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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第1章 全裸の魔皇
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第5話 無職のお仕事

 木造で靴を脱いで住居に上がる造り。管理人室には予想したとおりイグサを編んだタタミが敷いてある。嬢皇さんの統べる淫魔族が好むインテリアだ。

 女性限定の安い下宿で住人を集めて、乙女の精気を吸い取ろうというのだろう。


「嬢皇さんの手のものですか?」

「僕の正体を見抜き嬢皇様を知っている……君も人族ではなさそうだね……」

「無職ギルドの魔法具によると、裸族だそうですよ」

「まさか修裸っ?」


 裸族と記載されている無職カードを見せてあげると、わたしを修裸だと勘違いした青年がガクガクと震え始めた。


「嬢皇さんに含むところはありませんが、乙女の敵は許しておけません」

「待ってくれ。本当に住人に手出しはしてないんだっ。ここは真っ当な下宿でしかないっ」


 自分は情報収集のために派遣された間者で、住人の女性が衰弱死なんて事件が起きてしまったら任務にも支障がある。夜皇軍の動向を探るのが仕事で、修裸と敵対することは任務にない。かつてこの地にいた修裸の諜報員とも互いに不干渉という密約を結んでいた。今回も不干渉でいようぢゃないかと話を持ちかけてくる。


 やっぱり、スズちゃんたちに裸道を教えたのはシャチーの諜報員だったみたいだ。

 乙女の敵は放っておきたくないけど……この青年は利用できる。正体を秘密にしておくことを条件に家賃をまけさせられるだろう。まったく払わないと他の住民達が訝しむので、半額で手を打たないかと交渉してみた。


「正体がバレる時は君も道連れだよ……」

「忘れたんですか。わたしは裸族でしかありませんよ」


 無職カードでピタピタと青年の頬を叩く。すでに無職ギルドの魔法具で裸族と判定されているわたしは、自分は魔族ではないという証拠を手にしていた。


「あなたをあの魔法具にかけたら、なんて表示されるんでしょうね?」


 青年とわたしは対等ではない。すでに勝敗は決している。なんなら家賃四分の一でもいいのだと口にしたところで青年が折れた。


「ここがユウさんの部屋になります」


 2階にある204号室に案内してもらって部屋の鍵を受け取る。家賃は季節ひとつで大銀貨6枚。

 この国の暦には月が採用されていない。春夏秋冬のよっつの季節があり、それをさらに初春、中春、晩春といった具合に3つにわけている。季節がひと巡りしたところで一年。年の始まりは春だそうだ。

 今は春の終わりなので、夏の分までということで大銀貨8枚を渡しておく。


 部屋は8畳間くらいの広さで床はフローリング。押入れとクローゼットは備え付けとなっている。ベランダはなく南向きの窓からは洗濯物が干してある庭が見えた。家庭菜園っぽいものまである庭は思っていたより広い。


 うん……悪くない……


 豪華さも機能性もではマッパディアッカ城にある部屋や庭園とは比べものにならないけど、シャチーやビマシッターラと集落に住んでいたころを思い出させる生活感のある眺めがわたしは気に入った。






 2日ほどかけて部屋で生活できるようにし、3日目の今日は無職勉強会。わたしがあまりにも無知なので放っておけないと、同じ下宿の無職の子達が教えてくれることになった。


 妄粋荘の2階には8つの部屋があり、住んでいる無職はわたしを含めて5人。ホムラさんとワカナさんの他、トマホークをこよなく愛するアンズさんに、遠出していてしばらく帰ってこれない人がいるらしい。

 なお、3階の住人はほとんど姿を現すことのない幻の珍住ちんじゅうだそうな。


「これより、ユウに無職の仕事を叩き込む教育を始める」


 無職ギルドのロビーで重々しく宣言するのはハバリ・アンズさん16歳。黒髪姫カットという姫様っぽい外見に似合わず、斧術三段、魔法初段、解体四段でトマホーク二丁流を使う。解体にもトマホークを用い、街の外に行かない時は無職が持ち帰った獲物の解体作業を請け負っているらしい。

 ホムラさんは18歳。ワカナさんは17歳なのだけど、もっとも年下のアンズさんが一番のしっかり者だという。


「街の外では危険な仕事も多い。だから無職は仲間を募る。その際に基準とされるのが職能」


 アンズさん、ホムラさん、ワカナさんは基本3人組で仕事をしていて、仕事の内容により必要なメンバーを追加する。その際に「○○何段の人」という形で募集することが多い。これは他の無職達も同じなので、魔法以外の武器を使った職能をひとつ習得しておくと募集に参加できる機会が増えるそうだ。


「でも、武器って高価ですよね?」


 安価な服はともかく、高価な武器を金剛力で吹き飛ばした日にはわたしは一文無しになってしまう。


「スズさんからユウは服を着たまま裸力が使えると聞いた。拳術を習得するのがいいと思う」


 裸力そのものは服とはまったく関係ないのだけど、服を着ていては裸力は使えないとでも思っているのだろうか……


「会費免除のノルマは、買取り、若しくは依頼の達成報酬で、季節ひとつの間に小金貨2枚を受け取れる程度」


 ノルマをちょっとでも下回ると大銀貨2枚の会費を満額支払わなければいけない。逆算すると、ピンハネ率は1割ってとこみたい。


「依頼はあそこの掲示板に貼り出される。多くは何某かのブツを納品するというもの。ブツはすべてギルドに納品すること」


 まれに自分に直接納めるよう指示して検品しようとする依頼主もいるらしいけど、トラブルの元になるのでなにを言われようと渡してはいけない。依頼された条件を満たしているかどうかは無職ギルドが判断する。そうしないと、難癖をつけて報酬を減らそうとする依頼主が出てくるらしい。


「仲間募集の掲示板がこれ。固定メンバーというのはずっと仲間でいましょうという意味。臨時メンバーというのは目的の依頼を果たすまでということ」


 見たところアンズさんの言ったとおり、特定の職能を持っている人を募集するものが多かった。指定がないのは、新人がこれから一緒にやっていく仲間を探しているものだという。


「まれにギルドが募集することもある。一時的にギルドの兵隊になれというもの」


 極まれに無職ギルドが魔物討伐なんかの仕事を請け負うこともあり、その場合は無職ギルドの職員を指揮官としたギルド部隊のようなものが組織されるらしい。


「もしかして、裸賊に合流しちゃったっていう?」

「あれは違う。報酬や待遇面でギルドとの交渉が折り合わず、軍が一般公募した。参加した無職は多かっただろうけど」


 ギルド部隊ではないのだから、裏切られたのは軍の責任。軍の公募に応じたのは、劣悪な条件だから無職ギルドがお断りしたのだと気付かなかった、頭が悪く自分の思いどおりにならないと腹を立てるならず者みたいな人達だけ。

 ちょうどいいゴミ掃除になったとアンズさんは冷たく言い放つ。


「これが報酬ランキング掲示板。たくさん報酬を得ている人が掲示される」


 買取り額、依頼報酬、総合といったカテゴリーごとに、年間や季節で受け取る金額の多かった人が発表されていた。ここに乗るとちょっと偉そうな顔ができるらしいけど、手下に目的のブツを集めさせて、納品だけ自分でやるといった不正が横行しているらしい。

 ランキング上位は皆そんなだから、真面目に受け取らなくていいとアンズさんは呆れていた。


「段位のごとの強さはだいたいこんなもの」


 初段・二段……訓練を終えた一般兵。

 三段・四段……経験豊富な熟練兵。

 五段・六段……街でも有数の強者。

 七段・八段……国でも有数の達人。

 九段・称号もち……人族トップクラスの豪傑っていうか人外。


「五段以上は領主や軍に雇われて無職でなくなることも多い。ほとんどは二段か三段止まりで、四段なら優秀と言える」


 なるほど、薬師六段、裸道五段のスズちゃんはこの街では上位に位置するんだ……


「スズちゃんはあの歳で凄いのね……」

「……スズさんはこの春に17歳になった。それでも充分あの若さでと感心するけど」

「うえぇぇぇ……スズちゃん17歳なの?」


 ずっと12歳だと思ってちゃん付けしてた。ま、まあわたしの方が100歳近く年上なんだからいいよね……


「それではこれより実地訓練に入る。ホムラ、今日中に終わりそうな依頼をひとつ見繕ってちょうだい」

「もうキープしてあるよん。今日ゲットしたヤマドリを5羽以上。食用だからボディの傷とポイズンはもちろんノゥグッド」

「ワカナの弓が火を噴きますよっ」


 猟師の人に頼まないのかと尋ねてみたら、裸賊のせいで猟師達は安全と思われるところまでしか山に入らないらしい。そのせいで仕事が無職ギルドに流れてきているという。


「ユウはいい?」

「大丈夫ですよ。魔法での狩猟は経験があります」


 獲物を入れるためのショルダーバッグを抱え、街の北側から出て川にかかっている石橋を渡る。この川を渡った北岸側は魔物なんかも現れる危険ゾーンで、裸賊の砦もこちら側にある。南岸側は比較的安全なのだけど、街の近くは猟師達に狩り尽くされて獲物が残っていないだろうとアンズさんは予測した。


「ユウはハントにもメイドフォームですか?」


 他の3人はちゃんと武装しているのに、わたしはエイチゴヤのお仕着せを着ている。もっとも金属を使った防具はアンズさんの手甲だけで、残りは全部革の防具。裸力を纏った方が防御効果は高いと思う。


「え~と、そこは裸力で……」

「脱ぐなら今の内」

「スズさんみたいにスタイリッシュなクロースアウツで決める気ですね?」

「脱ぎませんってば……」


 ある程度街から離れたところで装備を確認し、道から外れて山林に入る。

 アンズさんは背中にクロスさせるように2本、左右の腰に1本ずつ、腰の後ろにもう1本と全部で5本のトマホークを装備していた。魔法初段で収納の魔法が使えるので、予備のトマホークをもう1本収納してあるという。


 ホムラさんは魔法四段なのだけど、広範囲を制圧するような派手な魔法ばかりを好むらしい。狩猟では獲物を丸コゲにしてしまうので、杖は収納の魔法にしまってしまい、背中に竹で編んだカゴを背負って荷物持ちに徹している。


 ワカナさんは右の腰から矢筒を下げ、アーチェリーで使うような洋弓を手にしていた。それだけならともかく、背中にトマホークを背負い、左の腰からは剣を下げている。全部使う気なのだろうか……


「いましたよ。あの茂みに隠れています」


 すかう太くんがヤマドリを見つけてくれたので場所を知らせると、ワカナさんが矢をつがえ準備が整ったところでひとつ頷く。アンズさんが威嚇のための魔法を当ててしまわないように射出し、ヤマドリが驚いて飛び立ったところをワカナさんが狙い撃った。


「下手くそ」

「あうう~」


 まあ、動いている鳥の首に命中させるなんて簡単にはいかないよね。


 次の獲物を見つけたら、選手交代してワカナさんが弓で威嚇しアンズさんが撃ち落とすことになった。ワカナさんが近くに生えていた木に威勢よく矢を当てるとビックリしたヤマドリが飛び立ち、そこを狙ってアンズさんがトマホークをぶん投げる。


「バッドですね~」

「こんなはずでは……」


 トマホークはヤマドリの背中を直撃していた。納品はできないけど、自分たちで食べる分には問題ないので一応持って帰る。


 次はわたしの番らしい。魔法を待機させアンズさんに合図を送る。アンズさんに威嚇され飛んで逃げようとするヤマドリの首を狙って、高速回転する氷で出来た丸ノコを飛ばした。誘導性があって狙った部位を切断でき、高いところの果実や枝を落とすのにも使える便利魔法。わたしは八つ裂き氷輪と呼んでいる。


「その魔法は始めて見た。中級?」

「え~と、魔法に初級とか中級ってあるんですか?」

「そこからか……」


 ホムラさんがガックリとしながら頭の落ちたヤマドリを回収した。狩りを続けてわたしが4羽、アンズさんが3羽、ワカナさんが2羽仕留めたものの、アンズさんの3羽は全部胴体にトマホークを喰らっているので納品はできない。


「ぐぬぬ……」

「トマホーク投げはヤマドリを狙うには向かないのではないかと……」


 必要な数は揃ったので狩猟を切り上げて街に戻ることになり、すかう太くんをヤマドリサーチからいつものレーダーに切り替える。その時になって初めて、わたしたちが囲まれていることに気が付いた。


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