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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第1章 全裸の魔皇

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第4話 乙女達の宿

 なんでバレて……あの証明写真みたいなの。もしかしてウソ発見の魔法具?

 どこまでバレたんだろう。金剛裸漢なら人族の一種だって誤魔化せるかな?

 魔族ってバレてたら逃げるっきゃない……


「服なんて着たって魔法具は誤魔化せませんよっ」

「へ……服……?」


 まさか裸皇ってことまでバレて……


「まったくっ。裸族なら裸族と正しく申告してください。カード造り直した分、ノルマ増やしますからねっ」

「ら……裸族……」


 お姉さんからわたしの無職カードを渡される。


 『ナロシ・ユウ 生年不明 裸族 女性 髪色、紅銀 瞳色、紫』

 『筆記初段、魔法二段、魔族語二段』


 わたし、魔族じゃなくって裸族だったんだ……

 この世界に転生して100年あまり、初めて知らされた衝撃の事実に涙が溢れてきた。


「あれ、筆記なんて申告してませんけど?」


 とりあえず魔族だとバレなかったんならいいやと気を取り直して、筆記が追加になっていることを尋ねてみた。


「代筆の必要がない方は無申告でも初段とさせていただいてます」


 どうやら、この国は識字率がそれほど高くはない様子。申込用紙を職員に代筆してもらう人も少なくないという。他国との交渉で不利にならないようにと、語学に関してはシャチーに叩き込まれたので、わたしは魔族語や人族語以外にも9つくらいの言語を操れるし読み書きもできる。

 ペラペラであるはずの魔族語が二段でしかないのは、登録時にもらえる段位は二段までと決まっているからだそうな。それ以上は昇段審査を受けてくださいとのこと。もちろん有料で……


「ようスズ。新入りを連れて来たそうじゃねぇか?」


 ここでの用は済んだので、エイチゴヤ商会で炭骨の代金を受け取ろうとギルドを後にしようとしたわたしたちの前に、ゴッツくてムサい髪の毛のない男が立ち塞がった。これは恒例の新人苛めというやつだろうか。


「ちょいとツラァ貸せや新入り。まさか嫌だとは言わねぇよなぁ?」

「ほどほどにしときなさいよハゲチン」


 助けてと視線を送ったものの、スズちゃんはあっさりとわたしを見捨てる。酷いよスズちゃん……


「俺はアゲチンだ。ついて来い新入り」


 アゲチンと名乗った男に、たくさんの人達が集まっている食堂のような場所に連れてこられた。なんだなんだと興味津々な無職たちに取り囲まれる。よくよく見れば、まだ日も高いというのにお酒を飲んで酔っ払っている人が多い。無職なだけあって暇なようだ。


 どうやら衆目のあるところでわたしをボコボコにするつもりみたい。こんなところで金剛力が発動したら、犠牲者が何人出るかわかんないのに……


「おぅ、新入りか? いいねぇ。俺好みのメガネっ娘だぜ」

「おぃおぃ、メガネは地味って決まってんのに、その派手な髪色はねぇだろう」

「バッカ、そこがいいんじゃねぇか。時代はギャップだよ。ギャップ」


 酔っぱらいの無職どもが囃したてる。まあ、お城にいた修裸達に比べれば、服を着ている分紳士的だと言えなくもない。スズちゃんに使ったシビレ魔法で動けなくしてしまえばいいや。


「聞けっ! 今日またひとり、この地上に無職が生まれたっ!」


 あれ……?

 魔法を使うタイミングを計っていたら、アゲチンはなにやら演説を始めた。


「特権と財産を独占する者達が労働者から搾取し…………格差社会を助長することで社会階級の固定化を図り…………それに抵抗する同志達は抑圧され…………」


 無職のくせになんだか小難しい言い回しが多いけど、結局のところ定職に就けないのは国の政策のせいだとか、全部世の中が悪いとか、自分達は時代の被害者だといった、もうこれ以上ないくらいに後ろ向きな内容に聞こえる。

 要するに、自分達は悪くないと言いたいらしい。


「だが、誰も俺たちから自由を奪うことはできないっ。歌え同志達っ。自由の歌をっ。働いたら負けだっ!」


 お酒の注がれた杯を掲げてアゲチンが演説を締めくくると、無職たちが声を揃えてオゥオゥと歌いだした。なにこの人達?


「受け取れ新入り。今日からお前も無職仲間だ」

「嫌ですよっ。あんな話されたら、なおさら受け取れませんよっ!」


 アゲチンが受け取れと差し出してきた杯を断る。


「なぜだっ。体制が憎くないのかっ?」

「なんでわたしが屁理屈をこねて自分を正当化し、現実から目を逸らし続ける無職の仲間になんなきゃいけないんですかっ」

「グハアッ……」


 杯を拒否されて愕然としたアゲチンが、続く私の言葉に胸を押さえて倒れ込んだ。わたしはテーブルをバシバシ叩いて仲間にされるのを全力でお断りする。


「無気力、無能力、無収入の3無主義者がたわ言をっ。そんなんだから定職に就けず結婚もできないんですっ」

「やめろ……やめてくれ新入り。同志達が苦しんでいるのが見えないのか?」


 無職達は床に倒れゼイゼイと荒い息を吐いていた。丸まって完全防御姿勢を取る者。這いずって逃げようとする者。うわ言のように母親を呼んでいる者までいる。


「勝手に人を同志にしないでくださいっ」


 それだけ言って食堂から出ると、なにやら苦笑いをしている若旦那と目が合った。わたしを見捨てたスズちゃんは若旦那の後ろに隠れている。


「容赦ありませんね。もう少し柔らかい言い方もあるでしょうに……」

「あんな人達ばっかりなんですか?」

「なにぶん、無職ですから……」


 余計な時間を喰ったとエイチゴヤ商会へと向かい炭骨の代金を受け取る。大金貨では使いにくかろうと、小金貨8枚と大銀貨20枚に両替してもらった。


 エイチゴヤ商会は思ったより大きな商会だったようで、1階の部分が倉庫と荷降ろし場所になっている3階建ての建物がコの字になって中庭を囲む社屋はとっても立派だ。たくさんの下働きの人達が忙しそうに働いている。

 わたしは欲しいものがあったので、若旦那に売ってもらえないかとお願いしてみた。


「下働きの女が着ているお仕着せですか?」

「ダメにしてしまうことが多いので、安く数を揃えられる服が欲しいんです」


 お仕着せは生産しやすいようデザインされているから安価だし、仕事着なので丈夫な生地が使われてる。いつ金剛力で吹き飛ばしてしまうかわからないわたしは、高級仕立服なんて着ていられない。

 わたしに合うサイズのもので下着まで含めた2セットを大銀貨1枚で譲ってもらい収納の魔法にしまっておく。


 宿を探さなければいけないことを話したら、長期に滞在するなら部屋を借りる方がいいと、スズちゃんが不動産屋さんに案内してくれた。スズちゃん自身はあの立派なエイチゴヤの社屋に自室と研究室を与えられているそうだ。

 いいなぁ……


「ふむ、女性ひとりですか。姫とビッチと行き遅れ、どれがお好みですかな?」


 不動産屋さんだという、うさん臭い風体のヒゲ中年に、なんの意味があるのかわからないチョイスを迫られる。とりあえず姫を選んだら、男ばっかりの汚らしくてムサい下宿に案内された。一生女性に縁のなさそうなサエない無職たちが、建物の陰から目を血走らせてこっちをうかがっている。


「いかがです? ここならどんな女性だってたちまち姫になれますよ?」

「チェンジでっ」


 ちなみに、ビッチなら住人同士で男を奪い合う男女混合の下宿。行き遅れは出会いのない女性限定の下宿だという。乙女のわたしはもちろん行き遅れを選ぶ。


「もうっ、先に言ってくれればいいのに……」

「ユウなら姫もいいかなと思った」


 意地悪なスズちゃんは知っていて黙っていたみたい。この不動産屋さんは性別に条件のある下宿を多く取り扱っていて、女性ひとりでも安心な下宿を紹介してくれるそうな。


「ここなんてどうでしょう? 玄関、台所、トイレ、洗い場は共同。風呂はすぐ近くに銭湯があります」


 そこは「妄粋荘もういきそう」という木造3階建ての下宿だった。玄関は北向きだけど、部屋は全部南向き。建物の南側にはちょっとした庭もあるという。

 玄関で靴を脱いで上がるという人族には珍しい造りをしているのがちょっと気になる。こういった造りの建物を好む種族に心当たりがあるのだ。

 これはあやしい……


「こんにちは、ツチナシさん。大家さんはご在宅ですかな?」

「管理人室にいたはずよ。伝えてくるからちょっと待ってて」


 玄関から上がった正面は住人たちの憩いのスペースになっているようで、住人と思しき10代後半くらいの女の子達がお茶を飲みながらお喋りを楽しんでいた。不動産屋さんがそのうちのひとりに声をかけると、ツチナシさんと呼ばれた16歳くらいに見える乳のない女の子が大家さんを呼びに行ってくれた。


「あっスズさん。そっちのガールはもしかしなくてもニューフェイスですか?」

「とうとうこの下宿もメイド付きになりましたか。さっそくワカナの部屋を掃除するですよ」


 人族なのになぜか一部だけ魔族語に置き換えて話す赤毛ツインテールの子がスズちゃんを見つけて話しかける。自分のことをワカナと名前呼びする青っぽい黒髪をした子は、わたしのことを下宿付きのメイドだと勘違いしたみたいだ。


「こんな安下宿にメイドがつくはずありません。あなたたちと同じ無職です」

「オーゥ。ミーはホムラ。魔法四段よ。ユーのスキルは?」

「ナロシ・ユウです。魔法と魔族語が二段です」


 赤毛の子はホムラというらしい。魔法戦闘が売りの無職だという。


「ワカナは弓術二段で、あと剣に槍に斧に棍に……全部合わせれば十二段ですよ」

「バカナはすぐに目移りするから初段ばっかりよ」

「時代は万能型です。おヨネちゃんは魔法しか取り柄がないですよねっ」

「ファーストネームをコールするなって言ったでしょうがっ」


 どうやら、ホムラが姓でヨネが名前らしく、おヨネさんは自分の名前が気に入ってないご様子。ワカナさんはいろんな職能に手を伸ばしては続かないタイプだそうな。


「あなたたち、管理人さんはお仕事の話をするんですから、静かにできないなら部屋に戻ってなさい」


 ツチナシさんが大家さんを連れて戻ってきた。悪い予感があたったようで、大家さんは金髪イケメンの青年である。

 この世すべての乙女の敵だ……


「乙女の敵ですね……」

「管理人さんは住人の女性に不貞を働いたりはしませんよ」


 そういうことではない。ツチナシさんは彼を信用しているみたいだけど、行いや人柄にかかわらず存在自体が乙女の敵なのだ。


「悪い噂が立って住人に逃げられたら大家として困る。僕だってわかってるさ」


 男性の管理人ということで警戒する気持ちはわかるけど、自分は経営者としての立場を忘れることはないと青年が微笑む。そのうさん臭い笑みで幾人の女性を毒牙にかけてきたのだろう……


「少しふたりで話をさせていただけませんか?」


 開けられっぱなしの管理人室のドアを指差して、わたしは確認しておきたいことがあるとふたりだけの会話を要求する。人に聞かれたくない事情もあるだろうからと、青年が管理人室に入れてくれたところで内側から鍵をかけ、会話が漏れないよう遮音の魔法を展開した。


「ずいぶんと用心なさるのですね。それほど隠しておきたいご事情が?」

「隠しておきたいのはあなたの方ではないですか?」


 隠し事をしているのはそちらの方だと言い当てられた青年が警戒するように目を細める。バレないと自信があったのだろうけど、わたしの目は誤魔化せてもすかう太くんは誤魔化せない。


インキュバス(乙女の敵)が年頃の女性を集めてなにを……いえ、ひとつしかありませんね」


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