第7話 『風呂上がりの事故』
風呂場のドアが開いた。
もくもくと湯気が流れ出る。
「……はぁ」
タオルを体に巻いたつばさは、そっと廊下をのぞいた。
(よし……いない)
誰もいないのを確認して、そろそろと脱衣所を出る。
まだ髪が濡れている。
水滴が肩を伝って落ちた。
「女の体って……なんか軽いな」
自分の腕を見ながら呟く。
その時だった。
ガチャ。
別のドアが開いた。
「――え?」
「――え?」
二人の声が重なった。
目の前に立っていたのは――
タオル姿の**桜井つばさ(中身ひなた)**だった。
つまり。
自分の体。
数秒。
完全な沈黙。
そして。
「うわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
二人同時に絶叫した。
数分後。
リビング。
二人は向かい合って座っていた。
まだタオル姿。
気まずい沈黙。
つばさ(中身つばさ)が呟く。
「……なあ」
「なによ」
「その体で、俺を見るな」
ひなた(つばさの体)が眉をひそめる。
「それこっちのセリフなんだけど?」
二人は同時に視線をそらした。
しかし――
ちらっ。
また見てしまう。
「……」
「……」
また目が合う。
「見るな!」
「そっちが見るからでしょ!」
つばさは思わず言った。
「いやだってさ!」
「なんで俺の体そんな筋肉あるんだよ!」
ひなたは腕を見た。
「……ほんとだ」
軽く腕を曲げる。
筋肉が浮き上がる。
「え、これちょっとかっこよくない?」
「勝手に気に入るな!」
つばさは顔を赤くする。
「そ、それより!」
ひなたがつばさを指差した。
「そっちこそ!」
「なんでそんなに落ち着いてるの!?」
つばさは慌ててタオルを押さえた。
「落ち着いてない!」
「さっきまで風呂場で大パニックだったんだからな!」
ひなたがニヤッと笑う。
「やっぱり変な声出してたんだ」
「出してない!」
「出してた」
「出してない!」
「出してた」
つばさは顔を真っ赤にした。
その時だった。
ひなたが突然真剣な顔になる。
「……ねえ」
「な、なに」
「ちょっと立ってみて」
「は?」
「いいから」
つばさは渋々立ち上がる。
ひなたは腕を組んで観察する。
「ふむ」
「やめろその目!」
「姿勢悪い」
「え?」
「あと歩き方」
ひなたは立ち上がった。
「女の子の体なんだから、こう」
背筋を伸ばして歩く。
「こう歩くの」
つばさは真似する。
ぎこちない。
「変だ」
「変じゃない!」
「変だ!」
二人はしばらく見つめ合った。
そして――
同時に吹き出した。
「……なんだこれ」
「ほんと」
ひなたが笑う。
「私たち」
「完全に入れ替わってるね」
つばさは頭をかいた。
「笑い事じゃないんだけどな……」
しかし。
二人の心の中で、同じことを思っていた。
(でも……)
(ちょっと面白いかも)




