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裸足のまま、素直なままで

「ねぇ。裸足で歩こっ。」と海岸でユミは言った。


夏休みに入ってまだ間もない七月の朝、僕はユミと旅に出た。


まだ僕らは、若くて来年からは、大学に通うだろうという時だった。


突然、塾の帰りにユミから旅に行こうと言われ、リュックに、服や本、少しだけの金を詰めた。一応、親の引き出しから自分の通帳とハンコも掴んで入れた。


この旅は長くなるのだろうか?親にはさよならを言わず深夜、僕は手紙を残した。


*母さん、父さん


しばらく友達と受験勉強します。多分、夏休みは帰れないから。


アキトより。



こんな感じで書いたから、多分友達って誰だろうと思うだろう。そして、電話をかけまくり、母さんはあきれるんだ。僕なんて、あまり兄貴より心配されないし、デキソコナイだから、警察になんか捜索願い届けないだろう。



兄貴は大学生だけど今でも、やれ門限とか、車で送り迎えとかなんやらで、手厚い過保護だ。兄貴じゃなくてよかったと痛感する。


ユミと僕は同じ高校で、クラスも同じで小学生から仲がよかった。

だけどカノジョじゃないし、ただのクラスメイトだ。ユミは何故か恋愛相手にはならない。近くにいる存在だけど、女として見たことがないのだ。


こうして、砂浜の上を裸足できゃぁきゃぁはしゃぐユミは、可愛いとは思う。


恋人じゃないけど、白くて細い腕と小さな口元が僕は好きだった。


「僕たち何処へ行くの?」と不安で聞いた。興味本位でついて行くと決めたが、僕がO.K.とだしたのはもっと深い理由があった。



それを説明するにはユミの生い立ちを紹介しなくてはならない。


ユミは、僕と同じ町の中では一番のお嬢様で、彼女の父親が会社とスーパーを経営している。


だからちょっと有名人で、だけど、彼女はつい最近に仏壇からある書類を発見してしまった。これが僕たちの旅のきっかけだ。


ユミはあるひょんなことから仏壇の引き出しを開けて、通知表と思って開いた紙には小さく家系図が書いてあり、ユミという文字の下には『養子』と書かれてあったんだと、僕に話した。



たんたんと、顔の表情を変えないで話す彼女だったが、僕に話した後涙を目に浮かべ、言った。


「もう家になんか居たくない」


「旅にでたい。」と


同情した僕は何故かついていくよ。といった。当てはあるのか分からなかったけど…。



そして、今日になりついにユミに当てはあるのか聞いた。



彼女の答えは、意外にもあっさりと「あるわよ!」だった。



「だけど、まだ迷ってる。そこまでアキトに付き合ってもらうかどうか…」


「え?どうして、夏休みだろう?いいよ。あんな家じゃユミを一人にできないし。」と僕は答えると、ユミの目から涙が流れる。


なぜ僕がまた旅についていくようになったかという、理由その2を話そう。


彼女が涙を流しながら家に帰れないのは、その金持ちの父親が養子という関係と娘にバレてから、肉体的にユミに迫ってきたからだ。

「ユミ、おまえとは親子じゃないと分かったぶん、ここにいたけりゃ俺の愛人となれ!十八年も可愛いがったんだから褒美として捧げてもいいだろうが…」と言われたそうだ。


その話のあとに無理矢理、愛撫とやらされたらしい。


いくら養子であれ娘は娘なのにひどい話だ。それから、彼女は僕の塾の出口でわざわざ僕を待ってて、全部話してくれたのだ。



荷物を手にし、無表情で魂が抜けた目で僕の名を呼び「アキト…」と黙りこくり、人影のない道裏でゆっくりと話てくれた。



それから、四時間僕らは、海岸沿いを歩いて隣りの町の駅まで来たところで、ユミがいきなり…


「裸足で歩こうっ」と僕の手を引っ張り、砂浜へ行くことになったのだ。


まだ朝の五時だったから人はいない。


行く当てはまだ教えてくれない。きっと長い旅になるのだろう。


はしゃぐ彼女は涙をはらって笑顔だ。久し振りに見た彼女の可愛い笑顔に僕まで笑っている。



彼女の辛い気持ちと不安があるけれど、晴れた時の青空みたいだ。


僕はユミが好きなのかなぁと思う。


ユミは、僕のことをどう思ってるんだろう?



ユミは、急に話始めた。「アタシには、小さい時からお姉さんって呼んでるお手伝いさんがいたの…」


確かに僕もなんどか見たことがある。若く見える三十すぎくらいの人だ。


「あのお姉さんってね、アタシが中学上がったら居なくなって、ちょうど弟が…あっ血が繋がってないけど、ケイタが生まれてから一年した頃に実家に帰っちゃったの」


そう話すユミはどこか遠くを見つめてる。


「それから何通か手紙が来ててアタシ思ったの、あの人ママだって、だからあの人の家に行くの!」


ユミの顔にはまた笑顔を消す不安が陰った。

「何処なん?ここからは歩いてなんか行けへんやろ?」

僕は興奮すると何故か関西弁になる。


「うん、松田町っていうところで、隣の県だから電車で五時間…」

僕は迷った。お金はたった手持ち三千しかない。多分、貯金があるから足りるけど、そこで彼女の母親らしき人物の家に居住われるだろうか?


「僕なんかいってもええんか?」


ユミはキッパリ言った。「アキトがいなきやだめだし、いて欲しい。ママには頼んで夏までいっしょにいよ!」


それから、僕らは夕方まで砂浜にいて次の日に特急で行こうということにした。


夕日が沈む頃僕はまた自問自答した。

『ユミは僕のことなんて思ってるのか?』

『でも恋人じゃないよな』


すると、手が急に暖かくなった。僕の手にユミが手を絡ませてきた。


肩にもたれて来てて、眠りそうな目をしてる。『恋なのか!?』


と心が高まる。


そうだ…僕は好きでユミも好きなんだ。素直にそう思う時だった。

思い返せば、小学生の時、僕がいじめたのも好きだったから。

中学に入ってから、夏休みとか毎日遊んで、図書館で涼んだっけ?

アイスとかジュースでユミの口つけたの僕が勝手に取り上げてたよな。間接キスだとかなんとか怒られて…


とか思い返していたら、口と口が重なりあっていた。ユミが僕に口づけした。夕日が沈む海辺でユミとのファーストキス。長かった僕らの友達から恋人への証だった。



そこから、人のいない海に入って体を洗って、僕らは一日外で寝た。


手をつなぎながらエスカレートして行く僕らの想い。両手で抱き締めながら、ユミの白い胸に手をつけた。


醜い男に犯された後でユミは平気沙汰ではないだろう。だけど、僕らは若くて体が無性に反応してしまったのだ。


暖かくなる体、僕は初めてではなかったけど今までの中でも激しく愛情が沸いた。


ユミのスカートの下も脱がして、僕は彼女に触られながら、お互いの手で確かめあった。


無防備な体と体がくっついて、砂が入らないようにタオルを敷いた上でユミと一体化した。


ユミは月明りの中、綺麗に女性として見えた。僕らは必死に悲しさを乗り越えようとした。


かすかに聞こえる彼女のうなり声が段々弱くなり、痙攣しながらいっぱいの愛が流れた。


外で寝たのは初めてで、無防備なのも初めてだ。これからどうなるんだろうかなんて考えなかった。それに今があればいいと思った。


僕らの旅はこれから始まった。長くて、終りが途切れることがないと思っていた。


気付いたら僕は今あの時の海辺で、蝉の音を聞いていた。十年という時をすぎても愛を交わした場所には、まだ古い民宿が老築していたが、やっていた。



ユミを思い出すのには、まだ早いし、もったいないけど、あの頃の素直なまま好きだったユミを思い出したい。


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