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1 境目の春期講習(12)

 立村の彼女、と言うとひとりしかいない。

 ふたたびみな首をめぐらして言葉を探す。


「俺も昨日聞いたんだけど」

 更科が説明を始める。

「杉本の父親が会社の金を横領したらしいんだよ。詳しくわからないけど、はっきり言って同情できない理由らしいんだ。ほら、家族を養うのに経済的に困ってたとか、そういうんじゃなくて、本当に自分のためにだけ使っていたみたいで。周りの人たち誰も助けてくれなくてさ」

「犯罪に同情なんてありうるのか」

 名倉かつぶやいたが誰も聞いていない。ほっとした。

「中学では当の本人が諸事情で学校を円満卒業してくれたので、もう安心して悪口が言えるというわけかあ」

 泉州がしみじみつぶやく。こちらには難波が反応する。

「そうだね。タイミングも良かったしね。杉本が卒業するまで待って無事になずな女学院へ消えてくれてから、満を持して自首したらしいんだ。戸籍上離婚して苗字も変えて」

「父親側で苗字を変えられるのか?」

「みなびっくりするかもしれないけど、あそこの家婿養子だったんだって。だから離婚したらお父さんがもとの苗字になるらしいよ。この辺法律わけわからないけど。ただ新聞報道は旧姓だったから、杉本の父親がやらかしたとばれるのは少し時間がかかったね」


 ここまでを更科はすらすら語った。

 難波は黙っている。

 羽飛も珈琲を啜るのみ。

 代わりに女子二人が待ってましたとばかりに饒舌となる。


「どちらにしても、もう誰も噂を止めることはできないってわけかあ。あの杉本さんってすっごく癖のある子だったから、もしいたら大変なことになってただろうね」

「霧島どころのさわぎじゃないよきっと。でも、小春ちゃん心配してるだろうな。あの、杉本って子を小春ちゃんものすごく大切にしてて、文通もしているみたいだから。まあまだ情報が行ってないだろうけどね。今度、片岡通じて聞いてみるよ」

「でも、親か犯罪者だということだと、どうなるの? 杉本さんはもう卒業しているからギリギリセーフかもしれないけど」

「まあ、横領だからね。事実関係はともかくとして、誰かを殺したとか轢いたとかそういう話じゃないから、まだ対処しやすいだろうけど。でも、もし青大附属の高校に進学することになってたらまたいろんな面倒なこと押し付けられてたかもしれないよ。それこそ、羽飛たちは友情と言う観点からも立村の面倒を見なくちゃならないわけだし」

 ふと、羽飛が首をひねった。

「そうなんだよなあ、それしないですむってことはありがたいけどなあ。今でも十分立村にとっては打撃でかいはずなんだよなあ」

「本来は、な」

 それまで黙っていた難波が口を切った。

「あの立村が何も考えていないわけがない」

「え、なんなのそれ」

 阿木が声を上げる。

「さっき難波くんが来る前にみんなで話してたんだ。立村くんが妙に明るいって。新しい彼女できたんじゃないかって。でしょ更科くん?」

「まあ、可能性としてはあるよ」

「うええ、でもそんなにあいつ切り替え早いかよ? あの妙な明るさというか軽さと言うか、よくわけわからねえよ」

「だから、注意しろって言ってるんだ」

 苛立つように難波はしゃべる連中を制した。

「今までのことを考えると、立村の態度はなにかを隠しているとしか思えない。だが、今の段階ではそれが一番無難であることも確かだ」

「えー、恋人いなくなって、その恋人の親が犯罪者っていう展開でも?」

 泉州が尋ねた。

「そうだ。自分には関係ないと言うことで流し、裏で杉本と通じている可能性もある。例えば手紙や電話、そのあたりだ」

「けどそれもないとか言ってたぞ」

「白状すると思うか、あの立村が。俺の推理では、たぶんあいつ、杉本と何らかの形で繋がっている。だからああやってへらへらしていられるんだ。なんらかの証を得ている可能性もあるが俺たちには関係ない。むしろ、目に見えるように落ち込まないでくれているので俺たちは何も考えずに生徒会活動に専念できる。そう取ったほうがいいと俺は思う」


「そういう見方もあるのか」 

 隣の名倉に問われたが返事ができなかった。

 否定はしないが頷けない。いくつかの事実を目撃している乙彦としては、難波の推理においそれと同意することができない。

「生徒会には影響しない、それだけでいい」

 名倉にはあとで、乙彦なりの推理を語ろうと思う。

 タイミングよく清坂が戻ってきたのは話が一段落したその後だった。

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