1 境目の春期講習(19)
藤沖の意志は確認した。乙彦もほぼ同意見である。
──古川をこのまま退学させる訳にはいかない。
クラスうんぬんの問題ではなく、クラスメートとしては当然のことだ。
「お前の言うことは正しい。これからどうするかを考えないといけないが、麻生先生はその事知っているのか」
「もちろん相談しているが、なにせ急に決まったことだ。右往左往しているといったほうが正しい。いや、一番冷静なのが古川本人じゃないのか。こういう連絡を前もって俺にしてくること自体がな」
「確かに言えている」
「とにかく今は講習どころの問題ではないので、とにかく引っ越しが優先だ。本当であれば男手が必要だろうと思うんだが、こういう事情だと手助けもできない。しばらくは女子にももれないようにしなくてはならない。いろいろと大変だ」
「そうすると、新学期はどうする予定なんだろう」
藤沖の話からすると、このまま退学するのかそれとも新学期が始まってからとりあえず顔を出すのか、可能性としては半々のようだった。家賃の安いアパートなりに引っ越して家賃を節約し、場合によっては、
「アルバイトという手もあるか」
「大先輩、それはいい」
茶化すように藤沖が答える。
「うちの学校はきちんと事情を伝えて申請すればアルバイトの許可は下りるはずだ」
「古川もたぶんそのあたりは考えているはずだ。自分だけじゃない、家族を抱えているからな。どちらにしても、経済的にはきつくなるはずだから、学校側や俺達からもなんらかの救済策は必要だろう。俺もそのことは伝えた」
「寄付とかか? 協力はする」
「いやだめた。プライドが許さないだろう、人もして」
もっともなことを藤沖は呟き、首を振った。
「どちらにせよ、状況に動きが出たら春休み中に連絡するので、それまでは風邪ということにしておいてほしいんだそうだ。どこかの誰かと違って警察沙汰ではないから、下手に動きさえしなければ漏れることはないだろう。俺もこのことを話したのは関崎だけだ」
「俺も他の連中に話すつもりはない。新情報を待つ」
「ああそれとだ」
藤沖は乙彦の肩に手をおいて意味有りげに囁いた。
「お前ともできれば差しで話をしたいことがあるんだそうだ。俺にはクラス内をまとめるための相談だが、関崎には生徒会絡みの頼みが色々あるらしい。それでだ。なぜ俺と関崎にだけ頼もうとするのか疑問だったので聞いてみた」
「なんと?」
「お前が一番頼りにしている羽飛には何も言わないのかと言うことだ」
はっとする。今までその名前が出てこなかったのが不思議だ。
「古川曰く、めんどくさい付き合いしなくてはならない相手に話すよりも、そういう感情とっぱらって喋ることのできる奴がこういう場合一番ふさわしいらしい。けっこう込み入った話になるだろうから、徹夜して語り尽くしてもかまわない、いや、うっかり一夜をともにしてしまいそうな相手はまずい。俺たちは人畜無害ということで下ネタ女王様のおめがねに叶ったというわけだ」
思わず笑った。古川こずえは全くぶれていない。
「ならば、古川からの連絡を待てばいいということだな」
「そういうことになる、まあ待ってろ」
藤沖は立ち上がり、時計を覗き込み、
「まずい、応援団の団長が練習遅れてどうするんだ」
自分で自分を叱りつけ、そのままたった走り出していった。




