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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第8章 海皇のダンジョン

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第6話 八大魔皇、集う

「ちょっとシケてんじゃない。もっと金貨とか宝飾品のドロップを増やしてもいいと思うわ」

「冥皇から教えてもらった相場のとおりなんだけど?」


 G8の席上、今日は魔皇ルックに身を包んだ夜皇ちゃんが資料に目を通しながらさっそくダメ出しをしていた。これではボーナス期間が終わった途端、探索者達がいなくなってしまう。獲物を引きつけておくには今の水準をこれから先も維持していく必要があるとドロップ報酬の見直しを提案する。これが相場なはずだと反論しているのは見た目アトランティス族の女性だけど、中の人は海皇さん。本体はダンジョン島よりも大きいので、眷族に憑依しての参加である。


「ここは地理的に不便な場所だし、手下に沈没船漁らせれば回収は容易なんだから平均値に合わせる必要はないと思うわよ」


 気前よく放出しないから浅いエリアで数をこなそうなんて連中につけ入られるのだと、夜皇ちゃんがダンジョン内の様子を映し出している鏡を指差す。この鏡は浄玻璃鏡という、現在から過去に至るまであらゆる場所で起きた出来事を映し出すことができる冥皇ちゃんの恐るべき能力。決して他人に見られてはいけない乙女の秘密を赤裸々に暴き出す、金剛力でも防ぐことのできない悪魔の能力だ。


「なに、その目は? 私に金剛力を向けたらわかっているわね」

「わざわざ思い出させなくてもいいですよっ。べ~だっ」


 けしからん。実にけしからんと唸っていたところ、ゴスロリ和服とでも形容すればいいのかよくわからない妙ちきりんな格好をした黒髪ぱっつんの女の子が睨み返してきた。見た目は10歳前後の少女だけど、実は最古参の魔皇な冥皇ちゃんである。わたしはこの悪魔に、金剛力で消し飛ばされるなら地上から見える空という空に乙女の恥ずかしい場面をエンドレスで映し出してから逝くと脅迫されていた。


「あんたら、話の腰を折るんじゃないわよ」

「裸皇が全部悪いのよ。続けてちょうだい」


 手前でチマチマ稼ぐより、奥に進んでど~んと稼ぎたくなるくらいサービスしてやるのがいいと海皇さんに説明していた夜皇ちゃんが、邪魔すんなと唇を尖らせる。叱られた冥皇ちゃんは当然のようにすべての責任をわたしに押し付けた。まったくもって許し難い。


「ゼンア~、抱っこ~」

「はいはい。竜皇ちゃんは今日もいい子ですね~」


 難しい話に退屈してきたのか、3歳にも満たない幼女がトテトテとわたしの足元に歩いてきた。ドラゴンたちを束ねる竜皇ちゃんだ。今は魔法で人族に化けているけど、本来の姿は尻尾を含めれば体長が100メートルはあるドラゴン。それでも竜族としては幼児という話なので、膝の上に抱き上げてヨシヨシと頭を撫でてあげる。過去のG8でもわたしとホブミちゃんが遊び相手を務めていたせいか、すっかり懐いてくるようになった。


「チッ、なんでこんなガキが魔皇なんだ?」

「とりあえず椅子を埋めるために用意したまがい物より強いからでしょう。先代から継承したわけでも、その座を奪ったわけでもないザコ魔皇は口を慎みなさい」


 誰がこんな幼児を魔皇にしやがったと舌打ちしているのはボッサボサの長い髪をしたワイルドな雰囲気を持つ女の子。年のころは夜皇ちゃんより少し年上に見えるけど、実年齢はわたしと大差ないベヒモスの獣皇ちゃんである。本来の姿は体長が60メートルくらいある手足の生えたマッコウクジラで、実は竜王ちゃんより小さい。彼女をザコ魔皇と言い切っているスイカみたいなおっぱいのお姉さんは嬢皇さん。リンノスケの上司でBITCHの総帥を務める淫魔族の女王様だ。同志たちからはチェリーコレクターと呼ばれている。


「私達も魔皇となった時のままではありません。いつまでもまがい物呼ばわりされるのは心外ですね」

「なら、さっさと誰かぶっ倒すといいわ。もちろん、わたくしだって構わなくってよ」


 自分を魔皇に仕立てあげたのはお前らなのに、いつまでも格下扱いすんなと雪のように白い髪を持つスレンダーなお姉さんが嬢皇さんを睨みつける。空を飛ぶ魔族を統べる翼皇さんで、本来の姿はシムルグという翼開長が80メートルに達するおっきな鳥さんだ。魔皇の地位は先代から譲られるか、その地位にある相手を倒してとって代わるのが掟。真に魔皇と認められたければ実力でそれを証明しろと嬢皇さんが鼻で笑う。


 先代から地位を譲り受けたのが冥皇ちゃんと竜皇ちゃんで、魔皇を倒してとって代わったのが海皇さんと嬢皇さんにわたし。夜皇ちゃん、獣皇ちゃん、翼皇さんはそのどちらでもない。先代がまとめて金剛力に消し飛ばされ、一度に3体の魔皇を失った魔族社会が戦国時代に突入するのを嫌った冥皇ちゃんによってでっち上げられた魔皇だ。嬢皇さんはそれが気に入らないみたいで、顔を合わせるたびにザコザコと呼んでバカにしていた。


「嬢皇さんだって、あの時は賛成してくれたじゃないですか」

「そりゃ、事態が事態だったもの。でも、いつまでも魔皇面されるのは気に入らないわ。ビマシッターラに獣皇を倒させて、ちゃんとした魔皇になってもらいましょうよ」

「そんなことしたら裸皇が2体になっちゃうじゃないですか。八大魔皇が八大裸皇になったら、この世界から衣服(ぶんめい)が失われますよ」


 序列1位から9位のひと桁(シングル)と呼ばれる修裸は魔皇にも劣らない実力者揃い。彼らを魔皇にくり上げようと嬢皇さんが唆してきた。マッパの巣窟は修裸の国だけで充分だと却下する。


「遊んでないで、あんたらもちょっとは知恵を出しなさいよ」

「え~、わたしはもう通せんぼしてる連中を排除する方法を教えてあげたよね?」

「それが失敗だったからフォローしてんじゃない。ダンジョンに引きつけておきたいのは、あんたの追っ払った連隊って連中の方なのよ」


 嬢皇さんと話していたところ、ここに集まった趣旨を忘れんなと夜皇ちゃんがしかめっ面を向けてきた。わたしはもうひと仕事したはずだと告げたものの、誰のせいで自分が頭を悩ませていると思っているのかと叱られてしまう。今、ダンジョンに残っているのは殺っちまうリストに挙げるまでもない連中ばかり。魔族としては連隊に戻ってきて欲しいそうな。


「だから、一発どでかい財宝を見つけさせてそいつらを呼び戻すのがいいと思うの」

「こういうことは裸皇より夜皇の方が頼りになるわぁ」

「しょんなぁ……」


 人の心は天秤のようなもの。エリアD以降にお宝が眠っていると評判になれば、慎重な連中の内からもエリアCでチマチマ稼ぐのに我慢できなくなる輩が必ず出てくるから、ど~んと沈没船の財宝をばら撒いて連隊を呼び戻そうと夜皇ちゃんが提案する。修裸の首領は力任せな解決方法しか思いつかないと海皇さんに変態マッパどもと一緒にされてしまった。とっても釈然としない。


「なら、勇者に財宝を見つけてもらうのはどうかなっ? 噂を広めるのが得意な人に心当たりもあるよっ」

「悪くないわね。聞かせなさいよ」


 このままでは金剛力で何もかもをふっ飛ばすだけのアホ娘と思われてしまう。わたしだって考える頭は持っていることを示すため、チイト君に財宝を見つけさせてスミエさんに吹聴させるのがいいと勧めておく。勇者様なら話題性は抜群だと夜皇ちゃんが話に乗ってきてくれた。


「ミスリルの鎧に黄金の装飾品をいくつか手に入れさせっから、ばば~んと噂を広めんのよ。手筈はわかってるわね」

「まかせてチョベリグ」

「このふたり、案外気が合うのかしら……」


 欲の皮を突っ張らせた連中を引っかけるのなんて朝飯前よと笑いあうわたし達を見て、本当は仲が良いのかと嬢皇さんが訝し気な表情を浮かべていた。突っかかってくることも多いけど、夜皇ちゃんはなんだかんだ言いながら困った時に手を差し伸べてくれるわたしのお友達だ。でっち上げ魔皇なんかと一緒にしないよう言っておく。


「裸皇の手綱を取れる魔族は希少。しっかりした飼い主が見つかって助かったわ」

「確かにテイカーをおとなしくさせておける魔皇をザコとは呼べないわね。シャチーはむしろけしかる側だし……」


 冥皇ちゃんとコレクターは他人を猛犬か何かと間違えているみたい。シャチーはやっちまえとリードを自分から手放すタイプなので、オアズケとお座りを指示できる夜皇ちゃんがいてくれてよかったなどと談笑している。


「なんか、わたしの扱いが酷くない?」

「あんたはさっさと行動に移りなさい。人族の連中が心配して探し始めるわよ」


 そのような言い種はあんまりではないかと唇を尖らせてみたものの、不在が長引くと不審に思われるから時間を無駄にするなと夜皇ちゃんに急かされてしまう。アンズさんたちは今日もビーチでゴロゴロしているけど、わたしは島の周囲を探検してくると席を外してここにいる。ゆっくりしている余裕がないのは本当のこと。ダンジョンの議題を最後にG8はお開きとなったので、風に乗る魔法を使ってナカサキアライの港まで一気に空を駆け抜けた。






 チイト君やヤマタナカ嬢がお世話になっているのはキタカミジョウ蒼爵家の別荘という話。どこかで場所を尋ねようかと考えていたものの、そんな手間をかけることなくひと目で見つかった。入り組んだ岩礁地帯の中にポツンと存在する小さな砂浜で、裸劇団のマッパどもがキャンプしていたからである。


「ここはキタカミジョウ蒼爵家のプライベートビーチですか?」

「これはこれは、たんぽぽ爵。ここは私有地ですので窮屈な格好をすることはございません」

「しれっと脱がせようとするんじゃありませんっ」


 砂浜に舞い降りて尋ねたところ、公共の場ではないので服を着ている必要はないと【紳士ダンディ】が性懲りもなくわたしのお仕着せに手をかけてきた。わき腹にボディフックを叩き込んで砂浜に転がしておく。キタカミジョウ蒼爵夫人の好意で強化合宿に使わせてもらっているのだと【巨漢グレイト】教えてくれたので、【敏感スリーカウント】に別荘まで報せに走ってもらう。お招きされているわけではないので、ずけずけと入っていくわけにはいかない。


「すぐに呆れて戻ってくると伝えておいたのに、アテが外れてヒジリがヘソを曲げてしまった。たんぽぽ爵は責任を取る……」

「全部ナナシーちゃんの見込み違いが原因じゃないですか」

「たんぽぽ爵がそこまで辛抱強いとは思わなかった。世界は驚きに溢れている……」


 戻ってきた【敏感】に連れられてきたのはナナシーちゃん。ヤマタナカ嬢や蒼爵夫人には数日もすれば引き揚げてくると伝えていたみたい。だんだん焦れてきたらしく、ここ数日まだかまだかと急かしてくるようになっていたそうな。今日はエイチゴヤのお仕着せで王女様の前に出るような恰好ではないのだけれど、そのままでいいからと手を引かれる。


「あんな場所にいたところで時間を浪費するだけでしょうに、いつまで待たせるのですか」


 ちょっとしたホテルかと思うような別荘に到着すると、中庭でヤマタナカ嬢と蒼爵夫人に加えてマコト教官がお茶をいただいていた。もちろん、給仕にあたっているボーイは裸劇団のマッパである。ご無沙汰しておりますとわたしがご挨拶申し上げたところ、自分をほったらかしにして卑しさ丸出しな連中と獲物の取り合いに興じていたのかとヤマタナカ嬢が頬を膨らませた。チイト君と一緒にダンジョン内の様子を目にしていたみたい。


「さすがにつき合いきれませんので、開いた魚を干して売り捌いていました。岩場でタコとかエビも獲れるので、バカンスを楽しむ分には悪くない環境かと……」

「たんぽぽ爵、それはサバイバルと言うんだ。頼むから言葉は正確に使ってくれ」


 【矮躯ピギー】の引いてくれた椅子に腰かけながら新鮮な海の幸が獲り放題なので酒の肴には困らないのだと伝えたところ、こいつは王国軍のサバイバル訓練に放り込まれても休暇を満喫するに違いないとマコト教官が顔をクシャクシャにした。サバイバルというのは人を丸呑みするような妖獣の出るところでするもの。わたしは間違っていないと思う。


「ミドリから『天空の勇者チイト』の著者を伴っていたと耳にしていますよ。今日は一緒でないのですか?」

「スミエさんならダンジョン島にいます。チイト君に用があって、わたしだけ飛んできましたから」

「チイトに?」


 キタカミジョウ蒼爵夫人はスミエさんに興味があるご様子。きっと、政治宣伝のため都合のいいストーリーをでっち上げさせるつもりに違いない。用があるのはチイト君なのだと伝えたところ、わたしの方から話を持ちかけてくるなんて珍しいとヤマタナカ嬢が目を丸くする。


「エリアCが通行できるようになりましたので、多少なりとも成長しているのか確認しておきたいと思いまして……」


 アオキノシタのダンジョンと同じく、エリアDの試練の間を突破してもらうつもりだと説明する。わたしは指南役だったのだから仕事の成果を確認する義務があるとゴリ押しして、チイト君にエリアDを攻略させることで話を決着させた。


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