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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第8章 海皇のダンジョン

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第5話 抗争は終わったものの

 連隊がわたし達の干物を買い上げてくれるようになって3日。とうとう同盟によるダンジョン入口の封鎖が始まった。探索者同士の血で血を洗う抗争の幕開けかと思いきや、連隊はあっさりとエリアCを放棄。無血開城を成し遂げた同盟は勝利に湧き上がっているという。


「潮時ってやつさ。ここ数日、おかしな雰囲気があったからな」


 ビーチにある海の家でアンズさんが丹精込めて作った干物をいただきながら、連隊の食糧調達をしていた探索者達のリーダーがダンジョン内の様子を語ってくれた。なんでも、数日前から連絡を絶やしたまま足取りのつかめないパーティーが現れ出したみたい。こっそりエリアDに移動したのではないかと考えたものの、行方不明者の中にはとにかく慎重と名高い古参パーティーまで含まれている。別に脱退を咎めるつもりはなく、充分に稼げたならいつでも抜けて結構という決まり。何も言わずに姿を消すのは明らかに不自然で、自分たちの知らないところでナニカが起きているのではと不安を感じる者も多かったそうな。


「何が起きているのかわからない時は迷わず撤収するのが正解だ。臆病だと思われるかもしれないけど、俺たちはそうやって生き延びてきた」


 ボーナス期間でなければエリアD以降まで踏み込んでいるという探索者はとても慎重だった。ちょっとでも空気が変わったと感じた時は即撤収。それがダンジョン探索で生き残るコツだと、真鍮製の杯に注がれたお酒をグビグビと飲み干す。もちろん、わたしには何が起きているのか容易に予想がついた。管制官さんの放った刺客がエリアCを通せんぼしていた連中を間引きし始めたのだろう。


 ――とはいえ、アトランティス族にしては鮮やかな手口ですね。用心棒でしょうか?


 海皇さんの配下は巨体を誇る魔族ばかり。体長が30メートルあっても小童と呼ばれるくらいなので、人族に合わせた狭いダンジョンには入ることすらできない。眷族のアトランティス族は人海戦術をモットーとしていて、個々の戦闘力はたかが知れている。まったく存在をつかませることなくベテラン探索者をパーティー単位で葬っていくなんて、他の魔皇から腕利きの刺客を派遣してもらっていたのかもしれない。ちなみに修裸はこういった仕事を喜んで引き受けるので、最悪マッパと出くわすことも考えられる。


「命あっての物種だぜ。死んじまったらこうして別嬪さんと飲むこともできねぇしな」

「あらあら~、お上手ですこと~。でも、小娘もその考えには同意するわぁ~」


 食糧調達班にいたややガラの悪い探索者が、水着の女の子に囲まれて酒が飲めるなんてダンジョン島はパラダイスだぜぃとご機嫌で杯を傾ける。さりげなく肩に回された手を捻じり上げながら、プリエルさんが笑顔でその意見に賛意を表した。危険が目の前まで迫ってきてから逃げ出すような探索者は三流。近づかれる前にトンズラするのが長生きの秘訣だそうな。


「知り合いのパーティーが行方知れずだと聞かされたとき、君の言葉を思い出した。ダンジョンにいるのは人族だけじゃないってことを、すっかり失念していたよ」

「しばらくエリアCには行かない方がいい……」


 どうやら、わたしの忠告は無駄にならなかったみたい。探索者達の話を耳にしたアンズさんが、元々バカンスでもあったのだから様子見しようと口にする。


「えぇ~。それじゃ記事になりませんよ~」

「ベテランのパーティーが助けを呼ぶこともできず壊滅させられる。そんな相手に狙われたら、真っ先に殺されるのはスミエ……」

「ひいっ」


 瓦版のネタを求めて同行しているスミエさんが反対の声を上げるものの、最初の犠牲者はお前だと言われてドグウバディを震わせる。おそらくは暗殺に長けた刺客だと思うので、警戒心の薄いスミエさんから狙われるというのも間違っていない。不意打ちされる前にすかう太くんで察知できるとは思うけど……


「お話し中のところ失礼します。連隊のパーティーが壊滅させられたというのは本当なのですか?」


 わたし達の話が耳に入ったのか、近くにいた探索者のひとりが尋ねてきた。ここで知り合ったルーキー達のひとりで、たしか名前はミナト君。詳しい話を聞かせてもらえないかと丁寧にお願いされる。


「すまないが、俺達も状況がつかめていないんだ。これといった遺留品もなく、ぱったりと姿を消してしまったとしか言えない。壊滅させられたというのは想定される最悪のケースだよ」


 誰にも知らせずこっそりこの島を離れたという可能性もある。ただ、離脱を禁じていたわけでもないのにそんなパーティーが複数出てくるとも思えない。想定のひとつとして、救援を呼ぶことすらできなかったのではないかという話だと食糧調達班のリーダーが説明する。安易な予想をベラベラと垂れ流さないところはスミエさんにも見習っていただきたい。


 お礼を言って自分達のテーブルへと戻っていくミナト君。そこに、あのハンジョウという魔法使い君の姿はなかった。






 エリアCを探索するつもりはないけれど、とりあえず行けるようにはしておこうとわたし達はエリアBの試練の間へやってきた。わたしとプリエルさんがスミエさんの護衛。ワチャワチャ寄ってくる小型のアトランティス族をアンズさんとワカナさんが撃退している間に、サンゴで出来た鎧を着たような中型アトランティス族をホムラさんが炎の槍で撃ち抜いていき、あっけなく試練の間を突破する。


「ワカナさんは縄術に向いているのかもしれませんね」


 初段ばっかりとはいえ、いろんな職能に手を出しているワカナさんは武器を選ばない。硬い貝殻のついたヤドカリ型アトランティス族をロープで引っかけて、ハンマーみたいにブンブン振り回して使うなんてよく思いついたものだと思う。


「アンズもずいぶん巧みになったわね~」

「エビやタコを捌いている間に、どこに刃を入れればいいかわかってきた」


 確実に急所を捉えるトマホークにプリエルさんが感心していた。アンズさん曰く、浜辺で魚介類を捌いている内に効率よく処理する方法を見出したとのこと。干物作りも侮れないとひとり頷いている。彼女は普通に板前修業でもした方が稼げるのではなかろうか。


「ボスをワンパンでデストローイしたミーはどうなんですか~?」

「ホムラさんは魔法五段じゃないですか。あの程度の相手、一撃で沈められて当然です」


 自分も褒めろとホムラさんがプリーズ、プリーズしてくるけれど、あんな動きの遅い相手では外す方が難しい。動かない的をぶち抜いたところで自慢にはならないと伝えておく。もっとも、火力バカのホムラさんが真価を発揮するのはアンズさんやワカナさんでは傷を負わせられないような相手が出てきた時。エリアDにでも行かない限り出番はないと思う。


「おヨネちゃんにはポーターがベストマッチで~す」

「そこはマッチでなくフィット。バカナに魔族語トークなんてインポッシブルで~す」


 荷物持ちがお似合いだとワカナさんがホムラさんの口調を真似てみたものの、あっさり間違いを指摘されて顔をクシャクシャにしていた。遊んでないで魔骨を集めろとアンズさんにお尻を蹴飛ばされ、ふくれっ面でアトランティス族の死骸をゴソゴソ探り始める。


「魔骨が6つも見つかりました。ワカナ、ずっとここを周回していたいです」


 わたし、スミエさんとプリエルさんに順番待ちをさせて待ち時間なしの高速周回をしようぢゃないかと提案してくるワカナさん。もちろんお断りである。順番が来たらそのまま自分達だけでクリアすると告げて、奥にある転送魔法陣でエリアCへと向かう。


「オーゥ、連隊はリタイアしたのではなかったですか~?」

「違う。こいつらは同盟……」


 転送された先には、性懲りもなくバリゲードなど作って探索者を通せんぼしている連中がいた。どうして連隊が残っているのだと口にしたホムラさんに、同盟の仕業だとアンズさんがひとりの女性を指差す。どうやら宿屋でわたし達を同盟に誘ってきた金髪オカッパお姉さんがやらせているみたい。その近くにはルーキー仲間と袂を分かったのかハンジョウ君の姿もあった。


「何もしなかったくせに解放された途端ノコノコ顔を出すなんて、そんな都合のいいマネはさせないわ。エリアCを探索したかったら通行料を支払ってもらうわよ」

「こいつらっ、連隊の仲間ですよっ」


 わたし達に気づいたお姉さんが、エリアCを解放してやったのだから手間賃くらい負担しろと通行料を請求してくる。その隣で連隊の仲間を通してやることはないとハンジョウ君が騒ぎ始めた。連隊は危険を察知したから解散したのであって、同盟はたまたまタイミングよく決起しただけにすぎないものの、自分達がエリアCを解放したとすっかり信じ込んでいるみたい。


「ユウ~、どうするの~? 小娘は実力行使も悪くないと思うのだけど~」

「エリアCを探索するつもりはないんです。ほっといて帰りましょう」


 この程度の連中、わたしと自分なら力尽くで押し通ることも可能だぞとプリエルさんがマルタカリバーを振ってみせる。下手に探索なんかして刺客と鉢合わせしては面倒なので、この場はとっとと退散させていただく。マッパはもちろんのこと、獣皇ちゃんや翼皇さんの配下とも会いたくない。あのふたりはわたしに敵わないものだから、何かあるとす~ぐ冥皇ちゃんやシャチーに告げ口するのだ。


「ずいぶんとあっさり引き下がるのね?」

「ユーにペイしてやるマニーなんてナッシングで~す」

「干物が思った以上の稼ぎになった。アガリを奪われてまで探索する意味は薄い」


 探索しに来たのではないのかと目を丸くするお姉さんに、お前に払う金なんて一銭もねぇとホムラさんが言い放つ。干物を売っているだけでも宿代くらいは賄えるから、わざわざ危険を冒してダンジョン探索をする必要なんてないとアンズさんも同意。今晩の肴を獲りに行こうと転送魔法陣へ引き返す。


「ひとつ情報をあげます。あなた達が封鎖を始める前から、唐突に行方がわからなくなるパーティーが出始めていたそうですよ。連隊のひとりは潮時だって言ってました」

「嘘を言うなっ」

「嘘か真かは自分たちで判断してください。わたしも話に聞いただけですから……」


 最後に食糧調達班のリーダーから聞きかじった話を伝えておく。ハンジョウ君が即座に否定してきたものの、連隊が強がりを口にしていただけという可能性だってないわけではないので反論はしない。信じる、信じないはご自由にと言い残してダンジョンパスを操作する。魔法陣の外側でハンジョウ君が顔を真っ赤にしてなにか怒鳴っていたけど、その声が届くより先にわたし達はダンジョンの入口へと戻っていた。






「な~んで、こ~なるかな~?」


 深夜遅く、宿屋の屋根の上でひとり呟く。空が飛べるわたしはともかく、他の人達は梯子を使わなければここまで登ってこれない。少し夜風にあたってくると酒宴を後にし、夜皇ちゃんからいただいた伝言板の魔法具を確認していたところ、主要8か国魔皇会議――通称、G8――開催のお知らせが届いていた。あんまりな開催場所にため息が出てくる。

 そのお知らせには、「開催地 ダンジョン島」と書かれていた。


『夜皇ちゃん。まさか、わたしのことをシャチーにバラしたの?』

『まったくの偶然というか、あんたの方が勝手に開催地近辺をウロついてんじゃない』


 どうしてこんな嫌がらせのようなことをするのかと問い詰めたところ、わたしの方が予定外に飛び込んできたのだと夜皇ちゃんは言う。体のサイズが違い過ぎるという理由で海皇さんはダンジョンを持っていなかったものの、ダンジョン運営は魔族の対人族戦略の一環。ひとりだけ何もしていないと他の魔皇が喧しいので、最近になってこのダンジョン島を作った。形だけは整えたものの運営ノウハウなんかはさっぱりだと言うから、じゃあ皆で視察しようとここで開催することに決まったそうな。


『なら、わたしは参加しなくってもバレないよね?』

『なにバカなこと言ってんの。あんたんとこの女宰相、家出中の国主がちょうど現地にいるみたいだから本国からは誰も派遣しないって言い切ったわよ』

『わたしがここにいるって、なんでシャチーが知ってるの?』

『あんた、海皇に正体バラしたでしょ』


 アトランティス族である管制官さんの見たこと、聞いたことは全部海皇さんに筒抜けとなる。口止めするのを忘れていたせいで、自分のダンジョンに探索者を装って顔を出したと海皇さんから伝わってしまったみたい。修裸の国からは誰も参加しないから、G8の趣旨に則ってお前が出席しろと夜皇ちゃんに言い渡されてしまう。


『ちょっと待って、シャチーが来ないってことは台本もないってこと?』

『いつまで読み上げ器でいるつもりよ。ちったぁ成長しなさい』


 G8の席上となれば迂闊なことは発言できない。自分はカンペがないと喋れないぞと伝えてみたものの、魔法具の画面は「読み上げ器乙www」の文字で埋め尽くされてしまった。


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