨3枚とナナシーちゃんに告げられたホムラさんは、ビッグな仕事キタコレとふたつ返事で引き受けた。自分たちは仲間外れかと頬を膨らませているのはワカナさんだ。


「ど~しておヨネちゃんだけなんですか?」

「一度に試練の間へ入れるのは8人までで、諸般の事情によりスミエさんは外せません。残りはひと枠ですけど、アンズさんやワカナさんではナナシーちゃんと役割が被りますからね」


 足りないのは攻撃型の魔法使いだからと儲け話からハブられたワカナさんをなだめておく。勇者様を直接取材できると知ったスミエさんは大喜びだ。優れた情報屋がいればネタに困らないとわたしにしがみついてチュウを迫ってくる。そして、当の勇者様と言えば――


「ナニコレ? 蒼爵家の別荘より豪勢じゃない?」


 ――調理台に並べられた海の幸を前に涎を垂らしていた。大人数になったので、今日は宿屋の庭で海産物バーベキュー。開いた魚にエビ、タコ、カニといった食材を目にして、どうして無職になったはずのわたしが自分よりいいものを食べているのかとブーブー文句を漏らす。


「ヒラキは1枚につき小銀貨6枚。この大きなエビとカニはそれぞれ大銀貨3枚……」


 そんなチイト君にアンズさんは容赦なく3倍の値段をふっかけていた。






 翌日、勇者様ご一行はダンジョンへ。チイト君からボッタくることを覚えたアンズさん、ワカナさん、プリエルさんの3人は食材を獲りにビーチへ向かう。チイト君たちはエリアAの試練の間すら通過していないので、本日の目標はエリアCを突破してエリアDまで行けるようになること。スミエさんが地図を作ってくれていたので、エリアBの試練の間までの道筋はわかっている。


「あら、また来たの? エリアCを探索したいなら通行料を払っていただくわよ」

「ユウさん。こいつら何?」

「最初に通せんぼしていた連隊にとって代わって探索者からお金を巻き上げている人達です。どうやって切り抜けるのか、チイト君の手腕を見せてもらいますよ」


 さくっとエリアBの試練の間を突破してエリアCに足を踏み入れれば、性懲りもなく金髪オカッパお姉さんが通行料を徴収している。どう対処するかはチイト君次第。わたしは何もしないと伝えれば、ヤマタナカ嬢にナナシーちゃんとマコト教官も自分は傍観させてもらうと宣言した。


「連隊に協力してた連中が今さら探索しようなんて虫が良すぎるんだよっ。お前らは3倍の通行料を置いてけっ」


 わたしとホムラさんを見つけたハンジョウ君が一方的に値上げを通告してきた。止めるつもりはないみたいで、同盟の発起人であるお姉さんがニヤニヤしながらその様子を眺めている。


「ユウさん、今度は何をしたんだ?」

「連隊に小銀貨2枚で干物を売っていただけですよ。小銀貨3枚で優先購入できるようにしたのですけど、彼は買い上げもしないで売るな売るなの一点張りでした」

「昨晩、小銀貨6枚取られた記憶があるんだけど……」


 なんだかむっちゃ恨まれてるぞとチイト君が事情を尋ねてきたので、ハンジョウ君の勝手な逆恨みだと説明しておく。話を聞いたチイト君は、こんな連中に金をむしり取られるのは腹に据えかねると難しい顔になった。お願いすればヤマタナカ嬢は気前よく払ってくれただろうけど、それではナニカに負けた気がするみたい。


「【巨漢】さん。ちょっとゴネて彼らの注意を引いてもらえないかな。ただし、絶対に手は出さないでほしいんだ」

「うむ、心得た」


 なにか考えついたようで、連中の視線を釘付けにするようチイト君が小声で指示を出す。任せろと言って前に進み出た【巨漢】が身に着けていた衣服――と言っても海パン一丁なのだけど――に手をかけた。目の前でいきなり脱ぎ始めた変質者に同盟の人達がこめかみを引きつらせる。


「ここは男同士、ひとつ全裸になって話し合おうぢゃないか」

「ふっ、ふざけるなっ。いやっ、近寄るんじゃないっ!」


 何も隠していないことを示すかのように両腕を左右に広げてゆっくりと歩み寄っていく【巨漢】。寄るな変態とバリゲードの向こうでハンジョウ君が叫び声を上げ、近くにいた同盟の人達が武器を構えてあっちへ行けと威嚇してくる。頭が痛くなるやり方ではあるものの、チイト君のリクエストどおり人目を引きつけていることは間違いない。


 ――ふ~ん。離れた位置に顕現させられるようになりましたか……


 誰もがマッパから目を離せなくなっている中、天井付近にクモ型精霊獣が姿を現した。このダンジョンの壁はサンゴのような多孔質でデコボコが多いから、逆さまになってもつかまっていられるみたい。同盟の人達の背後にソロソロと糸を垂らしてくる。


「うわばばば――――っ!」


 【巨漢】に向かって槍を構えていたひとりが背中に張り付いた糸から電撃を流し込まれ、悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。突然の惨劇に皆が目を向けたところで、天井からドスンとクモ型精霊獣が落っこちてきた。


「まっ、魔物の襲げ――ぐわっ」


 どうやら魔物の仕業に見せかけようと考えたみたい。バリゲードの向こう側をクモ型精霊獣が爆走して通せんぼしていた人達をバシバシ撥ね飛ばしていく。触れると電撃を流し込まれるようで、体当たりをくらった被害者は残らず地面に転がってビクンビクンしている。ハンジョウ君がしょぼい魔法を撃ち込んでいたけど、魔力の塊で対魔法防御に優れた精霊獣にはもちろん通用しない。でっかくてぶっとい脚に弾き飛ばされて動かなくなった。正直、あの程度の魔法しか放てないのではエリアCにいる魔物ですら荷が重いと思う。


「ちょっと、見てないで手を貸してよっ」

「いや、こんなバリゲードがあったんじゃ……」


 精霊獣にまったく歯が立たず次々と仲間が倒されていく様子に、金髪オカッパお姉さんが堪らず助けを求めてきた。自分たちが設置したバリゲードに逃げ道を塞がれるなんて呆れる他ない。このような物で区切られていたのでは手が出せませんとチイト君にすっとぼけられ、慌ててバリゲードをひっくり返して道を開ける。


「よしっ、後は任せろっ」


 通れるようになった途端、勢いよく自分の操る精霊獣の前に飛び出していくチイト君。頭を剣でブスリとやられた精霊獣はもがき苦しむかのようにダンジョンの壁に二度三度と突撃して、最後は派手に放電しながら霧散した。


「魔物に襲われるなんて運が悪かったですね。それじゃ通らせてもらいますよ」


 腰を抜かして地面にへたり込んでいるお姉さんに挨拶して、自作自演の活躍劇を演じたチイト君が奥へと進んでいく。精霊獣に撥ねられた人達は痺れて動けないものの、大きな怪我を負ってはいない様子。治癒術が必要かと首を傾げているヤマタナカ嬢には、しばらくすれば動けるようになるから心配いらないと伝えてわたし達もエリアCの試練の間を目指す。


「チイト君にしては頭を働かせましたね。事あるごとに卑怯だの汚いだのと口にしていたのが嘘のようです」

「先生が鬼のように厳しかったからね……」

「ミドリさんはそんなに厳しいんですか?」

「間違いなく前任者の影響。たんぽぽ爵は妙なところでボケを入れてくる」


 道中に現れるアトランティス族をやっつけながらエリアCを探索する。同盟が通せんぼしていた場所から充分離れたころを見計らって、きれいなまま負けることを信条にしていたチイト君がずいぶんな自作自演をするようになったではないかと口にしたところ、全部わたしのせいだと集中砲火を受けてしまった。ヤマタナカ嬢やマコト教官に言わせれば、さっきのひとり芝居はわたしがミモリ紅爵にしたことのパクリだそうな。


「この辺りの魔物は精霊獣で充分みたいだ。魔法使いさんは魔力を温存しておいてくれ」

「オーケー、ボス」


 誰が鬼だとわたしがふて腐れている間にもチイト君と【巨漢】は行く手を阻むアトランティス族をバシバシ倒していく。クモ型精霊獣の雷で動きを止めてからとどめを刺せば効率的だと気づいたチイト君が、ホムラさんに魔力を無駄遣いしないよう指示してきた。火力一辺倒の固定砲台だと伝えておいたので、自分では致命傷を負わせられない頑丈な敵を任せたいのだろう。勇者様の手にかかればエリアCに現れるアトランティス族くらい余裕なようで、わたしはもちろんナナシーちゃんやマコト教官の出番すらない。


 しばらく探索を続けて首尾よく試練の間へ到達する。控えの間を通り抜けて入ってきた扉を閉めれば、壁面にある穴ぼこから甲殻類のようなアトランティス族が姿を現し、池のような水たまりからお魚さんに手足を生やしたようなのが這い上がってきた。


「これくらいチイト君ひとりで楽勝でしょう。わたし達は静観させてもらいます」

「鬼だ……人の心を捨てた鬼がいるよ……」


 ひとりでやっつけるよう告げたところ、慈悲の欠片も感じられないとチイト君が恨めし気な視線を向けてきた。だけど、勇者は魔王に対抗するための戦力。能力が開花しきればチチトレルさんとだって互角に戦えるはずなのだ。この程度の相手、彼女であれば朝ご飯を食べながら片付けてしまえるだろう。


「魔王を倒そうっていう勇者様がなに言ってるんです。手こずるようならチイト君ごとホムラさんの魔法で焼き払いますからね」


 魔王を倒せない勇者なんて生かしておく価値もない。そのための能力はもう与えられているのだから、ゴチャゴチャぬかしてないでさっさと終わらせろと勇者様のお尻を蹴り飛ばす。やさぐれたチイト君は憐れなアトランティス族に八つ当たりすることに決めた模様。暴走クモ型精霊獣を突っ込ませ、1体残らず撥ね飛ばして試練の間をクリアした。


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