第6話 「お風呂という最大の試練」
家に帰った。
俺――桜井翼は、玄関で立ち止まった。
その理由はただ一つ。
「……」
風呂場のドアを見ているからだ。
今の俺は――
水野ひなたの体。
つまり。
女子として風呂に入ることになる。
「……無理だろ」
思わず呟く。
その時、後ろから声がした。
「つばさ」
振り向く。
そこには、俺の体になったひなたが立っていた。
「お風呂、先入っていいよ」
「……」
「どうしたの?」
俺は真顔で言った。
「精神的に無理」
ひなたは腕を組んだ。
「なにそれ」
「だって!」
俺は顔を赤くする。
「今の俺、お前の体なんだぞ!?」
ひなたも真っ赤になる。
「だから変なことしないでよ!」
「するか!」
沈黙。
数秒。
そしてひなたが言った。
「……でも」
「?」
「一応、確認しておいて」
「何を」
ひなたは目をそらした。
小さな声で言う。
「体……ちゃんと洗ってね」
俺は顔を真っ赤にした。
「言うな!」
ひなたは照れながら言った。
「だってあたしの体なんだから!」
俺は深呼吸した。
「……わかった」
覚悟を決める。
そして風呂場へ入った。
浴室。
シャワーの音だけが響く。
俺は鏡の前に立った。
そこにいるのは――
ひなた。
だが。
中身は俺だ。
「……」
不思議な感覚だった。
自分じゃない体。
風呂場のドアを閉めた瞬間、つばさは大きく息を吐いた。
「……まじかよ」
鏡の中には――
自分じゃない。
水野ひなたの姿。
しかも今は、服を脱いだ状態。
「……見るな俺」
自分に言い聞かせるように呟く。
だが、どうしても視界に入る。
慌ててシャワーをひねった。
ザーッ――
温かい水が頭から肩へ流れ落ちる。
「……ふぅ」
少し落ち着いた。
……はずだった。
その時。
シャワーの水流が、思わぬ場所をかすめた。
「ひゃっ!?」
思わず声が出る。
慌てて口を押さえた。
「……っ」
心臓が跳ねる。
くすぐったいような。
びっくりするような。
妙に敏感な感覚。
「な、なんだこれ……」
顔が一気に熱くなる。
ただシャワーが当たっただけなのに、体がびくっと反応してしまう。
その時だった。
ドアの向こうから声がする。
「つばさ?」
ひなたの声だ。
「どうしたの?」
「な、なんでもない!」
つばさは慌てて答える。
少し間があって、ひなたが言う。
「今、変な声出さなかった?」
「出してない!」
「ほんと?」
「ほんとだって!」
ドアの向こうで小さく笑う声がした。
「つばさってさ」
「な、なんだよ」
「今、自分が女の子の体って実感してるでしょ」
「……うるさい」
つばさはぶつぶつ言いながら、ボディソープを手に取った。
「と、とりあえず体洗うか……」
恐る恐る手を伸ばす。
だが――
触れた瞬間、固まった。
「……え?」
柔らかい。
想像以上に。
しかも、ちゃんと重さもある。
「な、なんだこれ……」
壊れそうな柔らかさ。
思わず両手で支えてしまう。
「ひなた、こんなの毎日……」
顔がさらに赤くなる。
つばさは慌てて首を振った。
「いやいやいや!落ち着け俺!」
そして、なるべく優しく体を洗い始める。
……のだが。
「っ!?」
手が滑った瞬間、また変な感覚が走る。
男だった頃の力加減が、つい出てしまう。
「んっ……!」
思わず声が漏れる。
「……っ!」
慌てて口を押さえた。
ドアの向こうに聞こえないように。
「やばい……」
小声で呟く。
何度か同じことが起きた。
優しく洗っているつもりなのに、
ふとした瞬間、力が入ってしまう。
そのたびに――
「っ……!」
変な声が出そうになる。
つばさは必死でそれを噛み潰した。
「……もういい」
限界だった。
急いで体を流す。
そして――
湯船にゆっくりと体を沈めた。
「……はぁぁ」
湯気が立ちのぼる。
体の力が抜ける。
「……女の子って、大変なんだな」
つばさは天井を見上げて呟いた。
その頃。
脱衣所では――
ひなたが腕を組んでいた。
「……絶対変な声出してたよね」
にやっと笑う。
「あとで聞き出してやろ」




