42:僕の証明
(この荒野は、一つの、巨大な生き物…)
だが、これはまだ仮説に過ぎない。僕は、この考えが正しいことを証明する必要があった。
いや、証明する必要なんてないし、証明する相手もいないんだけど。
ただ、自分の中でもう少し確信を持ちたかった。
証明の鍵を握るのは、あの『音無し』だ。
師であるトカゲを解体して腹を満たし、残りをカバンに詰め込んだ後、今度は『音無し』を探すことにした。
自ら『音無し』をおびき寄せるため、あえて光る苔の安全地帯を離れ、開けた場所へと足を踏み入れた。戦うためじゃない。観察し、仮説を証明するためだ。そして、もし可能なら…あれを破壊した時、何が起きるのかを確かめるために。
「大丈夫。ちゃんと考えはあるよ」
特に僕を止めようともしていないコダマに言い訳のように話しかけた。
そして、以前『音無し』から逃げている時に見つけておいた、脆そうな岩が積み重なった崖の近くに陣取った。ここなら、いざという時にあの時と同じ手が使えるはずだ。
僕の存在という「刺激」に反応し、地面の砂と岩が盛り上がり、僕の姿を模した『音無し』が姿を現す。「出たな…砂人形…」
僕は逃げずに、その場に留まり、静かに相手を見据えた。『音無し』は、音もなく僕に向かって歩を進めてくる。その圧倒的な質量が、無音で動く光景は、何度見ても現実感を失わせる。
僕は崖に向かって、ゆっくりと後ずさりを始めた。ただ逃げるのではない。誘導するんだ。僕を『異物』として排除することしか頭にない『音無し』は、僕の思惑通りに後を追ってくる。僕は崖の麓にたどり着くと、身軽さを活かして、駆け上がれるギリギリの斜面を登り始めた。
僕を追って崖を登ろうとした『音無し』は、その巨体ゆえに動きが鈍い。僕は崖の中腹で止まり、振り返って石を投げつけた。石はのっぺりとした顔に当たり、乾いた音を立てる。完璧な挑発だった。
僕の行動が引き金になったのか、『音無し』は、まるで激昂したかのように巨大な腕を振り上げた。しかし、狙いは僕ではない。僕がしがみついている、この崖そのものだ。
(まずい…!)
僕が飛びのくのと、岩の腕が崖に叩きつけられるのは、ほぼ同時だった。
凄まじい轟音と共に、崖が崩れる。僕は足場を失い、転がり落ちながらも、なんとか体勢を立て直した。『音無し』は、自らが引き起こした崩落に巻き込まれ、巨大な岩の下敷きになっていた。その体は形を維持できなくなり、再びただの砂と岩の山へと還っていく。
静寂が戻った荒野で、僕は荒い息を整えながら、ゆっくりと崩落の跡地へと近づいた。すると、砂と岩の山の中に、何かきらりと光るものが残されているのが見えた。それは、これまで見たことがない、青白い光を内包した水晶のような石だった。
僕は慎重にそれに近づき、そっと指を伸ばした。石に触れるか、触れないか、というところで、
「アチッ!」
思わず僕は手を引っ込めた。指先に、焼けるような熱さが走る。僕は驚いて、もう一度その石を見た。それはまるで生き物のように、かすかな光と熱を放ち続けている。
「…これは、熱いのか…まるで出来立てのパンみたいに…」
僕は布を取り出し、それで石を慎重に拾い上げた。
手のひらに伝わる、確かな熱と、まるで心臓の鼓動のような微かな振動。この石が何なのか、僕には分からない。けれど、この石を手にした瞬間、僕の中で仮説は確信に変わっていた。これは、巨大な生き物の体の一部、その生命活動が生み出した特別な石なのだと。
もちろんこれが他の人にとっての証明になるかどうかはわからない。たぶんならないだろう。
しかし僕にとってはこれが証明だった。
「このくらいで納得しとかないと、死ぬよね…」
そう僕はコダマに話しかけた。
コダマは沈黙をもって同意してくれた。
僕は、その不思議な石を、大切に懐にしまった。それは、この荒野の謎を解き明かした証であり、報酬として手に入れた宝物だった。




