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 「よろしくおねがいします!」

 間宮は無事に仕事場へと間に合い、紹介を済ませた。

 指定されたデスクへと荷物を降ろす。パソコンをつけて椅子に腰掛け、早速与えられた仕事を始める。

 「どうも。俺、馬場茂。わかんないことあったら聞いて?」

 隣のデスクの男性が声を掛けてきた。見た目は普通の人だが人懐っこい笑顔を浮かべて間宮をみる。今時に伸ばした髪の毛を上手にセットして前髪をワックスで上げている。大きな瞳、表情や動きが子供のようだ。

 「あ、ありがとうございます。」

 間宮も釣られて笑顔を浮かべて軽く会釈をする。再び画面へと顔を戻せばキーボードをカタカタと鳴らして。

 「ねえねえ、間宮君ってさ、いくつ?」

 相変わらずニコニコと笑っている馬場が話しかける。間宮は特に鬱陶しいと思うこともなく、顔を上げ馬場へと笑顔を浮かべて答える。

 「俺は二十五です。」

 答えると馬場は驚いたように口を開け笑う。

 「あは、同い年だ。もっと若いかと思ったのに」

 馬場は嬉しそうに笑う。間宮は言うと思ったその言葉と様子をみてまた微笑む。

 「そうだったんですか、俺もびっくりしました。」

 同じように笑って言葉を返すと馬場は「よろしくね」といって仕事に戻った。間宮も返事をして仕事に戻る。


 「ご飯食べなーい?」

 昼食の時間。それぞれがオフィスを後にして、仲間と仲良く話をしながら食堂へと向かう。そんな中、馬場が間宮へ話しかけた。右手には財布を持って首を傾げる。

 「あー、そうですね。」

 間宮も鞄から財布を取り出し笑顔で答えた。馬場は嬉しそうに笑って立ち上がる。座っていた時はわからなかったが、立ち上がると思ったよりも身長の低い馬場。そう思いながらも同じように間宮も立ち上がると馬場は間宮よりも頭一つ分くらい低かった。二人は仲良く歩きながらオフィスを後にした。

 「俺、カレーうどーん」

 食堂へとついたなら食券を買いながら呟く馬場。間宮も馬場に続いてB定食の食券を買った。食堂のおばさんへ食券を出したなら順番を待つ。

 周りを見渡せば椅子に座った社員達が楽しそうに談笑している。今回の会社は前の所よりやりやすいかもしれない、そう間宮は思った。前の会社が特別悪かったわけではないが、雰囲気的にはこちらの方が明るい。社員を縛り付けるような社則もない、部下を足蹴にする上司もいない、おまけに隣に立っている馬場のような社会人にはみえない人だっている。大学か?この会社は、と間宮も疑ってしまうくらいだ。

 「あ、きたよー」

 馬場が注文したカレーうどんを受け取りながら間宮に視線を向ける。

 「あ、はい」

間宮も注文したB定食を受け取る。二人は席を探し、窓際の端の席をみつけたなら食器を置いて向かい同士に座る。

 「ねえねえ、間宮君ってさ、恋人いるの?」

 カレーうどんを一口食べた馬場が尋ねる。飲んだ水を噴出しそうになる間宮。無事に飲み込んだ間宮は目を丸くして答えた。

 「い、いないですよ。」

 定食のサラダへと箸を伸ばしながら答える間宮。馬場はその答えに驚き、間宮の様子に笑って、もう一口食べた後に続ける。

 「本当に?絶対いると思ったけどなー。あ、もしかしてこっちくるために別れたとか?」

 ヘラヘラと笑いながら箸で間宮を指す馬場。サラダを口に入れたばかりの間宮はもぐもぐと口を動かしながら首を横に振った。やがて飲み込み言葉を返す。

 「いえ。僕、彼女って作ったことないんです。」

 苦笑いしながら答えた間宮は定食メインのコーンコロッケに箸を指す。

 「ええ!?もしかしてこっち?」

 間宮の発言に驚いた馬場は、苦笑いで右手を反らせて顔に当てた。

 「ち、違いますよ!」

 間宮はその行為を否定してコロッケを口に放り込んだ。よく噛んで飲み込んだ後、言葉を続けた。

 「僕は、健全な成人男性です。彼女を作らないのはただ・・・好みの人がいないだけで、別に・・興味ないとかそういうんじゃなくて・・・」

 段々と顔を赤くしながら言えば、それを誤魔化す様にコップに入った水を一口飲んで。

 「へえ、そうなんだ。そういうことか。」

 納得したように何度か頷く馬場。その表情はなんだか楽しそうで、間宮は軽く睨み付けた。

 「そ、そういう馬場さんはどうなんですか?」

 そう尋ねれば残りのコロッケを大口を開けて放り込んで。

 「俺はねー、先週別れて、一昨日合コンして美女お持ち帰りして、今はフリー」

 可愛い顔してとんでもないことをいう馬場。馬場の言葉にコロッケを飲み込むのも忘れて口を開けて驚いて、口からは噛み切れなかったコーンがボロっと落ちた。

 「あは、汚ーい。」

 自分の発言になんとも思っていない馬場は笑いながらティッシュを差し出す。間宮はティッシュを受け取り、コロッケを飲み込んで、落ちたコーンをティッシュで拾う。

 「馬場さんモテるんですね」

 ティッシュを丸めて、嫌味ったらしく呟いた間宮。

 「そんなことないよー、ていうか間宮くんの方がモテるんじゃない?」

 否定もできない自分がいる間宮は唇を軽く噛んだ。相変わらず馬場は楽しげに笑いながらカレーうどんを食べる。

 「じゃあじゃあ、気になってる人とかは?」

 どうしてこの人は恋話が好きなんだろう、そう間宮は心で尋ねたが、カレーうどんを頬張る相手に聞かれれば少し考えて、最初にでてきたのは何故か今朝ゴミ出しを手伝った隣人名波だった。自分でもわからず首を傾げるが、これが気になるという事なのだろうか、だとしたらそうか。なんて一人で脳内会話を繰り広げて馬場に答える。

 「あー、えっと、多分います。」

 答えた後に最後の添え物のプチトマトを口に放り込んだ。馬場は既にカレーうどんを完食していて、箸を置いて間宮の答えに興味津々な表情をした。

 「え?誰々?どんな人?どこの人?会社内?それはないか、今日来たばっかりだし、あ!一目惚れとか?」

 女みたいに質問をしてくる馬場に、プチトマトを喉に詰まらせそうになりながらもしっかり噛んで水で飲み干した間宮は一息置いてから質問に答える。

 「えっと、家のお隣さんなんですけど、一目惚れっていったら一目惚れ・・・って僕まだ惚れてなくて!」

 思ってもないことを言って自爆してしまった間宮は頬を赤くして馬場に困った目を向けて。

 「あはっ、自爆―、超馬鹿」

 間宮の反応に手を叩き、爆笑しながら間宮を指差したり腹を抱えたりする馬場

 「わ、笑わないでくださいよ!まだ惚れてなんかないし、名前くらいしかしらないし、職業だって・・・・なんも知らないんですから・・・」

 爆笑する馬場に真っ赤な顔で膨れて話す間宮。それでも笑い止まない馬場に呆れて食器をもって立ち上がり片付けに向かう間宮。

 「あ、待ってよー、ごめんって」

 へらへら笑いながら馬場も食器を持ち間宮の後を追いかける。

 「ごめんって。いやあさ、間宮君可愛くてさ、ついつい。」

 食器を片付けた二人はオフィスまでの廊下を歩く。馬場はあははと笑ってごめんを繰り返す。

 「可愛くなんかないです。」

 膨れて唇を尖らせながらズンズンと歩き続ける間宮。その後ろをちょこちょこと追いかける馬場。

 「自爆とか可愛すぎるもん、あ、僕男もいけるんだけど、どう?」

 後ろからとんでもない台詞が聞こえ立ち止まって、バッと振り返る間宮。そこには同じく立ち止まり、相変わらずのヘラヘラとした笑顔を浮かべる馬場がいた。

 「なにいってるんですか、男となんて・・・恐ろしい」

 そんな馬場に身震いをしてオフィスへと歩き出す間宮。

 「なんだよ、ひどいなあ。ねえ、お隣なんでしょ?押しかけちゃえば?」

 丁度オフィスへと着いた時、馬場が笑いながら言い出した。間宮は自分のデスクに着きながら眉を下げて返事をする。

 「押しかけるって・・・そんなことできるわけないじゃないですか。」

 デスクの上の資料を確認しながら間宮は馬場に言って。

 「えー、いけるよ。ピンポン押して、ドア開けてもらったら、そのまま部屋入れてってちょっと可愛く笑えば即成功。僕はいっつもこれでいけるけど?」

 隣でニコニコと話し続けた馬場。その笑顔が恐ろしいと間宮は心で呟く。

 「そ、それは馬場さんだからでしょ。こんなでかい奴がいったって誰も入れてくれないですよ。寧ろ通報されます。」

 パソコンを起動させながら馬場をみないように呟くと馬場はそーかな、と首を傾げながら自分の仕事へと戻った。


 「ふぅ。終わったー。」

 今日のノルマを無事に終わらせた間宮はパソコンをシャットダウンして、荷物を鞄に詰めて立ち上がる。

 隣のデスクをみると既に帰宅しているのか馬場の姿はない。記憶を辿れば、「終わったー。間宮君ばいばーい。」といって二ヘラと笑ってヒラヒラと手を振ってオフィスを出て行く馬場を思い出す。

 残りの社員にお疲れ様です、と頭を下げてオフィスを後にする間宮。会社の外へでて、腕時計をふとみる。時間は10時。夏のわりにはやはり涼しい夜。

 


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