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掌編作品(1~4000字)

帰省。

作者: はなうた
掲載日:2014/08/27

 去年に書いて放置していた掌編をなんとかまとめてみました。

 私の掌編第二十六作目です。



 私は、一年ぶりに故郷へ戻ってきた。


 妻や子供たちも私の帰りを楽しみにしてくれているだろうか。


『おかえりなさい……アナタ』

『パパ~! おかえりなさ~い!』


 む、いけない。

 迎えてくれる二人を想像するだけでもつい顔は綻んでしまう。


 そして、あと一人……。

 喧嘩別れしてしまったままの、我が弟のことが少し気がかりだった。


 当時はつい意地を張りぶつかり合ってしまった。

 だが、私は単にアイツの自由な性格が……頑固な私には真似できないアイツの生き方が、羨ましかっただけ。

 格好悪いもので、私は私にないものを持っていたアイツに、嫉妬していただけなのだ。


「アイツにも謝っておかないとな……」


 そう呟いて、つい笑ってしまった。

 一年も前の出来事……そもそも気に病んでるのは私だけかもしれない。

 小さい頃からしょっちゅう喧嘩はしていたが、アイツの性格は羽毛のように軽い。もしかすると、喧嘩したことすら忘れてしまっているかもしれない。


 まあ、あまり考えても仕方ない。気楽に家路に就くとしよう。


 そう気持ちをいい方向へと切り替えようとした。


 ……が、それは今の状況によって再度方向転換させられてしまう。


「うわ……っ、ちょっと貴方、いきなり押さないでいただけますかな?」

「あん? こんなギュウギュウじゃ仕方ねぇだろうよ!」


 後方にいた中年のオヤジと軽く毒づき合う。そして視界を巡らすまでもなく、周りには大勢の人が立っていた。

 まだ立って間もないような子供から、今にも召されそうなヨボヨボの老人まで。おそらく私と同じ目的を持った人間たちが周りにわんさかといる。それに、あまりの密集具合に足だけでなく上体もロクに動かせやしない。


 そう。私は今、帰省ラッシュのど真ん中にいた。


 久々の故郷にしか思考がいっていなかったせいか、まさかこんなにも帰路が混雑するとは考えてもみなかった。もう少し計画的に行動するべきだったと、今更恥じる。


「……ぬお!?」


 ふと、私の膝ががくっと崩れる。が、なんとか地面に膝をつくまえに踏ん張ることができた。

 いったい何が起こったのかと咄嗟に振り返ると、先程のオヤジがいた。


「わり、兄ちゃん。膝カックンしちまったぜ……ワザとじゃねぇんだ」


 片手を挙げて肩をすくめるそのオヤジの顔には、それはそれはいやらしい笑みが浮かんでいた。

 おのれオヤジ。この状況をいいことに……。後で覚えておけ。


「ううん……きゃっ」


 腹の中でオヤジへの仕返しの方法を考えていると、突然若い女性がこちらへ飛びかかってきた!

 押し合いへし合いの渦にはじき出されたのだろうか。そんなことを思いながら、私の視界は真っ暗になる。


「ぶぶっ……!」


 そして、私はその豊満な二つの温もりに顔をうずめるに相成った。


「……あ」

「ぶぼぼぼ……」


 そのまま、永遠に近い時が過ぎゆく。

 ……本当の天国とはこのようなことを言うのではないか、などとは決して思っていない。


 数瞬後、女性は慌ててその身体を離し立ち上がる。そして私に向かってぺこぺこと頭を下げてきた。


「ご、ごめんなさい……っ、わたしったら……!」

「いえいえ、ごちそ……おほん、こちらこそ。……お怪我は?」

「はい、おかげさまで大丈夫です、すみませんでした」


 その幼顔を真っ赤に染めながらうしろを向く女性。


「くそ、良い思いしやがってよ……」


 私の後方ではオヤジが恨み節を吐いていた。


 ま、まさか……。

 このオヤジ、こうなることを見越して、ワザと……?


「オヤジ……ぐっじょぶ」

「ああ!? なんだテメェ! 喧嘩売ってんのかぁ!?」


 照れ隠しとは、初心なオヤジだ。

 私はこの状況を提供してくれたオヤジに感謝しつつVサインを送り、心の片隅で妻に謝罪した。



 ◇ ◇ ◇


 帰省ラッシュの洗礼を受けつつもどうにか実家に辿り着く。

 だが、家の中はしんと静まり返っていた。

 おや、どうしたのだろうか。

 娘はさきほど外で友達と遊んでいるのを見かけた。だが今は妻の声も聞こえてこない。買い物にでも出かけているのだろうか。


 とりあえず、私は玄関を上がるとすぐ仏間へと足を運んだ。


「――ん、――じさ――……」

「――――か、――……」

「……おや?」


 仏間には先客がいるようで、戸の向こうから微かに二人分の声が聞こえてきた。

 うちは私と妻、そして娘の三人家族だった。なら一人は妻で確定だろう。

 もう一人……心当たりがあるのは……


「あいつか……」


 大体の予想はつく。ちょうどいい。ちょうど会いたいと思っていたところだ。

 私はそのまま襖を開け……


 ……ずに、そのまま仏間の方へとすり抜けた。


 そう。私はもう既にこの世に身を置いていない人間なのである。


 今日は盆。

 天国からはるばるこの地へ、妻や娘の笑顔を見るために帰ってきたのである……


 ……はずだったのだが。


「な――」


 こ……これは……いったい……


 どういう……ことだ?


「あんっ……賢治さん、だめぇ……」

「いいじゃないですか、少しだけ……」


 目の前にいたのは妻と我が弟。

 だが、二人の衣服は存分にはだけ、その身体を密に重ね合っていた。


「ちょっと……賢治さん……ん……ここは仏間ですよ……罰当たりですぅ」

義姉ねえさんが、あまりにふぅぅつくしいのが悪いんだぁぁ……!」

 

 まるで近所の夫婦犬「ロミ男と樹里絵」のような盛り上がりっぷり。

 二人は仏間で……しかも私の遺影の前で情事にふけっていたのだ。


「う……嘘だ……、これは嘘である……!」


 信じられない……とても、信じられない。

 ……い、いいや! これは、アレだ! お盆ドッキリだ!

 プレート、プレートはどこだっ!


「あぁぁれぇぇぇ~」


 ち、ちがう! 私は……私は妻のそんな笑顔が見たいのではない!

 てか私にもそんな嬉しそうな顔見せたことないのにぃぃ!


「義姉さん……オレのM72を喰らえぇぇぃ!」


 うるせえよ賢治! お前のそんな粗末なものなど、私に比べたら……

 ……畜生がぁぁ!!


 だ、誰か、これは夢だと言ってくれぇぇ……!!


 だが、私の願いは無残にも散り、現実はさらに追い打ちをかけてくるのだった。


「もう……賢治さんったら……もう夫婦になったんですから、義姉さんじゃありませんよ?」

「ああ、それもそうですね……じゃあ、オマエ……」

「あ……アナタ……」


 あ……

 あはははは……


 実におかしい……!

 これほどおかしなことがあるとはな……!


 ふと、滲む視界の中に妻の姿が浮かぶ。笑顔で手を振ってくれる愛すべき人。


『アナタ』


 そう優しく呼んでくれたあの夏は、とうに過ぎてしまったのだな……。

 今目の前にいるのは、もう……別の人間なのだな……。


「オマエ~!」

「アナタぁ~!」


 私の目の前で熱っぽく視線を交わせる二人。彼らが心から愛し合っていることがひしひしと伝わってきた。


 ……ふむ、そうか。

 わかったよ……。


 この二人はこうしてまだ生きている。そして、これからの未来がある。反して私は故人だ。

 この事実はどうにもできない。私も大人だ。いつまでもこの世に固執していられない。


 だから。

 だから、せめて。

 この二人へ、私からの最後の言葉を贈ろう。

 届け! このおもい!


 そうして、私は力いっぱい叫んだ。







「うらめしやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」



 最後までお読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 他の方の感想とは逆になってしまいますが、死者であることが途中までまったく示されていないところが良いと思いました。長さ的に、変に伏線を張らないのが正解かなと。 [一言] このテーマで、暗〜く…
[良い点] NTR物かと思いきや、コメディーだった [気になる点] 自分の期待を裏切ってくれたことw [一言] お疲れ様でよろしいですか? 分かりませんが、とにかくこの作品読ませさせて頂きました。 …
[一言] コメディタッチでありながら悲しい真実。 考えさせられるラストでした。 電車の中での出来事に違和感を感じさせる伏線を入れておけばもっとしっくりくると思います。 さっきの足を踏まれたけれど、俺…
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