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1 境目の春期講習(18)

 月謝が払えない以上退学せざるを得ない。もっともだが、

「学校側で救済措置はないのか。奨学金は取っていないようだが中学から面倒見てきた生徒をそうかんたんに振り捨てたりするか?」

「場合による、としか言いようがない。もしも学校にメリットがあるのなら全力で保護するだろうし、デメリットが大きければ見捨てる。最近だと、立村の相手のようなこともあるな。関崎もいろいろいろ悩まされただろうがな」

 思わせぶりににやりと笑う。もちろん無視だ。

「今回の場合だと、古川は可愛そうだが学校側にデメリットしかないだろうし、このまま退学にならざるを得ないだろうな。お互いにとってもそれのほうが楽だろう。幸い今は春休みだ。風が長引いているとか言ってごまかして、そのあと風と共に去りぬ、と考えているようだ」

「風共にか。となると送別会を開く余裕もない。どこかであったな、このパターンは」

「宇津木野のときがそうだった。よく覚えている」

 あまり覚えていたくない記憶でもある。

「古川自身はそれでもいいと考えているようだ。弟がいるからな。そっちのケアで大変らしい。自分はともかく、家族を守らねばならないと一家の大黒柱のようなことを口走っているぞあいつ」

「らしいな」


 あっさり流して答えては見たものの、あまりにも重たい内容にため息しか出てこない。

 古川の家庭事情については以前からちらちら噂を聞いていたので、それなりに心構えは出来ていた。同年代にしては気配り良すぎるその性格や、こまやかな観察力、分析力は乙彦も日々驚かされていた。女子同士の面倒なやり取りも古川が間を持つことによって丸く収まると聞いたこともある。過激な下ネタもよくよく聞けばさらりと流せるギリギリのところで留めている。乙彦が思っている以上に古川は賢い。


「もっとも本人は出来る限り学業を続けたいんだそうだ。もちろん高校卒業して大学に行きたいとも言っている。安い家賃のところに引っ越したあとでつらっとこいて教室に顔を出したいとは話している」

「それはそうだ。このままだと高校中退になる」

「もちろん公立に転校という手もある。どちらにせよしぱらくは運命のいたずらに逆らってみるそうだ」

 藤沖は一言一言選ぶようにして語り、

「だが、とも話している」

 また乙彦を見た。

「そううまくはいかないだろうと覚悟もしているらしい」

「親の問題か」

「いや、違う」

 腕組みをして首をひねる。

「古川が言うには、もしこのまま事が進んだ場合、学校サイドが問題なしとして受け入れてくれたとしても、生徒たちがどうだろうと懸念している。授業料は家賃を減らして何とかなるかもしれないが、そうなってしまった原因を、純真無垢なクラスメートたちが受け入れられるのかと言うことだ。古川流に言うと処女童貞の集まりである青大附属の連中がはたして金のために身を売るなんていう母親の娘を受け入れるか、ってとこが読み切れないんだそうだ」


 ──確かにそうだ。古川の視点は正しい。

「藤沖はどう思う?」

 問いかけてみた。即答された。

「受け入れるに決まっている。関崎、古川のあの類まれななキャラクターによってどれだけクラスが救われてきたかよく考えてみろ。いまでまでも曲がりなりにクラスが平和だったのはこういったらなんだが古川ひとりの功績と言って過言ではない。もしあいつが次の評議に上がってこなかったとしたら、絶対にクラスは紛糾する。その他見えないところでのほころびが出て、おそらくだが学校内がめちゃくちゃになる。そういう存在だ。なんとしても守らねばならない」

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