002
「捜すとは言ったものの、どこにいるんだよ……」
セツナドライブのオフィスを出てもう一時間は経っただろうか、糸島の姿は全く見当たらなく、貴船からの情報も来ない。
考えてみれば現代を捜せと言われても、何処にいるのか検討もつかない相手を現代の、しかも限りなくある範囲を捜せなど無茶すぎる。
サイボーグであるためか、喉は渇く事は無いが、どんどん体力が削られている実感はある。ひょっとしたら、充電が減るたびに疲れが増すようなシステムになっているのだろうか。
「ん……これは……」
当ても無く、無意識の内に辿り着いたのは木造建築の古臭い建物のある場所だった。
看板には、古臭い文字で赤地商店と書かれてある。
「赤地商店……」
何だか、懐かしい感じがする。でも僕はこの店を訪れた事など、一度も無いはず。
もしかしたら、以前の僕の記憶なのかもしれない。それにしては、不思議と頭が痛くならないけれど。
「とりあえず……入ってみるか」
扉を開き、店内へと入る。
駄菓子におもちゃにゲーム機までも並んでおり、店の中は物に溢れていた。
「いらっしゃい……えっ!?」
僕の姿を見て驚いたのは、会計場所の椅子に座っている一人の白髪のおばあさんだった。
「も……もしかして……刹那君かい?」
「えっ?確かに僕は刹那ですが……」
「……いや、確か刹那君は二年前に亡くなったはず……じゃあ君は一体……」
「高梨です。高梨刹那って言います」
「高梨……おお、これはこれは……どうやらわたしの早とちりだったようだねぇ。ごめんなさいねぇ……」
おばあさんは椅子に座ったまま、頭だけを下げる。
「いえいえ……あの、あなたは?」
「わたしかい?わたしは赤地麻子。この商店の一応店長をやっとるんだよ」
「赤地さんですか……」
初対面のはずなのに、懐かしい名前。
もしかしたらこの人、過去の僕について何か知っているかもしれない。
「あの……先程の刹那君というのは?」
「ああ……実は君と同じくらいの青年が以前この辺に住んでたんだよ……とても明るい子だったんだけどねぇ……二年前に不慮の事故で亡くなったとか」
「二年前に亡くなった……」
「まだまだ若かったのに……わたしみたいな年寄りより先に逝ってしまって、本当に可哀想だよあの子は……」
赤地さんは悲しげな表情を浮かべる。
「……そうなんですか」
その表情を見て、僕はこう答えるしかなかった。
ただ、ひたすら悄然としている事しか出来ない。
「……おお、ごめんなさいねぇこんな話を聞かせてしまって。あまりにもあの子と似ていたから、つい勘違いしちゃったのよ。そういえば高梨君だったかね?君は最近ここにきたのかい?」
「えっ……あっ、はい。最近この辺りに引っ越してきて……」
「そうかいそうかい。まあ、ゆっくりこの町に馴染んでいきなさい。ちょっと不便かもしれないけど、悪い街ではないからねぇ」
「はい」
「うんうん良い返事だねぇ。おっと、買い物の邪魔をしてしまったようだねぇ。ゆっくり選んでいきなさい」
「はい」
僕はそう言って頷くと、ドリンクが入っているガラス張りのクーラーケースの方へと向かう。
コーラにオレンジジュースにサイダー、さらにニッキ水までと幅広く商品が置かれている。
「じゃあ……サイダーにするかな」
クーラーボックスの中からの入っているサイダーの缶を取り出し、会計場所へと足を進める。
するとそこで、僕はレジの隣に飾ってあった写真が僕の目に入った。
写真には一人は制服を着た女性で、もう一人はワイシャツ姿の背の高い男性が写っていた。
「あの……この写真は?」
「ああ……これは高校生の時のわたしとわたしの兄の写真だよ……もう何十年も前になるけどねぇ」
何十年も前の写真。それであるはずなのに、僕はこの二人の姿を知っている。
するとその時、僕は軽い頭痛がしたのを明らかに感じ取った。これは、もしかするかもしれない。
「失礼ですが……お兄さんの名前は何て言うんですか?」
「兄の名前かい?浩二という名前だよ」
「浩二さん……ぐっ!」
瞬間、頭に強力な痛みが走る。やはりそうだった。
一体何者であるかは分からないが、この写真に写っている二人を、僕は知っている。
「どうしたんだい?急に頭なんて抱え込んで……」
すると、僕の顔色の変化に気がつき、赤地さんは心配そうな表情を向ける。
「いえ、ちょっと二日酔いが……もう大丈夫です」
「そうかい……じゃあこれを飲んで頭をスッキリさせなさい」
「はい」
僕は会計を済ませ、赤地さんからサイダーを受け取り、店を後にする。
そういえば、赤地さんはこの近くに僕が住んでいたと言っていたな……となると、もしかしたら昔の僕の家はこの近くにあるかもしれない。
貴船からの連絡も無いみたいだし、ミッションをしている最中で悪いが、少し寄り道をさせてもらうか。




