46:他のスカウトたち
現役のスカウトたちに冷たくあしらわれ、僕は重い足取りでギルドを後にした。技術は金で買うもの。その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。正論だ。彼らが命懸けで培ってきたものを、僕がタダで手に入れようとしたのが甘かったんだ。
「…わかってはいるんだけど、な」
僕は道の隅にしゃがみ込み、深くため息をついた。肩に乗ったコダマが、僕の頬にこつんと頭をぶつけてくる。まるで、慰めてくれているかのようだ。
「ありがとう、コダマ。…でも、どうしようか。このままじゃ、僕たちはあの森を越えられない」
この街で、独学だけで通用するほど甘くないことは、キバイノシシとの戦いで痛いほどわかっている。誰かに、本物の技術を教えてもらう必要がある。でも、僕には金貨50枚なんて大金はない。
(…本当に、もう手はないのか?)
諦めかけた、その時だった。ふと、ある考えが頭をよぎる。
「…そうだ。現役の人たちがダメなら、もうスカウトを引退した人ならどうだろう」
昔、名を馳せた人なら、お金に執着せず、若者に技術を教えてくれるかもしれない。かすかな希望の光に、僕は顔を上げた。
「まだだ。まだ、終わってない。探してみよう、コダマ」
僕は再び立ち上がり、街の情報が集まる場所…ギルドの受付へと向かった。
「引退したスカウト? さあねえ…ギルドの名簿にゃ載ってないし、私らが知るわけないじゃない」
受付の女性は相変わらず気だるそうだったが、僕が銀貨を一枚差し出すと、少しだけ態度を軟化させた。
「…まあ、酒場の古株にでも聞いてみなさいよ。昔の英雄様の話を聞きたがる物好きなんて、あんたくらいのもんだろうけど」
僕は礼を言って酒場へ向かい、一番年嵩のバーテンダーに話を聞いた。幸いにも、彼は何人かの名を知っていた。僕はその情報を頼りに、引退したスカウトたちが住むという家を、一軒一軒訪ね歩き始めた。
しかし、僕がそこで見たのは、あまりにも寂しい現実だった。
「おお、よく来たな若いの! 俺が昔、どれだけすごかったか、聞きたいんだろ?」
最初に訪ねた老人は、昼間からエール瓶を片手に、呂律の回らない口で過去の武勇伝を語るばかり。部屋には空の酒瓶が転がり、彼の言葉は何度も同じ場所をぐるぐると回っていた。僕が本当に聞きたい技術の話には、ついぞなることはなかった。
「…今の若いモンはなってない。楽して稼ぐことばかり考えやがって。森を、魔獣をなめてるんだ」
次に出会った男は、現役の若者への嫉妬と不満を、ねちねちと口にした。その瞳は濁り、僕のまっすぐな視線を受け止めようともしない。
「あんたみたいなひよっこに、森の何がわかる。さっさと帰んな」
彼らは、師と呼べるような人物ではなかった。過去の栄光にすがりつき、未来への希望を失ってしまっていた。
「…あの人たちは、もう森を見ていないんだ。ずっと昔の、自分の記憶の中にしか生きていない」
何軒も巡った後、僕は夕暮れの道端で呟いた。期待が大きかった分、失望も大きい。コダマを撫でる指先にも、力が入らなかった。
完全に希望を失いかけた僕は、とぼとぼと宿屋に戻った。食堂のテーブルに突っ伏していると、僕のただならぬ様子に気づいたのか、宿の主人が温かいスープの入った椀をことりと置いてくれた。
「どうしたんだい、兄ちゃん。朝の威勢はどこへやら。まるで魂が抜けちまったみたいな顔だぜ」
その無骨な優しさに、僕はつい、ぽつりぽつりと今日一日の出来事を話し始めていた。現役のスカウトに金を要求されたこと。引退した老人たちに、まともに取り合ってもらえなかったこと。
「…だから、スカウトの技術を教えてくれる人を探してるんです。どうしても、あの森を越えなくちゃいけないから」
話し終えた僕に、主人は呆れたように、しかしどこか同情的な眼差しで深いため息をついた。
「馬鹿なこった。あんたみたいなひよっこが、あの森に挑むだぁ? 死にに行くようなもんだ。諦めて、とっとと故郷に帰りな。それが一番だ」
「…帰れないんです」
僕の目に宿る光が、ただの若気の至りではないと察したのだろう。主人はしばらく黙り込んだ後、眉間に深い皺を刻みながら、重々しく口を開いた。
「…どうしてもって言うんなら、一人だけ、心当たりがなくもねえ。だが、そいつは…まともじゃねえぞ」
主人は声を潜め、まるで禁忌に触れるかのように語り始めた。
「『魔獣の森』に入ったところに、一人で暮らしている老人がいる。街の連中は、そいつを『森の変人』って呼んでる」
森の、変人…?
「そいつはな、昔はギルドでも指折りの、凄腕のスカウトだったんだ。どんなに危険な森でも、仲間を絶対に死なせないって評判でな。…だが、ある時、『魔獣の森』で仲間を全員、目の前で殺された。そいつ一人だけを残してな」
その日を境に、男は心を閉ざし、ギルドを辞め、世捨て人のように暮らしているのだという。
「腕は、今でも本物だ。だが、もう誰にも何も教えようとはしないだろう。あの日以来、他人と関わることを極端に嫌うようになったからな。…だから、関わらない方が身のためだ。あいつに近づいて、ろくなことになった奴はいない」
主人はそう言って、僕の肩をぽんと叩いて立ち去った。
僕は、部屋に戻っても、主人の言葉を反芻していた。危険な人物だということは、話の端々から伝わってくる。でも。
(腕は、本物…)
その言葉が、僕の心に深く突き刺さっていた。僕が探し求めていた、本物の技術を持つ、最後の可能性。
「…なあ、コダマ」
僕は窓辺に座る相棒に話しかける。
「変人、か。…いいじゃないか。普通じゃないってことだろ? それなら、僕と同じかもしれない」
僕の耳に届く、この世界のざわめき。他の誰にも聞こえないこの声は、僕を『普通』から遠ざけた。でも、そのおかげで僕は、嘆きの荒野で生き抜くことができたんだ。
僕は静かに決意を固めた。たとえ変人と呼ばれていようと、会ってみなければわからない。
「よし、行こう」
僕の心に、新たな希望の火が、確かに灯っていた。




