第9話『朝の大事故』
朝。
カーテンの隙間から、柔らかな光が差し込んでいた。
静かな部屋。
布団の中で、つばさはゆっくり目を開けた。
「……ん」
ぼんやりと天井を見る。
(あれ……)
なんだか体が重い。
それに――
近い。
すぐ隣に温かい気配。
「……ん?」
つばさはゆっくり視線を横に向けた。
そこには――
**桜井つばさ(中身ひなた)**の顔があった。
数秒。
完全な沈黙。
そして。
「うわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
二人同時に飛び起きた。
布団が跳ねる。
「な、なんでこんな近いんだよ!」
つばさが叫ぶ。
ひなたも顔を真っ赤にしている。
「知らないよ!」
「そっちが寝返り打ったんでしょ!」
つばさは慌てて布団をかぶった。
「やばい……」
ひなたが小声で言う。
「昨日よりやばい」
つばさも小声。
「うん……」
しばらく沈黙。
そして。
ひなたがぽつりと言った。
「……ねえ」
「なに」
「これ……」
つばさは恐る恐る布団の中を見た。
そして――
固まった。
「……」
「……」
ひなたがパニックになる。
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんでまだ!?」
つばさは顔を真っ赤にする。
「だから言っただろ!」
「朝はこうなるって!」
ひなたは布団を押さえながら叫ぶ。
「でも全然おさまらない!」
「なんで!?」
つばさは頭を抱える。
「俺に聞くな!」
「男の体はそういうものなんだよ!」
ひなたは真っ赤な顔で叫ぶ。
「こんなの学校行けないよ!?」
つばさも焦る。
「だから落ち着け!」
「落ち着いたらそのうち……!」
その時だった。
ドンドン。
ドアがノックされた。
二人は凍りつく。
「つばさー?」
外から声。
母親だ。
「朝ごはんできてるわよー」
二人は顔を見合わせる。
ひなたが小声で言う。
「やばい」
つばさも小声。
「やばい」
母親の声。
「入るわよ?」
二人同時に叫んだ。
「「ちょっと待って!!」」
ドアノブがガチャっと動く。
つばさが慌てて言う。
「隠せ!」
ひなたが叫ぶ。
「どうやって!?」
「布団!」
二人は必死で布団にもぐる。
ゴソゴソ。
ゴソゴソ。
明らかに怪しい音。
母親の声。
「なにしてるの?」
つばさは必死に答える。
「き、着替えてる!」
「もう?」
「う、うん!」
沈黙。
そして母親が言った。
「早く降りてきなさいよー」
足音が遠ざかる。
二人はしばらく動かなかった。
そして――
同時に大きく息を吐く。
「はぁぁぁ……」
ひなたがぽつりと言った。
「……ねえ」
「なに」
「これ」
まだ収まる気配がない。
つばさは天井を見上げた。
「……今日は長い一日になりそうだ」
そして二人は同時に思った。
このまま学校に行けるのか?




