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最強裸族は脱ぎたくない  作者: 小睦 博
第2章 永遠のアイドル

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第4話 総監府からの依頼

 街を囲んでいる討伐軍に収穫を取り上げられない方法はないものかと、妄粋荘の憩いのスペースでわたし達は頭を悩ませていた。


「魔法に収納できる程度の大きさで高く売れる物を採ってくればいいですよっ」

「そんな物はない」


 ワカナさんのアイデアをアンズさんが一刀両断にぶった切る。


「本当にないんですか? 世界のどこにもないんですか?」

「無論、心当たりはある」


 いきなり全否定を喰らったワカナさんがちゃんと考えてくれたのかと食い下がると、アンズさんはあっさりと前言を翻した。


「じゃあなんで意地悪言うんですかっ?」

「金の採れる場所なんて知らない」


 期待に目を輝かせていたワカナさんが床に崩れ落ちる。確かに金ならワカナさんの言っていた条件に合う。採取してこれればの話だけど。


「アイハブグッドアイデ~ア」

「却下です」

「ユゥゥゥウ。プランすらアスクせずリジェクトとはどういうジャッジですか?」


 ホムラさんが説明すら聞かないとはどういう了見だと迫ってくるけど、修裸の国においてその台詞は約束された失敗フラグと見做されている。どんなに堅実な、鉄板といえる計画でさえ、その台詞を口にした瞬間に失敗という結果が確定し、いかなる過程をたどろうとも未来は定められた結末へと収束する。

 わたしがうっかり口にしてしまったために、大陸の平定が10年は遅れたという呪われた台詞なのだ。


「何を考えたのホムラ?」

「トゥデーイはベリーベリーホット。マーケットでカキゴオリをセールするです」


 今日も暑くなりそうだから、ホムラさんの言うとおり市場でカキ氷屋をやるのもいいかなとは考えていた。だけど、ホムラさんが失敗を確定させてしまった以上、絶対に何かが起こる。


「その計画には致命的な欠点があります」

「ワッツ?」


 あまり言いたくはなかったけれど、計画を頓挫させるためには仕方がない。


「カキ氷屋はわたし独りで充分です」

「ノォォォォォウ……それはないね~」


 利益を独り占めしたいわけではないけれど、カキ氷を作れるのはわたししかいない。3人に呼び込みをしてもらっても、生産量が増えなければ行列が長くなるだけだ。


「浮草除去の仕事を請け負う。これなら収穫を接収されない」

「え~。一日働いても小銀貨6枚にしかなりませんよ」


 アンズさんの提案に、それなら収穫を半分取られる方がマシだとワカナさんが反対する。スッポンを2匹釣ってきて、1匹取り上げられても小銀貨7枚になるのだから、本末転倒と言われればそのとおりだった。


「腕が錆びつかないように、たまには訓練所に行く」

「ミーはホームでゴロゴロしてま~す」


 武器を使う職能のないホムラさんは訓練所でやることなどないと床に寝そべる。冷たくて気持ちいいらしい。


「杖を持ってるんですから、杖術でも習ったらどうです?」

「ノゥニード。昇段審査フィーのウェイストです」


 どうせ使う機会なんてないのだから、昇段審査を受ける費用が無駄になるだけだとホムラさんは取り合ってくれなかった。






 無職ギルドの裏手にある訓練所を訪れてみると、拳術の訓練室からズドンズドンと重い音が響いてくる。こんな音を立てる人がいるのかと覗いてみたところ、一心不乱に布団を巻きつけた丸太を攻撃するスズちゃんの姿があった。


 服を着ているのは感心だけど、どうしてエイチゴヤのお仕着せなんだろう。同じお仕着せを着ているわたしが言うのも何だけど……


「ふんぬぅ!」


 鬼気迫る勢いで拳を振るうスズちゃん。なにかあったのだろうか?


「スズちゃんどうかしたの?」

「ユウですか。スズは必ず裸力開放を身に付けてみせます」


 なん……ですって……


 わたしのでっち上げた裸道の奥義をすっかり本気にしてしまったスズちゃんは、裸力ゲージを溜めるためにお仕着せを着て訓練しているのだという。


 どうしよう……どうすればいい……


 今さらただの出任せでしたなんて言えない。お仕着せで訓練したところで裸力開放なんてできるわけないのだけど、完全に信じ切っているスズちゃんは瞳を輝かせながら裸道の奥義へ至るのだと丸太への攻撃を再開する。


「裸力ゲージが溜まるには時間が必要ですから、焦って無理しても良いことはありません」


 スズちゃんを止める上手い言い訳が思いつかなかったわたしは、とりあえず問題を先送りすることにした。


 裸身館ではなく訓練場で修行しているのかと尋ねたところ、スズちゃんは裸身館の門下生でもなければ月謝も払っていない。会いに行けば御棒様は相手をしてくれるけど、甘えすぎるのは良くないそうだ。


「それに裸力開放を身に付けるのはスズが先です。棒様に知られたくありません」


 どうやらスズちゃんは裸力開放で御棒様を倒してビックリさせたいみたい。それまでは秘密にして欲しいと頼まれてしまったので承諾する。わたしにも出任せを広めるつもりなんてこれっぽっちもない。


「ユウ。よければスズの相手をしてください」

「それじゃあ少し、裸力の使い方を見せますね」


 裸力開放は無理だとしても、スズちゃんの裸道はまだまだ甘い。伸ばせる余地はいっくらでも残っているから、それを教えてあげればいいだろう。


 裸道における裸力の使い方は主にみっつ。

 ひとつ目は体内を巡らすことによる身体力の強化。

 ふたつ目は体の表面に纏うことによる防殻の形成。

 みっつ目は打撃に魔法を乗せることによる魔法効果の付与。


 この内、みっつ目の魔法効果の付与に関しては人族と魔族で魔法の覚え方が異なるのでわたしには教えてあげられない。わたしは自分の使える魔法を打撃に乗せているのだけど、スズちゃんは魔法を覚えていないし、裸賊を打倒した時も身体力強化と防殻しか使っていなかった。


 教えてあげるのは防殻の使い方。スズちゃんの防殻は鎧と同じで硬いだけ。だけど、わたしの防殻は体の周りをグルグルと気流のように流れている。攻撃に耐えるだけでなく逸らすこともできるし、慣れれば受け流す方向だって思いのままだ。


 自分の防殻をぶつけて相手の防殻を叩き壊し、そこに魔法を乗せた打撃を打ち込むのが修裸の戦い方。動かない防殻は連撃を加えられると修復が間に合わないという欠点があるけど、この流れる防殻に連撃は意味をなさない。

 上位の修裸なら使えて当たり前だけど、結構高等テクニックだったりする。


「ヌルヌルする? なんですかこれはっ?」


 流れる防殻で攻撃を受け流してみせると、見るのは初めてだったのかスズちゃんが驚いたような声を上げた。でも、ヌルヌルって表現は勘弁して欲しいな。


「流動防殻を見るのは初めてですか?」

「こんな技、師匠も使っていませんでしたよっ」


 厚みにムラが出来ないように全身の防殻を流し続けるのは案外難しいから、シャチーの諜報員はまだ使えなかったみたい。わたしも今のレベルで使いこなせるようになるまでには10年かかっている。


「いきなり全部こなすのは難しいですから、一歩ずつ行きましょう」


 レッスン1は、防御に使われることの多い手を覆っている防殻を回転させること。手に帽子を被せてクルクル回転させるイメージだとスズちゃんに伝えてやらせてみる。


「ぐぬぬ……」

「最初から上手くいきっこありません。ゆっくりでも動かせるようになれば、後は慣れですよ」


 いきなり両手でやろうとするので、まずは片手ずつ。これはそんなに難しくないので、コツさえつかんでしまえば上達は早いはず。


「攻撃にも転用できます。見ててください」


 拳周りの防殻を高速で回転させて、スズちゃんが的にしていた丸太にドリルパンチを叩き込むと、クッション代わりの布団はビリビリに引き裂かれ、剥き出しになった丸太に拳がめり込んだ。

 スズちゃんは丸太に残された螺旋状の傷跡を感心したように見つめている。これはひょっとすると使えるかも。


 流動防殻に夢中にさせてしまえば、スズちゃんはきっと裸力開放のことを忘れてくれるに違いない。ありもしない奥義を追い求めるより、既にある技術を学ばせた方がいいに決まっている。

 クックック……アイハブグッドアイデーア……


「このヌルヌルがあれば棒様を倒せるかもしれませんっ」


 必ず会得してみせると、天に誓うようにスズちゃんは拳を振り上げていた。その意気込みはいいけど、女の子がヌルヌルで棒を倒すとか口にしちゃダメだよ……






 裸賊討伐軍が門前で通せんぼを始めて五日目。とうとう、スズキムラの都市総監と討伐軍は決定的に決裂した。


 スズキムラの街は東西に伸びる街道の中間にあり、東は領都ヤマモトハシへ、西はまた別の領へと続いている。その日、裸賊を警戒してか護衛をたくさん引き連れた隊商が西からやってきたのだけど、その隊商の護衛は通せんぼしている討伐軍を裸賊の仲間と勘違いしたらしく、実力で排除して押し通ってきた。

 街を包囲しているのが領主の軍だなんて想定の範囲外だったそうだ。普通はそうだよね……


 討伐軍は部隊を攻撃した下手人を引き渡せと都市総監に要求したのだけど拒否され、武装した兵士を街の中に送り込んで相手を捕らえようとしたらしい。都市総監は東、西、南門を閉ざす命令を下し、退路を遮断され街中に取り残された兵達は怒り狂った住民になぶり殺しにされたという。


 北門から街の外に出られるものの、スズキムラの街は半籠城状態に陥った。よりによって、自領の軍に包囲されて……


「それで、なんでわたしなんかにお呼びがかかったんですか?」

「君は隠れている者の位置を捉えることができて空も飛べると聞いている」


 どうやら隊商の護衛を仕切っていた人がペラペラとわたしのことを喋ったらしい。わたしは無職ギルドのお偉いさんに連れられて、旧市街の中心。都市総監のいる総監府を訪れていた。


 わたしを連れてきた50歳くらいのオジサンによれば、総監府より空を飛べる魔法使いをリストアップしてくれと依頼があり、リストを提出したらその中から幾人かが指名されたという。それ以上のことはこのオジサンも知らないそうな。


「揃ったか、それでは任務の内容を説明する」


 案内された立派な部屋には、いかにもお金がかかってそうな豪華な服を着たメガネのオジサンと上品だけど華美ではない服を着た頭の薄いオジサン。それに、バラバラな装備を身に付けている無職っぽい人が3人ほどいた。ひとりはチクミちゃんだ。

 わたしが部屋に入ると、メガネのオジサンが唐突に任務とか言い出した。なにそれ?


「あの……任務とか聞いてないんですけど……」

「総監府に呼ばれた時点で察したまえ」

「拒否権とかは?」

「君は今の状況を理解していないのかね?」


 なんか人を小バカにしたような口振りで回答になってない答えを返してくるメガネ。


「わたしが総監府で任務を与えられるという今の状況は確かに理解できません」

「口のきき方には気を付けた――」

「私から説明しよう」


 後ろに控えていた頭の薄いオジサンが、なにやら脅し文句のひとつも口にしそうだったメガネの発言を遮った。副官の人かと思っていたら、上司の人だったみたい。


「警務監のウスイだ。君達に仕事を依頼したい。充分な報酬は支払うつもりだが、危険もあるので断ってくれてもかまわない。ただし、情報の漏えいを防ぐためしばらくの間は総監府に滞在してもらう」


 断ってもいいけど、監視付きで総監府に軟禁だという。仕事の依頼ならそう言えばいいのに、なんで任務とか言い出すんだろうねあのメガネ。


 依頼の内容はヤマモトハシの領主のところまで、スズキムラの窮状を訴える書状を届けるというものだった。ふたりをひと組として、警邏隊からひと組。商人ギルドからひと組、無職ギルドからふた組。すべて飛行可能な魔法使いだそうだ。

 その他に北門から出て馬で包囲を迂回する組がひとつある。こちらは空を飛べない警邏隊員だという。


「今夜、出発してもらいたい。討伐軍による妨害は覚悟してくれ」


 討伐軍は東門、南門、西門に部隊を集中させているから、包囲の薄いところを夜の内に飛び越えて行けということらしい。ただ、討伐軍にも腕の立つ魔法使いはいるだろうから、捕捉されて追われる可能性が高い。追撃を分散させるために5組を一斉に放つそうな。


「あの……離れた場所と会話をする魔法具とかないんですか?」

「それは国家機密で、王都と会話するために貸し出されたものが領都にあるだけだ」


 この街に使える物はないと、わたしの質問に警務監さんが答えてくれた。


「わかりました。私でよろしければお引き受けいたします」


 チクミちゃんはこの仕事を引き受けるみたい。わたしはしばらく軟禁生活かなぁ……


「僕もやります。チクミさんには傷ひとつ付けさせません」

「まて、俺もやるぞ。お前はあっちのメイドと組んでいろ」


 どうやら残りのふたりはチクミファンだったようで、チクミちゃんとペアを組むのは自分だと言い争っている。


「僕の方が先だった。君にはそっちのメイドメガネをくれてやる」

「ざっけんな。どうして俺がメイドなんかとペアにされなきゃいけないんだっ」

「あのっ。ふたりとも、警務監さんの前ですよっ」


 いつしかふたりは、エイチゴヤのお仕着せを着ているわたしの押し付け合いを始めていた。偉い人の前だとチクミちゃんが止めるのも効果がない。

 こいつら……人をババ抜きのババみたいに……


「わたしも引き受けましょう。チクミさんとはわたしがペアを組みます」


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