クリーニング
中学3年でのクラス替え
何の前触れも無かったと思う
初日から僕はクラス全員に無視をされた
僕の通う中学はクラスが1学年で5組まであり150人程
毎年クラス替えがあり大半の同級生が入れ替わる
中学2年の頃はトラブルらしいトラブルは無かった
僕自身はクラスの中で割と物静かな方で
休み時間は好きなアニメやゲームの話を2,3人の友人と話す
声の大きなイケてるグループの人とも
運動部で好成績を収めている人とも
緊張はしながらもアニメやゲームの話をたまにしたり
漫画やゲームを貸したり貸してもらったりと
そこそこではあるが充実した毎日だったと思う
ところが一転
春休み明け4月8日
3年生としての初登校日
正面玄関でクラスを確認して下駄箱にて
また同じクラスになった友人の1人に挨拶するも
返事がない
何だか嫌な予感がしつつ
きっと聞こえなかったんだろうと少し距離を置き
一人でクラスまで歩き教室の中に足を踏み入れる
すると先にクラスに来ていたほぼ全員が
こちらをちらっと見る
ギョッとしたものの
自意識過剰はマズイ
きっと僕だけでなく
クラスに入ってきた全員を確認してるんだろと思い
自らの席を確認してそこに座る
机には彫刻刀で死ねという文字が彫られていた
このクラスは話したことがある人が少ない
すでにその数人は知らない人を含むグループを作って
やり取りしていた
何だか居心地が悪く朝の会の時間を待つ
しばらく一人で机に突っ伏していると
「朝の会始めるぞー」
担任が入って来て教卓の前に立つ
中学3年生における担任はかなり大切
高校進学に向けての三者面談など
進路相談の機会が多い
その先生は新卒3年目の若い男性
中学3年の担任は初めてなのだそうだ
ソフトテニス部の顧問で部員からタメ口で話されている
やや頼りない印象があった
生徒とフレンドリーにやり取りができるということと
ナメられているということを混同していることを
裏でナメられている先生
嫌な予感は積み上がっていった
クラス替え最初のイベントと言えば自己紹介
クラスの右前から順番に1人ずつ自己紹介が行われる
皆は無難に名前、部活、好きな教科、趣味を言い
パチパチパチ…と拍手をもらい順番が進んでいく
僕の番になり
「土野理一です。部活は理科・化学部です。好きな教科は理科です。趣味は漫画やゲームです。よろしくお願いします。」
誰も拍手せず先生が目を白黒させる
「ほら、みんな土野が自己紹介したぞ拍手ー」
先生一人の拍手がパチパチ…と鳴ったが
嫌な予感は確信に変わった
翌日からも僕は無いものとして扱われる
一人で考える時間はいくらでもあったので
原因を考えてみるのだが
心当たりが全く無いどころか
登校初日の朝から何故このような状況になるのかも
理解できなかった
春休みの間にすでに根回しがあったのだろうか?
それにしてもクラス替えの発表は登校しないと確認できない
全校生徒から無視されるのかと思いきや
隣のクラスの知り合いであれば普通に会話ができる
なぜ、、このクラスだけ??
原因が分からなければ対処もしづらい
クラス内の元知り合いや隣の席の人に話しかけたものの
返事が返って来ていない
もし誰かに強制されて無視をしているのであれば
少しは申し訳なさそうにするのでは無いだろうか…?
そういったそぶりも全くない
解決策を見いだせないまま3か月
夏休みまであと少しというところまできた
僕には5つ年の離れた仲の良い兄がいる
兄は高校を卒業してから施設を出て働いている
僕と兄は血のつながった実の兄弟
両親が既に亡くなっており
親戚などの引き取り手もいなかったため
養護施設から学校に通っていた
僕が中2に上がる時に兄は就職
兄は施設を出てボロアパートの1Fを借り
僕も何度かそこに遊びに行っていた
畳敷きで土壁、明かりも紐でカチカチするタイプ
いかにもな古さ
リフォームすら一度もないが
居間が10畳と割と広くなっていた
7月3日
中学3年になってからは初
兄のアパートに行く
兄は玄関をガチャと開けて笑顔で
「おぉ。久しぶり!いらっしゃい理一。中3だろ?勉強頑張ってる?高校の学費は俺が出してやるから理一は遠慮せずに勉強を頑張れよ!理一は俺より全然頭良いんだから!」
と言われ僕は泣き崩れた
「えっ。え!?どうしたどうした?」
僕は兄に学校での現状を打ち明けた
3年になっての登校初日から今までクラスメイトと一言も会話ができていないこと
担任にその事を相談するもののニヤニヤと
「お前がなんか良くない事を先にやったんじゃないのか?皆に真心をこめて誠心誠意に謝ってみれば?」
と対応してくれる気がないこと
そもそも首謀者らしき人物が存在していないのではないかということ
兄は怒りで顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた
「よし……兄ちゃんに任せておけ。仕事の上司にそういうのに強い人がいるから。今月中に何とかしてやる。」
その場ではありがとうとお礼を言い、頼もしい兄だなと考えたが
施設への帰路では、実際兄にできる事なんてあるのか??
中学のクラス内という閉鎖空間で起こっているトラブルを
どうやって解決するんだろう?と疑問が湧いた
校長とか教頭に電話でもしてくれるのかな…
教育委員会…とか?
…しかし実際にはとんでもなかった
兄に相談したのが7月3日
そして今日は7月18日
この2週間程で学校で変わった事と言えば
クラスに1人不登校生が出た
ただその生徒は僕が一度も話した事が無い相手であった
中3で不登校…
僕も現状は辛いけれど高校受験の年
兄に頑張ると言っていたので
挫ける事無く学校に通い続けていた
兄の会社から施設にいる僕に電話があった
「7月4日から会社を休むとだけ電話があってお兄さんが会社来なくなったんだけど、理一君は何か聞いていない?」
僕は聞いてないと答えた
タイミング的には兄への僕の告白が関わっているのだろう
そして昨夜7月17日に兄から僕のスマホに連絡があった
「明日学校行かなくてもいいから朝に俺のアパートに来てくれ。先に謝っておく。すまん。」
それに対し僕は
何の事を言っているのか
何故学校に行かなくても良いのか
なぜ謝るのか
…尋ねたのだが
兄からの返信は日を跨ぎ7月18日になっても無かった
…
兄の不穏な動きや
ここ3カ月程の学校での不遇をぐるぐると考えてしまい
眠れないまま朝を迎える
そして7月18日、朝6時
まだ学校が開くには早い時間帯ではあるが
兄は仕事に行く時には6時に起きていると聞いていたので
制服に着替えて学校に行く準備をしつつ
兄のアパートに行く事にした
学校とは方向が若干違うが自転車で5~6分の距離
6時30分頃に兄のアパートに到着
インターホーンを鳴らす
…が兄は出てこない
しばらく待ちもう一度鳴らす
ドアノブを回してみると
ガチャ…
玄関が開いている
兄は在宅であるだろう
いつものように
「おぉ。理一!いらっしゃい!入れ入れ!」
と玄関に迎えに来てくれない
最大級の嫌な予感に
呼吸が浅くなり、足が竦む
靴を脱ぎ、玄関からキッチン・トイレ・ユニットバスの戸を過ぎ
リビングのドアを開ける
…
そこはクリーニング店のようであった
整然と僕の学校の制服が吊るされている
小学生の時に兄と一緒に来たお店のように
空間にみっちり服が吊られていた
男の制服は8着が2列で計16着
女の制服は8着が1列、5着が1列で計13着
ただ女の制服の列の奥を見てみると
2着のスーツが吊られていた
近くのテーブル
兄と一緒によく夕ご飯を食べたテーブルの上に
1枚の紙が置かれていた
「 ~遺書~
理一。ごめんな。今までありがとう。
理一を苦しめていた首謀者は俺の横で吊られてる担任だったわ。春休みに理一が雨上がりに出かけた時に、自転車で泥ハネして、それが担任のズボンの裾にかかってしまってたみたいだ。
担任の趣味は知ってたか?
洗脳だってよ
校長を洗脳して本来はクラス変えで担任にならなかったはずの自分を理一の担任に改変して、朝の登校時に挨拶をしながらクラスメイト全員を洗脳して理一を無視するように工作をしてたらしい。
苦しんでる理一の様子を肴に毎晩酒を飲んでたみたいだ。理一を隠し撮りした写真が担任の部屋から数百枚は見つかったからな。ド変態だよ。
担任の洗脳の力は相当のものだったけど相手が悪かったかな
そういう力は強いものが勝つんだからさ
俺は7月4日から理一のクラスメイトの全員と接触をしたよ
生徒が担任に洗脳されてると分かったので
生徒全員の洗脳を解いて回るつもりだったんだけど
ほんとにすまん。俺は1人目の同級生の首を絞めて殺してしまった
「別に土野を無視しようがしまいがどっちでも良い」
と言われてかっとなって殺してしまったんだ…
それからは…
皆の洗脳は解かなかった
全員に接触したけど別の洗脳をした
7月17日の夜半に家を抜け出して
この部屋の指定の番号のハンガーで吊られるように
理一… これまで本当にありがとう。お前がいたから俺は頑張れた
最後にボタンを掛け違ってしまったことは本当に残念だ
俺は3番目に吊られようと思う
先に行く事を許してくれ 」
ここで兄の遺書は終わっていた
その遺書を僕はトイレに流す
そうすることが自然であると感じた
部屋に戻ると
31着の服が天井から吊るされている
ハンガーの空きは1つ分
僕は洗脳されていないと思う
僕は洗脳されていないはず
僕は洗脳されていない
僕は洗脳されているはずが無い
僕は洗脳されて…
がたんっ!
ぎぃ…ぎぃ…
…
現場に踏み込んだ人達やその家族を
軒並み狂わせたこの集団怪死事件
多くの謎が残されたこともあり
各種報道はなされなかった
アパートは取り壊され
その地は更地となった
もう吊られた番号順は誰にも分からない