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8:聞こえたかい、相棒

洞窟の入り口から差し込む光で、僕は目を覚ました。夜の間に火は消え、冷たい空気が肌を刺す。外はもう、すっかり明るくなっていた。


(……朝か)


僕は体を起こし、炉のそばに置いたままだったゴーレムに視線を落とす。静かな石の人形。でも、もうただの石ころには見えなかった。


僕は設計図を丁寧に丸めて筒に納め、動かないゴーレムを布で優しくくるんだ。そして、鞄の中身を一度全部出し、一番下に硬いものを、一番上に柔らかいものを詰め直す。最後に、できた隙間にそっとゴーレムを滑り込ませた。一番上。何ものにも潰されないように。


(よし)


荷を背負うと、昨日までとは違う、確かな重みを感じた。でもそれは、不思議と嫌な重さではなかった。


洞窟を出た僕の足取りは、軽い。

僕は鞄にそっと手を当て、中にいる小さな同居人に語りかける。


「さて、相棒。行くとしようか。君の作り手は、君に心臓を与えてくれって言ってた。

でも、その『心臓石』とやらがどこにあるのか、僕にはまだ分からない。だから、まずは僕の旅に付き合ってくれ。アルメの街で、僕の呪いを制御する方法を探すんだ」


もちろん、答えはない。けれど、僕はもう一人ではなかった。

ただそれだけで、いつもよりパンが少しだけ味わい深く感じられるなんて、我ながら単純なものだ。


昼過ぎ、道の向こうから荷馬車を連ねた一団がやってくるのが見えた。行商人たちだ。僕は道を譲り、彼らが通り過ぎるのを待つ。彼らはフードを目深にかぶった僕を値踏みするように見て、聞こえよがしに言葉を交わした。

「……薄汚い流れ者はこれだからな」

「何を盗まれるか分かったもんじゃない。さっさと行こう」


その言葉は、故郷で「化け物」と罵られた記憶を僕の脳裏に蘇らせ、胸に鋭い痛みが走った。以前の僕なら、ただ黙って俯き、その痛みが過ぎ去るのを耐えていただろう。

でも、今は違った。僕は鞄をそっと撫で、小さな声で語りかける。


「聞こえたかい、相棒。僕たち、ずいぶん嫌われ者みたいだ。まあ、彼らは僕たちのことなんて何も知らないんだから、仕方ないか」


そう言って小さく笑うと、胸の痛みは不思議とすっと和らいでいった。嫌な出来事を、誰かに話して聞かせる。ただそれだけで、世界が少しだけ違って見えた。


鬱蒼とした森を抜けると、視界は不意に開けた。僕たちは、なだらかな丘の頂上に立っていた。眼下には広大な平野が広がり、その先にはきらめく川と、白い壁の街並みが見える。


「見てみろよ、相棒。すごい景色だ」


僕は鞄からゴーレムを取り出し、その景色にかざす。


「あれが、アルメ……水の都だ」


カザマチとは全く違う表情を持つ街だった。

街の中心を大きな川が流れ、いくつもの優美な石橋が架かっている。建物は川の水を反射する明るい白壁で統一され、街全体が陽光と水のきらめきに満ちているように見えた。遠目からでも分かる、その清らかな佇まい。


(この街なら……あるいは)


石の人形は何も言わない。けれど、その滑らかな体に反射した陽光が、僕の目には肯定の返事のように見えた。

僕は、これまでのどの街にも感じたことのない、確かな希望の予感に胸を震わせながら、アルメの街へと続く最初の石橋へ、第一歩を踏み出した。


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