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セツナリバース  作者: レッドキサラギ
第二話 次への瞬間
5/15

003

「ただいま帰ったわ」


「あっ、藍川さんに刹那さんおかえりなさい」


 ある程度空き缶を拾い集めた僕と藍川は、セツナドライブのオフィスへと戻り、そこで留守番をしていた貴船に出迎えられる。

 外の暑苦しい環境に比べ、オフィスの中はクーラーが効いており、まるで天国と地獄程の差がそこには展開されている。

 貴船の奴、僕と藍川が必死で猛暑の中缶拾いをしていたにも関わらず、こんな場所で涼んでいたなんて……何だか騙された様な気がしてならない。


「お茶はテーブルの上に用意しておきましたよ。あと冷蔵庫にはアイスもあります」


「おお、気が利くじゃん」


「二人が暑い中働いてきてるんですからこれくらい当然の事ですよ。じゃあ僕はちょっと作業があるので……」


 そう言って、貴船は椅子に座り、パソコンの画面へと顔を向ける。


「じゃあ遠慮無くいただくとするよ……あれ?よく思ったら俺ってサイボーグなんだよな?アイスとか食べていいのか?」


「飲食はしても大丈夫ですよ。一昔前のサイボーグみたいに水に濡れたら壊れるとかそんな事はありませんから」


「へえ……」


「ただ飲食をしたとしてもエネルギーにはならないだけです。味も感じられますし、満腹感も味わえる、それなりに充実出来ると思いますよ」


「そりゃすげえな……普通の人間と変わらないじゃないか」


「いえまだまだですよ……まだ人間には程遠いです」


 キーボードで何やら打ち込みながら、貴船は答える。

 貴船には貴船なりのこだわりがあるのだろう。一人の科学者としての、貴船としての完璧。

 その一歩として、僕が作られたのだとしたら、それはそれで僕が生き返った意味もあったというものだ。


「どうしたの高梨君。しみじみと何か感傷に浸るような顔をして」


「ん?いや、改めて僕はサイボーグなんだなって思ってな」


「それでも元の基盤は人間なのよ。人格を元から作るなんて、神様でもないわたし達には作る事は出来ない。例えどんなに科学が発達しようとも。もしそれが可能になった時、人間は人間でいられなくなるかもしれないわね」


「人間が人間でね……」


 何というか、感慨深い言葉だ。人間が神になれないように、僕のようなサイボーグやロボットも人間には決してなれない。

 だから僕も、もう人間には戻れない。どんなに足掻いたところで、今の僕はもう、サイボーグなのだから。


「でもそれを諦めたら夢も希望もありませんよ。人間行き留まってしまったらそこで腐るだけ。僕はその言葉を信じて日進月歩するのみなんです」


「……あなたらしい意見ね貴船君」


「これでも科学者の端くれなんで……一応言ってみただけですよ」


 すると、貴船はタイピングをする指を止め、パソコンの画面を見つめる。その眼差しには、真剣さが伺える。


「藍川さん……やはりこのデータそうでしたよ」


「そう……じゃあやはり相手も動き出したという事ね」


「おそらくそうですね……」


 二人の顔には深刻な色が伺える。貴船の調べていたデータに、何かあったのだろうか?

 だが、僕には何一つ理解できない。


「あの……何の話をしてるんだ?」


「…………貴船君」


「話した方が良いと思いますよ。どうせ後々分かる事ですから」


「そう」


 どうせ分かる事?一体何の事だ?


「高梨君、あなたを復活させたのには実は訳があるわ。この会社の主旨、もちろんあなたは憶えてないでしょ?」


 藍川は僕の方に振り返り、相変わらずの澄ました表情を見せる。

 この会社の……主旨?


「憶えてないな……ボランティア活動を主にしている団体とか?」


「それはもはや企業とは言えないわね。利益を得る事を目的に作られた組織、それが企業なのだから」


「そ、そうか……」


「このセツナドライブの企業目的、それは未来を正しい方向へと導く事よ」


「未来を……正しい方向に……か」


 聞いたことは無い。だけど、知っていた気がする。

 もう遥か昔の出来事のような気がするが、夕日の背景と、藍川の姿が思い浮かぶ。これは……誰の記憶だ?


「けれど、その未来を脅かそうとしている時空犯罪者が今、この現代に出没しているわ。あなたにはその時空犯罪者の確保を行って貰うつもりよ」


「ま、待て待て待て!話がいきなり過ぎるだろ!僕一人でその時空犯罪者を確保しろって言うのか?それは無理があり過ぎるだろ」


「もちろんわたしが多少はカバーをするわ。けれど基本は個別行動よ。二人で行動をすると相手にも見つかりやすくなってしまうわ」


「ううん……でも具体的に何をすればいいんだ?」


「それは貴船君の指示に従ってくれたら良いわ……けれど久々ね、こうやってあなたとミッションを行うのも」


「そう……なのか……」


 いつも澄ました表情をしていた藍川だが、この時は何故か、思い出に浸るような和やかな表情を浮かべていた。

 けれど、僕にはその時の記憶が無い。過去の僕は一体、どんなミッションをしていたのだろうか。自分で自分の事が分からないのが、辛い。


「……ごめんなさい。そういえば今のあなたには分からないのよね……余談が多すぎたわ。貴船君、早速ミッションの説明をお願い」


「分かりました。今回のミッションはですね……」


 そう言って、貴船が淡々とミッションの説明を始める。

 今の僕には、過去の自分を知る事が出来ない。だけど、いつかは思い出す事が出来るはずだ。

 だから、今は僕は、自分の出来る事を精一杯やっていかなければならない。何かをやっていく内に、それは必ず僕を知るヒントになるはずだから。


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