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1 境目の春期講習(17)

 確かに青潟大学附属の世界は治外法権としか思えないことも多い。更科の事情はもちろんだが、難波および藤沖が懸想していた霧島の姉についてもそうだ。また片岡の婚約者らしい女子についても。外部生の乙彦にとって見えないものはまだまだ溢れかえっている。

 藤沖は続けた。

「古川の説明をそのまま話すとだ。あいつの母親は、いわゆる妾なんたそうだ。妾の意味はわかるか、関崎」

「おおよそは」

 愛人とイコールと考えていいのだろうか。

「中学時代はよく、一流のキャバレーでトップのホステスだと話していたが、ごめん、あれは嘘なんだそうだ」

 古川の口ぶりをところどころ混ぜる。

「あいつの母親がしてきたことを振り返ると、本当にがんばってホステスやっているお姉さんたちに失礼だから、それだけは言っとくと話していた。ここらへんは過剰なくらい現役の夜の蝶をかばって説明してくれた。尊敬の念を持たざるを得ないくらいにな」

「職業に貴賤はない」

「否定はしないがこの学校内ではそう考えていない奴がほとんどだ。ど古川に弟がいることは知っているか?」

「聞いている」

 立村にそっくりらしいとも耳にしている。手間がかかるのだろう。

「あいつとは父親が違うらしい。そんなことは他の家庭でもいくらでもあることだろうと話したんだが、どうもあいつの母親は、ある程度父親に当たる人から金を巻き上げたあとするっとトンズラするんだそうだ。だいたい十年周期と話していたな」

「十年、周期? 意味がわからん」

「古川の母親は旦那に当たる男に十年仕えて、用がなくなればまた新しい旦那に乗り換えてという流れできているらしい。で、高校入学した際に、古川一家はマンションに引っ越した。噂によるとかなり高いところらしい」

 よく立村が古川の家でピアノの練習をさせてもらっていたと聞いていた。ピアノを置くことのできる家なのだから相当なものなのだろう。

「このあたりの事情は正直俺も全くわからない。ただ、中学時代は問題なく過ごしてこれたらしい。頭の回転は悪くなかったからうちの学校にもこれたというわけだ」

「確かに」

「ところが、最近になり母親の使えているいわゆる旦那になる奴が、何かやばいことをやらかして、妾を囲ってられなくなった。要は金だ。高い家賃を払ってやれなくなったというわけだ。ついでにいうなら」

 藤沖は言葉を切り、乙彦を見た。

「うちの学校の月謝も払えなくなった、それが自然な流れだ」


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