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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第6章 皇国の陰謀

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第1話 夜皇からの依頼

 春が近づいて日差しも暖かくなってきた頃、勝率ではまだまだ負け越しているものの、ようやくチイト君は【巨漢グレイト】に勝てるようになってきた。またレベルアップしたみたいで、精霊獣の数は増えなかったけれど、ひとまわり大きくなったように感じられる。防殻が強固になったらしく、もう【巨漢】では一撃で倒しきれない。


「なんでユウさんには一瞬で消し飛ばされんの?」


 調子に乗ってわたしに挑戦してきたので軽くひねってあげる。一見同じように見えても、動かない防殻とわたしの流動防殻では実際に作用している裸力の桁が違う。触れたそばから削り飛ばされるから、精霊獣などいないも同然だった。


 まあ【巨漢】に勝てるようになったので特訓はいったん終了。王城へと引き上げる。戻りましたとヤマタナカ嬢のところへ報告に行ったわたしを待っていたのは……縄だった。


「なんですかこれっ? なんでわたしが縛られるんですかっ?」


 椅子を勧められて腰かけたところ、間髪入れず後ろにいたミドリさんに縄をかけられた。ヨッコイショと腰を下ろした直後。筋肉にタメがなくとっさに動けない一瞬を狙われてはどうしようもない。縄でグルグル巻きにされ椅子に縛り付けられてしまう。


「連合王国の使者が城を訪れている。たんぽぽ爵を自由にするわけにはいかない」


 再びイエィスター連合王国の使節団が来ているという。ヤマタナカ嬢はなにがなんでもわたしを美少年に会わせないつもりみたい。ナナシーちゃんに命じて重そうな鉄球をわたしの足につながせる。

 ここまでしますか普通……


「こんなのまるで罪人じゃないですか……」

「外患誘致は重大犯罪です。わたくしの女官にそのような罪を犯させるわけにはまいりません」


 罪人にならないよう予防的処置を取っておくに越したことはない。ヤマタナカ嬢はひとりで納得したように呟き、久しぶりに材料が手に入ったから食べさせてやると、わたしの口にゴダイーブを押し込んできた。


 わたしには珍しくもなんともないですよぅ……

 美味しいからいいけど……


「たんぽぽ爵もなにかを食べている時だけはおとなしくなる」


 ナナシーちゃんにとっても失礼なことを言われた。それではまるで、わたしが食いしん坊みたいじゃないですか。


 ゴダイーブを食べさせながらヤマタナカ嬢が説明してくれたところによると、今現在ヤマタナカ王国には2カ国の使節が訪れている。イエィスター連合王国と、この国の南に位置するギョフリーノ皇国だそうな。


 連合王国は2か所で進めている掃討作戦のうち片方に戦力を集中させたい考え。1か所はヤマタナカ王国との国境に近く街道を敷設すれば直接行き来できるようになるから、自国の領土とする権利を買い取らないかと言ってきている。

 一方、皇国は不死族がウヨウヨしている領域を掃討し、北へと人族の支配領域を拡大させたいみたい。そのために軍と勇者を支援に向かわせることを申し出てきているという。


「ひははんてへめへ……」

「食べ終わってからでいいですから……」


 夜皇ちゃんの国に攻め込んで得られる利益があるだろうか。支配領域の拡大と簡単に言うけれど、補給線を整え防衛戦力を配備し、そのうえで人を移住させ土地から収益が上がるよう開発するのは容易なことではない。十数年に渡って土地を維持しながら開発事業を続けられるだけの国力がなければ、すべての犠牲は無に帰してしまう。


 夜皇ちゃんを討ち果たせるならともかく、そうでなければあの手この手で妨害してくることは間違いないだろうし……


「それは、今後十数年。場合によっては数十年の間、魔皇のひとりと交戦状態を継続するということですね。耐えられるのですか?」


 この国の財政。いや、国民の上に莫大な負担が圧し掛かってくる。中央集権化の進んでいない状態では、負担に耐え切れなくなった領主が王国から離脱することを考えるかもしれない。ひとりが離脱すればそれに続く領主が次々と現れ、外敵と内乱に板挟みにされたヤマタナカ王国は空中分解するだろう。

 もちろん、夜皇ちゃんが裏で手引きするであろうことは想像に難くない。


 ゴダイーブをゴックンしたわたしが想定される未来予想図を語ったところ、数十年に渡る戦争など冗談ではないとヤマタナカ嬢は顔色を青褪めさせた。


「魔皇のひとりと事を構えるというのはそういうことですよ。互いに引っ込みがつかなくなって、負担ばかりが大きくなります」


 夜皇ちゃんは最近覚えたゲリラ戦という考えに憑りつかれてしまい、自分でもやってみたくて仕方のないお年頃。まず間違いなく後方に負担がかかるよう、徹底的に嫌がらせをしてくるに決まっている。敵の兵士は半殺しにとどめておくと、戦力外なのに医薬品や食料を消費してくれるなどと教えてしまったのがいけなかったのかもしれない。


「皇国の狙いは、この国に魔皇との戦争を続けさせることではないですか?」


 このギョフリーノ皇国という国は魔族の支配領域とは接していない。人族の領域拡大に協力すると称して、たびたび他国の戦争に加わってくる傭兵紛いの国家だという。ヤマタナカ嬢は戦利品だけ掠め取っていくつもりだと考えているようだけれども、わたしには周辺国が自国の脅威とならないよう国力を消耗させているように思えた。

 わたし達(魔族)と同じく、「生かさず殺さず」という戦略方針を採っているのではなかろうか。


「それならば、連合王国への援軍に反対するのも納得がいきますね」


 人族の支配領域を拡大したいなら連合王国の掃討作戦に協力してもいいはず。それなのに、他国の国内鎮圧に手を貸している余裕があるのなら不死族どもをやっつけろと強硬に主張する。どうも腑に落ちない。なにか裏があるとミドリさんは考えていたみたい。周辺国を消耗させることが目的と聞いて、パズルのピースがぴったりはまったとニヤニヤしている。


「たんぽぽ爵はいろいろおかしい。ダンジョンで新人の指導をしていた人間が、どうしてそこまでの教養を身に付けている?」


 まったく不要な知識であるはずだとナナシーちゃんが目を細めた。


「この程度、ただの一般教養だと思いますけれど……」


 大陸を平定する過程でシャチーにさんざん働かせられたので、勢力の支配者がなにを考えているのかなんとなく心当たるというだけである。教養と言うよりも、経験と呼んだ方が正解に近いかもしれない。


「どこの国の一般教養?」

「え~と、裸族の……。いたたたっ、痛いですナナシーちゃん」


 わたしは嘘なんて吐いていないのに、たわけたことを抜かすなとナナシーちゃんが頬っぺたをグニグニ引っ張ってきた。


「衣服も発明していない未開の部族にそんな教養があるなんて、誰が信じると言うのです?」

「たんぽぽ爵は嘘が下手。正直に話す」


 相手を騙すつもりならもっとマシな嘘を吐けと、ヤマタナカ嬢はすっかり呆れ顔になってしまった。正直に話さなければパンツを脱がしてチイト君に下げ渡すぞと、乙女にあるまじき脅迫を口にする。


「たんぽぽ爵はどこで教育を受けたのです?」


 勇者の恩恵も歯が立たず、見たことのない魔法を操り、僅かな情報から他国の戦略方針を推察する。そんな人材を育てるには、自分と同じくらいの教育費が投じられているはず。貴族家やいち商会においそれと用意できる額ではない。

 養育してくれた国家を捨ててきた売国奴かとヤマタナカ嬢が射貫くような視線を向けてきた。


「そっ、そんなことはないですよ。少なくとも費用は自分で賄いました」


 わたしは修裸の国の国主なのだから、国の資産はわたしのポケットマネーと言っていい……と思う。裸道や魔法を習うのに雇った専属の教師だって、わたしのお財布から報酬を支払っていた……はずである。

 学費を自分で稼いでいた苦学生と言っても嘘にはならない……んじゃないかな……


「ぎゃあぁぁぁっ! なにするんですかっ!」

「嘘つきはパンツを引っこ抜く」


 問答無用で虚言だと決めつけたナナシーちゃんが戦装束のベルトに手をかけた。


「本当なんですよっ。いろいろあって自然に身に付いただけなんですっ」


 教育の賜物ではなくて経験の産物。そのため、どこでと尋ねられても説明のしようがないのだと、足をバタバタ振り上げて抵抗する。さんざんおあずけを喰らわせたチイト君に乙女の下着など渡そうものなら、とても口にできないようなことをするに違いない。


「とりあえず、今はそういうことで納得しておきましょう」


 お願いだから信じてくれと泣きながらお願いしたところ、ものすご~く疑わしそうな顔をしながらも、ヤマタナカ嬢はひとまず矛を収めてくれた。さっそく今の話も可能性のひとつとして考慮するよう国王に伝えてくると、わたしを椅子に縛り付けたまま部屋を後にしようとする。


「解いてくれないんですかっ? これではお手洗いもいけませんよっ!」


 パッと思いついたこととはいえ、知恵を貸してあげたのにこの扱いは酷いのではないかと猛抗議する。扉の手前でわたしに振り返ったヤマタナカ嬢は――


「それは、それ。これは、これ……」


 ――それだけ口にすると、ナナシーちゃんを連れて扉の向こうに姿を消した。






 3日ほどヤマタナカ嬢の部屋に軟禁され、ようやくわたしは自由を得ることができた。イエィスター連合王国の使節団が帰国してしまったのである。


 魔王が支配していた領域を国土とする権利は、それを撃退した連合王国にあると主張し、かな~りふっかけた権利料を要求してきたみたい。ヤマタナカ王国側は、勇者ウラミは魔王を取り逃がしており、問題となっている領域は未だ魔王の支配下にある。無権利者のくせに権利の譲渡を申し出てくるなど片腹痛いと突っぱねた。

 美少年は再び本国に相談すべく意気消沈して帰っていったという。


『あんないたいけな子を苛めるなんて許せないよっ。夜皇ちゃんもそう思うでしょ』

『人族のガキなんて知ったこっちゃないわよ。それより、その皇国って奴らは邪魔ね』


 わたしは久しぶりに伝言板の魔法具を用い、夜皇ちゃんに最近の状況をお届けしていた。ギョフリーノ皇国がヤマタナカ王国を唆して侵攻するかもしれないと伝えると、ゲリラ戦術を試してみたいものの、オオタワラマチ領から攻め込まれるのはちょっと困るという。


 ゲリラは兵站とか補給線に負担をかけて相手に消耗を強いる戦術。つまり、侵攻拠点となるオオタワラマチ領の領民に最も大きな負担がかかる。米どころを丸ごと手に入れたい夜皇ちゃんとしては、働き盛りの労働力を戦争で減らしてしまうのは避けたいそうな。


『皇国にゲリラ部隊をばら撒いてやりたいところだけど、南の土地にはゾンビ達が行きたがらないのよね』


 なんでも、ジメジメして暖かい土地は身体の痛みが早くなるし虫も湧くと、ゾンビ達が赴任を嫌がるみたい。不死アンデッド族が北の寒い土地を領域にしているのもそれが理由なのだとか。


『不死族が寒い土地を好むって、そんな理由だったんだ』

『金剛力なんてふざけた力を持ってるあんたにはわかりゃしないでしょうね』


 身体に虫が湧く感覚なんて想像できないだろうと言われてしまう。確かに金剛力を発動させれば、毒物に寄生虫から病原体までまとめて吹き飛ばしてくれる。風邪をひいても金剛力で解決。どういう原理なのか、わき腹の余計なお肉まで消し飛ばしてくれるのである。


『最近は組合がうるさいから、命令して無理やり行かせるのも面倒なのよ』

『組合なんてあるんだ……』


 夜皇ちゃんがブチブチと愚痴を零し始めた。不死族は他種族を仲間にすることで増える種族。そのため、他種族の持っている思想や制度なんかが意図せず輸入されてしまうことがある。気が付いた時には、労働組合とか団体交渉といったものがゾンビ達に広まっていたそうな。


『この冬には不働主義アゲチン派なんてのが出てきたわ』


 アゲチン派はとうとう魔族にまでその勢力を伸ばし始めていた。裸賊に身を落とした者達にはアゲチンの支持者も多かったはずだから、その辺りから伝わってしまったのだろうか。文句ばっかり言って、なにひとつ自分ではやろうとしない連中だと伝言板から夜皇ちゃんの苛立ちが伝わってくる。


『なんか大変そうだね……』

『まぁ、不死族のことはあたしの仕事だからなんとかするわ。あんたはとりあえず、王国と皇国が手を結ぶのをぶち壊してちょうだい』


 両国を仲違いさせろと夜皇ちゃんが言ってきた。欲を言えば交戦状態にまで陥れたいけれど、わたしの目的が関係悪化にあることを悟られるくらいなら交渉を長引かせるだけでもいいという。


『魔族だと疑われることだけは絶対に避けるのよ。いいわね』

『まかせてチョンマゲ』


 さてさて、潜入工作なんて何十年ぶりでしょうか。腕がなりますね……


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