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セツナリバース  作者: レッドキサラギ
第四話 新たなる衝撃
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001

 月曜日。

 おそらくこの日が一番日本人にとって辛い日なのだろう。少なくとも、僕は嫌いだ。

 何故なら、休日が終わり、平日となってしまい、会社に出勤しないといけないからだ。このご時勢、職業があるだけ良いのかもしれないが、それでも辛い物は辛い。


「おはようございまーす……」


 足取りが重い中、三階までの上り階段を上り、オフィスへの扉を開ける。


「あっ、おはようございます刹那さん」


 オフィスにいたのは、相変わらずの白衣姿の貴船ただ一人だった。


「あれ?藍川は?」


「藍川さんはまだ来てないですね……いつもは僕より早く来て扉を開けてくれるのですが、今日は僕が持っているスペアキーで開けました」


 藍川が遅刻とは、感じ的にはそんな事をするような奴には見えないのだが。

 むしろ、誰よりも早く会社に来るような、そんな感じ。


「もしかしたら何か用事でもあるんじゃないのか?」


「そうだとしても連絡はあると思うんですが……藍川さんに限って無断欠勤は無いでしょ」


「確かに……」


 じゃあ、何故まだ来てないのだろうか。もしかしたら、何か重要な用件でもあるのだろうか。

 まあ、僕が幾ら考えたところでそれは分からないのだろうけど。

 

「とりあえず藍川さんが来るまで僕たちは待機ですね。仕事内容が分かりませんし」


「そうだな」


 僕は自分の座席へと座り、一息吐く。

 

「そういえば刹那さん、体の具合とかは大丈夫ですか?」


「ん?まあ大丈夫かな……だけどやはり昔の事を思い出そうとした時には激しい頭痛がするな……」


「やはりそうですか……記憶を思い出そうとすると痛み刺激を発するように催眠波が妨害しているようですね。辛いかもしれませんが、それでも昔の記憶を思い出す努力は欠かしてはいけませんよ」


「ああ、それは分かってるつもりだ」


 手応えもあるし、実際のところまだまだ曖昧だが、自分が何者であるのかという事が理解出来るようになった。

 だが、まだまだしっかりとした記憶が戻ったとは言い難い。ここからが正念場といったところだろうか。


「そういえば貴船……ひとつ聞いておきたいのだが」


「何ですか?」


「お前は未来人なんだろ?だったら何故そこまで僕に加担する。僕は政府から目を付けられてるんだろ?だったらお前の身も滅ぼしかねないぞ」


「刹那さん、僕この前言ったでしょ?政府の犬にはなりたくないって……そうですね、この際ですから未来の現状を刹那さんに教えておきましょう。多分、記憶を思い出す手助けにもなると思いますし」


 貴船は深く椅子に座り込み、そのまま背を伸ばしてからリラックスをする。

 未来の現状か。僕が時空犯罪者になってまで対抗しようとした未来。その実態とは一体何なんだろうか?

 そして、そこまで対抗しようとした理由とは?


「……現状、未来の地球は崩壊したと言っても過言ではない状況にあります。石油はとうに底をついてしまい、海洋面積は広がり、元の陸地はほぼ沈んでおり、人工島の上で人間が暮らしている状況。そして津波災害やオゾン層の破壊によって強くなった紫外線をシャットアウトする為、島には外壁が覆ってあります。だから僕たちは本物の太陽を見た事がありません。いつも人口太陽の下で暮らしているんです」


「何というか……要塞だな」


「破壊された自然から人間を守る為の要塞と言っても過言ではありません。それもこれも、全て人間が招いた結果なのです。新たな資源エネルギー、エキサホルムを巡っての核戦争、その為の兵器開発と開拓……その全てが原因なんです」


「なるほど……」


 新エネルギーを巡った核戦争か。そうなると確かに、崩壊状態にはなるのだろうな。

 そう思うと、現代で生まれた僕は幸せ者なのかもしれないな。未来人には悪いけれど。


「そして未来が崩壊した今、ペンタゴンは新たな手段を選択したのです。……それがSP-五〇七計画の採択。通称、現代移住計画」


「現代移住……それはつまり未来人が現代に移住するっていうものなのか?」


「そうですね。ただ、それだけではありません。このSP-五〇七計画には裏があったんです」


「裏?」


「はい。未来人が移住するには、現代の人間は数が多すぎます。従ってペンタゴンは現代人を篩いにかけると最重要機密事項に書き加えたのです。もちろん、表の人間は移住するとだけしか聞かされていません」


「そんな事情があるのか……そいつは酷いな」


「おそらく一般市民の中から数多くの犠牲者が出るでしょう。官僚の祖先が篩いにかけられることはまずありませんから」


「何なんだよそれ……」


 これが……未来の実態なのか。だとしたら、さすがに酷すぎる。

 官僚が救われて、市民は救われない。そんな世界、絶対におかしい。


「……これが未来の現状なんです。未来では今、貧困層と富裕層の差別化が激しいんです。僕たちのいる未来は、あまりにも暗すぎるんです」


「…………」


 暗すぎる未来。聞いていて、あまり気分の良いものではない。

 そういえば、糸島もスラム街で野晒しにされたと言っていたな。これが未来なのか。思わず、失言してしまう。


「刹那さん、今の話は全て刹那さんから聞いた事なんです。ある任務が終わった後、僕にすぐにね」


「ある任務……何なんだよそれは」


「僕にも分かりません。知ってるのはおそらく、刹那さんと藍川さんだけです。といっても、今は刹那さんも憶えていないから、現状では藍川さんだけなのですが……」


「藍川がか……よりにもよってって感じだな」


「藍川さんは口を割る事はありませんよ。機密事項であるのならばなおさらです。あの人はそういう人ですから……あれ?メールだ」


 椅子の背もたれに寄りかかっていた貴船は、今度はパソコンの画面へと前屈みになり無言で読み始める。

 

「刹那さん、噂をすれば何とやらです。藍川さんからメールが届きました」


「何てメールだ?」


「……どうやら任務のようですね。昨日逮捕したはずの糸島彩が逃走したようです。藍川さんは未来の方を捜索している様なんで刹那さんには現代を捜索してほしいという文面です」


「糸島……昨日の奴か」


 かつて、僕と組んでいたと言い張った少女。丁度、話が聞きたかったところだ。


「僕は衛星探査機や未来からの情報を駆使して探しますので、見つけ次第連絡します!」


「よし、行ってくるか!」


 椅子から立ち上がり、僕はオフィスの扉を開けて階段を下り、炎天下の路上へと繰り出す。

 足取りは、割かし重くはなかった。


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