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セツナリバース  作者: レッドキサラギ
第五話 因縁の果て
13/15

001

「食らえっ!」

  

 先攻を取ったのは僕だった。僕は拳銃の引き金を引き、発砲する。だがそれはフェイクであり、本当の目的はその隙を狙って藍川からレーザー銃を奪う事にある。

 決着を着けるとはいえ、殺す気は無い。ただ、藍川には問い質さなければならない事がある。


「相変わらず甘いわね喜多川君。策がまるでなってないわ」


 すると、藍川は銃声に屈する事無く僕の腕を掴みかかる。僕の拳銃を弾き飛ばすつもりなのだろうけれど、そうはさせない。

 

「そうはいかねぇよ」 


 僕は拳銃を持ってる手とは反対の手で、藍川の腕を掴み、それと同時に足を引っ掛けようとする。

 拳銃を振り払う事を意識させ、実は足掛けで体勢を崩そうとする技。護身術くらい、僕だって身につけている。

 だが、その程度では藍川を倒す事は出来ない。藍川はそれに気づき、すぐさま僕の腕を放し、後方へと逃げる。


「……やはり一筋縄ではいきそうにないわね。つくづくあなたに護身術を教えた事を後悔するわ」


「あの時は苦労したな……何度お前に投げ飛ばされた事か」


「それはあなたに隙があったせいよ喜多川君。それはあの時だけとは限らないわ……今もよ」


 藍川は再びレーザー銃の銃口を僕に向け、それを照射する。光の速さの攻撃など、かわしようにもかわしきれない。

 だが、大前提として僕にレーザー銃は効果がない。僕は人間ではなく、サイボーグ。ボディはもちろん、鋼鉄で作られている。

 その程度の光線では、僕の体を焼き切る事は出来ない。


「……お前にしては致命的なミスだったな」


「ミスをしたつもりは無いわ。あなたの耐久度を試してみただけ。あくまで手段を一つ失っただけよ」


 藍川は涼しげな顔つきで答える。

 どうやら、強がりではなさそうだ。アイツはそんな事を言うようなキャラではない。


「手段を一つ……つまりまだあるっていう事か……」


「ええ。まあ、あまり出したくは無かったのだけどこの際仕方ないわ」


 すると、藍川はポケットから何やらパーツのような物を取り出し、それをレーザー銃に取り付け、再び照準を僕に合わせる。一体、何をするつもりだ。


「次は避けないと、あなたの体に風穴が空く事になるわよ喜多川君」


「…………!」


 その刹那、藍川のもっていたレーザー銃は強い電気を放ち、弾丸をぶっ放す。

 僕はそれを、何とか横飛びをしてかわすが、音速の弾丸は僕の背後にあった壁を容易に撃ち破り、瓦礫へとその姿を返す。

 攻撃力と共に、あり得ないほどの速度。こんな物をもろに受けてしまったならば、いくら僕がサイボーグだからといっても木端微塵に打ち砕かれるだろう。

 思わず、戦慄が走る。


「EML……物体をローレンツ力により加速して撃ち出す装置の事。現代では大型の物はあるそうね。まあ、俗に言うレールガンよ」


「レールガンって……マジかよ」


 僕は体勢を立て直し、藍川に対峙する。ここにきて、まさかそんな物を隠していたとは……相変わらず抜かりの無い奴だ。


「……ここまで厄介なあなたを、何故ペンタゴンが復活させたのか……あなたには分かるかしら?」


 唐突に、藍川は質問を投げかけてくる。


「……多分、僕のあの能力を目当てに……じゃないのか?」


「そう。エターナルリバース、全ての時空の記憶を平行して司り、その他にも確認されていない能力は数知れず存在している……何も記録を残さず土に返すには、あまりに惜しい能力だわ」


「……だから僕を復活させてサンプルにしようとした……そういう事か」


 僕の答えに、藍川は黙って首を縦に振る。

 だけど、ペンタゴンとしては僕の記憶は厄介で仕方ない。だから消去し、思い出せないように催眠をかけた。

 おそらく奴等の事だ、思い出すキッカケになりそうな物は全て消し去ってしまおうとしただろう。物証から、人の記憶まで……全てを。

 だが、奴等の詰めは甘かった。実質、未来と麻子ばあちゃんは僕の事を憶えていたし、糸島が僕のメモ帳を隠し持っていた。

 奴等のボロが重なりに重なり、僕の記憶は戻った。喜多川刹那としての、完全な記憶が。


「ペンタゴンはあなたをサンプルにしようとし、SP-五〇七計画に利用しようともした。記憶が無い人間ほど、操り易い物は無いから」


「……そいつは酷い話だな。やりたい放題しようとしやがって……許せねぇ……」


「……まあ、あなたがペンタゴンを恨んだところで何の支障も無いわ。あなたはここで、わたしに捕まる運命なんだから」


 躊躇無く、藍川は僕にレールガンの銃口を向ける。

 どうやら、話し合いでは蹴りはつきそうにないな。藍川を倒す勢いで戦わないと……僕がやられる。


「悪いが藍川……僕もここで捕まる訳にはいかないんだ。現代を未来人の都合で易々と渡す訳にはいかない!」


 拳銃を構え、僕は藍川に向かって射撃する。

 今度はわざと外すなどという甘い事はしない。しっかりと、藍川に照準を合わせ、引き金を連続して引く。

 だが、藍川は走ってそれを避けてみせる。隙の無い、完璧な動きで。


「手加減はしないわ……殺す気で行かせて貰うわよ!」


 藍川のレールガンから、閃光と共に弾丸が発射される。

 狙いは僕……ではない!僕の足元か!


「くっ……しまった!」


 気づいた時にはもう遅い。音速の弾丸は僕の足元の路面を破壊し、足場を無くす。

 これでは、次の一発をもろに食らってしまう。それだけは絶対に避けたい。

 僕は藍川の照準を散漫させるため、射撃を繰り返す。それと同時進行で、崩れた足場からの脱出を試みる。


「喜多川君、その程度でわたしの射撃が鈍るとでも思ったの?もしそうなのなら、読みが甘いわね」


 藍川はかする事も無く、全ての弾丸を避けてみせる。一発一発、掻い潜るように。

 とても人間技とは思えない。


「決まったわ」


 藍川はレールガンから弾丸を発射する。狙いは言うまでも無く、僕だ。


「ぐっ!!」


 地面が爆発し、吹き飛ばされる。間一髪で直撃は避ける事は出来たが、爆風に巻き込まれてしまった。


「……運が良いわね。あの状況で回避がするなんてなかなか出来るものじゃないわ」


「く……そ……!」


 何とか立ち上がり、僕は足をふらつかせながらも拳銃を構える。

 サイボーグであるが故に、骨折や打撲は無いにしろ、痛みやそれなりのボロは出てくる。体力的にも、限界は既に来ている。


「その状態で、まだ対等に戦えるのかしら?立ち上がるのもやっとのようにわたしには見えるけど」


 藍川はレールガンを構えながら、僕の方へと近づいてくる。

 

「まだ……だ。まだ……やられる……か……」


 僕は震える手に力を入れて、引き金を引く。

 コントロールなど、あったものじゃない。弾丸は藍川から大きくそれてしまう。

 拳銃からの反動に絶えるのがやっとだった。

  

「……チェックメイトね」


 藍川は駆け出し、僕に接近する。確実に、僕を取り押さえるつもりだ。

 それでも……諦めたくない。最後の最後まで、食いついていきたい。


「……食らえ……!」


 接近してきた藍川に、僕は三回指を擦り合わせ、人指し指のライトを点ける。

 目をくらませて、接近戦で逆転を試みる。

 

「……見苦しいわよ喜多川君」


 だが、やはり無駄な抵抗でしかなく、藍川はレールガンを構えながら、僕の拳銃を持っている手を掴み取り、拳銃を弾き飛ばす。

 勝負の結末は、もう見えていた。


「喜多川君、あなたの負けね。記憶は取り戻した様だけど、まだまだエターナルリバースを使いこなせていない。自分の潜在的な能力は、使いこなせないと意味が無いのよ」


「…………」


「……あなたとは長い付き合いだったけど、これでもう終わりね」


 藍川はレールガンのグリップを握り締め、背後へと回り込む。


「さようなら……」


 その一言を皮切りに、藍川はレールガンの銃口を僕の後頭部に当て、引き金を引く。

 その瞬間、僕の視界は暗み、全身の力が抜け、アスファルトの路面へと倒れこむ。

 そして僕は、眠るように気を失ってしまった。


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