悪役令嬢が関西人で方向性を間違えてる
すごく短いです。
どうもどうも。悪役令嬢に転生してしまった元JKのフィレア・フイッシュウです。名前が某チェーン店の某魚バーガーメニューみたいやな!ってツッコミはこの世界では通用しないんで、かなり悔しい。いい挨拶になりそうなのに。
ちなみに、この世界は『いんぷ……ん?なんやったかな、まぁなんか英単語のタイトルの、なんかめっちゃ流行っとった乙女ゲーなんやけど、
なんかまあそのゲームの悪役令嬢に転生してしまって、今まさに何とかフラグ折られへんかなーと模索しとるとこやったりする。
私の友達がはまっとって、そんでよく語られたんやけど、悪役令嬢はどのルートでもざまあされるらしい。んでもって、ざまあされるのは全校生徒の見守る体育館の壇上らしい。ざまあ!展開になってものすごいひそひそクスクスされるらしい。
大阪生まれでは無いんやけど、私も吉◯みて育った関西人の端くれ。クスクスされるくらいなら、ここはひとつ笑いを取りたいなーて思って、ざまあされたとしてもおもろくなる様に、土台を作っとくことにした。
さて、今日は『あれ』をやる日や。今から壇上に上がる。横を見ると、必死に見つけた最高の相方、一学年上の女子生徒―――テト・ポアゲターテがふっと笑みを返してくる。
テトに笑いかえしながら、お互い気合いを入れるために声をかける。
「今日も笑いとったろな!」
「今日こそは大爆笑とるぞ」
気合を入れて、壇上へ上がる。ゲームでは、私がやられてまう最悪の場所。けど、今の私たちにとっては、「全てを出せる」最高の場所。
―――そう、今日は週に一度の、私たちの「漫才会」の日。
「「どーもー!!ファストフードでーす!」」
かっと照らされるライトが眩しくて、一瞬目を細める。目が慣れてくると、そこにはほぼ全校生徒かというくらいの人で埋まった体育館。
「きゃーー!」
「うぉーーー!!」
期待を込めて叫んでくれるその声に体がブルリと震える。私のいるべき場所はここなんやと改めて頭の中に釘で打ち込まれたような気がする。
喜びのあまり震えそうになる声を落ち着かせて、テトに話しかける。
「実はね、私最近悪役令嬢の出てくる小説にはまってるんですよ」
「見た目だけは悪役令嬢っぽいもんな」
「そんなわけで、私悪役令嬢やるからテトヒロイン役やってな」
「今ここで寸劇するのか?突然だな。まぁいいけ「おーっほっほ!」
「いやちょっと早いな、もう少しタイミング読めよ、やり直し」
「おーっほっほ!」
「よし、今度はタイミングオッケーだな」
「あらテトさん、何をしてらっしゃるの?」
「おぉ、うん、悪役令嬢っぽいな。えっと、今は……「何で雑草を食べてらっしゃるの……!?」
「いや待って、ヒロインどうした?ヒロイン雑草とか食わないから。イメージおかしいから。やり直しやり直し」
「おーっほっほ!……あら、テトさん、あなた……」
「フィレアさま……わ、私……」
「何でバニーガールの格好してらっしゃるの……?」
「いやおかしいだろ。フィレアの中のヒロイン観はどうなってるんだ。お前の中のヒロインはそんなセクシーな格好で王子といちゃつくのか。王族相手にさすがにアウトだろ」
「ヒロインやったらこんくらいはパンチ効いてないとあかんやろ?」
「いやヒロインに何を求めてるんだ。もっと普通の子。こう、貴族社会に疲れた王子が癒されるような普通の女の子だよ、ヒロインは」
「あら、テトさん」
「はい、なんですかフィレアさま」
「ツッコミの入れ方はもっとこう、この角度で、ずばっと、ですわよ」
「いや待て、何してるんだヒロイン?」
「普通の女の子やれってテトが言うから」
「……うん?普通の女の子だよな?ヒロイン。なんでツッコミの入れ方の話になる?」
「普通の女の子は、基本ツッコミの入れ方練習してるもんやん?」
「ここ殆ど貴族なんだから勘違い与えるようなボケは止めとけよ?普通の子は別にツッコミの練習とかしてないからな」
「えぇ……そうなん?」
「悪役令嬢ごっこやりたいならヒロインくらい把握しとけ。ほらやり直し」
「おーっほっほ!テトさ………
……し、しんでる……」
「ちょ、おい!面倒だからって殺すな!!」
「ネタ尽きた感あるわ」
「いやもうちょっと頑張ろうか?まだオチついてないからな?」
「ノリで書き出したこのネタに終わりがあると思って?」
「ないと困るわ」
「なんでやねん!どうもありがとうございました!」
「いや無理やりすぎるわ!何の意味のなんでやねんだ!そんな乱雑に終わらすなよ」
「やっぱ悪役令嬢難しいんやって」
「じゃあ一回入れ替わるか」
「じゃあ私がヒロインやんな。テトさま……
………し、しんでる……」
「だから面倒になったら殺すのやめろって!」
「「どうもありがとうございましたー」」
ぱちぱちぱち!とまばらな拍手が起こる。正直素人の考えた漫才だし、それに見本も何もないこの世界で作ったこれは、面白いとは自分でも言いにくいんやけど、
何故かこの微妙な漫才は、今学園でそこそこブレイクしてたりする。
なんでも、伯爵家の私が変顔をしたり、アホなことしてるのが面白いらしい。こんなんで笑ってもらえるとは、そう考えるとこの重苦しい立場もオイシイな、と思う。
「今日もがんばったなー!」
「でもあんまりウケよくなかったから、また研究するか」
早速今日の反省を私たちのお笑いノートに書き付ける。ちょっと笑えるところが少なかったな。もう少しギャグをいれなきゃあかんな。
私たちがノートを書いてると、視界の端に金髪が見えた。
それと同時に、すすすっとテトが場を離れる。その様子で、私はそれが誰なんかわかって、やっと顔を上げた。
「……フィレア」
「あ、王子……ご、御機嫌よう?」
「今日のマンザイも、俺は好きだったが………いつになったら、落ち着いて婚約者として振舞ってくれるんだ……?」
「そうですわね……MCできるようになって来たら、ですかね」
「えむしーってなんだ……まさかずっとこのマンザイ続ける気なのか……」
王子が頭を抱えてるが、好きなものは好きだからやめろと言われても難しい。それに、どうせ本物のヒロインがやってきて、この座は奪われて、家から追い出される可能性もある訳やし、手に職つけたいって気持ちもある。
「もうちょっとだけ遊ばせてや」
せめて、ヒロインが来るまでは、幸せに自由に暮らしてたいんや。そんな気持ちをこめて、王子にふにゃっと笑いかけた。
「……くそっ、かわいいなっ…………ちょっとだけ、だからな」
「?いまなんて……」
前半の声が小さくてうまく聞き取れなかったんやけど、なんか許可もらったし良しとしようと思う。
実はヒロインは本場関西の人で、その上某お笑い学校卒で、実は死ぬ間際にブレイク直前だった、とかだったりして、お笑い方面で一波乱あったり。
ヒロインのお笑い講義に夢中になる主人公に、王子がついヒロインに嫉妬したり。
ヒロインのお笑い講義の受講者が増えていって、ぷちお笑いブームができたり。
たぶん続かない