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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第1章 全裸の魔皇
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第2話 裸道使いの少女

 夜皇ちゃんは魔族の中でも不死アンデッド族と呼ばれる者達を束ねる魔皇で、北の方のさむ~い土地を領土にしている。ここは夜皇ちゃんの国に近いけど領空侵犯はしてないはずなのに……


「あんたみたいな裸族、領域に入られる前に迎撃すんのが当たり前でしょうがっ」

「夜皇ちゃんの国に入る気はないよ。あそこに見える人族の国に行くだけだよ」


 どうやら領空に近づいたからと迎撃しにきた様子。金剛力にはいっさいの攻撃が通じないからやるだけ無駄なのだけど、夜皇ちゃんは軍隊を丸ごと吹き飛ばせそうな攻撃を次々と繰り出してくる。


 わたしの見るところ、夜皇ちゃんは八大魔皇の中でも最弱。身内びいきと言われるかもしれないけど、ビマシッターラのほうが強いんじゃないかと思う。本人も薄々そのことに気が付いているみたいで、何かと自分を大きく見せようと背伸びしたがっていた。

 それはわかるのだけど、わたしに対する妙な敵対心はちょっと理解できない。修裸の国と夜皇ちゃんの国は遠く離れているから、国境を接しているわけでも利害が対立しているわけでもないのに、なぜかわたしを敵視して突っかかってこようとするのだ。


「わたし、夜皇ちゃんを怒らせるようなことしたっけ?」

「あんた、あたしと被ってんのよっ。銀髪乙女の魔皇はあたしひとりで充分だわっ」


 え~……


 夜皇ちゃんはキャラ被りが許せないと激高していた。わたしの髪は紅みがかった銀髪。よっく目を細めて見ると、中心部が血のように紅くてその周りがガラスのように透明な膜で覆われている。そのせいで、紅と銀が混じりあった何とも言えない髪色になっているみたい。

 瞳の色は菫色で、肌は夜皇ちゃんほど真っ白ではなく、やや血色を帯びた薄い肌色をしている。そんなわたしが肌を晒してマッパで戦うというのが、夜皇ちゃんの考える理想の吸血姫のイメージに合致するらしい。


 見た感じの歳も近いので、わたしがいる限り自分はパチモン扱いだと怒っていた。


「あたしはあんたの『色違い』なんかじゃないっ!」

「あっ、危ないよっ」


 あらゆる物質を空間ごと侵食するという混沌の暗き炎(カオスフレイム)を全身に纏った夜皇ちゃんが特攻してくる。夜皇ちゃんの必殺攻撃ともいえる技だけど、それは自殺行為でしかない……


「ぎゃああぁぁぁ――――」

「あ~あ~……」


 金剛力に吹き飛ばされ身体の半分を失った夜皇ちゃんが一万メートル下の地面へと墜落していく。もう夜だし、仮にも魔皇のひとりだから死ぬことはないと思うけど……


 きちんと自分の国を治めている夜皇ちゃんにいなくなられてはこちらが困る。挑発に乗せられ易いという欠点はあるものの、G8――主要8か国魔皇会議――の席上でも、しっかりと自分の考えを持って議論をリードしてくれる魔皇のひとり。

 シャチーにカンペを渡されて、「裸族の読み上げ器」と揶揄されているわたしとは大違いなのだ。


 夜皇ちゃんを失えば不死族達が次の魔皇の座を巡って争い始める。そうなれば、内乱を避けようとゾンビやスケルトンが大量の難民となって周辺諸国に押し寄せるだろう。彼らは安価で勤勉な労働力なので、下手に受け入れれば失業者が溢れ治安は悪化する。かといって、魔族の生産力を底辺で支える彼らを拒絶すれば、品薄と物価上昇は避けられない。


 いずれにせよ、魔族経済に深刻なダメージを負うことは明白。最弱でありながら、決して倒してしまうわけにはいかない魔皇。それが夜皇ちゃんだった。


 わたしの目には、夜皇ちゃんは実力以上の仕事を押し付けられて、責任感から押し潰されそうになっているように見える。力では敵わない他の魔皇を前にして、必死に不死族の魔皇であろうとしている頑張り屋さんだ。

 応援してあげたいのは山々なのだけど、こうも敵視されていてはどうしようもない。






 夜も更けてきたころに、夜皇ちゃんの落っこちていった近くを避けて地上へと降りた。人目がないことを確認し、「収納」の魔法からマッパディアッカ城のお仕着せを取り出して身に着ける。上位の者が衣服を着用しない修裸の国では、国主であろうとも下働き用の服しか手に入らない。


 金剛裸漢も一応は魔力を持っているので、わたしも魔法が使える。もっとも魔法を指導してくれた魔族によると、人族程度の魔力しかなく魔族としてはペーペーだそうだ。金剛力を除けば、わたしは15歳の人族女性とほとんど変わるところがない。

 お仕着せの替えはないので、動物が襲ってきませんようにとお祈りをしながら空から見つけておいた人族の街へと向かった。


 夜を徹して山を下り、朝には道らしきところへ出る。テクテクと歩いていくと、すかう太くんのレーダーが前方に人だかりを捉えた。道を外れて森の中へ入り、こっそり近づいて様子を伺ってみたところ、どうやら旅商人が盗賊に襲われているようなのだけど……


 ――なにあれ……?


 荷馬車を牽いた旅商人はいい。普通だ。問題は盗賊の方。そいつらは皆一様に――


「おのれ裸賊っ。白昼堂々とそのような姿でっ!」


 ――服を着ていなかった。


 裸賊ってなに? 裸の盗賊?

 頭が痛い。わたしは衣服ぶんめいを求めて人族社会に来たはずなのに、人族にまで全裸が流行ってしまったらどこに行けばいいのだろう。


「グハハハ……裸道を極めた修裸に服など不要だ」


 裸賊の親分らしき大男がブラブラさせながら言い放つ。嘘ばっかし。武器も防具も身に着ける意味がないと悟った者だけが修裸と呼ばれる。大斧を手にしている修裸なんているはずがない。

 見たところ、旅商人の方は荷馬車3台で6人。武器を持っていて戦えそうなのはふたりといったところ。裸賊のほうは8人全員が武器を持っている。


「イヒヒヒ……娘がいますぜ親分。そいつも俺たちと同じ裸賊にしてやりましょうよ」


 ……娘? すかう太くんの望遠モードで拡大して見てみると、わたしより幼い。12歳くらいの女の子の姿があった。


「そいつぁいいな。おい、その娘を差し出せば荷は見逃してやってもいいぞ」

「若旦那、スズを置いていってください。スズなら大丈夫です」


 女の子はスズという名前らしい。自分を置いて逃げろと言っている。旅商人はあっさりと彼女を裸賊に引き渡して、自分たちはスタコラサッサと逃げていった。

 ちょっとあんまりじゃないかな……


 このままではあのスズという女の子がかわいそうだ。ひとつ修裸を名乗る不届き者を懲らしめてやろうかと魔法を撃ち出そうとしたところ――


「修裸を騙る不逞の輩っ。このミモリの娘、スズが成敗してやりますっ!」


 ――スズちゃんが脱いだ。


「グアッ! てめえ、裸道をっ?」


 裸になったスズちゃんが裸賊どもを打ち倒していく。相手の武器を捌き一撃を入れていく腕前はなかなかのものだけど、ぶっちゃけ裸道のマネ事でしかないので服を脱ぐ意味はまったくない。修裸であれば相手の武器を捌いたりしないだろう。

 それは、彼女がまだ修裸を名乗る域まで達していないことの証だった。


「ゴフッ……まさか、これ程の裸力を……」


 スズちゃんの一撃を鳩尾に喰らった裸賊の親分が血を吐いて倒れた。


 修裸達は裸力なんて呼んでるけど、実のところは魔力を纏うことによる強化でしかない。魔力を体内に巡らすことで肉体を強化し、纏った魔力により攻撃に魔法を乗せて叩き込む。アレコレ理屈を述べても、結局のところはこれだけだ。

 裸道は元々、わたしの金剛力を魔力でマネできないかとビマシッターラが始めたことだしね。


「まだ残っていましたかっ」


 あ、めっかった……

 あっけに取られて姿を隠すことを忘れていたわたしにスズちゃんが気付いた。裸力で強化した足でまっすぐこっちに向かってくる。


「まってっ。わたしは違うよっ」

「悪党は皆そう言うんですっ」


 うわわっ……

 スズちゃんの一撃を喰らった木が幹の半分近くを抉られて倒れる。まずいっ。


 こんな一撃を受けたら金剛力が発動しかねない。夜皇ちゃんならともかく、人族でしかないスズちゃんが金剛力に触れれば全身バラバラになってあの世行きだ。金剛力を使わずに彼女を取り押さえないと、わたしはスズちゃんを殺してしまう。


「もうっ。危ないからやめなさいっ」

「ぎゃんっ!」


 わき腹への蹴りに電撃で相手をシビレさせる魔法を乗せて打ち込む。

 金剛力を使わないで済ませられないかと、わたしは魔法も裸道も一応は齧っている。下っ端魔族くらいなら相手にできなくもないというレベルで、修裸には鼻で笑われたけど、裸道のマネ事をしているだけのスズちゃんには効いたみたい。


「これは裸力? くっ……殺せっ……」

「簡単にくっころとか言うんじゃありませんっ」


 動けなくなったスズちゃんを担ぎ、脱ぎ捨てられた服を拾って旅商人の後を追う。彼らにはこうなることがわかっていたみたいで、すかう太くんのレーダーが荷馬車を止めて待っている旅商人を補足していた。


「あの……あなたは? スズは無事で?」

「通りすがりのものです。電げ……体がシビレる魔法を打ち込みましたけど、しばらくすれば動けるようになります」


 スズちゃんを渡すとせめてものお詫びに街まで乗っていかないかと誘われたので、情報収集も兼ねて荷馬車に乗せてもらう。わたしは人族の街を知らないし、人族のお金も持っていない。物々交換が出来そうなものをいくらか見繕ってきているけど、相場もどこでお金に替えられるのかもさっぱりだ。


「スズちゃんはまだ修裸の域に達していませんから、服を脱ぐ必要はありませんっ」

「でも、服は軟弱者の身に着けるものだって師匠が……」

「修裸が武器も防具も持たないのは、それが意味をなさないほど身体を鍛え上げているからですっ」


 修裸は武器を持たない。フルパワーで振るえば壊れてしまう武器より、己の拳のほうが強いから。

 修裸は防具を着けない。己の肉体より脆い防具など、動きの妨げにしかならないから。

 武器や防具を凌駕する域にまで肉体を鍛え上げた者だけが歩むことを許される。それが裸道であり、意味もなく服を脱ぐのはただの露出狂でしかない。スズちゃんには正しい裸道をきっちりと教え込んでおく。


 スズちゃんから聞き出したところ、武者修行と称して街に滞在していた裸道の使い手がいたらしく、その人の元で3年ほど修行を積んだのだという。推測だけど、それはシャチーが情報収集のために放っている諜報員のひとりではなかろうか。

 裸道を広めるなんてことをしていたら、修裸だってバレてしまうだろうに……


「でも、裸賊なんてものが出るほど広まってるの?」

「師匠の弟子だった人達の幾人かが道場を構えていたのですが……」


 道場なんてあるんですか……

 なんでも、本格派ぶって山中に修行場を構えていた道場のひとつが山賊化してしまったらしい。道場への登り口に門を構え裸賊の砦とし、ならず者達を集めて不逞を働いているという。


「それで兵を送らないの?」

「裏切りにあって返り討ちにされたそうです」


 正規の兵に加えて臨時雇いの兵を募り討伐に向かったところ、臨時で雇われた兵たちが裏切って裸賊に合流してしまったそうだ。用意した食料や武器防具に加え、馬まで裸賊の手に落ちたとスズちゃんは暗い顔をしている。


「勢力を拡大させているようですね。こんな街の近くまで来たことはなかったのですが……」


 スズちゃんに若旦那と呼ばれていた青年が、この辺りはまだ安全だったのにと零していた。


 ちょっと物騒だけど、わたしには好都合かもしれない。自慢するわけじゃないけど、グータラ国主以外に職歴も職能もないわたしが中央の都市部で定職に就くなんて無理に決まっている。夜皇ちゃんの国に近い辺境を選んだのは、こういった場所なら日銭を稼ぐ仕事があると思ったから。

 わたしにだって薪拾いくらいはできる。と思う……


「ところで、この辺りでは見ないお仕着せですが、なぜこのような場所にひとりで?」


 あ……

 若旦那に尋ねられて気が付いたけど、わたしメイド服着てたんだった。マッパディアッカ城なんて答えても通じないだろうし、通じたら通じたで人族でないことがバレてしまう。

 素性をどうするかなんて、考えてもいなかったよ……


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