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16 新・学外交流サークル構想(5)

学外交流サークルについて一段落したところで、いったん休憩に入った。

名倉に、1Fの男子トイレまで付き合うように言われたので、言われる通りに降りた。職員玄関どまんまえの客用トイレに連れてこられた。

「まず片付けてからにしよう」

当然のことを済ませた後、名倉はぐるっと周りを見渡した。

「ここは意外と穴場だ。人がいない。声が漏れない」

「よく見つけたな」

「生徒たちが素直に使わないだけだ。客用トイレだからといって生徒が利用してはいけない理由などない。客といっても保護者だろう。今日は幸いいなかった」

言われてみるとその通りだ。だが、生徒はあまりいていいとも思えない。

「とりあえず品山詣のご利益について聞かせろ」

「承知した」

 一応は学内で、無難な内容を話しておいた。

「といっても大したことではない。学内サークルの件はさっき生徒会室で話した内容そのままだ。あと聞いたことは立村の評議委員会長時代のさまざまな伝説、および、殺伐とした人間関係が絡んだ問題とかだ。だがすでに片付いたことばかりなので、お前たちが動くことでもなさそうだ」

”A組事変”にはかかわらせたくない。

「伝説がやはり多かったのか」

「本人は恥だと思っているようだが、俺からしたらすごいことばかりしている。さっきのサークルもそうだが、青大附中大政奉還という、一部の委員会に権力が集中していたものを生徒会に返して学内外の活性化を果たしている件、あとはまあ2Aの問題なので、こうやって考えるとお前に話すべきことは意外と少ない」

「学校内の刃傷沙汰についての情報はなかったか」

やはり”A組事変”か。しかしこれは片岡や他の連中も関わっているし、そもそも解決している。

「ないわけではないんだが、すでに解決している。正直ややこしすぎてわけがわからない話しであればある」

「カラオケボックスで話すべきだな。わかった。静内交えよう」

あまり時間をかけていると、あり得ない誤解を招く恐れがあるのでいったん生徒会室に戻った。


「遅かったね、何処までいってたの」

やはりからかう声、阿木の声だ。無視をするのはいつものことだった。

「すまん。下まで行っていた」

それだけ伝えると、羽飛がにやにやしながら割って入る。

「まあまあ阿木も大目に見てやってくれ。男子にはよんどころない事情ってのがあるんだ」

「ふうん、じゃ、早く始めようよ、名倉くんもね」

結局阿木は名倉にほの字なのだ.。しょうがない。

清坂も椅子に腰掛け直し、改めて仕切り直した。

「じゃあ、一番おっきな問題にいくね。その、応援団のことなんだけどいいかな」

みな無言で頷いた。交流サークルだけでは片付かない大問題だ。


「今の交流サークル設立で、それぞれの人たちの”誇り”は守られそうなんだけど、問題は応援団を退団した生徒たちが納得しないよねってこと」

清坂は切り出した。

「応援団を退団した生徒は、一年生って聞いてる。その人は応援したくて入ったんだけど、なんか上下関係が厳しくなりそうですぐやめて別の部活に入ったそうなの。信頼できる先輩はいたんだけどみな口々に、ここは逃げたほうがいいって説明をされて、なんでかっていうと嘘をつかなくちゃいけないからって言われたらしいの」

「嘘とは、藤沖の命令ということか」

念の為確認する。

「そういうことになっちゃう。つまり、藤沖団長の言う事は絶対、逆らっちゃいけない。けど青大附属ってそもそも上下関係ゆるいじゃなあい? 委員会によってはあにおとうとみたいな、まあ例で出すと本条先輩と立村くん。外部のみんなにはわからないかもしれないので説明するね」

名倉のために説明してくれる。これは聞いたほうが良い。乙彦は嫌と言うほど理解しているが黙る。

「青大附中の委員会って、上下関係というよりも義兄弟というのかな、お兄さんと弟みたいな関係を作ることが多かったの。最近は変わったけど、評議委員会の場合だと、上の先輩が早いうちに気に入った後輩を弟分にして、いろいろ教えてあげたりするの。そして、先輩にあたる人がもし委員長だったら、その弟分にあたる生徒を中学二年春の段階で、次期評議委員長として指名し、それなりにいろんなこと教えるの。いっぱいあるよ。先生たちにどう対応したらいいのかとか、書類をどうやってかけば良いのかとか、それこそ口に出せないこともいっぱいあるみたい。それを一年間一生懸命覚えて、中学三年の春、めでたく正式な評議委員長に指名されるってわけ。当然だけどお兄さんと弟だから、普通に年上の人の言う事は聞くよ。お説教もされるだろうし、場合によっては怒られるだろうし。でも、それはあくまでも普通のあにおとうとであって、もしお兄さんが間違ったことをしていた時、絶対に言う事聞かなくちゃいけないわけじゃないの。言い返したって良いの。もちろん喧嘩になっちゃかもしれないけど、信頼関係があればすぐ修復されるし、されなければあにおとうとでなくなっちゃうこともある」

━━どこかで静内と話した内容とだぶっているな。デジャブーか。

「でも、応援団の上下関係はちょっと違うみたいなんだ。もし団長が間違っていることがあっても、絶対口答えしちゃいけない。たとえ間違ったことがあっても、それは違いますって言っちゃだめ。どんなにこれ嘘だとわかってても、黒を白と言いくるめられる。そういう環境なんだって」

清坂の言葉にまたみな同意する。もう共有事項なのだろう。

「さらに、重要なこと。応援団のルールとして、退団する時には運動部に入っちゃ本当は行けない。ここ強調するけど”本当は”だからね。退団した人は応援団からすると裏切り者であり、裏切った人を応援団が応援するっておかしいじゃない?って理屈なの」

「そんな意味不明なルールがあるのか!」

怒りの難波発言も無視する。新しい情報だ。乙彦も流石にそれはないと言いたい。

「今回話をしてくれたのは、応援団をやめて、バスケ部に入った人。だからルール違反になるし締められる。それが怖くて、まず先生に、それで埒あかないから生徒会に、って二段構えで相談してきたの」


思わず羽飛の顔をまじまじと見る。元バスケ部、羽飛が、黙って聞けとばかりに清坂へ目線を送る。


「そこで確認したのは、なんでやめたのか。と、応援団ってどんなとこなのか、と、ルール違反した場合なにされるかってこと。なんでやめたかについてはさっき渋谷さんの話がでたから飛ばすね。また応援団についても今ざっくり説明したから、もうひとつのルール違反した場合どうなっちゃうかってこと」

━━まさか、鉄拳制裁か。

乙彦が水鳥中学時代に経験した、上級生からの嫌がらせが頭に浮かぶ。陸上部、続けたかった。生徒会に入ったことは後悔してないが、頭を空っぽにして黙々と走り続けるのは気持ちよかった。趣味のランニングでは味わえない試合の充実感。忘れられない。公立高校に進学していれば、もしかしたら陸上部に再度チャレンジできたかもしれない。苦みを帯びた記憶が蘇る。


「美里、ここからは野郎的展開なんで俺が説明する」

羽飛が引き継いでくれた。

「つまりだな、応援団退部した場合、えらいめに合うんだ。青大附属で生活するのも難しいレベルにな。なんで藤沖がこんなわけわかめなルール作ったんだか謎なんだが」

前置きをした。そもそも青大附属で生活するのが難しいルールが想像できない。

「まず、応援団関係者とは一切口を利いてもらえなくなる。いわゆるシカト。次に運動部への加入不可。厳密に言うと文化部でも応援団が関わるものはすべてアウト。その次が応援団が利用している間、退団した連中は使えない。たとえばトイレ、男子更衣室、図書館、まあいろいろあるってわけ」

「それは地獄だな。腹下した時どうするんだ」

難波が茶々を入れる。

「そしてみなさんご期待の鉄拳制裁なんだが、これは基本禁止されている。されてるはずなんだよ校則ではな。ところがこれが青大附属のゆるいところで、いわゆる”弾劾裁判”がお目溢しされてるだろ。あ、これも関崎と名倉知らねえか」

名倉のために知らんぷりをする。頷く。

「うちの学校では、中学から”弾劾裁判”って呼ばれているもんがあるんだ。一言で片付けると、非合法的な学校内吊し上げ。裁判官は評議のこともあれば規律のこともある。委員会内だと委員長。関係ない第三者がそれぞれの言い分を聞いて判決を言い渡す。たいていはめんどくさいこともあって、一発張り倒して即終了だけどな」

立村から聞いた内容とほぼ一致する。

「となると退団前に、なぜ退団したかについての弾劾裁判が行われる。あくまでもうちのがっこ内の用語だからな。正式な意味じゃねえからな。まちがえるなよ。なぜ応援団をやめようとしたのかその理由、改善策はなかったのか、今後の制裁覚悟してるのか。などなど

責め立てられ、当然、まあ、身体でそれなりの制裁を受けると」

「これはどう考えてもリンチじゃないか。許されることではない」

思わず言葉が漏れる。

「そうだな。許されねえな。俺もそう思う。今回この制裁がおそろしくてやめられない先輩の話を聞いて、勇気ある一年団員は退団届を信頼できる二年の先輩に預け、バスケ部の顧問に相談し話しをつけてもらった。おかげで制裁なしで逃げられたが、残された先輩に申し訳ない。助けてくれた先輩も助けたい。そんなこんなで訴えたというわけだ」


「ちょっとさあこれ、応援団が存在していいのかレベルの問題じゃないの」

声をあげたのは泉州だった。これは怒る。当然だ。泉州の家庭環境を知っていればそりゃわかる。青潟警察のお偉方たる泉州の父は、制裁時に木刀を用意されるというお方である。

「ちまちましたルールは、応援団のカラーかもしれないけどさあ、さすがにやめさせる時の弾劾裁判はないわ。ってかこれ、うちの父さんにばれたら余裕で警察沙汰」

「よし恵ちゃん、お父さんには内緒にしようよ。でも確かにこれはひどいわ。弾劾裁判は必要悪って言われることもあるけどこれはひどい。委員会なら任期があるけど、部活動は出入り自由よ。辞めることを引き止めるんじゃなくて弾劾して吊るすってのは、やっぱり変。なんとかしようよこれ」

阿木もお怒りのご様子。外部チームはやはり納得いかない、で意見がまとまっている。名倉が何も言わないのが気になるが賛成しているとは到底思えない。


一方、評議チームは無言で羽飛の言葉を待っている。弾劾裁判の意味をリアルに体験しているのだろう。それなりに考えることもあるのだろう。素直にこれはない、などと言えない身体にしみついたものがあるのだろう。


「まあ変だ。本来であればこの件は藤沖団長を教師が呼び出し詳しく正すがよしなんだ。あが、学校側はどうしても、応援団をなくしたくない。藤沖が中学時代からそれこそ夢見てきた念願の応援団。さらにいうとこれがあるからこそ、応援される側のやる気が上がるという現実もあるわけなんだ。さらに藤沖の今不安定な居場所な。そういうこともあって、今はなんとしても藤沖のために、応援団をなくすわけにはいかないというのが、学校側の判断なんだよ。そうだろ、俺の認識まちがってねえよな、美里」

「そう、貴史、あんたのいうとおり」

幼馴染の言葉で清坂は返事をした。



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