第3話 「女子トイレという未知の世界」
学校に着いた。
だが俺――桜井翼の精神は、すでに限界だった。
なぜなら。
俺は今。
女子高生の体だからだ。
「つばさ」
横から声がした。
俺の体をした 水野ひなた だ。
「な、なんだよ」
「歩き方まだ変」
「もういいだろ!」
俺が小声で反論すると、ひなたは呆れた顔をした。
「いいわけないでしょ。
今のあんた“ロボットみたい”だったわよ」
「マジか……」
精神ダメージが大きい。
そんな会話をしていると、
クラスメイトの 美咲 が手を振った。
「ひなたー!」
俺はびくっとする。
「お、おはよー」
ぎこちなく挨拶すると、美咲は笑った。
「どうしたの?今日おとなしくない?」
「そ、そう?」
ひなたが小声で言う。
「キャラ崩壊してる」
「うるさい!」
小声で言い返す。
だがその時。
俺はあることに気づいた。
「……なあ」
「なによ」
「やばい」
「何が?」
俺は顔を引きつらせながら言った。
「トイレ行きたい」
ひなたが固まった。
「……」
「……」
数秒後。
「がんばって」
「他人事!?」
だがどう考えても無理だ。
男子トイレには入れない。
今の俺は ひなたの体なのだから。
つまり――
女子トイレに入らなければならない。
「無理だろ……」
「行くしかないでしょ」
ひなたは肩をすくめた。
「慣れなさい」
「慣れるか!!」
だが限界だった。
俺は覚悟を決めた。
女子トイレの前に立つ。
ドアを見る。
心臓がドクドクする。
「……」
「……」
ひなたが後ろから言う。
「早く」
「プレッシャーかけるな!」
俺は深呼吸した。
そして――
女子トイレに入った。
「……」
静かだ。
だが。
数秒後。
「ひなたー?」
後ろから声がした。
振り向く。
女子が二人いる。
完全に同級生だ。
「……」
俺は笑顔を作った。
「や、やっほー」
声が裏返った。
二人は首を傾げる。
「ひなた今日変じゃない?」
「なんか緊張してる?」
やばい。
完全に怪しまれている。
俺は必死に言った。
「いやー!ちょっとお腹痛くて!」
嘘である。
女子二人は「あーなるほど」と頷いた。
どうやら誤魔化せた。
俺は個室に駆け込んだ。
鍵を閉める。
そして壁にもたれた。
「……」
人生で初めての女子トイレ。
妙な達成感があった。
だがその時。
外から声が聞こえた。
「ひなたー?」
聞き覚えのある声。
美咲。
「ねえ今日ほんと変だよ?」
俺は固まった。
「もしかしてさ」
美咲が言う。
「翼とケンカした?」
心臓が止まりそうになる。
だが次の瞬間、
男子トイレの方から声が聞こえた。
「別にしてないけど」
ひなたの声だ。
つまり。
俺の体のひなたが答えている。
美咲が言う。
「え?翼?」
「そうだけど」
「なんで女子トイレの前にいるの?」
沈黙。
そして次の瞬間。
ひなたが言った。
「……ひなた待ってる」
俺は個室の中で頭を抱えた。
状況がカオスすぎる。




