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48:おかしな若者(老狩人視点)

静かな生活は、三日前に終わりを告げた。夜明けと共に現れた小僧が、小屋の扉を叩いたあの日からだ。


「弟子にしてください」


その言葉を聞いた瞬間、老狩人は苛立ちと共に扉を閉ざした。かつて失ったものたちの亡霊から逃れるように、この森で息を潜めて生きている。今更、死にたがりのガキの面倒を見る気など、毛頭なかった。


だが、小僧は諦めなかった。二日目の朝も、そして今日の朝も、律儀に同じ時間に現れ、固く閉ざされた扉に向かって同じ言葉を繰り返し、やがて「また明日来ます」と言い残して森へ消えていく。


三日目。いつも通りに去っていくその後ろ姿を、老狩人は窓の隙間から忌々しげに見送っていた。鬱陶しい。殺意すら覚える。だが、それ以上に、老狩人の心には無視できない一つの疑問が渦巻いていた。


(…なぜ、死なない?)


小僧がすぐ近くで野営をしていることはわかっていた。だが、ここは街の庭先ではない。魔獣が闊歩する森の入り口だ。狼煙を上げるでもなく、助けを乞うでもない。それなのに、あのひ弱そうな小僧は、たった一人で三日間もこの森で生き延びている。その事実が、老狩人の長年の経験則を、わずかに、しかし確実に揺さぶっていた。


「……」


ついに、老狩人は重い腰を上げた。あの小僧が、一体何者なのか。その目で確かめる必要がある。彼は音もなく小屋を出ると、森に残された小僧のかすかな気配を追った。


気配を完全に殺し、木々の影から小僧の様子を窺う。


小僧は森の中を歩きながら、時折、誰に言うでもなく呟いていた。


「今日の風はおしゃべりだな」


かと思えば、肩の上に乗せた木彫りの人形のような奇妙な生き物に、真顔で話しかけている。


「あそこの木の実、後で食べような」


老狩人は眉をひそめた。

(やはり、頭のネジが一本抜けているらしい)

まるで見えない誰かと会話しているかのようだ。気味が悪い。


しばらくして、小僧は狩りを始めた。獲物は森にいくらでもいる小動物。だが、その狩りの仕方が、老狩人の目に小さな違和感を覚えさせた。小僧は獲物を目で探さない。立ち止まり、目を閉じ、じっと何かに耳を澄ませるような仕草を見せる。そして、次の瞬間、おもむろに構えた投石器から放たれた石弾が、老狩人の目にも見えていなかった茂みの奥の獲物を、正確に仕留めるのだ。


(…妙だ)


ただの偶然ではない。一度や二度ではないのだ。まるで、茂みの向こうが透けて見えているかのような精度。一体、どういう仕掛けだ? 老狩人がその奇妙な技術の正体を見極めようと、さらに観察を続けようとした、その時だった。


小僧が、唐突に狩りを中断した。今まで獲物に向けていた意識を、ふっと解き、怯えたように周囲を見回す。そして、次の瞬間には、まるで獣に追われたリスのように、近くの太い木に駆け上がっていた。老狩人は、その理解不能な行動をいぶかしんだ。


(…何を怯えている? 風の音にでも驚いたか?)


獣の気配など、どこにもない。老狩人の研ぎ澄まされた感覚が、そう断言していた。小僧が木の上で息を潜めた、その直後だった。


ザザザザッ! ! 


老狩人の感覚が、遠くの地面をひっかく音と、獣の匂いを捉えた。キバイノシシ。しかも、最も獰猛な状態の雄が一体。老狩人がその場で気配を消していると、やがて黒い巨体が、小僧が先ほどまで立っていた場所を猛然と駆け抜けていったのだ。


「……!」


老狩人は、凍り付いていた。自分の感覚ですら、直前まで捉えきれなかった魔獣の存在。それを、なぜこの小僧は予知できたのか。偶然ではない。あの木に登る動きは、明確に「ここが危ない」と知っている者の動きだった。あの奇妙な独り言も、人形への語りかけも、全てがこの異常な感知能力と関係しているというのか? 


(…本物か)


老狩人は、何十年も前に捨てたはずの、弟子を育てる者としての血が、わずかに騒ぐのを感じていた。彼はついに木々の影から姿を現し、木の上にいる小僧の前に立った。


「小僧」


鋭い声に、小僧の肩がびくりと跳ねる。


「今のはどういうことだ。なぜ、キバイノシシが来るのがわかった?」


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