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1 境目の春期講習(10)

 しばらく飲み物のおかわりをしながら過ごしていた。

 とにかく難波と名倉が来ないと話か進まない。

 清坂も戻ってこない。

「どうしちゃったんだろうね、様子見に行ったほうがいいんじゃない?」

 阿木が不安そうに泉州へ話しかける。

「いいんじゃないの、ほっとけばいいよ」 

「会長はどうでもいいけど名倉くん、大丈夫かな。難波くんと一緒なんでしょ」

「結構露骨なこと言うね、阿木さん」 

 笑いながら更科が突っ込んだ。一方真面目な顔で羽飛が乙彦に問いかけた。

「難波の様子はそんなかっかしてなかったんだよな」

「ああ、だから見送った」

「なんかやらかしてたら騒ぎだもんな」

 話しが込み入っているのか、それとも難波が無駄に名倉へ突っかかっているのか。こればかりはあとでどちらかに聞かないとわからないだろう。願わくば、名倉がしっかり白を切り通して今回の更科問題とは無関係であることを証明してくれればいいのだが。

「ところで、なんだけど。ここに清坂さんいないからみんなの率直な意見を聞きたいんだけど」

 今度は更科が話を振った。

「生徒会話じゃなくて、ごくごく一般生徒的に考えて、清坂さんと新井林のカップリングってどう思う?」

 羽飛がむせて咳き込んだ。

「いきなりそれかよ!」

「いや、俺も今回のこと、生徒会役員の立場から考えるとめんどくさいなあとは思うけど、そんなの取っ払って外野として見ているぶんには面白いよなあって。だって、さすかにあの新井林がだよ? あれだけ佐賀さんに幼稚園の頃からベタぽれだったあいつがだよ? いきなり乗り換える意味ってなんだよって気、するよね」

 あまりかかわりたくないので乙彦は黙っていた。羽飛が腕を組む。

「まあ、心境の変化って奴だろうな。俺は鈴蘭優ちゃん以外のアイドルには興味一切ないが、難波はあれだけお熱だった日本少女宮のつぐみちゃんの切り抜きをある時期から全部処分しやがった。俺か苦労して集めてきた切り抜きをだぞ!」

「難波はアイドル好きなのか」

 聞いたことがあるようなないような気がする。更科が説明する。

「ホームズと言ってもそれなりにそっちの興味かないわけじゃないからね。意外だよ。でもまあ、例の事件がね、引き金になったと言っていいのかな」

「ゆいちゃんのことね」

 阿木がため息をつく。

「ってことはだ。過去の事例に当てはめてみると、新井林が難波として、美里が霧島キリコとすると、佐賀はつぐみちゃんか」

「そうなるね。佐賀さんは、新井林にとって長年熱を上げてきたアイドルだけど、スキャンダルか何か幻滅することが起きて、清坂さんに乗り換えたってのが一番自然な形じゃないのかな」

 自然とも思えないが、新井林があそこまで本気を晒し、ついでに羽飛にまでお断りを入れるところからすると、生半可な気持ちではないだろう。

「まあそんなのはどうでもいいよ。二人でなんとかするでしょうよ。それより私が興味あるのは、一般生徒でかつ、ついでに生徒会役員にもなっちゃってる私たちにどのくらい影響あるのかってことよ」

「泉州さんも露骨だねえ」

「だって、もしあのふたりが出来ちゃったら、たぶん自動的に生徒会に関わってくるよね。まあ、中学時代に評議委員長勤めていたんだし、顔出されて困るわけではないけど。次期の生徒会メンバーとして期待はできるよね。でも、佐賀さんがもし、生徒会に入ってくる意志があればまためんどくさくなりそう。別れた彼氏と同じ委員会で過ごすなんて耐えられる? 誰もがうちの会長みたいな根性ないんだからね。こう言ったらなんだけど、がんばりすぎて小春ちゃんみたいになるとも限らないよ。小春ちゃんは良い子だから支えてあげたいと思えたけど、正直、あの佐賀さんを助けたいと思える? あれだけ男子に色目使って最後に彼氏から愛想尽かしされた女子を同情したいと思える? たとえどんなに生徒会長時代に功績残してきたとしても、そんな不潔な子とはねえ、パスだよね」

 泉州は滔々と述べた。

「まあ概ね、俺も同感。清坂さんがどういう判断下すかわからないけど、新井林が関わってくる度合いに影響は出るよね。男子の目からするとそれも悪くないとは思うな。佐賀さんが生徒会にどういう距離感を求めているかがまだわからないけど、もし清坂さんが付き合うつもりなのであれば佐賀さんには離れててほしいよ」

「全くだ。生徒会に新井林は欲しい」

 乙彦も本音をつぶやいた。

 新井林は突っ走りやすい所が玉に瑕だが、付き合うぶんには気持ちの良い奴だ。何をするにも嘘がなく、好きなもの嫌いなものに対して真っ直ぐだ。それが杉本梨南とのトラブルに発展したところはあるが、憎い相手を卒業するまでクラスいじめに発展させないよう努力したことは認めたい。今までのことを聞く限り、男子たちが死にものぐるいで杉本へのいじめ行為をこらえたことは褒め称えていい。

「けどな、あいつのどこがよくて惚れたんだ? 未だに謎」

 隣で首をひねる羽飛にはあえて答えなかった。

「清坂さんは俺たちの代ではそんなでもないけど、上級生にはめちゃくちゃ人気あるよ。第一、生徒会に引っ張り込んだのも先輩たちだっただろ? 俺たちが知らないだけでいまだに告白の嵐というのは聞いたことあるよ。いろんな先輩から聞いてる。今までは立村と付き合っていたから先輩たちも諦めていたけど、高校に入ってから別れただろ? あれからは大変だったと思うよ。羽飛なら知ってると思ったけど」

「たしかにな。世の中趣味色々あるよな」

 お前に言われたくない、発したい言葉をあえて乙彦は飲み込んだ。

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