永劫の王座
図書館に暮れゆく日が射し込む。穏やかな様相の館内を染め上げてゆく。淡々と淡々と落ちる合間に見せるひとときのその色は暖かく激しく燃え上がるように、染める。つと一頁を繰っていた女性が顔を上げる。夕の陽に照らされ彼女もまた、染まりゆく。
広々とした図書館にひとりただ、ただ、ひとり。長い机に腰かけている女性はふと上げた顔を再びその活字の並びへと戻す。さらりと長い髪が揺れた。図書館は静まり返っている。いるが、射し込む色のせいで不可思議な暖かさを讃えていた。室温は暑くもなく寒くもない。ただ女性がひとり、丁寧に一頁づつをめくりながら、座っている。
暮れゆくさなかの短い合間に、女性はかたと立ちあがった。古びた表紙の本を持ち、少し遠い本棚へと戻す。図書館だからだろう。足音は鳴らない。ただ音なく女性が歩いてゆく。ことと本を本棚へと仕舞う。そこはもともとそこにあったのだろう。開いていた一冊分の幅にぴったりと収まった。
音なく歩く女性は広い広い図書館をするすると進んでゆく。その間にもわからぬほどの速度で日は落ちる。暖かく激しく燃えるような色が射し込む。するすると歩いていた女性がこつこつとゆう音をたてた。そこには赤い欄干があり、木の色をした階段があった。図書館の中に。
まるで神社にあるような階段を女性は上る。こつ、こつと音がする度赤い欄干は陽の色を受けてさらに深く赤くなり。こつ、こつと音がする度染められた木は色褪せることを放棄した。極端に急な階段を上りきると、広い広い図書館の二階へとたどり着く。そこにはやはり長い机と机の長さに応じただけの数の椅子がある。女性は。
階段を上りきった女性はほんの少し息を乱し、ほんの少し立ち止まり、ほんの少し目を閉じると、一階よりも夕紅に染まった部屋を歩き出した。その片手は本棚をなぞる。
時折立ち止まる。立ち止まり本の題名を見て何事かを思案する。もしくは、思慮、する。ように。女性は目を。閉じる。短いはずの落ちるときは未だ、落ちきらず。
広い広い図書館の、広い広い二階部分をそうやって女性はしばらく進む。室内は暖かさを手放さない。つと、再び赤い欄干が現れた。それは今度は橋についており、橋もまた、色に染められた木をしていた。
こまやかにきしむ橋の中央を女性は歩く。手に本は持っていない。日は暮れない。
短い橋を渡りきるとそこはやはり図書館の一室がある。他と隔離されているようには見えないような、しかし他とは隔離されているような、一室。高い高い天井に、高く高く本が積まれている。そこに本棚はなく、ただ幾数冊もの本がうず高く無造作に不思議と崩れずに積んである。本が塔を成している部屋で、やはり広い図書館の一室は広く、女性は少し歩き積まれている本を目に映す。
机もないその部屋に、一脚だけの。それまであったものとなんら変わりのない、しかし一脚だけの。
椅子がある。
うろうろと部屋を進んでいた女性はうず高く積まれた本の塔の一本から下から三段目の濃緑色の本を引き出した。ぐらりと揺れ、倒れない。不安定な真っ直ぐに戻る。
日はだんだんとかげりゆき、暖かさを讃えていた色はもう半分以上が眠りの色へと落ちてしまっていた。光源の少ない部屋に曇り硝子の洋燈を置き。そのたったひとつの椅子に座る。彼女は。
彼女は、眠りの色を讃える部屋で、他の誰にもわかることのない本を開き。
何かを思うように目を閉じる。