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セツナリバース  作者: レッドキサラギ
第三話 過去の自分
6/15

001

「さて、着いたわ。ここが現場よ」


 藍川のバイクに乗せて連れて来られたのは、セツナドライブから数十キロ程離れた場所にある、人通りの少ない交差点だった。

 夕方なのにも関わらず、その場所には全く人の気配を感じられない。車の気配すらも。まるでその場所だけ、時間が止まってしまったかのような錯覚すら覚える。


「ミッションの内容は分かっているわよね?」


「ああ……だが、これって僕がやらなくちゃいけない事なのか?」


「あなたにやってもらわないと困るわ。それに、わたしにもやらなければならない事があるのよ」


「そ、そうなのか……」


 言われるがまま、僕は貴船に渡された缶詰のような物を道路の上に並べていく。

 どうやらこの缶詰自体には何か仕掛けがあるようだが、果たしてどんな仕掛けが施されているのかを僕は知らない。


「じゃあわたしはここに時空犯罪者を誘い込むから……ここに時空犯罪者が来たら構わずそのボタンを押しなさい。いいわね?」


「ボタン……これか?」


「そうよ」


 缶詰と共に、貴船から渡されたリモコン式のボタン。もしかして、この缶詰と何か関係があるのだろうか?


「じゃあ、頼んだわね」


 藍川はヘルメットを被り、バイクに跨ると、エンジンを噴かせて行ってしまう。

 藍川が囮をするのに対して、僕はただひたすら缶詰を並べていくだけ。非常に簡単な仕事ではあるが、非常にやり応えの無い仕事でもある。


「とりあえず……こんなものか」


 僕は指示の通りに、全ての缶詰を並べ終える。

 この缶詰、本当に何が入っているのだろうか?ちょっと開けてみるのは……駄目だよな。


「あとはこのボタンを押すだけか」


 そんな事を考えていると、道路の向こうからバイクの排気音が聞こえてくる。一台は藍川の物かもしれないが、もう一台は……時空犯罪者だろうか。


「来たら……だよな。よし、タイミング勝負だ」


 僕はボタンに指を置く。フルスロットルで二台のバイクが近づいてくる。狙うはもちろん、藍川の物ではない後方のバイク。

 一瞬の勝負。


「……よしっ!今だ!」


 丁度缶詰の囲む場所に後方のバイクが近づいた瞬間、僕はボタンを押す。すると、一斉に缶詰の蓋が開くのだが、中からは何も出てこない。誤作動でも起きたか?

 だがしかし、確実に変化は起きていた。バイクに乗っていた時空犯罪者は急に頭を抱え始め、何故かバランスを崩して横転してしまう。


「な……何が起きてるんだ」


 思わず、呆然としてしまう。一体、何が起きてるんだ。


「……どうやらイノセントパルスの対策はしていなかったようね」


 すると、藍川はバイクを止め、ヘルメットを被ったまま倒れた時空犯罪者の下へ歩み寄る。

 時空犯罪者は未だ、ヘルメットを着けたまま頭を抱え込んでいる。


「糸島彩、これから本部に連絡をしてあなたの身柄を時間管理官に引き渡すわ」


 藍川は所構わず懐から銃を取り出し、向ける。ただしそれは拳銃とは違い、その形は現代の子供のおもちゃのレーザー銃のような形をしている。

 でも……何だろう……その銃が本当にレーザー銃である事を僕は知っている。何処で知った訳でもなく、ただただ憶えている。

 それに、この風景……何処かで見た事がある。初めて見たはずの風景なのに。

 この記憶は一体……。


「高梨君、あなたが彼女を拘束しておいてくれないかしら?わたしは時間管理官に連絡をしなければならないから」


「えっ?僕が?」


「あなた意外誰もいないでしょ?しっかり見張っておきなさい」


 藍川は僕にレーザー銃を渡し、離れた場所に移動して、携帯電話のような物を取り出して通話を始める。

 藍川が通話している間、僕は糸島を逃がさないように拘束しなければならない。かなり重要な仕事を任されてしまったな。


「……藍川はいないわね」


 突如、糸島は先程まで頭を抱えていたその手でヘルメットを外し、道端に転がす。

 茶髪のポニーテイルに、藍川とは対照的な幼顔。だがその眼差しからは、強い信念が伺えた。


「久しぶりねキタガワセツナ。と言っても、もうあたしの事なんて憶えて無いんでしょうけど……」


 糸島は鼻で笑い、座り込む。

 キタガワセツナ……そういえば藍川が言っていた気がする。それが僕の生前の名前だったと。

 という事は、もしかしたらコイツ、何か僕の事を知っているかもしれない。


「僕の事を……知ってるのか?」


「もちろん。まあ今のアンタは知らないけどね。そうね……コンビを組んでいたって言えばいいのかな」


「コンビ?僕と君が?」


「ええ。まさかスラム街で野晒しになってたあたしを拾うとは思わなかったけど、過去のアンタが考えていた作戦は……何て言うか……理に適ってて凄かったわ」


 作戦?一体僕はこの子と何をしていたんだと言うんだ?


「でも僕はセツナドライブの社員だ。僕は君達のような時空犯罪者を取り締まるのが役目のはず……」


「ふふん……確かにアンタはセツナドライブで働いていたわ。だけどね、それは上辺だけ。あの時のアンタはそうね……ペンタゴンから見たら最悪の時空犯罪者でしたでしょうね」


「最悪の時空犯罪者……だと?」


 何を言ってるんだこの子は。僕が時空犯罪者だなんて。

 僕は現代人であって、セツナドライブで働く普通の社員のはず。話がどうしても釣り合わない。


「困惑してるねぇ……まあ仕方ないでしょうね。奴等からは『そう説明されてる』だろうし、『その記憶しかない』はずだから。相手が不都合になるような物を残すはずが無い」


 糸島は僕を見越して小さな溜息を吐く。


「……僕はどちらを信じればいいんだ」


「さあね。それは自分で見つけなきゃルール違反でしょうよ?それに、あたしが正しいなんて言ってもどうせアンタは悩むんでしょ?だったら意味無いじゃん」


「まあ……それはそうだけどさ」


「正直言うところ、あっちが言ってる事も事実であって、あたしが言ってる事も事実なの。だからこれ以上反論も出来ないし、説明も出来ないのよ」


「どれも事実って……じゃあ何が事実なんだよ」


「あたしに聞かれてもね……それはアンタのここにあるんじゃないの?」


 糸島は人指し指で自分の頭を二、三回突く。つまり、僕の記憶の中……という事か。

 ますます自分が何者だったのか困惑してしまう。疑いすらかけてしまうくらいに。


「まあ答えが出る前にあたしは豚箱送りなんだろうけどね。それでもアンタが思い出してくれたんなら……あたしもこうやって表に出てきた甲斐があったってもんだよ。もう二年か……長かった。長過ぎたよ」


 満足気な笑みを浮かべた後、糸島は項垂れてしまう。

 この子は、二年間ずっと僕がこうやって復活するのを待っていたというのか。当ても無く、ただ待っていたと。

 それなのに僕はこの子が何者なのかを知らない。僕は……なんて馬鹿なんだ。


「待たせたわね高梨君」


 すると、背後から藍川の涼しげな声が聞こえた。もう連絡は終わったのか。


「後はわたしがどうにかしておくから、あなたはもう帰ってもいいわよ」


「そうか……なあ、一つ聞いてもいいか?」


「何かしら?」


「……僕はどうして死んだんだ」


「言ったじゃない、不慮の事故よ」


「だからさ……その不慮の事故ってのは何なんだよ」


「…………」


 藍川はしばらく黙り込んでいたが、次の瞬間、僕は藍川の言葉に愕然とさせられてしまう。


「あなたが知る必要性は無いわ。事故は事故、それ以上もそれ以下も無いわ」


 あくまで教える事を拒んでくる。

 やはり、何かあるのだろう。僕に言えない、不都合な内容がそこに。

 記憶を思い出す。そこに真実があるのならば、僕はその真実と向き合わなければならない。

 例えそれが、いかなる真実であったとしても……だ。 

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