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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第2章 永遠のアイドル

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第6話 オールラウンダーの悩み

「プロテクションフォース、エアリアルエビエィション、アンロードッ!」


 わたしのすぐ前方を飛行していたチクミちゃんが防壁と飛行の魔法を解除する。スカイダイビングのように両手足を広げて自由落下を始めたチクミちゃんを背中でキャッチ。チクミちゃんの手がしっかりと肩を掴み、脚がわたしの腰をガッチリとカニ挟みにした。


「ドッキングコンプリートッ。いつでもどうぞっ」

「しっかり掴まっていてください」


 チクミちゃんがガッチリと掴まったことを確認したわたしは、風に乗ってグングン高度を上げていく。ルールが変わったことに気付かない追手達も高度を上げてついてきた。


 人族の飛行の魔法はいわば人間ロケット。常に体が一定の方向に加速され続けていて、その方向を変えることで空中を機動するというもの。一方、わたしは周りの気流を操ることで、鳥や飛行機のように揚力を得て空を飛んでいる。

 このため、スピード調節の幅や空中に静止できるといった違いがでてくるのだけど、わたしの風に乗る魔法には高度を上げても与圧が必要ないという利点があった。


 周囲の気流。すなわち気圧を操っているのだから、やっていることは飛行の魔法より与圧の魔法に近い。最初っから与圧の魔法で空を飛んでいるわたしは、高度障害を気にする必要なんてないのだ。

 わたしが背負っていればチクミちゃんも風に乗る魔法の恩恵を受けられる。


 航続距離でなく高度で相手を振り切るのがプランB。チクミちゃんを抱えて飛ぶことになるから、チクミちゃんの魔力が温存できる分、わたしの魔力は大きく減ってしまう。ペアとしての航続距離が短くなってしまうので最初から使うわけにはいかなかったけど、討伐軍の陣地から充分離れた今なら問題ない。


「よっぽど自信があるみたいです。ふたり残りました」


 高度4千メートルを超えたあたりで、ルールが変わったことに気が付いたのかペアがふたつ引き返していった。高度5千メートルに達した今、ついてきているペアはひとつだけ。おそらくは与圧の魔法を覚えている空中戦が専門の魔法使いだと思う。

 数の有利が無くなったことに気付いていないのか、同数なら勝てると踏んでいるのか追撃を諦める様子はない。


「プランCに移行しましょう。私だってれます」


 アイドル活動をしているとはいえ、チクミちゃんだって槍術三段の使い手。プランBでも振り切れないのなら、わたしが魔力を使い切ってしまう前にプランCを実行したほうがいいと後方の追手を睨む。

 プランCは交戦による追手の排除。チクミちゃんには内緒だけれど、プランDは金剛力の発動である。


「高度を落として山中に隠れますね」


 木々が繁っているところまで高度を落とし、峰を回り込み追手の視界から外れたところで森の中に着地。近くに生えていた木に身を隠して相手の出方をうかがう。隣ではチクミちゃんが厳しい表情で槍を握りしめていた。


 緑がこれでもかと繁るこの時期に、森に潜んだ相手を上空から探し出すのは困難を極める。こちらにはすかう太くんのレーダーがあるから相手を見失うことはない。

 追跡を諦めて帰ってくれるならそれで良し。森の中に降りてくるようなら……


「降りてきました」


 わたし達を炙りだそうと見当違いのところに魔法を撃ち込んでいたふたりは、埒が明かないと思ったのか森の中に降下してきた。こっそり姿を確認してみると、地上に降りたというのに短杖を手にしたまま接近戦用の武器を取り出す様子がない。

 思ったとおり、接近戦には長けていない魔法使いみたい。


「帰ろうぜモブカズ。この谷全域をふたりで捜索なんてやってらんね」

「黙れモブツグ。地上に降りられたくらいで見失いましたなんて報告できるか」


 防壁の魔法は維持したままみたいだから、八つ裂き氷輪では防がれる恐れがある。魔力はできるだけ温存して、隙を突いて接近し一撃で決めてしまいたい。


「私が囮になります」


 相手の周囲をグルリと回り込むように駆けながら、木立の合間をぬってチクミちゃんが火球を放った。相手の防壁に阻まれて派手に炎を散らす。すぐさま火球の飛んできた方向に向けて魔法で反撃されるけど、チクミちゃんはすでに発射地点から移動している。

 弾速が遅く着弾まで時間がかかるという欠点を逆に利用した牽制だ。


「ごへあっ!」


 チクミちゃんの火球に注意が向いた隙に背後から忍び寄り、モブツグ君の背中に裸力を纏った一撃を入れる。相手の防殻を打ち壊すための一撃に防壁の魔法は簡単に貫かれ、打ち込まれた拳に乗せられた雷の魔法がモブツグ君の全身を焼く。


「モブツグッ!」


 モブカズ君が向けてくる短杖から、動かなくなったモブツグ君を盾にして身を隠す。仲間を盾にされて迷いが生じたのかモブカズ君の動きが鈍り、次の瞬間には背後からチクミちゃんの槍に喉を貫かれていた。

 槍術三段の腕前は伊達ではなく、槍先は防具のなかった喉の真ん中を正確に貫いている。首の骨が断ち切られて絶命していることは明らかだ。


「さすがですね。これで生きていられるのはゾンビくらいです」

「ユウさん。ゾンビはとっくに死んでいるからゾンビなんですよ」


 チクミちゃんは槍だけでなくツッコミも鋭かった。






 追手を始末した場所から峰をふたつほど越えたところまで飛行して、そこで魔力の回復を待つことにした。ずいぶんと飛んできたので、完全に回復させるなら半日は休みたい。


 兵隊さんが食べるスナックバーみたいな食事を3日分渡されているので食べてみる。栄養価は高いのだろうけど、実に味気ないしパサパサしていて喉が渇く。口直しにとカキ氷を出したらチクミちゃんも喜んでくれた。

 慌てて食べて頭痛に見舞われたらしく、こめかみを押さえてしかめっ面をしている。


「ユウさんは見たことのない魔法ばかり覚えていますね」

「む、武者修行の旅の途中で便利そうなのを覚えてみました……」

「相当、お金かかったんじゃないんですか?」


 魔導師からオリジナル魔法の呪文書を購入するには大金が必要だったでしょうと、チクミちゃんが興味深そうに尋ねてきた。


 新しい魔法や呪文書を創り出せるのは魔導師ギルドに所属している魔導師だけで、呪文書や魔法具を作製して販売する利権を独占しているらしい。コモン魔法と呼ばれる利用頻度の高い魔法の呪文書は無職ギルドが大口で仕入れているからそこそこの値段に抑えられているけど、魔導師ギルドが販売しているアンコモン魔法や、その魔導師しか作れないオリジナル魔法は目玉が飛び出るような金額を要求されるという。


「え~と、仕事の報酬としていただいたので金額はちょっと……」

「そうでしたか。確かにユウさんなら魔導師とも交渉になりそうですね」


 自分では仕事の対価にオリジナル魔法が欲しいなんて言っても鼻で笑われるだけだとチクミちゃんがしょんぼり顔になる。オリジナル魔法というのはそんなにありがたいものだろうか。

 カキ氷なんて夏の暑い日にしか口にしない、季節限定魔法でしかないのに……


「オリジナル魔法なんて限定された状況でしか使えなくありませんか?」


 無職ギルドが大口で仕入れているのは、コモン魔法の方が活用シーンが多いからではないかと仮説を述べてみる。固定砲台に特化しているホムラさんならともかく、状況を選ばないオールラウンダーなところがチクミちゃんの魅力。条件付きで高い効果を発揮するオリジナル魔法はせっかくの汎用性を失わせてしまうと思う。


「ホムラさんを知っているのですか?」

「ええまぁ……同じ下宿で部屋が隣ですから」


 ホムラさんはどうも魔法を使う人達の間で奇人というか変人というか喋り方がおかしいというか、火力のみの一点豪華主義者として有名なのだそうな。魔法四段にもかかわらず、遠見や飛行はおろか防壁の魔法すら覚えずに火力のみを追究しているのだとか。

 ただ、チクミちゃんはそんなホムラさんが羨ましいという。


「オールラウンダーなんて仲間を信頼できていないだけです。褒められることではありません」


 なんでもできるのは、結局のところソロでも活動できるようにと考えているから。ニート・フォーの皆とはずっと一緒にいたいけど、いつか自分を置いて去ってしまうのではないかという不安を消しきれない。捨てられて傷付くのが怖いから、自分を委ねることを躊躇っている。


 仲間に任せられないから自分でやろうとしているだけ。オールラウンダーなのは仲間を信頼していない証なのだとチクミちゃんは寂しそうに笑う。


 防壁の魔法を覚えないのは、仲間アンズさんが護ってくれると信じているから。

 遠見の魔法を覚えないのは、斥候を任せられる仲間ワカナさんがいるから。

 単独戦闘のことなど考えないのは、いつだって仲間ふたりが一緒だと確信しているから。


 ホムラさんが「火力バカ」なんて揶揄されても平気でいられるのは、それこそが自分の役割だと理解しているからに他ならない。火力のみを追求できるのは、自分はひとりではないという絶対の自信があることの裏返し。自分にはとてもマネできないと呟いたチクミちゃんは、目に涙を溢れさせていた。


「ニート・フォーの中で魔法が使えるのは私だけです。その私がオールラウンダーでいいわけないんです」


 最も強力な攻撃手段を持っているはずの自分が火力を追究できないでいる。仲間を信頼できないから期待される役割も果たせない。そんな自分がオールラウンダーなどと持て囃されるのは責められているようで辛いと、とうとうチクミちゃんは泣き出してしまった。


「ホムラさんはアンコモン魔法まで購入して、火力だけなら六段相当とも言われています。それなのに私は……」


 なんてこと……まさかオールラウンダーが褒め言葉ではなく地雷だったなんて……


 チクミちゃんは言うなればアンズさんの強化版みたいな存在。それはそれでひとつの方向性だと思うのだけど、ニート・フォーには他に魔法使いがいないから、必然的にホムラさんの役割を自分に課してしまっているみたい。

 でも、ニート・フォーのリーダーだというあの黄金色の髪の女性は、チクミちゃんにホムラさんになって欲しいと本気で考えているだろうか。


 軍隊みたいに大勢集めるのであれば役割に特化した兵科も揃えられるけど、無職のパーティーは基本仲良しグループ。それは高望みが過ぎるというもので、むしろメンバーの構成から自分達にできることとできないことを判断するものだと思う。

 軍隊と違って仕事は自由に選べるんだし……


「あのリーダーだという人がそうあって欲しいと求めてきたんですか?」

「言葉には出しませんが……」

「思い込みで自分のスタイルを変えては、かえって軋轢を生んでしまいます」


 ホムラさんと火力比べをするから劣っているように感じられるだけで、比べる相手がアンズさんであれば間違いなくチクミちゃんに軍配が上がる。トマホーク主体で魔法をサポートに使うアンズさんにできて、離れれば魔法、近づけば槍というチクミちゃんにできないことなんてひとつもない。


 今のままでも充分優秀なんだから、汎用性を捨てて火力を求めようというのに、それを言葉にしないなんてことはあり得ない。今のスタイルを変えるにせよ、ひとりで決めてしまわないように言っておく。

 できると思っていたことが、ある日突然できなくなっていたら、あのリーダーの女性が困るだろう。


「方向性の違いに優劣なんてありませんよ。第一、ホムラさんは相手を殲滅する以外、荷物持ちしかできないじゃないですか」


 ここぞとばかりにホムラさんを扱き下ろしておく。ヤマドリを獲りにいって裸賊に囲まれた時は助かったけど、あれ以降ホムラさんの魔法が役に立ったことは一度もない。荷物持ちだけで分け前を持っていくパラサイトになりたいのかと脅せば、チクミちゃんも言葉に詰まっていた。


「すみません。つまらない愚痴を聞かせてしまいまして」

「かまいませんよ。お嬢様の話し相手をするのもメイドの仕事です」


 魔力が回復するまでの間に交代で睡眠をとることにして、チクミちゃんから先に休んでもらう。


 ――仲間を信頼できないか……


 それは、わたしには決して理解することのできない悩みだ。結局のところわたしは、裏切るようなら金剛力で吹き飛ばしてしまえばいいという前提の下で相手を信用している。それは多分、チクミちゃんやホムラさんの考えている「仲間」とは違うナニカだと思う。


 使う機会なんてないから杖術なんて習わない。

 自分だけ飛べても意味がないから飛行の魔法は覚えない。


 ホムラさんが杖術に頼るとしたら、それはアンズさんの倒れた時だ。自分の身を護る術も仲間を置いて逃げるための魔法も必要ないと豪語するのは、そんな時が来たならば自分も終わり。生まれた日は違えども、死すべき時は同じというホムラさんなりの覚悟の現れなのだろう。


 そんな風に考えられるホムラさんが、そんなマネできないと悩むチクミちゃんが、わたしは少し羨ましかった。


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