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5 入学式の噂話(3)

 ──結局はあのふたりで話がまとまって片が付く。

 一応同じ副会長の立場なのだが、清坂は羽飛の話を優先して聞く。

 ひがんでいるわけではないが、こういう時こそもうひとりの副会長の意見を聞くべきではないのか。

 最初はそう思ったし何度も意見したりもした。自己主張もしたつもりだが、実際このふたりが決めたことにほとんど間違いはない。この半年近くいろいろドラマが起きているけれども、問題が生じたのはたいてい清坂ひとりでつっぱしったことのみ、羽飛がうまく舵を取っていれば任せていても実はさほど問題ない。乙彦としては、羽飛の様子を窺いつつ、言いたいことがあればそちらから通すのが一番楽だ。


「どうもどうも、あ、関崎いるんだねえ」

「あれ、名倉くんはいないの?」

 にぎやかに生徒会女子ふたりが現れた。泉州と阿木だ。

「悪いが名倉は先に帰った」

 まずは断りを入れておく。露骨に阿木のふくれっ面が拝めるわけだが、文句は名倉に言ってほしいものだ。

「あーあ、もうB組遠すぎる! なんでD組なわけ?」

阿木がD組ということは、泉州はどこだろう。

「私は会長と一緒。どうもねえ、なんでかねえ。なぜにうちのクラスはねえ、音楽担当が担任なんだろうねえ」

「ごめん、そうだったよね。私も頭ぼーっとしててすっかり忘れてた。泉州さん、なんかあったらよろしくね」

 清坂と泉州とは生徒会役員としてのつながりのみで、個人的におしゃべりしたりお茶を飲んだりということはないようだ。ビジネスライクな関係なのだろう。一方で泉州は阿木と特につるむことが多い。

「で、ちょっと噂聞いたんだけど」

 ティーパックを自分と泉州の分だけマグカップに入れてお湯を注ぐ阿木。

「情報つかむの早いねえ阿木ちゃんは」

「会長なら知ってるかもしれないけど、A組の古川さんが家出したってこと、聞いてる?」

 生徒会室内の阿木を除く全員が目を丸くした。


 ──家出か? 厳密に言えば確かにそうと言えなくもないが。

 条件反射で飛び出しそうになるのを抑える。

 清坂は顔色変えずに、

「ふうん、こずえが家出って噂が流れてるんだ」

 それだけ返した。驚く様子はない。むしろ清坂の隣にいる羽飛のほうが、

「まっさかだろが。あの下ネタ女王がだぞ、家出してしくしく泣いているような玉かよ。あいつを倒すのは体調不良以外なにがあるってんだ」

 少々慌て気味に言い返した。やはり気づいていることがあるのだろう。

「えーそんなの知らないよ。この前の交流お茶会であれだけ言いたい放題してきたあの人がだよ? 家出するほどひ弱じゃないよねえ」

「私もそう思うけど、たまたま昨日の夜、駅前のホテルに入っていく姿を見かけたんだよね。ふつうのビジネスホテル」

「ホテル?」

 阿木の口に出すキーワードは危険なものが多い。ひっかかってくるのは泉州と羽飛のみ。清坂は黙って話を聞くのみ。

「私が見たわけじゃないよ。けどうちの学校、汽車通多いでしょが。それでたまたま近くのスーパーで出来合いのお弁当買ってホテルに向かう古川さんの姿を見かけたんだって。関崎くん、確か古川さんしばらく休んでるよね」

「風邪とは聞いているが」

 言葉少なに留める。

「そんな人がなんでホテル入るのよねえ。でも家出したんだったら学校側の対応もわかるよね。あの人昔からいろいろ噂あったし」

「阿木さん、直接見てないことをあげつらうのはやめたほうがいいと思う」

 やはりいい子の発言にならざるを得ないのか清坂は、冷静に制した。すぐに阿木も引くと思いきや、

「私、噂を伝えただけなんだけど。明日の不穏分子とやらの対応も、私たちが動いたきっかけは羽飛くんが聞いた噂でしょ。嘘かもしれないけど、全く火のないところに煙は立たないよ。情報として受け取っとくことをお勧めしたいな」

 思い切り皮肉で返した。

「噂がある、ということは把握したけど、家出という発想は跳躍しすぎてると思うけどね。確かに阿木さんの言うのも間違ってないけど、もしこずえが家出でなくて本当に病気だったら、戻ってきた時噂を聞いてショック受けるんじゃない? それ、どうかなって思うんだけど」

 清坂も見事に打ち返した。確かに阿木の言葉は「噂」と「憶測」が切り分けされていない。あまり古川に対してよい感情を持っていない阿木のフィルターは用心すべきだ。

「まあでも、古川さん、マンションに住んでるんでしょう? 誰か親戚か誰か泊まりに来てて、その人が風邪で寝込んでて、古川さんがしかたないから看病に行ったところを見られたとか、そういうことも考えられるよね。家出じゃないでしょ。阿木ちゃん」

 中間をとって泉州が取り持つ。

「いろいろ可能性があるかもしれないけど、そういう噂があるってことは、生徒会役員としては報告すべきかと思いました! じゃあ、お先に!」

「あれ、阿木ちゃん、まだ紅茶残ってるよ!」

 泉州が追いかけようとする。まだマグカップにティーパックが入ったままだ。気づいてすぐに口をつける阿木がいる。結局、帰ると脅しただけなのだろう。


 阿木にこれ以上かかわらず、清坂はノートを広げ、次いで会計の書類を机に広げじっくりと眺めていた。名倉がしっかり作り上げた帳簿だ。さらに去年の生徒会執行部が書き残していったらしい書類もめくり始めた。隣でちらちらと羽飛が見やっている。何も話しかけなかった。


 ──古川はホテルにかくまわれているのか。菱本先生や麻生先生がどういう手を打ったかはわからないが、とりあえず雨水しのげる場所にはいるんだ、いいじゃないか。

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