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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第3章 暗躍するダンジョンガイド

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第9話 勇者敗れる

 その日、わたしは再びダンジョンの管制室を訪れていた。ゴブリンを苛めることに慣れたチイト君達が、エリアBの試練の間に向かったのが昨日のこと。今日からは【鉄棍鬼】の徘徊するエリアCの探索を始めているはずだ。


 プリエルさんとカナメ師匠がふたりだけで決着をつけてくれるのであれば放っておくのだけれど、チイト君が巻き込まれてはこちらの予定が狂ってしまう。初めて会った時の様子からすると、もめ事に自分から首を突っ込む性格みたいだから遭遇しないよう手を回すことにした。


「ポイントM19にオークを配置してください。同時にターゲットαをボーナスゴーレムでN11方面に誘導を……」


 管制室に映し出されたエリアCのマップを見ながら、ターゲット同士が出遭わないよう管制官に魔物の配置を伝える。ホムラさんの魔法でオスのオークを焼き尽くせば、酷い雄臭が辺りに漂うと言っていたから、臭いが拡散しないダンジョン内では戦いたくないだろう。


 オークで壁を作る一方、魔骨を組み込んだボーンゴーレムを使いターゲットβ――チイト君達――のいる地点とは逆方向に誘い出す。あの3人、今日はきっとホクホク顔で帰ってくるだろうな……


「ターゲットβは強い相手との戦いを望んでいるようですから、妖獣の骨を使ったボーンゴーレムを試練の間への道筋に置いておきましょう」


 勇者にさっさとダンジョンを去ってもらいたい管制官も協力的だ。ポツリポツリと少し強力なゴーレムを小出しにして、チイト君達をどんどん先へと進ませる。監査を終えた夜皇ちゃんは帰国に際して、「面倒な奴には一刻も早くお引き取り願え」という指示を残していったそうな。


 チイト君にはこのままイージーモードのダンジョン探索を楽しんでいただこう。遊んでいられるのは今だけなのだから……






「ギルドにレストランを予約してもらった。勘定は私達が持つ」

「トゥナイトはミー達がユウにリゲェルするで~す」


 チイト君達がエリアCの試練の間を突破したことを確認し借家に戻ったところ、アンズさん達が評判のいいレストランでご馳走してくれるという。スケルトンから魔骨がたくさん見つかって、今日だけで大金貨1枚を超える稼ぎがあったと3人とも上機嫌だ。


「たまたま運が良かっただけなのだから~。大盤振る舞いすることないのよ~」

「ワカナわかったような気がします。明日もバシバシ見つけてやりますよっ」


 いつも同じように稼げるわけではないとプリエルさんが忠告したものの、ワカナさんは魔骨を持ったスケルトンを見分けるコツを掴んだと自信満々だ。もうボーナスゴーレムは出さないから、今日みたいに稼げる日は二度と来ないというのに……


「こんなに稼げることは滅多にない。だから、今日くらいはご馳走させてもらう」


 次の機会はいつ巡ってくるかわからない。アンズさんは今日が特別なのだと理解したうえで、わたし達をもてなすことに決めたという。

 せっかくの心遣いを無下にしては悪いので、遠慮なくご馳走になることにした。


「オーゥ、これはインセクツのレッグですか~?」

「これは海で獲れるカニの一種よ~」


 山育ちのホムラさんは海にはあまり縁がなかったみたい。大きなカニの足を摘み上げて、昆虫の足を食べるのかと怪訝そうな顔をしている。


「サワガニのでっかい奴だと思えばいい」

「こんなハードなクラブはファーストタイムです」

「殻は食べなくていいんですよホムラちゃん」


 サワガニと聞いたホムラさんが殻ごと丸かじりしようとしてワカナさんに止められていた。これはディープクラブという成長するにつれて段々深いところに移動していくカニなのだけど、この足の大きさからすると水深200メートル辺り。海皇さんが縄張りにしている海域近くでないと獲れないはず。

 アンズさんはかなり奮発してくれたみたい。


「失礼するよ」


 モックモックとカニを平らげていたところ、こちらの了解を得ようともしない無礼者が割り込んできた。わたしの幸せな時間を邪魔するバカはどこのどいつだとお皿から視線を上げてみれば、それは白いタキシードのような衣装に着飾ったチイト君だった。

 ヤマタナカという金髪女性と覆面の代わりにヴェールで顔を隠したナナシーという少女を連れている。


「ここの食事客にメイドなんて珍しいと思ったけど、やっぱり君だったか」

「食事の邪魔です。とっとと消えてください」


 勇者であることを隠したいはずなのに、どうして正体を知っているわたしにノコノコ話しかけてくるのかさっぱり理解できない。アンズさん達に勇者ですと紹介して欲しいのだろうか?


「ずいぶんとご挨拶だね」

「あなたに好意的である理由があるとでも?」

.

 わたしに精霊獣をけしかけた記憶はどこかに置いてきてしまったみたいで、まるで友人であるかのように馴れ馴れしく話しかけてくるチイト君。正面から現れるゴーレムを倒していけば、最短ルートで試練の間にたどり着くよう管制官が手配していたとも知らずに、今日一日でエリアC突破余裕でしたと自慢話を始める。


「今日のことはあまり口にしない方がいい。ワタシは何者かの作為を感じる」


 エリアCに入って敵は手強くなったけれど、動きはエリアBよりも単純になっていた。相手が魔物スケルトンだけというのもおかしいと、自慢話を続ける勇者をナナシーちゃんがたしなめる。


「わたくしも同感です。チイト、戦果よりもご自身の成長を今は大事になさってください」


 ダンジョン探索はあくまでも修行の一環で、結果に満足して成長を止めてしまうのは本末転倒というもの。チイト君の潜在能力はこの程度ではないはずだと、ヤマタナカ嬢は忠告しながらもおだて上げていた。

 この女性は口で相手をその気にさせるのが上手そう……


「本題はこれからだよ。君を僕達のパーティーに誘おうと思うんだ」


 明日にもエリアDまで行けるようにしてあげるよと、チイト君は右斜め45度の笑みを決めて見せた。ゴブリン解体でゲェゲェ吐いていた小童が、たった数日で大口を叩くようになったものだと感心する。


「迷惑ですから思わなくていいです」

「どうしてだい? エリアBをチマチマ探索するよりずっと効率的だよ」


 はっきり断ったというのに、君ならエリアDでも通用するとか、僕が護ってあげるなどとチイト君はしつこい。こうしている間にも、アンズさん達4人によって大皿に盛られたカニの山はどんどん低くなっていく。


 ……さすがは勇者になるだけあって鬱陶しいですね。


 自分の生まれた世界を捨てて異世界に召喚されるなんて契約に同意するのは、友人はおろか家族からも相手にされなくて居場所のなかった人であることがほとんど。そうでなければ、異世界で大活躍してチヤホヤされますなんてキャッチセールスに引っかかったりはしない。

 そのため、勇者は人間関係を築くのが下手くそと相場が決まっていた。


 トト君に修行を勧めていた時もそうだったけど、チイト君は他人の事情というものを考慮しないまま自分の提案を最上のものと確信している。本人は親切心から言っているのかもしれないけれど、言われた方にとってはありがた迷惑でしかない。


「君にとっても良い話だろう。断る理由なんてないんじゃないかな」

「チイトは彼女に承諾する理由がないことを理解すべき」


 さすがに見かねたのかナナシーちゃんが止めに入った。精霊獣を打ち倒せるのだから、エリアDを探索できる実力は充分。そんなわたしがエリアBで訓練中の新兵も同然の者達を手ほどきしていたのはどうしてだとチイト君に尋ねる。


「彼女には危険を冒してダンジョンを探索する動機がないということですわ。チイト」


 質問の意図すら掴み切れていないような顔をしていたチイト君に代わって答えたのはヤマタナカ嬢だった。いつまでも食事の手を止めさせては逆に恨みを買ってしまうからと、彼女達のために用意されたテーブルへチイト君を促す。

 横目でチラチラとカニの山を気にしていたことに気付かれていたみたい。


「でも、これは大事な話だから……」

「そう思っているのはチイトだけ。彼女は明らかに食事の方が重要だと考えている」


 ナナシーちゃんにも覚られていたようで、チイト君の腕を取って力尽くで引っ張っていってくれた。お時間を取らせましたと苦笑いを残してヤマタナカ嬢も後に続く。


「プククッ……あんな下手くそなナンパ。ワカナ初めて見ましたよ」

「ユウをピックアップしたければ、デリィシャスなフーズをオファーするべきで~す」


 まったく興味を引けていないにもかかわらず自慢話を続けるなんて、どれだけ自分に酔っているのだとワカナさんは口元を押さえて笑っていた。ダンジョンなんかより美味しい食事で釣るべきだと、ホムラさんが訳知り顔でわたしを食いしん坊認定する。


「ユウのことを知ろうともしなかった。あの男は本気で他人を気にかけてはいない」


 相手の置かれている状況をすべて承知したうえで、「自分に任せておけ」と請け負うタイプではない。他人から頼られることで満足感を得たいだけだとアンズさんも辛辣だ。


 おそらくは正解だろう。何が目的でアオキノシタに来ているのか、わたしにもトト君にもチイト君は尋ねることをしなかった。他人事に口出しするのは問題を解決してあげる親切で有能な自分を演じたいからで、基本的に彼は自分のことにしか興味がないのだと思う。


「もしかすると~、あれがカナメの仲間かしら~?」

「ええ。本人と魔法使いの子は来てないみたいですけど……」


 そっちのふたりは身分を隠しきれていない。そもそも隠す気があるのかどうかも疑わしいくらいだから、平民の多く集まるところには連れて来たくないのだろう。ターゲットを見つけたプリエルさんは、若草色の瞳に殺気を宿らせてチイト君達を睨みつけていた。






 ガーゴイルは倒せないと判断したチイト君達が、エリアDの試練の間から撤退していく。わたしは管制官の女性と一緒に、ダンジョンの管制室からその様子を眺めていた。


「手ごたえがなさ過ぎるのも良くないかと考えたのですが、設定を誤ったようです」


 管制官が申し訳なさそうな顔をしている。あんまり楽勝過ぎると欲を出してエリアEの探索を始めかねないし、苦戦の末に勝利したほうが達成感もあるだろうと、彼女は3体のガーゴイルを用意してくれた。腕と足が2本ずつに翼と尻尾が生えていて、それぞれ鷲、山羊、トカゲを模した頭が付いている。


 勇者に万一のことがあっては困るので、攻撃頻度を減らし回避行動を優先するように設定したのだけれど、これが裏目に出てしまった。まさかの鬼回避でチイト君達の攻撃がまったく当たらないのだ。

 標的を追尾するミサイル魔法すら、華麗なバレルロールで全弾回避する始末である。


「管制官のせいじゃありません。あの程度の動きも捉えられないあの人達が悪いんですよ」


 自由に宙を舞い、急降下から攻撃を仕掛けてくるガーゴイルは、地上戦しか経験のない人にとって戦いにくい相手だとは思う。だけど、チイト君達に問題がなかったわけでもない。


 髪をド・リールにしている女の子の魔法は確かに強力だった。いつぞやホムラさんが使っていた炎の槍を3本まとめて射出するという芸当までやってみせた。だけど、せっかく3本撃てるのに、ガーゴイルの回避するスペースを潰すという考えを彼女は持っていなかった。

 全部、相手めがけて発射するものだから、動いている標的には当たらなくって当然である。


 チイト君は炎を纏った鳥みたいな精霊獣を顕現させていたものの、空中戦をさせられるほどコントロールに習熟していない。まっすぐ突っ込んでいって、躱されたら止まって旋回。再びまっすぐ突撃するだけという、なんともお粗末な操作だった。


 主力選手であるカナメ師匠は斬撃のような衝撃波を飛ばすという魔剣を持っていたけれど、必中の機会を待たずに先制攻撃で放ちガーゴイルに学習されてしまう。カウンターを狙うものの、警戒したガーゴイルが攻撃してこないから見せ場なし。


 ヤマタナカ嬢の魔法とナナシーちゃんの投げナイフだけは面白いようにバシバシ命中していた。悲しいかな、それが攻撃だと認知されなかったみたい。中途半端な牽制なんて、鉱石の塊のようなガーゴイルには無視されて終わる。


 結局、ド・リールちゃんの魔力が枯渇したらしく退散。精霊獣やミサイル魔法で追い込んで、逃げ場を失ったところに炎の槍を叩き込めば撃破することはできたのだから、管制官の設定ミスであるはずがない。


「設定は今のままでいいでしょう。なんといっても勇者様なんですから」


 カナメ師匠やド・リールちゃんがあそこまで役立たずだとは思っていなかった。待ちに徹して置き物と化したり、当たらない魔法を無駄撃ちしてしまうのは、こうやって倒すという勝利の方程式が組み立てられていない証拠である。

 おそらくは人族以外を相手にした経験がなくって、戦術の引き出しが少ないのだと思う。


 チイト君にはここで頭を使った戦い方というものを身に付けていただきたい。多少苦労させたくらいで夜皇ちゃんの命令に反したことにはならないと管制官に納得してもらい、ガーゴイルの設定は据え置きにしてもらった。


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