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双子の月陽  作者: 珈夜れい
王帝国戦乱編
5/5

Ⅳ 夜風とともに

 「はぁ……話聞いているうちに薄々そうじゃないかとは思ってたけど。これはなぁ」


 情報収集を始めてから一時間ほど。難航するかと思っていた聞き込みは意外にもすんなりと言った。皆日本語通じるんだからまさに奇跡と言っても過言ではない。でもそれ以上に嘘のような事実を突き止めてしまった。

 まず、この街は都心から東に位置する街ユウリアと言うところらしい。そして、この国はレイグ帝国と呼ばれていて、首都は帝都レイグ。この国の中心地にある。敵対している王国が魔法が栄えているのに対し、帝国では魔道具と呼ばれるものが盛んみたいだ。それは魔石と呼ばれるこの国で採れる鉱石を燃料として使える道具だそうで、先程私が見かけた進化版ドローン――レスタと呼ばれるやつも魔道具らしい。

 ……さて、ここまで来れば流石の私でも気付く。ここは私の知る国じゃない、世界じゃない。そもそも私のいた世界には帝国なんてものも王国なんてものも、ましてや魔法だの魔道具だの言うファンタジーチックなものも存在しない。


 ――どうやら私は異世界に来てしまったらしい。


 よくよく考えてみれば持っていたはずの鞄もなくなっているし。唯一持っているのは制服の胸ポケットに入れていたスマホだけ。そのスマホも圏外のため使えず、兄さんに連絡を取ることすら叶わない。そして無一文。先程まで明るかった空も段々と日も沈み暗くなっていく。


 「詰んだこれ」


 訳も分からずの異世界漂流一日目。どうやらピンチ到来です。





 「お腹……す、いた……」


 あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。日は沈みきり今は夜。先程まで多くの人達が闊歩していたメインストリートですら歩く人は少なくなってきている。それに夜風が冷たい。

 このままだと餓死、いや、この冷え込み具合だと凍死まではいかなくても確実に死んじゃいそう。

 流石に歩き疲れ、道の端に寄って腰を下ろす。体育座りで縮こまり、寒さに耐える。こんなことなら中にカーディガン来ていればよかったと後悔するが、それも今ではもう仕方のないこと。

 絶体絶命だと膝に顔を伏せた時、何やら嫌な気配が近付いている気がした。

 ばっ、と勢いよく顔を上げて周囲に目を向けると、ちらほらいた人達もいつの間にかいなくなり、辺りは静寂に包まれている。

 見渡す先までが闇に染まった空間。申し訳程度の街灯の明かりが逆に不気味さを醸し出している。昼間とは違った風に見えてしまう街の姿に息を飲むのと同時に、歪な足跡が私には聞こえた。

 こつ、こつ、こつこつ、こつ……。

 不規則なリズムを奏でる足音は、段々と私の方へと近付いてくる。街の雰囲気と相まって、より一層不気味さを大きくしていた。いつでも逃げられるようにとその場に立った私は、足音の方へと視線を向けてその主が姿を現すのをじっと待ち構える。

 こつ、こつこつ、こつ……。

 その足音を最後に静寂が訪れる。先程まで聞こえてた足音は消えたが、それでも私の中にはどうしようもない不安が、嫌な予感が胸の内に渦巻いていた。


 ――と、その瞬間だった。


 「……っ!?」


 ひゅん、と風切り音が聞こえてきたと同時に、私は反射的に上体を斜めにずらす。するとがががっ、と後ろの壁に何か硬いものが当たる音がした。ふと視線をそちらに向けると、そこには計五本もの鋭利なナイフがレンガ造りの壁に突き刺さっていた。

 あまりの出来事に放心してしまうが、相手はそんな暇すら与えまいと再びナイフと投擲してくる。

 先程よりも多く聞こえた風切り音から瞬時にその数を感じ取って横に側転やバク転の要領で回避していく。ナイフは私が先程までいたところに見事に突き刺さっており、咄嗟の判断ができていなければ今頃私は死んでいただろう。


 「……あれ?」


 自分で言うのもなんだが、私は自他ともに認めるほど運動能力が高いし、運動神経も良い。でも今あれを避けることができたのはそれだけじゃない。何故だか異様に体が軽いのだ。それに、感覚も普段よりもうんと研ぎ澄まされているように感じる。

 もしかして、異世界に来た影響なのだろうか?

……ま、今はそんなこと考えている場合じゃないか。私が二回も相手の攻撃を回避したからか、先程よりも濃厚な殺気が体全体にひしひしと伝わってくる。というか何で私は狙われているんだろう。


 「うひゃあっ!?」


 前とは比べ物にならないほどの数のナイフが飛んできた。さらに研ぎ澄まされた攻撃が私の急所を的確に狙って投擲されてくる。何とか紙一重で避け続けるものの、流石に疲れもあってか段々と追い込まれていく。このままだと躱せなくなるのは時間の問題だ。何とかして逃げないと……

 隙あらばすぐにでも逃げれるようじりじりと後退しながら避け続けて距離をとろうとする。が、やはり疲れのせいか、小さな段差にかかとをひっかけて体勢を崩してしまう。

 相手がそんな一瞬のスキを逃すはずがない。正確に投擲されたナイフは私の顔に向けて飛んでくる。

 ……ああ、こんな訳も分からず、私は死んじゃうんだな。こんなことならせめて兄さんに――


 「――諦めるな」


 「……っ!?」


 幾度と金属同士がぶつかる音と共に、凛とした綺麗な声が私の耳に届いた。

 閉じていた目を開けると、そこには私を守るようにして立ち尽くす人が一人。

 サファイアを彷彿とさせるような青い髪をポニーテイルにし、真っ白な鎧を身に纏っている。顔はまさに美女と言えるほど美しく、鋭い瞳はその女性のクールな、氷のように冷たい雰囲気を醸し出していた。青と水色を基調とした――おそらく魔道具と呼ばれる剣を両手で構え、敵に向けて殺気を放っていた。それを向けられているわけじゃない私にまでピリピリと感じてしまうのは、それほどまでに彼女の殺気が鋭いのだろうと感じる。


 「やはりこの街にいたのだな。調査にきて正解だった」


 「……」


 「っ!? 待てっ!!」


 先程まで感じていた殺気も、嫌な気配も完全になくなり、私は助かったのだと安心してついその場にしゃがみ込んでしまった。

 すると、機械音と共に剣をスマホくらいの大きさに変形させて腰に掛けた女性は私に手を差し出してくれた。


 「大丈夫だったか?」


 「は、はい。助けてくれてありがとです!」


 「いや、礼には及ばん。今の奴は【リッパ―】という私が追っていた罪人でな。この街の領主様からの依頼で態々帝都からここに来たのだが、おそらくもうこの街にはいないだろうな」


 領主様、ってもしかしてあのお城みたいなところに住んでいる人の事かな。なんか領主、って響き的に偉そうだし。

 それにしても帝都から、か……。恰好から何となくそうじゃないかとは思ったけど、もしかしてこの人情報収集していた時に聞いた帝国兵士団の人?


 「……見かけない服装だが、どこの地域の者だ君は」


 「……えっと、み、南の方です! 本当にもう南の辺境ですよっ!」


 「……ほう。南の辺境、ね」


 「……」


 突き刺さるような女性の視線に若干顔が強張ってしまう。結構適当に言ってしまったんだけど、もし嘘だとばれたらこれは物凄く最悪な事態になるんじゃないだろうか。

 しばらく沈黙が空間を支配する。女性が次に口を開くまでそう時間はかからなかったのだが、私にとってはかなり長いように感じた。


 「まぁいい。それにしても中々の動きだったが何か体術でもやっているのか?」


 「いえ、特に何もやってないですけど。それになんとなくでと言うか、感覚で避けてたみたいなものですし……」


 「……感覚で、か。それにあの身体能力。これはかなりの逸材かもしれない」


 ぶつぶつと何やら考え込んでしまう女性。しかしそう時間も経たないうちに何やら考えが纏まったらしく、女性は私に向けて耳を疑うような提案をしてきた。


 「君、帝国兵士団に入らないか?」


 「……ふぇ?」


 「動きも悪くないし、潜在能力が高そうだ。君のような有望株が入ってくれれば私としても嬉しいがね」


 「いや、でも、急にそんなこと言われても……」


 「ちなみに兵士団は今新規入団者を募集していてね。報酬もそれなりに弾むぞ」


 「喜んでお引き受けしますっ!!」


 ……はっ!? しまった!? 無一文と言う絶望的な環境状態からついお金に釣られてしまった。通貨の単位や価値すらわからないのに……。


 「うむ、いい返事だ。では早速明朝に出発する。……っとそうだ。君の名前を聞いていなかったな」


 「あ、はい。紗菜です。日坂紗菜」


 「サナ、か。良い名前だな。私は――」


 次の女性の言葉に、私はしばし放心してしまう。それほどまでに驚くワードが飛び込んできたからだ。

 同時にこう思った。何と言うか、どうやら私の運はプラスかマイナスか、どっちかのメーターを振り切っているらしい、と。


 「――シェスカ・ローメロイ。帝国騎士団副団長だ。そして――」


 「――氷獄(ひょうごく)剣聖(けんせい)、なんて大層な名でも呼ばれている。よろしく頼むぞ、サナ」


 「あはは……よ、よろしくです、シェスカさん」


 ああ、本当。何でこんな時にいないんだよ、兄さん……

 今この場にいない兄さんに心の中で悪態をつきつつも、前を進むシェスカさんのあとをついていくのであった。

夜中に書き上げて投稿。次の日休みじゃないとできないことですね。

次で一応紗菜サイドを一旦終わらせて再び悠翔サイドに戻るつもりです。

ではではまた次回に。

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