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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第5章 ミモリの娘

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第8話 急進派の夜会

 ミモリ紅爵は野心に溢れ、目的のためならなにをするかわからない人物。それはもう、紅爵の地位を得るために父親と弟を謀殺したほどだという。


「そんな危険人物を放っておいてるんですか?」

「お父様はミモリ家を絶やしたくなかったのよ」


 まだヤマタナカ王国がなかったころ、この地方には多くの領主達が群雄割拠して覇を競い合っていた。そんな中、精強なヤマタナカ領軍を率い、類稀なる戦略眼と神算鬼謀の戦術を駆使して他の領主達を打ち破り、ヤマタナカの領主を初代国王に即位させた第一の功臣がミモリ上将軍。ミモリ家の祖だそうな。


 歴史上の偉人ランキングでは初代国王に次いで2位なものの、人々の憧れる英雄ランキングでは堂々の第1位。多くの逸話が残されていて、舞台劇やお芝居の題材にされることも多いため知名度もバツグン。政治に疎い民衆を懐柔させるにはうってつけの家柄なのだとキタカミジョウ蒼爵婦人が説明してくれた。


 話を聞いた限り、初代国王を源頼朝や徳川家康に例えるなら、源義経や織田信長みたいな人気を誇るのがミモリ上将軍みたい。天下を治めたわけではないけれど、とにかくカッコイイ歴史上のスターだ。


「玉位を定めたのも、建国以来の忠臣であるミモリ家に世襲可能な爵位を与えたかったからでしょうね……」


 玉位を制定したのは先代の国王。蒼爵婦人のお父さんである。もっとも古く、そして最大の功績を誇るミモリ家を、神々の末裔に加えたかったのだろうと蒼爵婦人は寂しそうに呟いた。


「残念なことに、裏目に出てしまいましたな」


 ミモリ家に乱を招く結果になってしまったと、スケノベ桃爵も痛々しそうな表情を浮かべる。代々武門の家系として、最も高い宝位にある者が当主の座を継ぐこととしていたため、国王から紅爵の位を授けると言われた当時の当主は、職責に伴う爵位があれば充分だとこれを辞退してしまったという。


 ここに機会を見出したのが当主の長男。今のミモリ紅爵みたい。当時のミモリ家にはこの長男より高い宝位を得た次男がいて、ミモリ家ルールによれば次男が当主となるはずだった。

 兄より優れた弟が存在したのである。


 長男はミモリ家に相応しい爵位を賜るべきだと家中にふれ回り、血統により労せずして評価を得たいと考える輩を味方につけた。実力を評価して欲しいなんて考えるのはひと握りのトップランナーだけ。ミモリ家の中にあって当主と次期当主である次男は孤立し、陛下の御心を解さぬ不逞の輩と誅殺されてしまったらしい。


「あれから、10年以上が経ちましたか……」


 この事件の後、先代の国王は幼い頃からの友人であったミモリ家当主の後を追うように亡くなってしまったのだと、スケノベ桃爵は涙を堪えるかのように空を見上げた。


「今はもう、行方不明となった娘がどこかで生きていてくれたらと願うばかりです」


 殺された次男は妻との間にひとりの娘をもうけていた。いずこかへと隠されたらしく、騒乱の最中に行方不明となったままだという。ミモリ紅爵が行方を追っているらしいので、殺されてはいないということだけはわかっているそうな。


 次男の妻はハシモリ家から嫁いだので、マコト教官とは従妹ということになる。名前はスズメ。生きていればそろそろ18になる頃だと、蒼爵婦人は遠くを見つめていた。


 ミモリの娘……

 そろそろ18歳になる……

 名前はスズ、メ……

 いやいやまさか、そんなそんな。ご都合主義満載の私小説じゃあるまいし……


 蒼爵婦人によれば、ミモリ紅爵の狙いはヤマモトハシ領である可能性が高いらしい。ヤマタナカと同じく頭に「ヤマ……」とつくのは、初代国王が即位すると宣言した時にそれを支持した領であり、他の領に比べて広い土地を有している。野心家なうえ、他より劣っていることに我慢ができない性格なので、そこそこの領の代官で満足するはずがないそうな。


「夜会に招かれているそうですね」

「ええ。ヒジリ王女も一緒です」


 数日後に開かれるミモリ紅爵主催のパーティーにチイト君が招かれていて、ヤマタナカ嬢とわたしも同行する予定。自分の娘を指南役にねじ込んでくるくらいなのだから、勇者を自分の手駒にしようとするに違いない。集まっているのは急進派の連中ばかりだろうから、なにを言われてもそのまま肯定するなと警告された。

 同意したと取られる発言をしたら、それが勇者の意思ということにされてしまうそうな。






 夜会に参加すべくミモリ紅爵の屋敷を訪れると、玄関口ででっぷりと太った40代くらいの男性が出迎えてくれた。挨拶を交わしているヤマタナカ嬢の言葉を聞く限り、この男性がミモリ紅爵みたい。よく言えば豪華。悪く言えば成金趣味丸出しの胴衣を身に着けている。


 代々、武門の家柄と聞いていたのだけれど、本人にも屋敷にも質実剛健な軍人というイメージはまったくない。飾ってある甲冑も、女神を守護する闘士を思わせるような金ピカ鎧。チイト君が装着してみたそうな顔で眺めている。ご丁寧に、形の違うものが12個並んでいた。


「今晩は親しい者達だけのささやかな夜会です。堅苦しくする必要はありません。どうか、楽になさってください」


 親しい者達だけか……モノは言いよう。急進派だけとも言い換えられる。


 案内されたパーティー会場を見渡してみれば、男性も女性も30歳前後の貴族としては若い人達が目立つ。オジサマ、オバサマばっかりのキタカミジョウ蒼爵婦人が開いた夜会とは対称的に、誰も彼もがギラギラした視線を向けてきていた。


 あんな視線を向けられたら、誰だって腹に一物あると気が付くだろうに……


 隣でつばを飲み込む気配を感じた。ニブチンのおバカ勇者にすら覚られるほど張り詰めた雰囲気の中で、楽にしろもなにもないと思う。紅爵は空気が読めない人に違いない。


「お初にお目にかかります、ナナヒカリ様」


 さっそく胸元まで大胆に開いたドレスを着た女性が挨拶してきた。色仕掛けのつもりなのか、さりげなく二の腕で胸を寄せて谷間を強調している。残念ながら、毎晩ミドリさんを相手にハッスルしているチイト君に効果はないだろう。


「たんぽぽ爵は珍しい髪をしておられますな。人族にこのような者がおりましたか」

「裸族ですので……」


 わたしの髪をしげしげと眺めながら、紅爵がどこの出身なのかと尋ねてくる。断りもせず手に取ろうとするので、さりげなくかき上げて後ろへと流したところ、拒絶されるとは思っていなかったのか不機嫌そうに眉を寄せた。


「未開の蛮族に指南役が務まるのですか?」

「たんぽぽ爵は優秀で、訓練部隊からの評判も高いと耳にしております」


 紅爵に尋ねられたヤマタナカ嬢は、武官として王国軍に配属させられないかとお兄さん。つまり、王子様から求められたことを明かす。わたしも初耳だったけれど、どうも訓練部隊長さんが王子様におねだりしたみたい。もちろん、お断りしたそうな。


「平民の兵卒を相手にしている者の評価ではありませんか。指南役は、やはり衛士から選ぶべですぞ」


 衛士隊にはカナメ師匠の弟さんも所属しているという。入隊した時期が遅かったためにお姉さんほど昇進していないものの、剣の腕で劣っているわけではないと、性懲りもなく自分の息子を勧めてくる。


「カナメを失いました。このうえ、ご子息まで取り上げることになっては申し訳がたちません」


 さっくりとカナメ師匠を見限ったヤマタナカ嬢が、目頭を押さえながら跡取り息子まで失わせてはミモリの血が絶えてしまうとお断りした。あの時は疑いを持たせないためと言っていたけれど、背後関係を耳にするたびにわたしとプリエルさんをダシにして厄介者を片付けたのではないかと思えてくる。


「姉の穴埋めをしてくれたことには感謝するよ。後のことは私が引き受けよう」


 なにやら取り巻きをゾロゾロと引き連れた、ニヤけ顔の若造が挨拶もなしに話しかけてきた。おそらくは、カナメ師匠の弟なのだろう。取り巻き達が坊ちゃまこそ指南役に相応しいと、就任のお祝いを申し上げる。すでに話はついたと言わんばかりの態度にヤマタナカ嬢が目を細めたものの、誰ひとりとして気付く者はいない。


「カナメは充分に役目を果たしてくれました。チイトはもう剣を存分に扱えますわ」

「姉の剣術を学んだのであれば、それを磨き上げるのに私以上の適任者はいないでしょう」


 役目を果たしたとは、もう用はないという意味なのだけれども、空気が読めないのは紅爵だけではなかった。ゲンジュウロウという名前らしいカナメ師匠の弟は、まったく話が噛み合っていないにもかかわらず、衛士隊には自分から話を通しておくなどと口にしている。


 なるほど、蒼爵婦人が懸念していたとおり、ひと言でも同意と取られる言葉を漏らせば王女殿下の了解は得ていると言うつもりなのだろう。もしかしたら、お願いされたことにするかもしれない。


「たんぽぽ爵以上の適任者はいないと自負しております。わたくしが自らの目で選んだ指南役ですから」


 しつこいまでの自推を受けて、ヤマタナカ嬢もキレ気味になってきた。固さを増した口調で、ねじ込まれた指南役なんてあてにならないと言外に言い放つ。ことさらに「自らの目」を強調したせいか、坊ちゃま推しをしていた取り巻き達が鼻白んだ。


 ヤマタナカ嬢に指南役を変える気がないことを察したのか、紅爵はターゲットをチイト君へと移す。お姉さま方による色仕掛けは通用しなかったので、男性貴族達が今は国内を安定させることを優先すべきだと話題を振ってきた。

 言い掛かりをつけて領主を排除するのだから、国内が安定するはずないのだけれど……


「勇者殿にはぜひ、ヤマモトハシ領を荒らす反乱勢力を駆逐していただきたい」

「魔王や魔物が相手ならともかく、人族同士の争いに加担する気はないよ……」


 チイト君にはあらかじめ回答を指示しておいた。勇者は魔族に対抗するために呼び出されたのだから、他のことに興味はないと言っておけばいい。困ったら、それを決めるのは自分ではないとわたしかヤマタナカ嬢に話を振らせる。


 終始、煮え切らない答えを返すチイト君に紅爵はだんだん焦れてきたみたい。眉間にしわを寄せて、あからさまに不機嫌な表情を隠さなくなった。


「まさか、ナナヒカリが勇者であったとはね……」

「あれ? 先生がなんでここに?」


 どうにもはっきりしない勇者だと離れていった男性貴族達に代わって声をかけてきたのは、メイモン学院で歴史を教えているタナカ先生だった。どうしてこんなところで会うのかと不思議そうなチイト君に、自分は元々家庭教師のひとりとして雇われた身。坊ちゃまが衛士隊に入隊してお役御免となるところを、紅爵がメイモン学院の教職を斡旋してくれたのだという。


「そうでもなければ、私があの学院の教師になれるわけないだろう」


 ハッハッハ……と、どこか乾いた笑い声を上げるタナカ先生。今でも相談役のような仕事を引き受けているので、こういった席にお招きされることもあるそうな。


「おふた方からそう答えろと言われているのだろうけど、立場には責任が伴うものだ。私は教師として、ナナヒカリに自分の考えを口にするようになって欲しいと思うよ」


 もちろん、紅爵のお考えに同調するかどうかは別だがね。と小声で付け加えると、当たり障りのない話題へと話を変えた。歴史教師らしく、歴史の話である。


 ……コイツは邪魔者だ。始末しておかねばならない。


 タナカ先生はあろうことか、勇者の存在こそが魔族との戦いを膠着状態に陥らせている原因だと持論を展開した。勇者が現れる前は同族で争っている余裕なんてなかったから、いがみ合う国家同士でも共通の敵を前に手を結ぶことも珍しくなかった。これを一変させたのが勇者。魔王を倒してくれる英雄の登場は、勇者のいる国が発展する一方、いない国はジリ貧になって併呑されるという状況を生み出した。

 つまり、一国だけがひとり勝ちできるようになったと言うのである。


「歴史を研究すれば、聖櫃アークが発掘されるようになってからも人族の領域はほとんど拡大していない。勇者を得た国は、むしろ他国を併合する形で発展してきたことがわかる」


 魔物を追い払って土地を開拓するより、すでに開発の終わっている土地を手に入れる方が美味しいのは当たり前。勇者の存在は、勝ち組と負け組をはっきりさせただけというのがタナカ先生のお考えみたい。興が乗ってきたのか、すっかり講義口調になっている。


「ナナヒカリ、私の論を頭から信じろとは言わない。ただ、これまでの歴史を知ったうえで、勇者としてなにを為すべきか考えて欲しい」


 ペッ……余計な入れ知恵はご遠慮願いたいですね。


 国王が口にしていたとおり、勇者は人族の剣。つまりは道具である。道具が自分はなにを為すべきかなんて考える必要はない。

 剣を誰に向けるかは、使い手が選ぶべきことなのだから……


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