A new companion
俺は国境に向けてひた走る。バーツの勧めでエミリウス王国にあるヴァランの街を目標に決めた。恵みの川と呼ばれる境界線変わりの川を越えればそこはもう、エミリウス王国だ。ヴァレリウスとエミリウスの両国は長い平和の中、両国を行き交う者に自由通行権を認めている。つまり身分証を提示することなく両国間を行き来できるということだ。
川を渡った俺たちは馬を降りて休息する。馬に乗せていた荷物も下ろしてやり、川の水を飲ませる。俺とバーツも河原に降りて冷たい川の水で顔を洗った。
さすがにまる二日、休憩を挟んだとは言え、馬上で過ごしていたので体が痛い。くぅぅぅと体を伸ばすとあちこちの関節が悲鳴を上げる。落ち着いたところで持ってきた携帯食料を取り出し口にする。
「しっかしまずいなーこれ。」
小麦粉を水で溶いて焼き固めたようなビスケット状に物を口にして、俺は顔をしかめた。
「しょうがねーだろ、戦場じゃ俺たちはこれ食ってんだ。贅沢言うんじゃねーよ。」
「そうなの?よく我慢できるね。俺なら絶対文句言うけどな。」
「そりゃアンタは王子様だからな。俺たちとは食うものが違うのさ。まあ、じき街につくからうまいもんはそこで食えばいいじゃねーか。」
「そうだけどよ。あ、ところで砂金って金として通用すんのか?」
「しらねーよ、そんなこと。砂金なんて普通持たねーからな。」
俺は袋を開けて砂金を見てみる。
「――なあ、砂金って何色だっけ? 」
「アンタなぁ、砂金て言えば金なんだから金色に決まってんだろ? 」
バーツが俺の手元の袋を覗き込む。
「白いよね。」
「ああ、真っ白だな。」
俺はひとつまみ取って舐めてみる。うん、しょっぱい。
「なあ、砂金ってしょっぱかったのな。俺初めて知った。」
「それ、普通に塩じゃねーの? 」
「……」
「他に金貨とか持ってきてねーのかよ? 」
「これが全部なんだなぁ。くっそ! あのジジイ、やりやがったな! 」
頭にきた俺は塩の入った袋を地面に投げ捨てる。
「あれ? なんか入ってんぞ。こりゃ手紙か? 」
小さく折りたたまれた紙が袋から出てきた。バーツがそれを伸ばして広げる。俺もその紙を覗き込んで書いてある内容を確認する。
『今までの恨み、この儀にて晴らさせていただきます。』
「……なるほど。こりゃあの執事の仕返しってわけだ。ってことは何? アンタ一文無し? 」
「どうやらそうみたいだね。」
「ま、いろいろ大変だろうががんばれよ、じゃ、俺様は行くからな。」
「ちょっと、ちょっとまってぇぇぇ、バーツ君! それはあんまりなんじゃないかな? 」
「はなせよ! 俺様は傭兵やって稼ぐんだ! 一文無しの相手なんかしてる暇ねーっての! 」
「お、おま、そういう事言っちゃうわけ? 普通さ、主君がピンチの時にこそ助けてくれるのが従者ってもんだよね! 」
「一文無しの奴を主君とは言わねーんだよ! 主君ってのはちゃんと給料払ってくれる奴の事を言うの! 俺様はな、これでも『銀狼のバーツ』の二つ名を頂くほど傭兵業界じゃ名が通ってるんだよ! アンタみたいなお荷物がいなきゃ十分一人で食っていける訳! ちゃんと隣の国まで付き合ってやったろ? あとはそれぞれの人生を楽しむって事で。」
「へぇぇぇそうなんだ。銀狼と呼ばれたほどのバーツさんはピンチになると生涯忠誠を誓った主を放り出して逃げちゃうんだ。それって傭兵としてどうなのかなぁ?信用第一でしょ、あの業界って。あーあ、しょうがないなーあちこちでみんなに聞いてもらうしかないよなー。銀狼とかいう不義な男に捨てられたかわいそうな俺の話。」
「なにそれ? 俺の信用潰そうっての? 4年も仕えてやった俺様によくそういうことが出来るなアンタ! 」
「そういうこともなにも俺は事実をありのままに伝えようとしてるだけだろ? おや、銀狼殿には何かまずいことでもお有りかな? 」
「ほんっと最低だよ、このバカ王子! どうせあることないこと言って俺様を貶めるつもりなんだろーが! 」
「失礼なこと言わないでくれる? 俺はあることしか言わないからね。ああ、どなたかこの銀狼とかいう裏切り者に捨てられた哀れな男にお恵みを! 持っていた金貨はすべて銀狼に取られてしまったのです! 」
俺は大声で誰もいない河原に向かって叫んだ。
「既に捏造してるじゃねーか! いつ俺様がアンタの金取ったんだ? 人聞きの悪いこと言うなよな! 」
「ぎゃあああああ! 助けてください! 元傭兵の『銀狼のバーツ』って男に襲われて全財産奪われたんです! 誰か! 警備隊を呼んでください! まだ遠くには行ってないはずですから! で、捕まえたら死刑にしてくださーい! 」
「ああ、もうわかった! しょうがねーから一緒に行ってやるよ。だから騒ぐな! 」
「え?もういいの? せっかくあと2パターンぐらい考えついたのに。」
「はぁ。分かったって。アンタを敵に回すと碌なことになんねーってのがよっく分かった。一緒には行ってやるがな、もう主従関係はナシだ。なんたって給料払えねーんだからな。」
バーツのくせに生意気な。と、俺は心の中で舌打ちする。
「ああ、もちろんだよ。だってさ、俺ももう王子じゃないしね。そう、これからは仲間、仲間としてやっていこう! もちろん俺のこともアシュレイって呼んでくれていいからさ。ね? バーツさん。」
俺は精一杯の愛想笑いでバーツの機嫌をとる。ちっ、この貸しは高くつくぜ、バーツよ。
「ま、そこまで言うのなら仕方ねーな。俺様がついてりゃ安心だからな。んじゃまず、食料調達でもしてもらうか。一文無しのアシュレイ? 」
くそ、この男、絶対あとで泣かしてやる。
ふてくされていても仕方ないので俺は昔何かの本で読んだ魚の取り方を実践してみる。まず、人の頭程の大きな石を探し、それを川面から顔を出している石に思いっきり投げつける。
パカーンと大きな音がしてドボンと投げた石が沈んでいく。しばらくするとプカプカと5匹ほどの魚が浮いてきた。
俺は急いでその魚を拾い集め、予め河原の石で作っておいた生け簀に放り込み、手頃な枝と、焚き火が出来るだけの木や小枝を集めてくる。
焚き火をおこし、魚を枝に挿すと砂金の代わりに入っていた塩をつまみ、魚に振りかけていく。あとは焚き火で魚が焼けるのを待つだけだ。
「こんなんでどうでしょう? バーツさん。」
「よくこんな魚の取り方知ってたな。ちょっと見直したぜ! 」
「たいしたことありませんよ。バーツさん。」
「んじゃ、俺様が特別に食える草ってのを取ってきてやるよ。オメェはここで魚焼いとけよ? 勝手に食ったりしたら承知しねーからな! 」
「へへへ、んなことするわけないじゃないですか。俺はその間に手ぬぐいでも洗っときますよ。」
くぅぅぅぅこれが噂に聞く屈辱というものなのか! バーツめぇ、調子に乗っていられんのも今のうちだけだからな!
手ぬぐいを洗い、魚の様子を見に戻る。
「あああああっ! お前、なにやってんだよ! 」
俺は思わず叫び声を上げた。
「なんだ! なんかあったのか! 誰だテメェは! 」
バーツが走ってかけ戻ってくる。俺が焼いていた魚を見知らぬデカイ男が勝手に食べていたのだ。
「なんや、そないに騒ぎたてんでもいいやないか。ワイはジェラルド、赤獅子のジェラルドや。見ての通りの男前や。」
でかい男は悪びれもなく言ってのけた。
「ああああ! テンメェその面どっかで見たことあると思ったらクマじゃねーか! 俺様の食料勝手に食ってんじゃねーぞ!」
「なんや、銀狼かい。随分久しいのぅ、そうか、これはお前のやったんかい。そう思えばなおさらうまいっちゅーもんやな。」
クマのような男は2本目の魚に手をかける。
「テメー! いい加減にしやがれってんだ、俺様のもんに手出しといて無事に済むと思ってるわけじゃねーよな? 」
「ちょっと待っとれ! これ食い終わったら相手してやるから。お前、あの頃よりはちーっとは強くなってんやろうな? そやないとまーた泣くことになるでぇ? 」
顎に手をあてゴキリ、ゴキリと首を鳴らし、その男は楽しそうに答え、立ち上がる。
クマと呼ばれた大男の髪は赤くまるで獅子のたてがみのように逆立っていて、その顔は野性味に溢れ、鍛えられた顎は石でもかみ砕きそうだ。その風貌と対照的に青く澄んだ瞳はこの大男の善良さを現しているようにも見える。
素肌の上に虎の皮で作られたベストを羽織り、黒の半ズボンの上にやはり虎皮の腰布を巻いていた。でかい斧を片手で肩に担いだ姿はまさに野人だ。彼の履く頑丈そうなブーツと腰に巻かれた太いベルトだけが、ほのかに文明の匂いを感じさせている。
「だーれが泣くか、このクマ野郎! 」
「獅子やって何べんも言うてるやろが! このワンコロ! 」
「ワ、ワンコロだとぅ? もう許せねえ! 俺様を怒らせた事、あの世で後悔させてやっからな! 」
バーツは抜き打ちに斬り付ける。
「ワンコロをワンコロ言うて何が悪いんや! 相変わらずションベンみたいなかっるい攻撃やのぅ。」
大男は持っていた斧で何事も無かったかのように、バーツの攻撃を受け止めていた。
「うっせー! てめぇだってぶん回すしか能がねーじゃねーか! そんなもん寝てても避けれるわ! 」
バカ二人が斬撃を応酬する。俺から見たらどっちもどっちってトコだな。
二人の揉みあいは果てしなく続き、すでに両者とも肩で息をしている。
「おい、クマ公! 相変わらずやるじゃねーか。」
「お前こそ粘るやないか。ワンコロにしちゃ上出来やで。」
「言ってろ! そろそろ俺の本気を見せる時が来たようだな。」
そう言うとバーツは腰を低く落とし、トンボに構える。進化のない奴だ。まーたあの突きか。
「しぇあ!」っと掛け声と共にクマに向かって突きを放つ。クマは一瞬驚いたようだが、その斧を盾にして受け止めた。
ギャイン! と甲高い音がして二人の武器がはじけ飛ぶ。綺麗な流線型を描いたその武器は、なぜか俺たちの馬へ向かって飛んでいった。
「ヒヒーーーン! 」と甲高い嘶きを上げる2頭の馬。2つの武器は狙いたがわず俺とバーツの乗ってきた馬の尻を傷つけた。
2頭の馬は狂ったように走り出し、あっという間に視界から消える。
「あ、」
「あ、」
二人は同時にトボけた声を上げた。
「……」
「なあ、あの馬ってもしかしてあんさんの? 」
大男は俺を哀れむような視線で見つめている。
「……」
「あはは、しゃーない、こういうことってあるもんなんやな。まぁ気を強く持ってしっかり生きなあかんでぇ? 」
この言葉に俺の怒りがマックスに達する。あまりの怒りで声もだせない。
俺は無言でクマに近づきその股間を蹴り上げる。ぐぉぉと膝をついたクマのこめかみに回し蹴りを入れる、その足をそのまま返して後頭部に踵落としを食らわせたところでクマはピクリとも動かなくなった。
俺はゴキリと首を鳴らし、指の一本一本を念入りにポキリポキリと鳴らしながらバーツに向かって歩いていく。
「あ、あれはわざとじゃねーんだ、ほ、ほんとだって、ほらこのとおりあやまるからよぉ。」
バーツの必死な懇願を無視してまた一つポキリと指を鳴らす。
「あ、ああそうだよな、俺様ちょっと調子に乗りすぎちゃったよな、ほら、あれは冗談。主従関係がそんな簡単に切れるわけねーよな?ほら、俺様今もアンタの従者だからさ。な、頼むから許してくれよぉ!」
バーツはもはや泣きそうだ。ここにきて俺の強さを思い出したのだろう。しかし俺は無情な一言を言い放つ。
「お前はもう、死んでいる。」
俺は格闘ゲームなみのコンボをバーツに決める。「あべし! 」と言ったかどうかは定かではないが、バーツは河原に倒れこむ。俺はその襟首を掴んでクマの横に並べた。
「で、この落とし前はどう付けるんだ? 」
俺は大きな石に腰掛け、拾った太い枝を手で弄びながら、河原に正座する二人に訪ねた。ちなみに彼らは正座というものを知らなかったのでやって見せて同じように座らせる。
「なあ、あんさん。この座り方どうにかできんかなぁ? 足が痛くて痛くてたまらんのやけど。」
「やかましい! お前は黙って座っとけ、このクマが、ちっとは空気読めってんだよ! 」
となりで正座するバーツがたしなめる。
「質問が聞こえなかったか? 」
俺は彼らのやり取りを無視し、手に持った枝で二人の肩を軽く叩く。
「いやあ、そのさ、馬はあとで必ず弁償すっからよぉ、今日のとこは収めてくんねーかな? 」
「バーツ、貴様は俺のなんだ? 」
俺は意地悪そうな顔をして、バーツに問いかける。
「アンタは、お、俺の主です。アシュレイ様。」
「うんうん、ちゃんと言えるじゃないか、結構結構。でも馬の話は別だからな。クマ、おまえはどーすんだ? 」
「そ、そんなん言われてもなぁ。ワイ、金なんかもっとらんし。どないもこないもようせんわ。そや、ワイもあんさんに付きおうたるわ。それでチャラってのはどうや? 」
「なるほど、それはつまりお前も俺に仕えるってわけだな。結構結構。それで許してやる。」
「いやー仕えるっちゅうのんはちーときっついやろ? 馬の代金分働くっちゅーことで。」
「あぁん? よく聞こえなかったが。なにか俺の言うことに文句でもあるのかな? まあ、体に聞いてみるってのが手っ取り早いか。」
「い、いや、なんも文句なんかあらへん。そやった、ワイはあんたに仕えるっちゅーことにきめたんやった! いやぁワイらは幸せもんじゃのう。こんな主になかなか巡りあえるもんやないで。なあ、ワンコロ、お前もそう思うやろ? そうやな? 」
クマは引きつった顔でそう宣言した。となりではバーツががっくりとうなだれている。
こうして赤獅子のジェラルドと出戻りのバーツが従者となった。
「あーーーもう、また外しやがった!ほんっと下手くそな、お前。」
バーツが放った矢はまた獲物を仕留められなかった。そう、俺たちは今、森に来て狩りをしているのだ。ヴァランの街に行ったところで3人とも一文無しでは意味がない。そんな大人の意見を言ったバーツに従い、俺たちはサバイバル生活を開始する。途中ですれ違った狩人に弓と矢を貸してくれと頼んだら、狩人は投げ捨てるようにそれらを置き、無言のまま全速力で走り去った。
狩人の善意を身にしみて感じた俺たちはその弓矢で狩りを始めた。とはいえ、俺は弓矢は全くだめだ。王子の記憶でも弓は不得意だったようだ。クマも弓は苦手と見え、結局まともに弓が使えるのはバーツだけだと判明する。
しかし、そのバーツの矢は面白いくらいに当たらない。腹の減っている俺たちはバーツが外すたびブツブツ文句を言っていた。
「そんなに言うんならよぉ、お前らがやってみやがれってんだ! 」
「できねーからお前にやらしてんだろ? なんで逆ギレ? 」
「そやで、弓とかそんなしょっぱいことはワイにはできんのや。しょっぱいお前が適役やろうが。ええから黙って獲物狩れや、ワンコロ。」
「ぐぅぅぅぅ、お前らいつか見てろよ! 」
歯噛みしながらバーツがウサギを狙って矢を放つ。またしてもハズレだ。俺とクマは手のひらで額を抑え、ため息をつく。
「おい、ゴリ、ちょっと来い。」
「なんやゴリって。ワイはクマや! あ、違った獅子やっちゅうねん。」
「どっちでもいい、あそこにいるのはなんだ? 」
俺は森の奥で蠢く人影を指し示す。
「あー、ありゃ山賊やな。」
「山賊? おい、バーツもこっち来い。」
「んだってんだよ。こっちは忙しいってのに。」
「バカ、声が大きい。あそこを見てみろ。」
「山賊どもじゃねーか。べつにここらじゃ珍しくもねーだろ?」
「あー、もう、お前ってホント馬鹿な。あれ見て何も閃かないわけ? 」
数秒の沈黙のあと
「分かった! ワイはひらめいたで。だんさんが言っとんのはあいつらから飯でもご馳走になろうってことやろ? 」
ちなみに「だんさん」というのはクマの生まれた共和国の方言で「旦那さん」と言う意味らしい。彼は俺をその呼び方で呼ぶ。
「おぉ、わかってくれたかクマ。」
「お前らこそバカじゃねーの? 相手は山賊だぜ。飯食わせろって言って素直に食わせてくれる相手じゃねーだろ。そもそも食えねーから山賊やってんだし。」
「素直に言ってだめなら素直になってもらえばいいじゃねーか。バーツお前の出番だ、かるーく鉄拳制裁でもお見舞いして食いもんと金もらってこいよ。」
「アンタ本気で言ってんのか? ありゃどう見ても10人はいるだろーが。やるならお前らも手伝えよな。」
「いいから行けよバーツ。弱っちいお前に似合いの相手だろーが。」
「そやで、あんなのなら弱っちいワンコロでも余裕や。さっさと行ってきてや。もうワイ腹がペコペコや。」
「なんだよそれ! 人に散々狩りやらせといて、山賊に殴りこんで来いだぁ? 俺様は絶対行かないからな。」
「ちっ、使えねー奴だな。じゃあしょーがねーな。俺がババッとやっつけてこようかね。その代わりお前には何もやらねーからな。」
「だんさんが行くぐらいならワイが行ってくるわ。まあチョチョイのチョイやけどな。」
「それなら俺様が、」
「「どーぞどーぞ。」」
こうしてバーツは一人山賊に殴り込みをかける。遠くで山賊の断末魔が聞こえた。
「あいつおっせーなー。まーだかかってんのかよ。」
「まあ、しゃあないやろ。あいつみたいなしょーもない奴じゃワイらみたいにぱぱっとは片付かんて。」
「まあそれもそうだな。」
それから10分ほどして返り血を浴びたバーツが帰ってきた。そばには囚われていた数人の村人たちが付き従っていた。俺たちは村人を解放してやると、彼らは感謝の言葉を述べ走り去っていった。
「マジお前ら信じらんねー。普通応援とか来るだろ? だまったまま一歩もうごかねーとかありえねーから。」
「まあまあ、お前の腕を信じてるからこうして待ってたんだろ?」
「そやで、お前かてワイといい勝負する男や。手伝いなんかいったら怒られる思うてな。」
「ま、まあ俺様に掛かりゃこんなもんよ。」
照れを隠すためそっぽをむくバーツ。こいつはホントに馬鹿なんだなと俺とクマは呆れ顔で目を合わせた。
「んで肝心の食物は? 」
「ああ、洞窟の奥にいっぱいあったぜ。それで呼びにきたんだよ。」
俺とクマは一目散に走り出す。後ろではバーツがポカンとした顔をしていた。
「やっぱまともな食いもんはちがうなー、クマ。」
「うんうん。ワイらここ数日草しか食ってへんからな。」
「お前ら、俺様の分も残しとけよな!」
満腹になった俺たちは山賊の遺品から金目のものを漁る。
「なんやしょっぱいのう。」
結局集まったのは金貨30枚ほどだった。
「そういや、山賊って賞金とかかかってねーの? 」
「あー、そやな、かかっててもおかしくないなぁ。」
「んじゃ一応頭領だけ連れて行くか。バーツ、頭領はどいつだ? 」
「んー、これだったかなぁ。いや、こっちだったっけ? 」
バーツが落ちている死体をひっくり返しながら探している。
「あはは、わりぃ、どれかわかんねーや。」
やっぱりコイツは使えない。クマもそう思ったのか両手を広げ、はぁぁぁとジェスチャーした。
「でもさぁ、これって結構割がよくねーか? こんな弱っちいのやっつけるだけで金は巻き上げられるは賞金はもらえるは、おまけに感謝までされるなんてな。」
「やっつけたのは俺様だけどな。」
「そやなぁ、賞金稼ぎっちゅうのもオモロイかもしれん。」
「だろう? まあ、金も手に入ったし、今日は街まで行って風呂にでも入ろうぜ。」
「賛成! そのあと酒でもどうやろか? 」
「いいなー、そうしようぜ。」
「まあ、全部俺様のおかげなんだけどってコラァ! 話も聞かねーで俺様を置いていくんじゃねー! 」
そう叫ぶバーツを無視して俺たちは今夜の飯の話で盛り上がった。