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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第5章 ミモリの娘

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第11話 本当のターゲット

 さてと、スズちゃんはこっちですか……ミモリ紅爵の位置は……


 すかう太くんのマップを見ながら屋敷内を移動し、煙幕を垂れ流してスズちゃんや紅爵と警備の人たちの分断を図る。燃えている屋敷の中に黒い煙が立ち込めていれば、誰だってその先は火の海だと思うだろう。


「こんなところに、なにをしに来たんですか?」

「ユウッ? まさかっ?」


 スズちゃんがやってくるのを待って声をかければ、驚いたような声を上げながらも、すぐにわたしに向かって構えを取った。なぜかバリバリに警戒されている。


 そういえば、わたしは国王派ってことになってたんだった……


 国王派がさらに穏健派と急進派に分かれているなんて、スズちゃんが知っているわけもなし。ここで姿を見せたならば、紅爵の護衛だと考えるのは当然のことだろう。知った顔だからと油断するのはチイト君くらいのものである。


「わたしは紅爵の護衛ではありませんよ。だいたい、誰が屋敷の警備を引き付けてあげたと思ってるんです」

「おかしいとは思っていました。スズに構っていられないといった感じだったのは、ユウがなにかしたのですか?」


 スズちゃんは中庭の騒ぎに気付いていなかったみたい。今、この屋敷は炎上中だと伝え避難を促す。


「そうはいきません。タロウノスケを成敗するのは、ミモリの娘であるスズの役目です」

「すると、行方不明のスズメという子は……?」

「ユウがその名を耳にしているということは、まだタロウノスケはスズの行方を追っているのですね……」


 タロウノスケのいうのはミモリ紅爵のファーストネーム。謀殺される危険を察知した彼女のお母さんは、実家のハシモリ家ではなくスズキムラで薬師をしていた祖母の元にスズちゃんを預けたらしい。スズちゃんが幼く見えるのは、年の頃を誤魔化すために長寿の秘薬を飲んだから。成長を遅らせるという副作用があるのだという。


「仇討ちなんてしないとババちゃまに約束しましたけど、タロウノスケがエイチゴヤに害を為すというのであれば話は別です」


 スズちゃんを引き取ったババちゃまは、亡くなる前に仇討ちだの家を取り戻すことなんて考えるな。お母さんがハシモリの家を頼らなかったのは、くだらない争いに娘を巻き込みたくなかったからだと言い残した。スズちゃんも復讐や家督には興味がなかったそうな。


 だけど、今やエイチゴヤはヤマモトハシの御用商会。領が取り潰しの憂き目に遭えば、地位を失うだけでなく連座で罪を被せられる恐れもある。両親に続いてエイチゴヤまでその手にかけようとは勘弁ならんと、ミモリ紅爵に天誅を加えるべく単身屋敷に忍び込んだらしい。


「これはスズの家の問題です。ユウは先に逃げてください」

「ミモリ紅爵ならあっちですよ」


 決意を秘めた瞳でわたしに避難しろと言い残し先に進もうとするスズちゃん。だけど、そっち逆方向だから……


「くっ……ユウはタロウノスケの居場所を知ってるんですか?」

「案内してあげますから、ついて来てください」


 どうせ殺っちまうのなら、誰が殺っても同じこと。帰れと言っても帰りそうもないので、さっさと用を片付けさせてしまうことにした。王国軍が突入してくる前に離脱したいので、説得に時間をかけるわけにもいかない。


 すかう太くんのレーダーによれば、紅爵は数人のお供を連れて屋敷の奥で孤立している。そのうちのひとりはゲンジュウロウ坊ちゃま。パーティー会場にいたチイト君は人波に飲まれて屋敷の外へ押し出されてしまったみたい。


「紅爵はこの奥です。護衛が4人。うちひとりは息子ですね」

「スズが片を付けます。ユウは下がっていてください」


 中の様子をうかがう様なまだるっこしいことはせず、紅爵の潜む部屋の扉をスズちゃんが力任せに蹴破った。呆気に取られている護衛に問答無用で襲い掛かる。


「なっ、なんだ貴様はっ! あの魔族は貴様の仕業かっ?」


 剣を抜く暇すら与えず護衛ふたりをなぎ倒したスズちゃんを見て、紅爵が怒りの声を上げた。残ったひとりと坊ちゃまが剣を構えてスズちゃんを取り囲む。


「ミモリ・タロウノスケッ! ジロウノスケが一女、スズメが引導を渡しに来たのですっ!」

「おのれっ。やはりワシの命を狙ってきおったかっ!」


 紅爵はどうも復讐されることを恐れていたみたい。高らかに名乗りを上げたスズちゃんを指差して、お前さえいなくなれば枕を高くして眠れると坊ちゃまに始末するよう命じる。


「親父が探していた生き残りというのが貴様かっ。探す手間が省けたわっ!」


 残った護衛のひとりと坊ちゃまがスズちゃんに打ちかかった。目の前で仲間がふたり倒されているというのに、残った護衛は武器も防具もつけていない小娘と侮ったよう。根元までズブリとやるような勢いの突きを繰り出す。不用意に突き出した剣を回転防殻で受け流され、身体が泳いでしまったところに渾身の一撃を喰らって吹っ飛んだ。壁に叩きつけられたまま動かなくなる。


「小娘でも、やはりミモリだなっ」


 屋敷内に飾ってあった金ピカ甲冑のひとつだろうか。黄金色をした派手派手しい鎧を身に着けたゲンジュウロウ坊ちゃまが剣を振るう。


 ……あれ?

 カナメ師匠を超える速さだ。坊ちゃまの剣はこんなに鋭かったろうか?

 訓練場でマコト教官を相手にしたときは実力を隠していた?


 素早く振るわれる剣にスズちゃんが踏み込む隙を見いだせずにいる。坊ちゃまも懐に飛び込まれることを警戒しているのか大振りはしてこない。回避することはできているものの、このままでは防戦一方に追い込まれてしまう。


「フハハハッ。舶来品の魔法動力甲冑だっ。力の違いを思い知るがいいっ!」


 ……って、鎧のおかげでしたか。


 すかう太くんに解析させてみたところ、あの金ピカ甲冑にはパワードスーツのような機能が組み込まれていて、装着者の動きをアシストしてくれるみたい。


「喰らうがいいっ。奥義、飛燕天翔剣舞っ!」


 必殺技のつもりだろうか、坊ちゃまが中学二年生的センス丸出しな叫びを上げるとともに、もの凄い連続攻撃を繰り出した。スズちゃんを捉えようというより、周囲にあるものを滅多切りにする動きだ。


 それもそのはず。すかう太くんによれば、あれは甲冑が記憶された動きを再現しているだけ。とっさに攻撃範囲から転がり出たスズちゃんを追うことはできない。ただ、圧倒的にリーチの短いスズちゃんにとっては相性の悪い攻撃である。


「死に損ないがっ。往生際の悪いっ!」


 こっそり見るだけにとどめておこうかと思っていたけど、屋敷を襲撃したのは魔族なのだから、刺客部隊の皆さんに姿を見られれては都合が悪い。あの金ピカ甲冑を相手にするのにちょうどいいと、収納の肥やしになっていたカナメ師匠の魔剣を抜き出す。

 離れた場所から攻撃できるこの魔剣に、あの奥義とやらは意味をなさない。


「時間がありません。スズちゃん、代わっ――」

「防具に頼る軟弱者っ。スズの本気を見るのですっ!」


 交代を申し出ようとした矢先に、スズちゃんが脱いだ……


「なっ……」


 戦いの最中、突然マッパになった少女に坊ちゃまが息をのむ。


「裸力開放っ!」


 いつの間に裸力ゲージを回復させたのか、スズちゃんの右腕に人族の枠を超えた裸力が収束されていく。穢れのない乙女の裸身に目を奪われている坊ちゃまはそれに気付かない。


「裸 旋 金 剛 撃 ぃ―――っ!」

「ひっ、飛燕天翔剣舞っ……」


 とっさに金ピカ甲冑の奥義で迎撃を試みる坊ちゃま。だけど、それは下策である。修裸の一撃にも届かんとする裸旋金剛撃に、武器や防具が耐えられるはずもない。

 案の定、打ち合った瞬間に剣が砕け散った。


「ひっ――」


 スズちゃんの拳が金ピカ甲冑の胸部に突き刺さる。凄まじい衝撃と共に壁に叩きつけられた坊ちゃまは、壁をぶち破って隣の部屋に転がった。甲冑の胸板はべっこりとへこみ、あばら骨は全壊。心臓も潰されてしまったことは誰の目にも明らかだ。あれで生きていられるのはゾンビくらいのものだろう。

 いや、ゾンビはもう死んでたっけ……


「たっ、たんぽぽ爵っ? すると、これは王女の差し金かっ?」


 坊ちゃまの様子を確認しようと姿を現したわたしを見て、ミモリ紅爵は背後で糸を引いているのがヤマタナカ嬢であることを悟ったみたい。自分は国王のために政策を代弁していただけなのに、都合が悪くなったら責任を押し付けて切り捨てるのかと、部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いを始める。


「そういう一面があることは否定しませんけれど、やり過ぎたあなたに責任がないとは言わせませんよ」


 国王も紅爵も、どっちもどっちである。互いに相手を利用しようとしていたのだから……


「スズちゃん。遺体を確認する必要がありますから、顔は潰さないでください」

「まっ、待てっ。身内を殺そうというのかっ?」


 一糸纏わぬ姿のまま、紅爵にとどめを刺さんとスズちゃんが迫る。父親と弟夫妻を謀殺しておきながら、紅爵は自分が姪っ子に殺られるのは嫌みたい。自分の養女にしていずれは爵位を継がせてやろうと、この期に及んで無駄な提案を繰り返す。


「タロウノスケッ。潔く観念するのですっ」

「やめ゛っ――――」


 憐れ、ミモリ紅爵は首の骨をへし折られてしまった。遺体が焼けてしまったり、見つからなかったりしては困るので、屋敷の外へ運び出して坊ちゃまと一緒に転がしておく。これで王国軍が見つけてくれるだろう。


「あっちはまだ包囲されていません。スズちゃんはとっとと姿を消してください」


 逃げ道を指示して、用は片付いたのだから屋敷から去るように伝える。


「ユウはどうするのです?」

「わたしはまだやることが残っています」


 わたしの用はまだ済んでいない。わたしのターゲットは紅爵ではないから。


「ならば、今度はスズが加勢するのですっ」

「スズちゃんは飛べないじゃありませんか」


 わたしは裸賊討伐軍の包囲を突破したのだぞと思い出させておく。ひとりだけならどうとでもなるのだから、完全に包囲されてしまう前にトンズラしろとスズちゃんを送り出した。


 これでようやく、こっちの用に取りかかれますね……


 すかう太くんにターゲットの位置を表示させる。威勢よく炎を上げる本邸ではなく、離れのような場所に反応がひとつ。周囲に人影もないし、暗殺にはおあつらえ向きの状況といえた。


 わたしが殺っちまおうと言ったのは、紅爵ではなくタナカ先生の方である。


 勇者は無価値だという持論を先生がひとりで提唱する分には問題ない。だけど、チイト君の口を使って吹聴されるのは不都合だった。どんな方法で思考を誘導しているのかわからない以上、始末してしまうのが一番確実で手っ取り早い。


 先生に恨みがあるわけではないけれど、どうせまっとうな教師ではないと思う。メイモン学院の教職を斡旋されたというのも、紅爵の思考を誘導した結果かもしれない。


「トラップ……それも、引っかかったと覚らせずに警報を出すタイプですか……」


 反応のあった離れは林に囲まれており、そこには細い糸を使ったトラップが張り巡らされていた。爆発したりロープで絡めたりする仕掛けはなく、ただ気付かれたことに気付かせない。これはプロのやり口である。


 それならばと、わたしは身を隠すのをやめ離れに続く道を歩いていくことにした。丸見えではあるものの、ここにはトラップを設置できない。四六時中監視していない限り、一番察知が遅れるルートなのだ。

 思ったとおり、離れの中に動きがあったのは、わたしが目前にまで近づいてからだった。


 ……はてな?


 そこにいるはずのタナカ先生がいない。すかう太くんのレーダーではわたしの前を通り過ぎて離れていこうとしているのに、わたしの目は先生の姿を映さなかった。これはおかしい。魔法で姿を隠しているなら、すかう太くんが見破ってくれるはずなのに……


 ただ、先生もわたしの位置を掴めていないみたいだ。レーダーの表示を頼りにぴったり後ろにくっついているというのに、慌てて逃げだす様子がない。これはいったいどうしたことかと思っていたら、先生の向かう先に今は使われていなさそうな井戸が見えてきた。


「地下通路……。これはまた用意周到と言うか、古風と言うか……」


 タナカ先生はわたしの足元に潜っていた。トラップだけでは飽き足らず家の地下に抜け道を掘っておくなんて、なにか追われる心当たりがあるに違いない。先生は、いわゆる裏社会の人間なのだろう。


「こんばんはタナカ先生。井戸が涸れた年代はわかりまして?」

「どうして……」


 ゴソゴソと這い上がってきた先生にご苦労様と声をかけてみれば、先回りされるとは思っていなかったのかあんぐりと口を開けてわたしを眺めている。


「これはマダム……いらしているとは聞いていませんでした」

「紅爵にも伝えていませんでしたからね」


 屋敷の主にすら伝えていない。つまり、殴り込みであると明かしておく。それだけで、ターゲットが自分だということを察したみたい。先生の身体が緊張に強張る。


「待ってください。ナナヒカリのことは、この国のためを思ってのことです。どうか、私の口から王女殿下に説明する機会を……」


 先生がそう口にした瞬間、わたしが身に着けていた戦装束がはじけ飛んだ。


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