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クソ以下クソ以上。

掲載日:2025/09/30

「また芸能人が不祥事おこしてるよ」


俺はいつものように惰性で動画サイトを開くとおすすめの動画にまた惹かれてしまう。

惹かれると言っても決して心地の良い内容では無く文字と機械音声が人間にコメント欄で人間を叩かせるクソみたいな縦型動画だ。でも叩かれても文句は言えないだろう。なぜなら''悪いこと''をしたのだから。


俺はまたまたいつものようにコメントを投稿した。別にそれで心が満たされる訳では無いが今すぐ寝るという気分にもなれず何となく義務感のようなものを感じたためだ。何故かとより具体的に聞かれても特に答えは出ないだろう。


「、、、、、」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お兄ちゃん朝ごはん出来てるからはよ来てよ」


「え?ああ、おはよう。分かった。」


いつの間にか寝てしまっていたようだ。まだ寝足りないが学校があるので起きなければいけない。いっそ学校が無くなってしまえばいいのに。


「行ってきます。」


毎日同じことの繰り返しだ。大学生は最高に楽しいとよく聞くが中学生の時にもよく似た言葉を聞いた。この先大学、社会人になってもずっとこんな生活なのかと考えると心底うんざりする。かといってこの退屈であり平和な日常から抜け出す勇気もつもりもない。


「おはよー!今日転校生来るらしいで?」


「まじ?どんな人なんかな、めっちゃ楽しみー」


学校に着くと友達に会い軽く雑談を交わす。本当はどうでもいいが適当に相槌を合わせる。俺はネット上によくいる社会不適合者とは違ってそこそこコミュ力もあるつもりだ。将来にも期待は無いが希望はある。


「転校生かわい子ちゃん来てクレメンスw」


「草。てか男らしいでw」


今日もオタクたちによる気持ちの悪いオタク弁にうんざりする。気持ち悪く思われている自覚はないのだろうか。まあいい、別に自分には関係ない。俺があんな痛い存在にはならなければいいだけだ。さて、そろそろホームルームだ。


「皆さん知ってると思いますが今日は転校生が来てます。では早速自己紹介お願いします。」


「井上翔太です!東京都から来ました!好きな食べ物は唐揚げで嫌いな食べ物はピーマンです!今は高校2年生です!ってそれは皆か。とりあえず仲良くしてくれると嬉しいです!よろしくお願いします!」


「はい。という事で井上翔太くんが来てくれました。皆さん仲良くしてあげてくださいね〜。そして翔太くんの席は前から3列目左から2列目です。」


俺の隣か。騒がしそうな奴でめんどくさそうだな、、てか嫌いな食べ物ピーマンって小学生かよ。自己紹介の仕方もガキっぽいし。そんなことを考えてる間に転校生が隣に来た。


「よろしく!名前なんて言うの?」


「山田太郎。こっちこそよろしく」


「見本の名前じゃん!おもしろ!笑」


「、、、、、な!ほんとよくある名前よな笑!令和に太郎って笑っちゃうわ、本当親ガチャ外れたわ笑」


「別に親ガチャは外れてないんじゃない?いい名前だと思うよ!よろしく太郎!」


「え、ああ、そうよな!よろしく翔太!」


なんだか喋りづらいな。早く休み時間になってほしい。そういえば昨日のコメントに返信ついてるかな。


休み時間になっていつもの動画サイトを開くとベルのマークに1と数字が付いていた。ちなみに人に見られるのは何となく嫌なのでトイレの個室でいじっている。通知マークをタップしてみると案の定自分のコメントへの反論だった。それを見てまた少しイラッとする。返信を終えると教室に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちっ」


放課後、学校からの帰り道に俺は再び来た返信にまた少しイライラを感じ舌打ちをした。イライラするくらいなら最初からコメントを投稿しなければ良かったのにという考えが浮かびつつもそれを心の奥にしまう。


「イライラするくらいならコメント打たなきゃよかったのにな」


「え?」


横を見ると転校生がスマホを覗き込んでいた。


「お前なんでいんの!?」


「帰り道同じっぽいから一緒に帰ろうと思って。」


返信してる画面を見られた。どうしよう。何とかして誤魔化さなきゃ。このコメントしてるのバレたくない。ていうかそもそもなんでバレたくなかったんだっけ。やばい。頭が回らない。


「お前意外とネットでそういうコメントするような奴だったんだな」


転校生は頭に両腕を回しながらそう言った。絶望感が俺を襲った。そうか。俺は自分が見下していた相手と同じような奴だと他人に言われる事ではっきり自覚することが嫌だったんだ。今まで心の奥では自覚しつつも気づかないフリをしていたんだ。だからわざわざトイレで返信をしてたんだ。俺は心が締め付けられるようにどんどん苦しくなった。


「、、、誰にも言わんといてほしい。」


「なんで?」


転校生の返しに僕は少し怒りを感じた。


「っ!だって教室でオタ語喋ってるような奴と一緒に思われるやん!」


「別に一緒じゃなくね?」


「え?」


少し自分の口角が上がりそうになったが抑えた。


「だってあいつらとも話したけど人の悪口言ったりするような奴では無いと思うもん。」


言葉が出なかった。要するにこいつは今俺のことをあのオタク以下だと言っているのだろう。上がりかけた口角が下がって気持ちが怒りへと煮え始めた。


「いや、俺も普段人の悪口なんか言わんし。」


「でもネットで言ってるじゃん。」


「、、、、、」


「お前ってなんか毎日つまんなそうだな」


「、、、だったらなんやねん」


「俺が楽しい事教えてやるよ」


転校生は満面の笑みでそう言った。一体こいつは何を企んでいるのだろうか。しかしコメントの事を言いふらされても困るのでしょうがなく歩きながら話を聞いてみる。


「それで何するん?」


「それにしてもお前実は結構クソな奴だったんだな〜」


心を締め付けていたものはトゲ付きだったようだ。チクチクと痛む。


「いいから何するんかはよ言えよ」


「ん、これ」


転校生は白くて細長いものを俺に見せた。


「何これ」


「タバコ」


「は?」


「もしかして電子のがよかった?」


こいつはとち狂ってるのか?紙か電子かの話なんてしてないだろ。というか何普通にタバコ出してんだ。もし誰かに見られて学校にバレたら俺まで巻き添え喰らうぞ。


「もうええわ!こっち来い!」


俺は転校生を引っ張って誰もいなさそうな路地に隠れた。


「あのさ、高校生が何タバコ持ってんねん!どう考えてもあかんことやろ!」


俺は動画サイトでコメントをする時のように説教気味なセリフで怒鳴った。しかしこれは''悪いこと''なのだから言っていいことだ。俺は間違ってない。


「そうだな。あかんことだ。」


ほら。本人も''悪いこと''って認めてる。反論コメントもない。俺が正義でこいつが悪だ。


「じゃあなんで持ってんねん!」


「吸いたいから。」


あっけない回答に俺は少し驚いた。言ってることは俺が完全に正しいはずだ。こいつは悪いことをしているんだ。なのにこいつの態度はなんなんだ。怒りがやり場を失う。


「じゃあこっちも質問させてもらうけど不倫を叩くことは悪いことか?」


「そんな事ないやろ!悪いのは不倫するやつや」


「じゃあなんで隠すんだ?悪いことしてないのに」


「そんなん決まってるやろ。あのオタク達みたいに思われたくないからや!」


「じゃあなんでコメントするんだ?最初からコメントしなければこうしてバレることもなかったのに」


「それは、、、」


なんでだろうか。なんで自分は不祥事芸能人叩きをするのだろうか。自分でもよく分からない。世直しか?そんな大層な目的があるかと聞かれれば無いと答える。なんで、、、か、、、。理由を考えながら向かって来た貨物列車が通り過ぎるまで眺めていた。


「叩きたいからだろ?俺も同じ。吸いたいから吸うの。」


「、、お前さっき俺の事クソって言ってたけどそれやったらお前クソ以下やわ。俺は''悪いこと''はしてない。」


「そうなのかもな。でも楽しいぜ?」


ああもう、!どうにもこいつと一緒にいると気が狂ってしまう。まさか会って初日でこんなことになるなんて。もういい、早く帰ろう。俺は転校生をほっといて家の方へと足を動かした。


「吸わないなら言いふらそっかな〜」


「お前、、、」


転校生はニヤニヤとした表情で俺の事を見つめてくる。本当に癪に障る奴だ。


「、、、1本だけやからな。」


「アイシーアイシー」


いざタバコを手に持ってみると物凄い罪悪感が俺を襲った。本当に吸っていいんだろうか?いやダメだ。しかし吸わなければコメントのことを言いふらされてしまう。本当に厄介なやつに見つかってしまった。


初めて吸うタバコに俺は咳き込んだ。なんだこれ、全然美味しくない。ってかそもそも食い物でもないのに美味しいってどういうことだよ。


「美味いだろ?」


「、、、ゲロマズや。」


「はっはっはっ!そりゃよかった」


どこがだよ。俺は心の中でそう呟いた。


「もう俺帰んで」


「だめだろ。1本吸い切るまで俺と一緒にいろ。」


「お前にとって何のメリットがあんねん。」


「さあ?」


「、、、、、」


俺はこいつと会話することを諦め、早く1本吸い切れてくれと切に願った。そしてある程度時間が経つとほとんどが燃えカスになって本体が短くなっていた。転校生もそれに気がついたのか俺に話しかけてきた。


「なあ。海でも行くか。」


「行かんわ」


「バス停まで結構近いみたいだわ」


「いやだから行かんて」


俺は絶対にもう帰る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「海綺麗だなー!!」


「なんで来てもうたんやろ、、」


俺はいつのまにかこいつの口車に載せられて海に来ていた。夕焼けが海に反射して中々に幻想的な世界に見とれると同時に焦りが生まれた。


「そろそろ帰らな」


「おいおい!せっかく海に来たんだから泳ぐぞ!」


転校生は笑いながらそう言った。あまり乗り気では無かったが少し目の前の景色を見ているとあまりに心地が良くいつの間にかその景色に惹かれてしまっていた。それから俺たちは海パンを現地調達し、海で泳いでいた。


「最高だろ?」


「、、、まあな」


悪くない気分だった。その日はいつもより時が過ぎるのが速く、海を照らす色はオレンジから白へと変わり、そこそこいた海水浴客も見当たらない。やがて泳ぎ疲れた俺たちは砂浜に寝転がった。


「明日はどこ行く?」


「もう勘弁やわ。親に遅なった理由なんて言ったらええねん」


そう答えるとまた笑って陽太はタバコを取り出す。


「吸うか?」


「1本だけ」

よかったら感想待ってます。

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― 新着の感想 ―
中高大、学生時代に一緒に連んだ奴は、卒業して縁が途切れたとしても、その時代に一緒に冒険した事にじゅうような、意味が在る。若き日に旅をせずば、老いた日に、何を語るか。
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