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セツナリバース  作者: レッドキサラギ
第三話 過去の自分
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003

「ぐうう……やはり頭は痛くなるのか……すごい性能だホント」


 起き上がると、そこは自分のアパートの部屋だった。

 サイボーグのはずなのに、酒に酔うどころか二日酔いまでするのか……人間と本当に変わらないな。


「えっと……あっ今日休みだっけ?ううん、何しようかな」


 カレンダーを見てみると、今日の期日は日曜日。会社は休みの日だった。

 しかし、会社が休みなだけでやる事は思いつかない。アパートでごろ寝……いや、これは駄目だろう。


「……そうだ!」


 立ち上がり、僕はすぐに出かける準備を始める。

 常に時間は限られている。ならば行動をするしかない。行動をするには歩くしかない。


「いざ行かん!記憶の模索の旅へ!」


 アパートを飛び出し、僕は町へと繰り出す。

 一秒でも早く記憶を取り戻したい。その一心だった。


「と、飛び出てはみたものの、一体どこへ行けばいいのやら……」


 行く当てなど、もちろん無い。記憶の旅とはいえ、その記憶は思い出せないのだから。

 見切り発車もいいところだった。


「……あれ?あれって確か……」


 歩いていると、見つけたのは喜多川さんだった。

 どうやらどこかへ出かけているように見える。腕には小さな花束を抱えていた。


「喜多川さんどうも」


 僕が声を掛けると、喜多川さんは僕に気づき、足を止めて振り返る。


「あっ、確か高梨さんでしたよね?どうも」


「どこかお出かけですか?」


「ええ、兄の墓に花を持っていこうと思って」


「へえ……お兄さん思いなんですね」


「いえ……今思うと兄には酷い事ばかり言っていました。あの時はその……ツンツンしていたもので」


 喜多川さんは花束を見つめながら、哀愁に満ちた表情を見せる。

 僕には分からないけれど、何か後ろめたい物でもあるのだろうか。


「ううん……あっそうだ、僕も行ってみてもいいですかお兄さんのお墓」


「えっ?別にいいですが」


 喜多川さんは呆然としている。

 それもそうだ、いきなり知人でもない人間が墓参りをするなんて早々ある事ではない。

 だけど、僕にはどうしても引っ掛かる事があった。

 僕の生前の名前、キタガワセツナ。そして、喜多川さん。苗字が全く同じ。

 あまりにも偶然過ぎる。まあ、今気づいた事なのだが。


「そういえば、藍川と仲が良さそうだけど……」


「えっ……ああ、実は兄があの会社に入ってて、亡くなった後にも色々してくれて……ホント、感謝しかありません」


「そうなんだ……」


 歩きながら、僕と喜多川さんは会話を続ける。

 セツナドライブにいる社員というと、藍川と貴船と僕だけ。しかし、その前にもう一人だけ社員が存在する。

 それが、昔の僕だ。

 もしかしたら、喜多川さんは僕の妹なのかもしれない……。


「……ぐっ!」


 直後、いきなり僕の頭に強烈な痛みが走る。二日酔いの頭の痛みとは違う、まるで何かを拒むような痛み。

 もしかして、これが貴船の言っていた妨害なのか。


「だ、大丈夫ですか高梨さん!?」


 喜多川さんは僕にそっと手を添えてくれる。


「だ……大丈夫……かな?……いや……ぐうう……」


 何かを思い出そうとする度に、発作的に頭痛が起こる。コイツに打ち勝たない限り、僕は僕を見る事が出来ない。

 ここは、気合と根性と粘りの勝負だ。


「ほ、本当に大丈夫ですか?何なら家までお送りしますが……」


「いや……大丈夫。連れて行ってくれ……」


「う、うん……」


 頭を抱えながら、何とか歩みを続ける。ここで折れる訳には……いかない。


「着きましたよ。ここに兄のお墓があります」


 喜多川さんの世話になりながら、僕は何とか目的地へと辿り着く。

 大きな敷地に、沢山の墓が並んでいる。おそらく、霊園なのだろう。


「えっと……あっ、あれです。あのお墓です」


 一般的な普通の墓には確かに喜多川家と記されている。

 これが、僕の墓なのか。自分で自分の墓を見るなんて、何だか不思議な光景だ。


「花をここに置いて……よしと」


 喜多川さんは抱えていた花束を墓前に置き、一礼をする。

 僕もそれに習って、黙って一礼だけをする。


「……せっかく就職出来たのに……もったいないですよね。あんなに頑張ってたのに」


「頑張る?」


「ええ……兄は実は一時期職業浪人をしていたんです。確か四〇〇件以上会社を回ったとか……それでやっと就職出来たのがあの会社だったんですよ」


「就職浪人……か……ぐっ!」


 何かを思い出そうとした瞬間、またも頭に激痛が走る。今度の痛みは、尋常ではない。

 もしかしたら、より深い記憶なのかもしれない。印象の、より深い。


「あの……ホントに大丈夫ですか?さっきからずっと頭を抱えてるようですけど」


「いや……昨日お酒飲み過ぎて……多分二日酔いなのかも……」


「二日酔いですか……そういえば兄もよくお酒飲んで帰って来ては、次の日二日酔いで気分悪そうにしてました」


「へえ……そうなんだ」


 そういえば貴船も酒豪だと言っていたな。とんだ飲んだ暮れだったという事か僕は。

 何だか、自分が恥ずかしい。


「あれ……もうこんな時間……すいません高梨さん。実は今日この後友達と遊ぶ約束をしているので……」


「あっ、そうなんだ。ごめんね唐突にお兄さんの墓に案内させてくれなんて言っちゃって」


「いえ……きっと兄も喜んでいると思います。ではまた」


 振り返り、喜多川さんは細い霊園の道を進んでいく。

 思い出す……とまではいかなかったが、記憶を取り戻す良い刺激にはなったと思う。

 しかし、これはあくまでキッカケになった事にすぎない。過去の自分を取り戻すのには、まだまだ時間が掛かりそうだ。



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