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タンポポさん【5枚→10枚】

作者: なかむむむ

 僕は、友達がいない。パパの仕事の関係で、僕の家はすぐに引っ越しをする。転校ばかりでなかなか友達ができなくて、学校ではいつもひとりぼっちだ。

 僕は、学校が大嫌いだ。全然楽しくないし辛いから行きたくない。でも「勉強に遅れるから休んじゃいけません」ってパパとママが怒るから、我慢して学校へ行っている。

 

 ある日、体育の準備運動で二人組を作ることになった。みんなは仲良し同士で、すぐに二人組を作っていた。でも僕と組んでくれる子は誰も居なくて、ひとりぽつんと余ってしまった。しかたなく先生と組むことになったけれど、恥ずかしくて泣きそうになった。

 チャイムがなって、休み時間になるとすぐに保健室へ走った。保健室の先生は、半泣きの僕の顔を見て、優しい顔で優しい言葉をかけてくれた。でもどうしても僕は元気になれなかった。もうこれ以上、学校に居たくなかった。

 先生に「具合が悪いんです」って必死に嘘をついて、なんとか早退を許してもらった。そして教室へ戻ってランドセルをしょって、逃げるように学校を飛び出した。


 家に着いて、誰も居ないことを確認してからゆっくり門を開けた。すると突然、中から声をかけられた。

「今日は早かったわね?」

 僕はビックリして、その場に立ち止まった。パパとママはお仕事で忙しいから、今の時間は居ないはずなのに。今の声は誰の声だろう?

 僕は恐る恐る庭を見渡した。でも誰も居なかったから、きっと気のせいだと思った。それなのに、庭へ入って玄関に行こうとしたら、今度は足元から叫び声が聞こえてきた。

「危ない! 私のこと踏みそうになっているわ!」

 踏みそうになっている? まさかと思いながら声のする方を見ると……。なんと足元に咲いているタンポポが、花びらをひらひらさせながら僕に話しかけていた。

「わっタンポポが喋ってる!」

 驚いた僕は思わず尻もちをついてしまった。するとそのタンポポは、花びらをクシャっとさせて、ムッとしたような顔になった。

「失礼ね、タンポポだって喋るわよ。それよりあなた、学校はもう終わったの?」

「えっとそれは……今日体育の時間にすごく嫌なことがあって、それで……」

「嫌なことって?」

 二人組を作らなくちゃいけないのに僕だけひとり余ってしまったんだ、そう言おうとしたのに、涙が溢れてきて声が出なくなってしまった。するとタンポポが明るい声で言ってくれた。

「じゃあ、私と遊びましょうよ」

 こうして僕に、初めての友達ができた。


 それからは毎日、僕は学校へ行くふりをしてこっそり家に帰ってきた。そして夕方暗くなるまで、タンポポさんと一緒に遊んだ。

 天気のいい日は、ミツバチさんやチョウチョさんがやってきて、みんなで賑やかに過ごした。雨の日はパパの大きな傘を広げて、雨宿りをしながら静かに過ごした。タンポポさんと居ると、どんな日もあっという間だった。

 

 そんなある日、僕はタンポポさんに悩みを打ち明けた。

「実は僕、転校してばかりで友達がひとりも居ないんだ。だから学校なんか大嫌い。でも大人たちは『学校は休んじゃいけません』って、それしか言わないんだ。パパもママも学校の先生も、誰も僕の気持ちを分かってくれないんだ」

 するとタンポポさんは、真剣な表情をして話を始めた。

「私もね、毎年春が終わると、綿毛になって飛んでゆくの。大きな家の庭、田んぼのあぜ道、時にはアスファルトの隙間にも。いろいろな場所へ行ったわ」

「僕と同じだね」

「ええ。それで私も、ずっとひとりぼっちだったの。それなのに、菜の花さんやクローバーさんは家族で仲良く暮らしていて……。すごく羨ましかった。寂しい、なんで私だけ違うの? って」

「うん……」

「でもね、ある時勇気を出して、近くに咲いた菜の花さんに話しかけてみたの。するとこんなことを言われたわ。『私もタンポポさんと友達になりたかったの』って」

「本当に?」

 タンポポさんはゆっくりとうなずいた。

「それでね、気付いたの。私はみんなを羨ましがるだけで、自分から壁を作っていたんだって。それに気付いて心を開いてからは、どんどん友達の輪が広がっていったわ。こんな風にね」

 タンポポさんの視線の先には、今日も仲良しのミツバチさんとチョウチョさんが飛んでいた。

「だからね、明日は学校へ行って、勇気を出してみんなに話しかけてみて。緊張するかもしれないけど、練習をすれば大丈夫。あなたにもきっと素敵な友達ができるはずよ」

「うーん、僕はタンポポさんさえ居れば、他に友達なんかいらないけど……。でもそこまで言うなら……」

「じゃあ、約束ね」

 そう言ってタンポポさんは葉っぱをひらひらと揺らしたので、僕はしぶしぶ指切りげんまんをした。

「でもね。どうしてもうまくいかなくて、やっぱり学校へ行くのが辛いな、と思ったら……その時はまたここへいらっしゃい。私はいつも、ここで待っているから」


 翌日、僕は学校へ行った。ドキドキしながら教室に入ると、学級委員さんがやってきて一冊のノートをくれた。

 中を見ると、今まで休んでいた分の授業のメモが書かれていた。そしてクラス中のみんなから、僕を心配するメッセージがたくさん書かれていた。

 ああ、タンポポさんの言う通りだ! 僕は自分からみんなに壁を作って、勝手に心を閉ざしていただけなのかもしれない……。

 僕は勇気を出すことに決めた。たくさん息を吸って、教室中に響くような大きな声で、みんなにこう言った。

「みんなありがとう。良かったら僕と友達になってくれないかな?」

 すると教室はしーん、となってしまった。いつも下ばかり向いて誰とも喋ろうとしない僕の言葉に、みんなは驚いたのかもしれない。でもすぐに「いいよ」って言う声が聞こえて、仲間の輪に入れてくれた。

 先生が来て、その時はすぐに授業が始まってしまったけれど、その日は一日中、休み時間が待ち遠しくて仕方がなかった。そして放課後になってからも、暗くなるまでみんなと夢中で遊んだ。

 もっとみんなと仲良くなりたい。もっともっとみんなと遊びたい! 学校ってこんなに楽しかったんだ! 

 ――そんなワクワクする毎日が始まって、そしてあっという間に過ぎていった。


 ふと僕は、学校の友達と遊んでばかりで、あの日からタンポポさんに会っていなかったことに気付いた。なんだか嫌な予感がして、その日は放課後すぐに家へ帰った。

 恐る恐る家の門を開けると、きれいな花を咲かせていたタンポポさんは、もうそこにはいなかった。彼女はすでに綿毛の姿になっていた。

「あっ」

 急に強い風が吹いてきて、たくさんの綿毛が飛んでいった。残った綿毛は一本だけ。僕は急いで残っている綿毛のもとへ走った。

「タンポポさん、君のおかげでたくさんの友達ができたよ。それなのにお礼も言わずに遊んでばかりいて、本当にごめんなさい」

「いいのよ。私、あなたの楽しそうな姿を毎日見ていたもの。それだけで十分よ」

 綿毛になったタンポポさんは、そう言ってふわふわと笑った。

「ねえどこにも行かないで。もっと一緒に遊ぼうよ」

「ごめんね。でも大丈夫、きっとまたどこかで会えるわ。それに私たちはずっと友達よ」

 さっきよりも大きく、綿毛はふわふわと笑って言った。

「本当にまた会える? 約束だよ。じゃあ次に会った時は、僕とタンポポさん、どっちがたくさん友達がいるか競争だ!」

「ええ、分かったわ。また会えることを楽しみにしているわ。じゃあ、またね」

 綿毛になったタンポポさんは、暖かな風に乗って飛んでいった。僕は彼女の姿が見えなくなるまで、ずっとずっと見送っていた。


 ――数年後。

 僕はたくさんの学校に、たくさんの友達がいる。今年もまた新しい街へ引っ越しをして、新しい友達に囲まれながら、楽しい毎日を過ごしている。

 そして……。

「久しぶり!」

 僕は校庭に咲いた、きれいなタンポポに話しかけた。また会えたねって笑いながら。


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[良い点] 成長を書こうとしたところ [気になる点] 近年の、とくに公募での童話は教訓や説教はいれてはいけない、、子供を楽しませるのをまず1番だいじに、という大原則が抜け落ちているように思います。なん…
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