嫌われ者ランキング1位の黒薔薇令嬢に転生したので、元キャラ通り好き勝手やります
寝返りを打ったとき、私はそれに失敗した。
そんなことある?
あるんです。
寝ていた場所がベッドじゃなくて、樹木の太い枝だった場合————
「んがっ!?」
女性のものとは思えない、強いていうならばヒキガエルが潰れたときのような声が私から漏れた。
最悪なのは固い地面に後頭部をかなり強く打ち付けたこと。
ぐにゃりと歪む視界の中、フラつきながら立ち上がる。
まず最初に思ったことは、後頭部の強打はかなり危険! ということだった。
「これは早く病院にいかねばねば……なっとう?」
あかん、重症だこれは。
そう思いながら振り返ると、なぜか制服をきた外国人の少女が立っていてビックリする。
おーまいが。
ついに幻覚まで見え始めちゃったよ……。
「あ、あの、リディ様……ランキングが始まるから、校庭に来いって先生が……」
幻覚が喋った、と断言するには声も肉質もリアルすぎる。
そして明らかに日本語じゃないのに、日本語のように完璧に理解できてしまう。
なにより、私のことをリディと呼んでいたのも気になる。
「えっと、私がリディってこと?」
「……はい? あの、どういう意味でしょう」
そうらしい。
よく見れば私も同じ制服を着ているようだし、不思議なことに肌の色も普段と違う。
体中をいじっているとポケットに小さな手鏡が入っているのに気づき、それを開く。
「ゼッ!?」
絶句しかないよね。
誰なのこの顔?
明らかに綺麗だし、グレードアップしてくれたのは嬉しいんだけど、系統が違いすぎるでしょう!
そもそもここはどこだろう。
彼女の背景には瀟洒で立派な建物があり、学校のようにも思える。
「そ、それでは、お伝えしたので……」
「待って! 校庭まで案内して欲しいの。っていうか一緒にいきましょう」
「え……あの……は、い……」
ものすごい嫌がるじゃん……。
彼女は瞳を右往左往させながら後ずさりして、消え入りそうな声まで聞かせてくれた。
とりあえず横にならぶ。
彼女が小柄なのか私がデカいのかわからないが差はだいぶある。
「あなた、名前は?」
「アリアナと申します。同じクラスです……」
おっと、だいぶ失礼なことを聞いてしまった。
アリアナは栗色でつぶらな瞳をしており、私にはない可愛らしさというものを備えている。さぞ男子受け良さそうだ。
「私、頭を打ってしまって、記憶がおかしいの。まず、ここって学校よね?」
「そうですか……。はい、聖ロマンス恋愛学院です」
おっと、立ちくらみがしてきたぞ。
それと同時に、そのワードは私の記憶の片隅に残っている気もした。
「すごい恥ずかしい名前ね……。なんでそんなことに?」
「あらゆる学問と同じくらい、恋愛を学ぶことに重きを置いた学院なんです」
「……んん?」
聞き覚えがあると思ったら、これって妹がハマりまくっていたゲームの世界じゃないだろうか?
私は興味なかったが、妹のアイテム収集のために何回か手伝わされたことがある。
そのときのことを、一生懸命思い出しつつ、アリアナにもう一つ質問する。
「私の本名を教えて」
「本当に記憶がないのですね……。リディ・アルティマ・オリゴール様です。公爵令嬢ですよ。ちなみに今日、私たちは二年生になったばかりです」
アリアナが丁寧に教えてくれたおかげで、妹とのやり取りが一部脳内でよみがえる。
妹が時給二千円出すというので、私はタイトルすら知らないこのゲームのアイテム集めをした経験がある。
ストーリーは全スキップしたので、内容はほぼ知らない。
ただ恋愛を主軸とした学院に気持ち悪さを覚えたので、そこは印象に残っている。
あともう一つ、思い出した。
確か、妹がかなり笑いものにしていたキャラがいたはずだ。
『見てこの令嬢! 万年ダントツの嫌われ令嬢なんだけど、色々とお姉ちゃんに似てるんだよね!』
『うるせー姉をバカにすんな』
『でもお姉ちゃんもこの学院に入ったら、リディと黒薔薇の数を競えそう!』
『だからバカにしてんなよ!』
こんな会話をした日のことが脳内で再生されていく。
……あのとき妹が笑っていた令嬢に転生してしまったということ?
確かに直近の記憶が抜け落ちているので、死んだことを否定はできない。
花やら木やらが丁寧に植えられたエリアから運動場のような校庭に移動した。
すでに数百人が校庭に集まっている。
「全校集会?」
「いえ、二年生だけです。五百人くらいいます。これから薔薇ランキングの結果が発表されるんです」
「薔薇ランキング?」
首を傾げる私に、アリアナは優しく説明しようとしてくれたが、尖った声によって遮られた。
「こら遅いぞ! 早く来なさい!」
私たちは注目を浴びながら列の後ろについた。
校庭には簡易的な壇上があり、そこに眼鏡をかけた教育ママみたいな女性が立った。
「学長として、皆様とまた会えたこと嬉しく思います。さて、形式張った挨拶はやめて、薔薇ランキングの結果に入ります。今回は、一年生のときの皆様の一年が、反映された形となるでしょうね」
学長はくいと眼鏡を持ち上げると、紙を広げて名前を読み上げていく。
「白薔薇ランキング10位、カイル・フォーン」
拍手喝采が湧き起こり、そんな中カイルと思われるイケメンの男子が壇上にのぼった。
教師が白くて美しい薔薇を十本以上持ってきて、彼の前に置いた。
一体なんの儀式だというのか。
きゃーなのか、うきゃーなのか、よく聞き取れない黄色い声援が彼を包む。
「それでは寄せられた推しコメントを読み上げます。……カイル様はいつも素敵な笑顔ありがとうございます。大好きすぎます!」
学長がテンションまで真似したので、ブフッと私は噴き出してしまう。
そして衆人環視の中、教師に睨まれてしまう。
でもここまでの流れで主旨が理解できてきた。
これは人気ランキングというやつなのだろう。
その後、ランキングが上がっていき、1位にもなると白薔薇の数がとんでもないことになる。
「アルヴァ・オル・フェアリード。白薔薇206本を獲得して堂々の1位です」
彼の名が呼ばれたときが、本日一番の盛り上がりだった。
男子からも女子からも人気があるみたいで狂ったように叫んでいる人もいた。
コソッと後ろからアリアナがルールなどを教えてくれる。
まず、生徒には白薔薇と黒薔薇を一本ずつ投票する権利があるらしい。
無投票は不可能で、絶対に誰かに入れなくてはいけない。(自分に投票も可)
白薔薇は推しの好きな人に。黒薔薇は逆に嫌いな人に。
基本は匿名だが、名札をつけて投票のアピールもできるとのこと。
一位を獲得したアルヴァは超美男子の紳士って感じの振る舞いを見せていた。
でも人気の理由はそこじゃないかな。
結局のところ、ルッキズムがこの世界でも蔓延しているようね。
「……では次は、黒薔薇ランキングトップ10の発表です」
いままで比較的和やかだった学長の表情が険しいものに変わった。
校庭に流れていた空気も一変、重苦しいものに変化していく。
「第10位、グラウソ・ラブティーニ! 早く来なさい!」
空気を切り裂くような一声で、まるでグラウソを叱り飛ばしているかのようだ。
あれはヒステリックな教育ママじゃないと出ない声だよ絶対に。
怖いのはブーイングがあることだ。
グラウソは舌打ちをしながら巨体をのそのそと動かして壇上にのぼった。
態度が悪いから人気ないのか、結果を受けてあんな感じになったのかは不明だ。
ただ、意外にも黒薔薇の数は少ない。
……たった四本?
それで10位に入れることに私は驚いた。
同時に、彼には一本だけ白薔薇も置かれている。
「アンチコメントを読み上げます。……デカいのは図体だけで心は小さすぎる男」
いやいやいや……そんなコメント読むなよと内心学長に突っ込みを入れながら聞く。
十代のうちからこんな目に遭わされたら将来捻くれるよ。
「お前、自分で自分に白薔薇入れてんじゃねーよ!」
「ハハッ、恥ずかしいやつ〜!」
外野の野次も酷いものだ。
彼は自作自演するタイプには見えないけどね。
その後も読み上げられるコメントや中傷に耐えきったグラウソくんに拍手を送りたい。
白薔薇のときとは真逆の雰囲気で進行されていき、ついにランキングも大詰めになる。
ちなみに2位は黒薔薇22本だった。
もちろん、私は死ぬほど嫌な予感をビシバシと感じていた。
「黒薔薇ランキング1位、リディ・アルティマ・オリゴール! 黒薔薇は、なんと400本です」
やはり、私はとんでもなく嫌われている令嬢に転生したんだ。
妹の会話がフラグだったとしたら、姉妹でも許さないからね。
鼓膜が破れそうなほどのブーイングが、四方八方より鳴り響いた。
……でしょうね。
割れんばかりの罵声を浴びながら私は壇上に向かった。
目の前に置かれた、四百本の黒薔薇の迫力はなかなかのものだ。
学長が容赦なしとばかりに口を開く。
「長く学長を務めておりますが、ここまでの記録は初めて目にしました」
「はぁ……」
「この学院では身分を持ち込むことは禁止です。また貴方のお父様から厳しく育ててくれと言づてもあります。なので公爵令嬢であろうと、真実の言葉をお届けします」
学長は長い紙を取り出して、アンチコメントを眺める。
「誹謗中傷も多かったので、それは却下しました。いきます。……人の心がわからない恥ずかしい令嬢だと思う——」
次々と学長がコメントを読み上げていく。
これで優しい方だとは驚きだ。
内容を箇条書きにしてまとめるとこう。
・庶民を見下して馬鹿にしまくっている
・魔法や戦闘能力に優れるのを鼻にかけて、授業で必要以上に暴れる
・男性が声をかけようものなら、相手のプライドをへし折る
・女性に対してのマウントがすごい
・根本から人生をなめ腐っている
なるほど、私が乗り移る前のリディについては理解できた。
妹がバカにして嫌っていた理由も納得かもしれない。
要は甘やかされた少女が、本能の赴くままに好き勝手やった結果なのだろう。
「ちなみに、白薔薇は一本もありませんでした」
リディが自分で入れてなかった点には共感できる。
さすがにそういう真似をするのは、私も性に合わないので。
「次のローズデイは、一ヶ月後です。みなさん、人として魅力的な人間を目指して、日々を過ごしましょう」
なんかいい感じに学長がまとめあげたけど、私からすれば恥さらしにあっただけのイベントだった。
「なお、ランキング入りの方々には薔薇のバッジをつけていただき、白薔薇の方には優遇措置を。黒薔薇の方には特別労働などを課します」
「特別労働ってなんですか?」
私が尋ねると、学長は待ってましたと言いたげにニヤつく。
「まず大石などの重い物を運んでもらいます」
筋トレによさそう。
「広い校庭を駆け回って草むしりなどもあります」
適度な運動でシェイプアップできるんだ。
「また生徒から辛辣な言葉をかけられることもあるでしょう」
メンタルトレーニングにも有効と。
「悪口を言われたからといって、相手に手を出したら即刻退学ですよ」
それはまあ、どこの世界でもあり得ることだよね?
「そのような過酷な生活になるので、覚悟してくださいね」
学長が意地悪そうに微笑むと、生徒たちからざまーみろ的な言葉が次々と投げかけられた。
過酷……?
死ぬ要素とかもないのに過酷なのかな。
普通に楽しみなんだけれど。
☆
転生して一週間が過ぎた。
日本とはだいぶ勝手が違うけれど、案外馴染めそうな気がしている。
確かに学校生活では誰もが私に冷たい。
手を出されないのをいいことに、目の前で堂々と私の悪口を楽しむ人たちもいる。
大抵、目が合うと勝手に「う……」と小さく呻いて逃げていくけど。
別に睨んでもないんだけどね?
さて、悪役令嬢に転生してしまったものはしょうがない。
普通に考えたら、ここで悪人じゃないことを少しずつ証明して、可愛らしくみんなのご機嫌を取って、いずれ誰かも好かれる存在になる————なんてことは目指さない。
ゲームはあまりやらないので攻略方法とか知らないし、そもそも皆に好かれる必要性を感じない。
日本にいたときと同じ、私は私として好きに生きていくだけだ。
「おーいリディ、そっちの大石を持ってきてくれ〜」
校庭の隅にいる先生が、私に指示を出す。
授業で使ったらしい大石が校庭には十個以上置かれている。
一メートルはゆうに超えるので、普通の女子ならまず運ぶのは無理だ。
でも、このリディの体なら不可能ではない。
大股開いてしゃがみ込み、ユーフォーキャッチャーのごとく大石を腕でホールドする。
腰を痛めないようにゆっくりと立ち上がる。
いや、このリディの体は軽いしよく動く。
私も運動は大得意だったが、リディは異常に能力が高い。
それに魔法も使えるので、もうワクワクしかない。
大石を男性教師の横に置くと、彼は感心していた。
「やはり、お前は能力は抜けてるんだよな。心技体のうち、心だけが足りてない」
「先生のように心が足りていると、そういうモノの言い方になるのでしょうか? ……心、必要でしょうか?」
「ウッ……」
私が小首を傾げると、先生はめちゃくちゃ嫌そうな表情をした。
世の中ってのは残念なことに言いたい放題言わせると、どんどん調子に乗ってくる人がいる。
この先生はそういうタイプとみたので牽制させてもらった。
「石を全部ここに運んでおけ。その後は雑草をむしっておくように」
「了解です」
一応、先生なので指示はちゃんと聞いておく。
彼がいなくなった後も黙々と作業を続け、一時間くらいで作業が終わった。
放課後で人がいないので、私は魔法の練習をしてみる。
不思議なことに体内に魔力が巡っているのを感じ取れるし、それを使ってあらゆる現象を巻き起こせるのだ。
リディに適性のある火魔法を使う。
火炎放射をイメージして放つと、想像の十倍くらいの威力と大きさの炎が噴き出す。
「……この世界、最高かもしれないわ」
興奮しながら次に使う魔法を考えていると、校庭から体育館の裏に移動する集団を発見する。
「……アリアナ?」
遠目だが間違いない。
五、六人の男女に囲まれていた。
アリアナの表情が気になった私は、念のためそちらに向かってみる。
建物の陰から顔だけ出して確認すると、アリアナが目つきのキツい女子生徒に肩を強く押されているところだった。
「金持ってきたかよブスッ」
この女子の酷い言葉と、周囲の男女の下卑た笑みを見れば、誰だってそれがイジメだと理解できる。
いや、あんたの方がどう見てもブスだよ……と心の中で突っ込みつつ、私は事の様子をうかがう。
「……あの、これしか無くて……。親にバレちゃったんです……」
アリアナは震える手で硬貨を差し出す。
女子はそれを奪うように取り、即座にアリアナのことを前蹴りした。
小さく悲鳴を上げながら、彼女はしりもちをつく。
それを見て男子三人と女子三人が腹を掲げて爆笑している。
なんという胸クソだろう。
アリアナがどんな子かは正直知らない。
でも私には、最初にこの世界の情報を教えてもらったという恩がある。
元々日本でも格闘技をやっていたので、ケンカになったとしても自信はあった。
「お金を巻き上げたのは今回が初めてじゃないと見たわ」
私が彼らの前にいくと、全員がギョッとして幽霊でも見たような顔をする。
有名人なので(悪い意味だけど)、一発で誰か理解してもらえるのは楽だ。
さらに胸ポケットには、ランカー専用の黒薔薇バッジも装着済みなので絶対に間違うことはない。
「……あんたに関係ないでしょ」
「関係あるわ。アリアナは友達だから」
「嘘つかないで! あんたと仲良くしてるところなんて見たことないんだから」
「うん、いま友達になったから。アリアナ、今日から友達ね。嫌なら五秒以内に拒否して」
「あ……あ……」
突然のことに面食らったアリアナは、口を小さく開けたまま言葉にならない声を出した。
五秒数え終わったので私は女子の鼻先に、私の顔をくっつける勢いで近づく。
「私の友達のお金、返せ」
「こ、公爵令嬢だって、ここでは関係ないわ!」
「そのとおりよ。私は暴力で解決したいと思っている」
「あんた立場わかってんの!? 黒薔薇が一般生に手を出したら退学だよ」
「それがなに? あんた殴って退学と、ここで我慢して言いなりになって退学回避。選ぶまでもないのよ」
私は手をしっかりと握って拳を固めた。
ミリミリと拳から伝わってくる音にビビったのか、女子は持っていたお金を全部地面に落とした。
正確には、うっかり落としてしまったかな。
こちらが硬貨を拾い上げても特になにかしてくるわけでもなく、彼女たちは不安げに私の一挙一動に注目している。
「まだなにか用? そっちのモブを引き連れて帰ってくれないかしら」
「い、いくよ!」
彼女が逃げるように歩いていくと、残る五人も金魚の糞みたいに後をついていく。
うるさい人が消えたので、私はアリアナに手を差しのばす。
戸惑っているようだったので手を掴み、立ち上がらせた。
それから手に硬貨を握らせる。
「イジメられてるの?」
「……あ、そういうんじゃ、なくて」
「イジメにしか見えないわ。あいつらは犯罪者にしか思えない」
「ありがとうございました! もう大丈夫ですから!」
よほど私と関わりたくないのか。
あるいは、イジメと認めたくないのか。
心情は読めないけど、アリアナは高速で頭を下げてすぐに走り去った。
意外と足が速い。
運動神経も結構よさそうなのに、なんでやられぱなしなんだろう?
「あっ」
地面に花を模したミニヘアクリップが落ちている。
彼女がしりもちついたときに落ちたのかな。
振り向くと、もうアリアナの姿はない。
仕方ないので、預かっておくことにした。
☆
土日を挟んで週明けの月曜日、私は盛大にやらかした。
十一時まで大口を開けて眠りこけていたのだ。
急いで学校にいくが、一分くらい授業を受けたら昼休みに入ってしまう。
することないな……そうだ、髪飾りをアリアナに返そう!
思い立って立ち上がる私より、彼女の方が動き出すのが早かった。
そそくさと教室を出ていってしまう。
なんだか急いでる様子だ。
なんとなく気になったので距離を保って後を追ってみた。
体育館裏に向かってるのかな?
校舎を出て、建物に繋がる外の石畳の通路を歩いていたときのことだ。
横からスッと、あの目つき悪い女が出てきた。
相変わらず、仲間の金魚のフンを引き連れて。
彼女は驚くアリアナの胸ぐらを掴むと、そのまま体育館の裏まで連れていった。
また先週と同じように、私は建物から顔を出す。
毎回なにやってんだろ私……。
「あんた、黒薔薇令嬢に泣きついてんじゃねーよ! 底辺同士、通じるものでもあんのか!?」
「な、泣きついてなんて、いません……」
「嘘つけっ。じゃあなんで、あいつがお前を助けんだよ!」
「……わかりません」
「……まあ、あいつは変人だしね。あんな身分と暴力だけの嫌われ者、本当気持ち悪い。アリアナもそう思うよね?」
圧をかける女子に、アリアナはうつむいて答えようとはしない。
その反応がかなり苛立たしいのか、女子は彼女の髪の毛を乱暴につかみ上げた。
「わかった。あんた、次のローズデイであいつに黒薔薇入れな。名前付きでね」
いいこと思いついてやったみたいな顔をする女子が、私としては心底気に入らない。
私がそんなんでメンタルダメージ受けるとでも?
言ってわかんないバカには鉄拳制裁しかないかと覚悟を決め、踏み出そうとしたときだ。
「……いやです」
アリアナが顔をあげ、いままでとは違う挑戦的な目つきで意思表示した。
女子は額に青筋を浮かべ、アリアナの顎を手で乱暴につかんだ。
「あ? もう一回言ってみろ」
「リディ様は確かに嫌われているけど、強くて優しいです。あなたたちより、ずっと」
瞳に勇気を宿して答えるアリアナを、私は初めてかっこいいと思った。
女子は彼女のことを思い切り突き押して、またしりもちをつかせた。
「きゃっ……!?」
そして痛がるアリアナの髪をまた掴もうとしたので、私は落ちていた石を女子の靴に向かって投擲した。
見事命中する。
「痛だぁあっ!? マジで痛ったい、なんなの!?」
「あなた、多方面から恨みでも買ってるんじゃなくて? 男子生徒が石を投げて、逃げていったわよ」
「嘘だ! 絶対にあんたでしょ!」
「証拠は? 目撃者を連れてきなさいよ」
強気に言ってみると、女子は意外にもすぐには言い返してこない。
恨めしそうに睨み付けてくるだけだ。
「この間、言ったはずよ。彼女は友達だって。私の友達に手を出すってことは、私と戦うってことでもある」
「ハッタリに決まってる。あたし、先生から聞いて知ってんのよ。あんたの親父は、あんたを矯正させるためにこの学院に入れたんでしょ。だから退学したら、父親に勘当されて令嬢ですらなくなる」
女子の言うことは基本的には当たっている。
父親は、破天荒すぎるリディになんとか一般的な感覚を植え付けようとしている。
しかし先生の口の軽さはどうなんだろう。
個人情報漏らすなって話だ。
「別に追い出されても問題ないしね」
「強がっちゃって! あんたがなにかしてきたら、すぐに先生に言いつけるから」
「灰になって、どうやって言いつける?」
「……灰?」
眉根を寄せ、女子は仲間たちを顔を見合わせる。
私は大空に向かって手を伸ばす。
体中を駆け巡る魔力を動かして、掌から燃えさかる炎を放った。
それは天をも穿つ勢いで、激しく空を昇っていく。
肌を焼くような熱気が周囲に広がる。
巨大な炎が消えた後、私は掌を彼女たち六人に向けた。
「意味、わかるわよね?」
クス、と悪役令嬢らしい性格悪そうな片笑みをしてみる。
効果抜群で、仲間の金魚のフンたちが一斉に手をあたふたさせながら謝り出す。
「ゆ、許してくださいっ! もうアリアナに手を出しませんから」
「神に誓いますッ」
予想の範疇を超えない掌返しだ。
リーダーであろう女子の返答がまだなので、照準を彼女に合わせる。
ここでリアルな死を感じとったのか、ヒッと情けない悲鳴を漏らした。
「いままでアリアナから取ったお金、全部返してね。期限は明日の朝まで。破ったら灰。わかった?」
「わ、わかった……だから撃たないで」
「いまのところはね」
私が手を下ろすと、女子たちは全力疾走で逃げ出した。
茫然とした様子のアリアナの手を引っ張って立ち上がらせる。
これ前回に引き続き二回目なんだけどね。
「助かり、ました……リディ様」
「あなたも勇気出したんじゃない? 常にああいう態度を心がけると百点ね」
「……わたし気持ち弱いので、難しいです」
「まあ、徐々にでいいんじゃないの。それより、この間の落とし物よ」
持っていた髪飾りを彼女に見せる。
「ああっ!? これずっと探してたんです!」
「センス良いわよね。つけて上げる」
クリップで挟むだけなので時間も手間もかからない。
かわいい系の顔立ちであるアリアナにはすごく似合っていた。
「……色々とありがとうございます。この髪飾りも、大切な物だったんです……」
アリアナは頬を紅潮させ、潤ませた目で私のことをジッと見つめてくる。
なんとなく気恥ずかしくなってきたので踵を返して彼女に背中を向ける。
「もう無くさないようにね」
「はい! ありがとうございました!」
手を一度振ってかっこつけてから立ち去ろうとして——怒声が飛んできた。
「コラッ、リディ! 朝の特別労働サボっただろう! いまからやるぞ!」
空気読めない教師って嫌ね〜。
☆
時が流れるのは早いもので、またローズデイとかいう恥辱イベントがやってきた。
いやね、この学院ヤバいと思うのよ。
大の大人が差別助長するようなことを平気で推奨しているわけだし。
でも『聖ロマンス恋愛学院』なんて名前からしてバカ丸出しなので、訴えたところで入った奴が悪いと一笑に付されるだろう。
少なくとも私が相談された側だったら、そりゃあんたが悪い! で片付けちゃう自信ある。
ローズデイは、前回と同じように白薔薇ランキングから始まった。
白薔薇の上位陣はほぼ一緒だった。
固定ファンがいるのかもしれない。
1位はまたあのイケメンだったので、相当な人気者なのだろう。
私も1位候補なのでライバルってところかな。
さて、問題の黒薔薇に関してはそこそこ変動あり、前回10位だったグラウソはランク外となった。
裏切り者め。
でもグラウソは我慢強かったし、前回白薔薇も入ってたからね。
人に好かれる要素はあったのだろう。
ブーイングの中、順調にランキングが発表されていき、残すは栄えある1位を残すのみとなった。
学長が気合いの入った声を校庭に響かせる。
「黒薔薇ランキング1位、リディ・アルティマ・オリゴール! 前回に続いて、連続1位となります! 黒薔薇の票は……432票!」
目の前にどっさりと積まれる黒薔薇。
私を覆い隠すんじゃないかってほど山盛りで驚くよ。
キンキンに冷え切った目で学長が言う。
「貴方ね、どういうことです? 前回より30票以上も増えているなんて!」
「光栄なことですわ」
「ふざけないでください!」
票の増加理由は、実はわかっている。
アリアナをイジメていた目つき悪い女子が、陰で悪評ばら撒いたせいだ。
私に殺されかけたとか、お金をカツアゲされたとか。
あながち完全な嘘でもないので私も否定しないで無視していたら、こんな結果になった。 いまでは黒薔薇強盗殺人未遂令嬢と呼ばれている。
なんじゃそりゃ、って感じだよ。
学長がクイと片手で眼鏡を持ち上げ、追い打ちをかけてくる。
「今年から導入された新制度で、連続1位を取った者は特別措置を強化します。白薔薇、黒薔薇、どちらともです」
つまり白薔薇のトップはよりチヤホヤされ、黒薔薇の私は筋トレのメニューが増えると……。
天国か!
人間ってサボりがちなので、強制的に練習を強いられることって大事なんだよね。
学校側がトレーナーになってくれるなんて、恋愛学院もいいところあるね。
「なにニヨニヨしているのです。恐怖で感情を制御できなくなったのですか」
「ええ、そんな感じですわ」
優雅に笑って返すと、学長は嘆息して首を横に振った。
この人、個人的にリディとなにかあったと思うくらいキツく当たってくるよね。
ここで、別の先生がやってきて学長に告げる。
「……学長、薔薇を置き忘れていました。まさかあるとは思わなかったので」
そう言って、彼は山積みの黒薔薇の横に白薔薇を一本だけ置いた。
もちろん、私は自分に票なんて入れてないので、他の誰かからによるものだ。
驚いた顔で固まった学長の横を軽やかに通り、私は白薔薇を手に取る。
全校生徒の前で、それを力強く掲げた。
一瞬、外であることが嘘のように静まりかえった後、本日一番の罵声が飛んできた。
「どうせ自分で入れたんだろーっ!」
「自演だろ自演! 自演令嬢〜!」
「あんたなんかに白薔薇入るはずないでしょう!」
私のこと馬鹿にしている人の中には、白薔薇一票もない人もいるだろう。
つまりこの中には、嫉妬の声も多少は含まれているじゃないのかな?
「あれ……?」
白薔薇の花弁のあたりに、小さく切り取られた紙が貼られていることに気づいた。
そこには投票者の名前が書いてあった。
さらにもう一文、可愛いらしい文字でこう添えてある。
☆永遠のリディ様推しです☆
私はすぐにその子を探すが、モブたちが派手に盛り上がっていてどうしても気が散る。
そこで右手の上にボッと、大きくて高熱の火球を浮かべた。
業火のプレッシャーを与えつつ、私は全校生徒に優しく語りかける。
「皆さまは焼き肉ってお好きですか? 私は大好きです。そしていま、すごくお腹が減っています」
「……」
あれだけうるさかった人たちが別人のように沈黙した。
私は目的の子を見つけると、投げキッスを贈っておく。
やってから恥ずかしさが込み上がってきたけれど、彼女は満面の笑みを浮かべていたので良しとしよう。
学長が咳払いをして、解散を告げる。
「えー、今回はここまでです。自分に厳しく、人に優しくをモットーに、来月のローズデイまで精進してください」
まさに学長は逆のことをやっているように感じるのは、私だけだろうか。
キーキー騒がれそうなので、突っ込みは入れないでおこう。
「リディ。早速ですが、貴方には力仕事をしていただきますよ」
「筋トレきた!」
「……は?」
「いえ、早く作業場に案内してください」
「泣き言は許しませんからね」
「はーい」
今日はどの部位をシェイプアップできるのかな!
ワクワクしながら、私は作業場に向かうのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと感じたら、ブックマークや星での評価をしていただけると、執筆の励みになります。




